1、MRC入部編②
.....目を開けると、真っ白な大地だった。
雪.......?ふわふわとした白い地面がずーっと「お姉ちゃん起きてッッ!!」「ぶべっ!!」け、袈裟斬りチョップッッ!?
「く、胡桃《くるみ》!ちょい待って!」
「何甘えてんの!あたしがどんだけ呼んだと思ってんの!せっかくお姉ちゃんの入学式だから朝食気合い入れたのに!どーせ変な夢見てたんでしょ!もう怒った!完全に目が醒めるまで殴り続けるからねっ!!」
ば、バカなのかこのアホ妹!し、死ぬっ!本当に死んじゃうっ!横に転がって回避するしかないっ!わたしはベッドから飛び出て横回転を入れながら華麗な着地を『ゴンッ』「ウギャッッ!!」
ベッドから床への垂直ダイブ!痛い!頭打ったっ!あまりの痛みに思わず床を転が『バキイッッ』「アンギャアアアアアアアッッッッ!!!!!」
こ、小指が折れた!タンスの角で小指が逝ったっ!!
「ふ、ふーっ、ふーっ....」
「.........ご、ごめん、まさかお姉ちゃんがそんなにキレイに自滅プレイをかますなんて....」
もはや声も出せずに身悶えするわたしを、胡桃が若干引いた目で見つめる。あ、あんた、最初に袈裟斬りチョップをかましてきたのは誰だと思ってんの.....
「は、はーっ、はーっ....」
「......大丈夫?」
「はー、はー.....」
息を少しずつ整え、ゆっくりと立ち上がる。一応何回か足踏みもしてみる。....よし、折れてない.....
「よし、起きたよ。お姉ちゃんは今日もバッチリ健康です」
「......お姉ちゃんの回復力、もう凄いを通り越して若干キモいよね」
なんかさっきより胡桃の顔が引きつってる気がする。失礼な。きっとわたしの体内を巡る体内魔力が回復機能を底上げしてるとかそんな感じだっつーの。
「ふーん....」
「あ、朝ごはん食べようか!胡桃の朝ごはん美味しいから楽しみだな〜」
そ、そんなジト目で見られたら、お姉ちゃん泣いちゃう.....!妹ならもっと『すごーい!お姉ちゃん、回復魔法の使い手なんじゃない!?』くらいのお世辞を...!
「ん?お姉ちゃんこれ、入学のしおり?ちょっと見せてね.....へー.....。あ、あれ....?」
「......?どうしたの胡桃?早く行かないと朝ごはん冷めちゃうよ?わたし、起きてから1時間以内にカロリー摂らなきゃガス欠で倒れちゃうんだけど」
「......お、お姉ちゃん」
「なーに?」
わたしを見つめる胡桃の顔がまだ若干青い気がする。しおりを持つ手も、なんか震えてるような.....
「......うん、ちょっとね.........」
どうしたんだろ。あ、もしかして、今になって愛しの姉にチョップをカマした大罪を自覚したのかな?できればもっと早く気づいて欲しかったけど。
全く、可愛い妹なんだから。でも、ここは姉としてキチンと注意しておかないとね。
「あのね、胡桃。お姉ちゃんを傷つけたことを悔やむ必要はないよ。人は間違いから学ぶことの出来る動物だからね。過ちを犯すことはイコールで成長に繋がるんだよ。でもね、もし胡桃がね、わたしに何か罪滅ぼしをしたいというならね。わたしは今夜黒木和牛のステーキが食べたいってことだけは覚えておいてほしいな。知ってた?人はね、美味しいものを食べたらなんでも許しちゃ「お姉ちゃん」「な、なに?」
胡桃がわたしの高説を遮るなんて.....!本当にどうしたんだろ。
「あたし、今日はステーキ3枚焼いて待ってるから」
「えっ!?」
ふ、普段『国産牛ステーキ食べたいな〜』って言ったら『ステーキなかったから代わりに豚ロース(アメリカ産、半額)買ってきたよ!』っていう言い訳で家計を節約しにかかる胡桃が!?
い、一体どういう風の吹きまわしなの!?
「お姉ちゃん、今何時だと思う?」
言いながら、胡桃がベッドのそばの目覚まし時計をわたしに手渡してきた。
「何時って...」
ちらっと見てみる。うん、7時半。確かにちょっと遅いけど、入学式には余裕で間に合うはず。
「7時半だよ。脅かさないでよ胡桃〜。8時半の入学式間に合わないのかと思ったよ」
「うん、あのねお姉ちゃん。あたし実は入学式の時間勘違いしててさ、9時半から始まると思ってたんだよね」
「うん?」
あれ?なんか、嫌な予
「ごめんね、お姉ちゃん」
感が
「その時計、壊れてるよ」
わたしの手の中の時計。その秒針は、12を指したまま、微動だにしていなかった。
「.....ふ、ふふふ........」
みしり。目覚まし時計をキツーく握りしめる。『ポーン』飛び出たネジが『ゴンッ』額に直撃するがそんなことはもう気にもなら「お、お姉ちゃん.......ふ、ふふ.....」おい、妹よ。このタイミングで笑うんじゃない。
あーもう!なんでいっつもわたしはこう!もう..........!
「最悪だああああああああああああああああああああッッッッッッっっっっ!!!!!」
わたしの魂の叫びとともに。どこかの時計が、ボーン、と8時半の鐘を鳴らした。
こうして、わたしの最悪の高校生活1日目が幕を開けた。