異世界来たら赤ちゃん拾いました。
どうも、やっぱりほのぼのとした物語を書きたくて……。
VRMMOのやつと細々と同時連載していければなと思います。
ブブーーっ!!
大きなクラクションが鳴ると共に、目の前の大型トラックが迫ってくる。
横断歩道を歩いている時に、前にいたお婆さんが足をよろめかせて転んでしまった。昔から大人しくてお利口さんやら、人形みたいだなんて言われていた私だが、この日も膝をさするお婆さんを見てしまったらいてもたってもいられずに背負い、歩道の先まで運んでいく。しかし、転んでしまった際に荷物を落としてしまったようだった。
まだ信号は赤に変わりそうにない。
そう判断した私は、散らばった荷物を拾いに行ってしまう。
ようやく全て拾い終えた所で顔を上げると信号が点滅している。
それを目にした私は駆け足で歩道を渡ろうとする。
だがその途端、結構なスピードでカーブしてきた大型トラックがブレーキをかけきれずに走ってきた。そのまま走り抜ければ間に合ったものの、大きな鉄の塊が迫ってくるその恐怖に、足は竦みその場から動けなくなる。
そして私は、17年の人生に幕を閉じた。
◇
そよ風が頬を撫でる。
気づいた時には、周りには何も無い草原の真ん中で仰向けに眠っていた。
このまま、心地よい日光を浴びて目蓋を閉じてしまいたい気持ちが生まれるが、流石にこの状況では褒められた行動ではないだろう。
そう思った私、相宮夏蓮は腰を上げて辺りを見回す。
「……本当に何も無い」
そう呟きながら、これからどうするかを思案する。
正直、この展開には頭がついていかない。あの時確かにトラックに轢かれたはずの夏蓮だが、何故かこんな自然の中に眠っていた。
一瞬、ここは天国や死後の世界であるのかとも思ったが、すぐにその考えを振り払う。肌に当たる風、鳥のさえずり、草木の香り、そして空には燦々と照りつける太陽がある。
これらの事から、夏蓮は自分はあの時助かって、そのままどこかよく分からない所に連れてこられたのでは? と思ったがそれもすぐに無いと結論に至る。そもそも、あの状況で自分が助かるとは思わないし、助かったとしても今頃自分は病院のベッドの上だろう。
ならば、ここは何処なのだろうか。
そう考えに耽る夏蓮であるが、この場にい続けても何も無い。
まずはどこか人のいる場所に行ってからだと考えた彼女は、早速足を動かす。
が、土地勘も何も無い夏蓮にとっては、街を目指したとしてもそこへ辿り着くまでの道が分からない。サバイバルも出来ないし、下手に動いてしまって森の中に入ってしまえば、今度こそ自分の命は終わりだ。
考えるとキリが無いが、ここにいるよりは場所を移動した方が良い。幸いまだ日は明るい。取り敢えず辺りを散策して、街道が見つかればそれに沿って歩いていけば良いだろう。
そして、ようやく歩きだそうという時に夏蓮の耳に声のようなものが届く。しかし、それは人の喋り声というよりは赤ん坊の泣き咽ぶものに似ている。
しかし、まさかこんな所に赤ん坊がいる訳が無いだろう。
もしかしたら、小さい赤ん坊を抱いた人がこの辺りを歩いているのかもしれない。
そう思った夏蓮は、すぐさまにその声の聞こえる元へと向かう。
「誰もいない」
赤ん坊を抱いているであろう母親の姿はどこにも見えない。
目に映るのは、揺りかごのような物があるだけ。
しかし、声はそこから聞こえる。
もしかして、と思いながらも揺りかごへ近づく。
「本当に捨て子だ……」
夏蓮の眼前で泣きじゃくるのは、白い新生児服を着た小さい生命。
まだ目は見えていないのだろう。
やたらと手を動かして、乳を探している。
「悪い予感、的中しちゃったな」
決して赤ん坊が嫌いな訳では無いが、この状況で捨て子というのは、夏蓮すらもこれからどうしようかと腹を据えかねているのだ。加えて、誰のことも知らない赤ん坊を抱えるというのはどうなのだろうか。
経産婦でもないし、ましてそのような知識がある訳でもない。
学校の保健体育で習った事しか知らない、17歳の少女が1人でお世話出来るものでは無い。
「それに、背中に何か生えているし」
赤ん坊の着ている服の背中から何かがはみ出ているのを見つけた夏蓮。それは小さな白い翼。装飾品の類ではなく、しっかりと背中から生えている本物だ。
これによって、この赤ん坊が普通の人間ではない事と共に、この世界が地球ではなく別の世界なのではないかと夏蓮は知る。
まさか、あのラノベ特有の異世界転移!?
と、頭の中はぐちゃぐちゃに混乱するが赤ん坊の泣き声によって現実に引き戻らされる。
これで本当にどうすればいいのか分からなくなった。
この世界が地球の何処かであれば、外国であろうと地球の法則が通用する限り生きていく術は、まだ見つかったであろう。
しかし、ここが異世界だとするならば話は別。
物理や化学の法則も違い、生き物や食料だって想像を超えるおかしなものかもしれない。そう考えると、一気に血の気が引いてくる。
しかし、このままこの赤ん坊を放ってはいけない。
何故かその気持ちだけは沸沸と湧き上がってくる。
指を差し出すと、必死になってその指にしゃぶりつく姿を見ると、胸が締め付けられるような感覚を覚える。
自分の食料も無いし、ましてミルクなど手に入らない。
だがそれでも、目の前の消えかかっている小さな生命の灯を無視する事は出来ない。
決心を固めて、夏蓮は赤ん坊をそっと胸に抱く。
「男の子か、名前はどうしよう。どうせなら異世界っぽい名前がよさそうだけど……」
愛のこもった眼差しで、赤ん坊を撫でる。
翼の感触は筆舌に尽くし難いもので、羽毛が密接し非常に滑らかな手触りである。
「うん、クリス。あなたの名前はクリスだよ」
まだ年端も行かない17歳の少女。
目覚めたら右も左も分からない場所に眠らされていた彼女は、新しい世界で捨て子をひろう。何も知らない彼女にはこれから多くの障害があるのだろう。
しかし、確かにこの時の少女は慈悲に溢れた母親の顔をしていたのだった。
構想は固まっているので、ゆっくりになるか毎日になるかは分かりませんが宜しくお願いします。