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【12/13 2巻発売!】アーシャ・リボルヴァの崇拝~皇帝陛下に溺愛される悪役令嬢は、結婚の手土産に不穏分子を平定するようです。~【コミカライズ予定】  作者: メアリー=ドゥ
第一章

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28/72

傲慢なる金化卿。


「どうしたもんかな……」


 イオは、十分に離れた草原(くさはら)の陰から、遠くに見える〝獣の民〟の村を見張っていた。


 近くに潜ませていた【遁甲蛇(ゴルゴンダ)】の(つがい)が一瞬で始末されたことには驚いたものの、イオの目的は、皇帝の指示を達成することではない。


 ーーーどう殺されるのが最善かな。


 出来るだけ、自分が本気で相手を狙って殺された、と見える方が都合がいい。

 が、相手に被害が出るのは避けたいので、向こうがきちんと警戒している時に襲いたいが……そうなると、いつ動くかが、かなり難しいのだ。


 イオ一人で〝獣の村〟に潜入するようなパターンは、万が一捕まってしまえば、腕輪の効果で死ぬ前に洗いざらい吐かされることになるだろうし、そうなると姉の心労が嵩むだろう。

 姿を見せた時の表情からして、イオのことに気付き、ショックを受けていただろう表情をしていた。


 優しい姉である。

 なるべく負担にはなりたくない。


 多分警戒はしただろうし、このまま逃げて、腕輪の効果で野垂れ死にも考えたが……そうなるともしかしたら、姉がずっと自分を探し続けることになるかもしれない。


 残る手段は外から、相手が迎え撃てる形で行う。

 それなら、襲撃に魔獣を使うのはほぼ確定だ。


 ーーーあの森の辺りには、魔獣が多そうだったな。


 イオは、割れた大岩の周りにある森を思い浮かべた。


 あの辺りは何故か魔力や瘴気が濃いようで、魔獣自体も他の地より強大そうだった。

 イオが操れる魔獣の数には限界があるし、あまり数を揃えて暴れさせると思わぬ被害が出るだろう。


 ーーー特に強力な魔獣一匹、かな。


 自分よりもあまりに強すぎる魔獣だと、こちらの支配を跳ね除ける可能性があるので、そのラインの見極めには注意が必要になる。


 そう思いながら、一旦監視を切り上げて大岩の森へ向かったイオは、ふと、森の中……ちょうど大岩の中央辺りから何かの気配を感じた。


 ーーーなんだアレ。

 

 背筋がゾワゾワと怖気るような感覚に、警戒を最大級に跳ね上げたイオは、慎重に音を立てないよう、気配のある場所を目指す。


 イオは魔獣の気配を感じることが出来る。

 よく似た気配ではあるものの、明らかに異質だ。


 そうして、割れた大岩の先端近く、岩の割れ目から生えた細い腰丈の木立の裏側から、真下を覗き込んだ。


 するとそこには、妙なモノがいた。


 大きさは人とそう変わらないが、高級そうな服を身につけた〝それ〟には……肉がない(・・・・)



 ーーー黄金に輝く骸骨(ガイコツ)


 

 【放浪骸骨(デスケルトン)】という下級の魔物と似た外見だが、纏う瘴気の濃度が尋常ではない。

 その周りが暗く見えるほどの、闇色をした瘴気の中に、黄金の骨から紫の光を淡く放つ〝それ〟は立っていた。


 足元に、肉が腐れたような女の死体が転がっていて、胸には黄金のナイフが突き刺さっている。


 ーーーアレは、マズい。


 イオは、理屈も何もなくそう思った。

 何らかの方法で、おそらくは少し前に生まれ堕ちた、尋常の存在ではない〝それ〟の名を……イオは、知っている。


 昔、魔獣を操る力を見出された後に、徹底的に『魔のモノ』に関する知識は叩き込まれていた。



 ーーー【傲慢なる金化卿(バベル・ド・ゴゥル)】。



 〝六悪の魔性〟と総称される存在の内、闇の魔性として名を刻みしモノ。


 かつて幾万の異形の軍勢を従え、『神にも勝る』と誇った傲慢の罰として魔に堕したあげく、山をも砕く雷に撃たれて封じられた、とされている。


 ーーーなんでこんなところに、あんなモノが?


 バベルドゴゥルが、何かを感じたのか、視線がこちらに向く。

 眼窩の奥にチラチラと瞬く紫の熾火(おきび)のような瞳を見た瞬間、イオは後方に跳ねていた。


 そして、一目散に逃げ出す。


 捕まれば死ぬ。

 それが分かってしまった。

 

 ーーーこんな場所で、死ぬわけには。


 そして、どうにかして知らせなければ。

 姉の前で死ぬことになっても、あんなモノが〝獣の民〟の村を襲ったら……。


 と、そこまで考えたところで、イオは衝撃に襲われて、跳ね飛ばされる。


 そこには、足場がなかった。


 崖の真横だったのだ。

 真下に、渓谷を走る川が細く見える。


 ーーーっ!?


 空中で自分の走っていた場所に視線を向けると、そこには【火吹熊(ベアングリード)】の姿があった。


 気配を感じられないほど、自分が焦っていたのだとイオは悟る。

 明らかに普通ではない様子のベアングリードは、自分まで崖から身を躍らせて、イオを追ってきた。


 死ぬことなどまるで考えていない……いくら興奮していても、魔獣とて生き物なので、あり得ないことだった。


 十中八九、バベルドゴゥルの仕業、だろう。


 ーーー姉さん。


 ベアングリードに掴まれながら、なす術もなく落下していったイオは、水面に叩きつけられた瞬間に、意識が吹き飛んだ。

 

※※※


 『ハハハ……!』


 どこかで見覚えのある子どもが川に沈んだのを、目線に頼らない・・・・・・・視界・・で眺めた金化卿は、ひどく爽快な気分で笑みを漏らした。


 とてつもない力が、絶対的な支配者たる昂りが、魂の内側から湧き起こっている。


『コレゾ、我ガ身ニ相応シキ立場ダ……!』


 金化卿は、黄金の骨になった自分の指先を、うっとりと眺める。


 もはや、何も恐れるものはない。

 怒りのままに、全てを薙ぎ払ってくれよう。

 

 西の地に住まう、自分を嘲笑した愚物どもも。

 自分に逆らった、ベリア・ドーリエンも。

 父たる西の大公、ハルシャ・タイガも。


 ーーーソシテ、アノ忌々シキ皇帝モ。


 全員、全員、なぶり殺してくれよう。


『我ハ〝傲慢なる金化卿(バベル・ド・ゴゥル)〟ーーーウルギー・タイガ、デ在ル』


 金化卿と化したウルギーは。


 己も包帯の隙間から紫の皮膚を晒す無様な顔をしているくせに、腰を振る自分から、汚らしいモノであるように目を逸らし続けたガーム……かつて恋人だった女を見下ろす。


 胸に突き立てた黄金のナイフは、勿体無いので持って行こう。


 そう思いながら指を軽く動かすと、魔術によって勝手に抜けたナイフが手に収まる。


『ハハハ』


 愉快だ。


 人間だった頃には難しかった魔術も、思うだけでこなせる。

 魔獣の気配も感じられ、それを従わせる方法も簡単に分かる。


 ーーー我コソ、支配者ニ相応シキ者ナリ。

 

 あのアウゴ・ミドラ=バウアの代わりに、皇国を支配してやろう。

 今の自分ならば、倒すのも容易かろう。


 ウルギーは、あの皇帝に右腕を腐り落とされ、顔を潰されてから今までのことを、思い返していた。


 醜悪な顔に変わり果てたガームとのしとねも、月に一度の王都での謁見も、苦痛で仕方がなかった。

 『魔性の平原』に赴くことだけが自由を許され、死ぬことも出来ない。


 他の者などどうでも良いのに、父の命令で丸一日中、それこそ褥の間までも監視されていた。

 元々死ぬつもりなどなかったが、ウルギーは、自分はこのような目に遭って良い存在ではないと、思い続けていた。


 他人は、全員が自分の思う通りになって然るべきなのだ。


 今の状況は間違っているのだ。

 ガームは死にたがったが、この女が死んだせいで処刑など冗談ではなかった。


 平原まで行くことだけは許されたのは、おそらく魔獣や、下賤な〝獣の民〟に殺されろということなのだろうと分かってはいても、他の自由などなかったので頻繁に馬車で赴いた。


 だが、ある時。


 人目に晒されることの屈辱に耐えかねて、屋敷の蔵書室に赴いて……何かの声に導かれるように手に取った、奥の奥に眠っていた書物が、運命を変えた。


 そこには、『魔性の平原』に眠る力についての記述が、あった。


 黄金のナイフで胸を差し貫き、他者の魂を、大岩の間で生贄に捧げることで、何者にも脅かされぬ不死の肉体を得られるという。


 ガームを無理やり連れて行き、監視役を、隠していた秘蔵の魔術……飲み物を毒に変える魔術で、殺し。


 そして、今。


『我ハ、全テヲ手ニシタノダ……』


 他人の生殺与奪の権利を得た。

 不死の肉体を得た。


 そして、圧倒的な力を、得た。


『マズハ、ベリア、ダ……』


 あのクソ生意気で思い通りにならぬ女を、絶望の中でくびり殺してやろう。

 そう思いながら、ウルギーは動き始めた。




 ーーー彼は、気づかない。




 傲慢で、貪欲な、その魂の在りようが、金化卿の依代として相応しいと、一体何が(・・判断したのか。


 彼は気づかない。


 なぜ普段、本など大して読まない自分が、図書室のさらに奥にある蔵書室の数ある本の中から、それを選び出せたのか。


 ウルギーは、気づかない。


 己の魂に宿る力はただの力ではなく、自分の身の内に巣食い始めたモノから貸し与えられているに、過ぎないことを。


 その対価として、何を支払っているのか。


 ただ己は全能であるという意識のみが残り、ウルギー・タイガという自我が徐々に崩壊し始めていることに、気づかない。


 気づかないまま力に酔い、そして無差別に振るい始めた。

 

というわけで、迫り来る脅威。


大岩の森、何だかヤバいところだったようです。


イオはどうなっちゃったのか!


なるべく早く書けよ! と思われた方は、ブックマークやいいね、↓の☆☆☆☆☆評価等、どうぞよろしくお願いいたしますー。

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― 新着の感想 ―
[一言] 力を得ても自我が無いんじゃねぇ… もう生きる屍(笑)
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