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わたしの出番はいつ来るのッ!?  作者: ロック山口
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0、MRC入部編①

ストーリーはほぼ全て一人称で進行します。

 ............僕が目を開けると、真っ白な大地がそこにあった。な、なんだこれ?一体これから何が始まるんだ?

 雪が降った後のような、ふわふわとした白い地面がずーっと、はるか彼方まで広がっている。周りを見渡しても、何もない。しばらく待ってみるが、何も起こらない.....うお、少しずつ足が沈んでいく!慌てて足踏みをするとまた地面の上に足が戻ってきた。なんだか、片栗粉のプールの上に立ってるみたいだ。

 足踏みをする以外やることもなかったので、とりあえず歩くことにした。歩いてるうちになにか見えてくるかもしれないし。

 1歩歩くごとに足にふわふわの地面が絡みついてくる。....これめちゃくちゃ歩きにくいな。というか、もしかして今、僕は雲の上にいるんじゃないか?地面を踏んだ感触は確かに新雪に近いものがあるけども、雪が降ってたにしては全然寒くないしなあ。

 よし、ここらで状況をちょっと整理しよう........うおっ、やっぱり立ち止まると沈みそうになるんだな。とりあえず歩かないといけないわけか。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

しばらく歩いていると、遠方にピンク色の店らしきものが見えてきた。ヘンゼルとグレーテルに出てきた、お菓子の家のような外観が目を惹く。

 店の周りからのすごく甘い匂いがして。ぐう、と、思わず僕のお腹がなる。

この30分間、慣れない地面を歩き続けていたせいで、知らない間に相当疲れが溜まっていたのかもしれない。もしここで食事ができるのだったら、ぜひしておきたいものだ。お金はあったっけな?ポケットをまさぐってみたが、それらしきものは見つからなかった。うーん、雲の上でも貨幣制度は存在するんだろうか?


 ......ま、悩んでても仕方ないか。

「すいませーん」

 カランコロン、とドアを開けて挨拶する。店内には、よくある喫茶店の丸いテーブルが数個と.....羽の生えたオジさんが一人。天使、ということなんだろうか。にしては見た目はかなりキツイものがあるな....


「いらっしゃい!お兄さん、一人?」


「はい」


「おお、素晴らしい!」


「えっ?」

 オジさんがバッと手を広げる。な、なんだ、なんか怖いぞ....大丈夫かこの店.....


「君がちょうど当店1万人目のお客様だ!記念としてこの店のメニューを一つ、なんでもタダで頼んでいいよ!」

 びっ、と親指を天に向け、最高のスマイルを見せるオジさん(羽つき)。


「.......」

 ベッタベタな展開すぎて逆に言葉に詰まってしまった....

「えっと、じゃあ.....」

 言いつつ、一番近くにあった椅子に座り、テーブルの上のメニュー表を手に取る。

 まあ、金を払わなくていいんだったらそれに越したことはないよな。ありがたいありがたい。

 空の上だというのに、わりかしメニューは豊富そうだ。僕はパラパラとメニュー表をめくって....ピタリ。手が止まった。一番最後のページ、金色の枠に囲まれたメニュー欄には、こんな文字が躍っていた。


 【超ジャンボわたあめ2キロ 1500チーパ】


 超ジャンボわたあめ2キロ....2キロ!なんだそりゃ!?お、落ち着け、落ち着くんだ僕.....!糖分に騙されるんじゃない、わたあめ2キロなんてただのカロリーの塊だぞ.....!せっかくタダなんだ、もっと、栄養のあるものを......まずい、このままだと僕は超巨大わたあめと格闘することに......早く、早く脳内会議を開いてこの場を収めなければ.....!

 僕は慌てて脳内の国会議員たちを招集する。さあ、議論の時間だ。


『では、今回の議題は、数多のメニューから何を選ぶか、ということであるが』


 『『『『すいません、この超ジャンボわたあめを一つ』』』』

 おい、勝手に強行採決するな、脳内の僕ら。


「は〜い。頑張って作るから、座って待っててね〜」

 羽の生えたオジさんがパチリとウインクを飛ばしてくる。不気味すぎて泣いてしまいそうだ。


「よろしくお願いします....」

 がくりと椅子にもたれ、目を閉じる。まあ、せっかく頼んだものだ。残すのも悪い。美味しくいただくとしよう....2キロのわたあめを.....ふ、ふふふ.......やばい、ヨダレが.....

 

「......く。む.......」

 ......しかしこの店はやることがないな。テレビとかも置いてないし。そもそも雲の上にはメディアがないのだろうか?漫画とかも出版されていなかったりとか。それは、これからここで暮らすんだとしたらかなり困るな。ワンパースの最新話が気になる。


「......むく......むく........」

 雲の上から地上に降りれるだろうか?打ち所悪かったら死んじゃいそうだな。打ち所よくても死ぬだろうけど。


「.........むく。椋《むく》」

 むくむくと言っていたから、わたあめの天使でも登場するのかと思ったが、この声はどうやら僕を呼んでいるらしい。なんだ、今ちょうどいいところだったのに。お前のせいで超ジャンボわたあめ2キロが食べられなくなったらどうしてくれる。


「椋。椋」

 うるさい。もうちょっと雲の上にいさせろ。せめてわたあめ食べ終わるまで待ってくれ。


「...........」

 名前が聞こえなくなった。ありがたい。そろそろわたあめも完成するだろう。2キロのわたあめを食べるため、コンディションは整えておくに越したことはない。僕は大きく息を吸って、店内に広がる甘ったるい空気を体内に「.....我に力を」


「......ッ!」

 すかさず布団を飛び出しそのままゴロゴロと横に転がりつつ、腕をクロスして頭部をガード!素早く上体を起こし、膝立ちしファイティングポーズを取る。音夢《ねむ》に起こされるうちに、自然に体に染み付いてしまった動きだ。


「おはよう。目が覚めたかい?」


「.....音夢。何回も言っているが、寝起きの友人に魔法を打つのはやめろ」


「何回も言っているけど、魔法を打たれたくないんなら遅刻しないでくれ。君がいつまで経っても待ち合わせ場所に来ないから、またかと思って家まで来てみたんだよ。そしたら案の定だ」


「何が案の定だ。僕が遅刻などするか」

 したとしてもせいぜい1日1回くらいだ。


「まずは毎日遅刻していることを見つめ直して欲しいんだけどね....」


「魔法を打つのをやめてくれたら見つめ直すつもりだ」


「魔法じゃないと君は起きないじゃないか」


「待っててくれればそのうち起きたさ」


「1時間後くらいにね。そして二人仲良く遅刻だ」


「ぐっ...」

  くそ。全体的に僕が悪いから反論しづらい。なにかないか、なにか。自分を棚に上げてこいつを攻撃できるなにかが。.......ん?

「音夢。この目覚まし時計を見ろ。この目覚まし時計は何時を指している?」


「7時だね」


「待ち合わせの時間は?」


「7時半」


「そういうことだ」

 勝った。几帳面な性格が仇になったな。僕と待ち合わせするんだから自分も10分くらい遅れてくればいいものを。わざわざ早く来るから僕なんかに足元をすくわれるんだ。

 僕は思わず浮かんできた笑みを押し殺し、腰を下ろし、妙な顔を浮かべる音夢と対面する。なんだその顔は。さあ、逆襲の時間だ。遅刻ギリギリまでは僕の説教《いちゃもん》に付き合ってもらうぞ。


「わかったか?音夢。今は7時。お前は早く来すぎなんだよ。僕はちゃんと7時半に行けるよう計算して、この目覚ましを7時にかけていた。つまりな、音夢。お前は早とちりで僕の部屋に押しかけた挙句、この僕の貴重な睡眠を妨げたという訳だ。これは許しがたいコトじゃないか?しかしこれでも海よりも広い心を持つこの僕だ。相応の貢ぎ物を献上すれば君を笑顔で許してあげてもいい。具体的には食堂のカツカレー三人前くらいで「いや、だからさ」

 音夢が僕のセリフを遮る。せっかく人が気持ちよく話していたのに、その呆れ顔はなんだ?なにか反論があるのか?


「僕は君が約束の時間になっても待ち合わせ場所に来なかったから、迎えに来たって言ったよね?」


「.....え?それってどういう」

 なにか、とてつもなく嫌な予感が


「だからさ」

 して


「その目覚まし時計、壊れてるよ」

 突如、僕の手中の目覚まし時計から『ポンッ』ネジが飛び出す。そして、かろうじてその形を保っていた、かつて目覚まし時計であったものが内側から『ボンッ』爆発した。目の前に『カランカランカラーン』部品の破片が転がる。う、嘘だろ.....


「また寝てる間に魔法撃ったでしょ。君」


「.......」

 まさか、こんな日に漏電しようとは....最近は(3日に1回くらいしか)なかったのに.....!


「もう何回も言ってるけどさ、目覚まし時計はタダじゃないからね?月の仕送りに10個ずつ目覚まし時計が届く異常性を、君はそろそろ認識するべきだよ」


「ち、違うんだ、昨日は、その、初めて人前で魔法が打てるのが嬉しくて、つい、はしゃいじゃって....夜更かしを....それで「どうでもいいけどさ」「ヒッ」

 ね、音夢の顔が怖い.....笑顔なのに目が全然笑ってない....!


「今何時だと思う?」


「......何時?」


「8時」


「えっ」

 確か、入学式が始まるのって.....


「8時半からだね」


「........」

 もう間に合わなくないか?


 こうして、僕の最悪な高校生活1日目が幕を開けた。




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