戦場を駆ける疾風
新作です。よろー
ギルスタ荒野。
そこでは今、まだ若い男とその手に持つ無線機から放たれる音だけが聞こえていた。
『ーーーーーーッッ。こちら作戦本部。第三皇子、エルメスタ殿下。ご無事でしょうか』
「あぁ、敵軍はあらかた討伐した。まだ全員息の根はある。引き続き探索を続けるがいいだろう?」
『…………相変わらず敵軍を殺さないのですね。殿下は。そのお優しい心にはとことん平服するばかりです』
「それは皮肉か?グロッカス。素直に敵軍すら殺せない心の弱い男だと言えばいいだろ?」
『いえいえ………殿下はまだ14歳。いくら戦争中とはいえ、人を殺すのにはまだ相当早い。むしろ、その歳で敵軍を一人で壊滅させてしまうそのお力。
貴方様が我が軍に来てから軍人の死亡率が86%減っています。
これも、殿下のお力のなす技で御座います』
「まだ86%だ。グロッカス。僕は戦争で人の死なない国を作りたいんだ。そのためにはまず、和平条約を結ばなければならない。
しかし、もう戦争が始まり120年も経ってしまった。
だから僕は、敵国の王族を捕らえ、和平………いや、脅迫だな。
だが、誰かが敵役を買ってでもこの戦争を終わらせなければならないんだ。
だから僕は、生まれ持った才能を全て駆使してでも戦争を止める。
それは極力、死を増やさないようにな」
『……………その歳でそこまでお考えとは。まったく。第一皇子と第二皇子は私腹を肥やし権力争いに興じている中、貴方様だけが我が国の希望でございます。
将来、我が国の皇帝となるべきは貴方様なのかもしれませんね』
「言葉に気をつけろよグロッカス。そう思うのは勝手だが.誰かに聞かれれば打ち首くらいはあり得るぞ。
我が国は、今内乱すら起きている。
何があるか分からない。お前も気をつけろグロッカス。毒を盛られるなんてざらだぞ。
極力寝室には人を入れないほうがいい。とりあえずは、食事前に解毒魔法くらいは使っておいたほうがいいだろうな」
『いやはや、私の身まで案じて下さるとは………このグロッカス。恐悦至極に御座います』
「そろそろ切るぞ、グロッカス。敵影が見えた」
『ご健闘を。エルメスタ殿下』
「あぁ…………ではな」
そう言ってから、エルメスタは無線機の電源を落とす。
「さて……………とりあえずは、見える軍を全て潰すとするか」
その言葉を期に、戦場を舞う男により、フロストエレムの軍勢が雪崩のように倒れていくのであったーーーー
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星界歴 230年
130年前、突如現れた眷属の力
それは一部の者たちのみに力を与え、当時大国であったヴェルヘルム帝国をイグニス帝国とフロストエレム王国の2つに分けることとなる。
それは、永きに渡る戦争の幕開けとなった。
それから120年、戦争に降り立つ、2人の男女によって、この戦争は星の命運を左右する戦いへと移行していくのであった
…………明日か明後日別作更新します