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外伝  皇后陛下は、無敵

「ラダス卿、ご存知ですか?」

 隣国ガランティアをアンシェーゼの特使として訪れていたルイタス・ラダスは、石造りの回廊で貴婦人たちに呼び止められ、温厚そうな瞳を僅かに細めた。


「何の話でしょうか?」


 問い掛けると、ねぇっと互いに目を交わし合い、貴婦人たちがさざ波のように笑い合う。

 アンシェーゼの名門の出で、容姿にも恵まれ、どこか人懐こい印象を与えるルイタスは、国同士の折衝役として、あちらこちらの国を訪れる事が多かった。

 特にこのガランティアには年に二回ほどは訪れており、今ルイタスを呼び止めたのも、顔馴染みとなって特に親しくしているご婦人の一人である。


「ラダス卿は、アンシェーゼの皇帝陛下の、特に信頼の厚いお方ですもの。ご存じない筈はないわ」

 

 一番近くにいたでっぷりと太った貴婦人が、扇で口元を隠しながら、楽しそうにルイタスに話しかけた。

 確かガランティアの王弟ページルの妃殿下の、更にその妹君に当たる方だ。


「アンシェーゼの皇后陛下と言えば、前皇帝パレシス陛下がかつて寵愛されたツィティー側妃殿下の、その……連れ子でいらっしゃった方でしょう?」

「ツィティー妃譲りの美貌が、今の皇帝陛下の目に留まって、側妃に上がられたとか」

「眩いほどのご寵愛で、皇帝陛下たってのご希望で、皇后に上がられたともっぱらの噂ですけれど」


 かしましいおしゃべりに内心うんざりしつつ、ルイタスは社交用の笑みを張り付けて、その通りです、と肯定した。


 ルイタスの幼馴染で、かけがえのない主でもあるアレク皇帝は、父パレシス皇帝の養女であったヴィアトリス皇女を側妃に迎え入れ、紆余曲折の末、皇后に立后させた。

 すでに国内外に知れ渡っている事で、今更話題にされる理由が分からない。


「でも、皇后陛下の実の父君を、パレシス皇帝が殺したという事を、皇帝陛下はご存知なのかしら」

 だが、声を潜めて続けられた言葉に、ルイタスは思わず息を呑んだ。取り繕う事も忘れ、話しかけてきた夫人を凝視する。


 告げられた真実に驚いたのではない。皇帝の側近である自分は、そんな事はとうに知っている。皇帝陛下自身も、だ。

 だが、秘されていた事実が何故今頃出て来たのか、それがルイタスには解せなかった。


「そのような噂をどこでお聞きになったのでしょうか?」

 慎重に問い返すと、その反応に満足したのか、やはりご存じなかったのね、と得意そうに貴婦人たちはしゃべり始めた。


「パレシス皇帝の伽に上がったことのある侍女が、縁故を頼ってガランティアに参りましたの。

 どうやら寝物語で、パレシス皇帝がおっしゃっていたとのことで」


「そうそう、美しい踊り子を見初めたのに、夫や子供がいると言う理由で、伽を拒まれたのですって。

 ですから、その夫を殺し、娘共々後宮に引き取られたとか」


 ガランティアに縁故のある娘と言うとあの侍女だろうかと、話を興味深く聞くふりをしながら、ルイタスは考えをめぐらせた。

 マイアール側妃が身重だった頃、パレシス皇帝の子を身籠って、ほどなく流産した若い侍女がいた。

 そのまま皇帝に捨て置かれたため、当時の皇帝宮の侍従長が、身を立てられるだけの金を渡して、実家に帰らせたと聞いた気がする。


 ルイタスが話の出所を考えている間にも、貴婦人たちのおしゃべりは続いている。

「その、父親を殺された娘と言うのが、今の皇后陛下なのですってね」

「初めてその話を伺った時は本当に驚きましたわ。まさかツィティー側妃殿下がそんな過去を持っておられたなんて」

「それにしても、自分の夫を殺した方の妾になるなど、やはり踊り子はしたたかですこと」

「本当に。おまけに平然と皇子までもうけて」


 見下すような物言いに、さすがのルイタスも感情が波立つのを抑えることができなかった。

 夫ばかりか娘までも殺されそうになり、皇帝の寝所に上がらなければならなかった女性を、よくもそこまで他人事として貶められるものだと思う。

 その上、今の物言いでは、亡きツィティー妃のみならず、皇弟殿下の事をも侮辱したも同然だ。

 アンシェーゼの臣下として、聞き流せるものではなかった。


「亡きツィティー妃がお産みになったセルティス皇弟殿下は、アンシェーゼの皇位継承第二位の方です。

 その母君を貶めるなど、わがアンシェーゼに対する侮辱でしょう」


 やや言葉尻をきつくして不快を口にすると、貴婦人らは慌ててラダス卿の機嫌を取り結び始めた。


「お怒りにならないで下さいませ」

 一人がルイタスの手に取り縋るように言った。

「勿論、セルティス皇弟殿下は、申し分ない皇子殿下でいらっしゃいますわ」

「そうですとも。わたくし達も、そのような事を疑った事などありません」

「ただ、それ以上にひどい噂が流れておりまして、わたくし達はラダス卿のお耳に是非入れておかなければと、ただそのように思っただけですのよ」


 ルイタスはため息をのみ込み、穏やかな口調で尋ねかけた。

「それ以上にひどい噂とは?」


 あまり聞きたくなかったが、知らなければ手も打てない。

 だが、噂話を聞かされたルイタスは、今度こそ頭を抱えたくなった。


 アンシェーゼの皇后は、自分の父親を殺した男の息子である現皇帝陛下、つまり夫君を憎んでいるという噂が、ガランティアではさも真実のように語られていたのだ。

 皇帝が側妃を立后させたのは、セルティス殿下への政治的配慮に過ぎず、すでに二人の不仲は決定的なのだとも。


 こういう悪意ある噂がガランティアで立った理由については、ルイタスに心当たりがないでもなかった。


 ガランティアは以前、自国の第三王女をアレク皇帝に嫁がせようとしていた。

 色よい返事をしようとしないアンシェーゼに、港の使用権まで持参金につけて、更にはアンシェーゼの重臣らにも、かなりの付け届けをしていたと聞いている。

 そこまでガランティアが強硬に話をまとめようとしたのは、そもそも王女自身があの縁組に大層乗り気だったからだ。


 ルイタスの主、つまり皇帝は、とにかくもてた。顔もいいし、性格も温厚、上背もあって、すらりと精悍な容姿をしている。

 その上、頭も切れ、裕福な大国の皇帝ともなれば、まぁ、もてない筈がなかった。


 あの手この手で皇帝を誘惑しようとする姫君たちは後を絶たず、ガランティアの王女はその中でも群を抜いていた。

 崇拝者も多数抱えた華やかな顔立ちの王女で、血筋にも器量にも問題がなく、自分こそがアンシェーゼの皇后にふさわしいと思っていたのだろう。


 猛攻撃を掛けられた皇帝はと言うと、王女に露ほどの関心も見せなかった。

 当時の皇帝は、自ら身を引いて雲隠れしてしまったヴィア側妃に心を明け渡しており、最愛の側妃に比べれば、他の女性などその辺の石ころも同然(王女には大変失礼な話だが)だった。

 

 どんな好条件を積み重ねられても皇帝の心は揺るがず、皇后ばかりか、愛妾を迎える事すら固く拒んで、身ぎれいな生活を送り続けること二年。

 このままでは皇統が絶えてしまうと、重臣らも憂慮し始め、誰でもいいからとにかくお子を、という機運が高まった所で、側近のグルーク・モルガンが動き、市井に下りていたヴィア側妃を無事、皇帝の下に連れ戻した。


 ヴィア側妃の皇后立后が正式に発表された時、国内外の衝撃は、それはもう凄まじいものだった。

 皇后候補だった姫君たちの中には寝込んだ者もいたと言うし、何とかあの側妃を排除してくれと、親に泣きついた姫君もいたと聞く。


 つまるところ、何が言いたいのかと言うと、今の皇后陛下は、ご自身の与り知らぬところで、嫉妬ややっかみを山ほど背負っているという事だ。


 だから、ガランティアで悪意ある噂が出回ったと聞いても、ルイタスにはさほど意外ではなかった。

 ……意外ではないのだが、放っておいて良いというものでもない。


 その後、ガランティア滞在の二日間、ルイタスは心ない噂を消そうと必死で走り回ったが、全ては徒労に終わった。

 意地の悪い噂の方を好むのは、人の世の常だ。どれほどルイタスが皇帝夫妻の仲睦まじさを説いても話半分に聞かれるだけで、噂には更に尾ひれがついていく。


 本国では、どのような噂となっているのかを思うと、帰るのが怖い気もするが、とにかく事態の収拾を図らないといけないだろう。

 ルイタスは頭を悩ませながら、帰国の途につく事になった。



「ガランティアはどうだったか」

 多くの廷臣に囲まれた皇帝は、開口一番ルイタスの労をねぎらい、早速ガランティアの情報を聞いてくる。

「セガ宰相がご病気と言うのは、本当のようです。顔色も良くありませんでしたし、フリューゲン縁のタイス卿が、内務卿に返り咲いていました。

 フリューゲン自身が国政に復帰するのも時間の問題だという噂が、国内でも流れています」


 穏健派のフリューゲンがガランティアで失脚して、およそ四年だ。

 強硬派のセガ卿が宰相に就任し、アンシェーゼのバマナ塩田に欲を出しててこずった時期もあったが、アンシェーゼが強大な軍力を有している事もあり、戦らしい戦は回避できている。

 縁組によって二国間の繋がりを強固にする事はできなかったが、これでフリューゲンが返り咲けば、今以上に良好な関係を構築する事ができるだろう。


 ガランティアの情勢について淡々と報告しながら、ルイタスは慎重に主の表情を探っていた。

 噂はまだ、皇帝に届いていないのだろうか。もっともあのように恐ろしい噂を、平気で皇帝に報告する猛者もいないような気はするが。


 取りあえず、御前を辞して私室へ向かっていると、アモン・アントーレに呼び止められた。

 アモンは、ルイタスやグルーク同様、皇帝の近しい側近である。

 まだ二十代半ばだが、アンシェーゼ建国から綿々と続く皇帝の私設騎士団の一つ、アントーレの名を冠し、副官として組織をすでに掌握していた。

 

「おい、噂は聞いたか?」

 やはりアンシェーゼでも広がっているのだ。ルイタスはため息をつきたくなった。

「ガランティアで聞いた。皇帝の寝物語を、今更ばらまくなって話だよな」


 アモンは何とも言えない顔で頷き、幾分ほっとしたように友の顔を見る。

「お前が帰って来るのを、グルークと待っていたんだ。私達では陛下にどう言えばいいかわからなくてな」

 アモンはどちらかと言うと寡黙で、グルークは弁は立つくせに、妙に言葉が足りないところがある。二人で困っていたのだろう。


「じゃあ、まだ言ってないのか」

「お前以外の誰が言うんだ。……きっと陛下以外の全員が知っている」


 ルイタスは思わず心の中で唸った。

 大体その件は、両陛下の間でとっくに決着のついた問題だ。それを承知で、皇后は皇帝を愛したし、皇帝もそれを知っている。

 今更蒸し返されても、どうしようもない話なのだが。


「皇后陛下は?」


 皇帝はともかく、あの皇后なら噂を知らない筈がないとルイタスは思う。

 社交的で明るく、男女を問わず多くの信奉者を持ち、手持ちの情報には事欠かない。あの程度の噂でめげる方ではないし、何らかの手を打っておられると思うのだが。


「午後からは茶話会があって、シーズの大使やセクルトの公子方とお会いになっておられた筈だ」

「茶話会なら、カミエが同席していただろう?何か言ってなかったか?」


 因みにサイス・カミエは、皇后の筆頭護衛騎士だ。

 元の名を、サイス・エベックと言い、ヴィア皇后がアレク皇子の側妃に立たれた時に護衛騎士に選任され、以来、ヴィア皇后に絶対の忠誠を誓っている。


 勿論、皇后の信頼も厚い。

 騎士にとって、命の次に大事だともいえる徽章を、出奔中で一平民に過ぎなかった皇后に惜しげもなく捧げたのはカミエだし、そのお陰で、ヴィア皇后は無事、皇帝陛下の元へ帰る事ができた。

 その功績を重く見た皇帝は、エベックにカミエという貴族姓を許し、公的な場へも参加できるだけの地位も与えて、皇后の傍に寄り添わせている。


「あいつの話は訳が分からん。あまり話す間がなかったのは確かだが、体が痒くなったとしか聞いていないんだ」

「………?」

 ルイタスは首を傾げた。

「悪いものでも食ったのか?」

 何の事やらさっぱりわからない。



 その晩ルイタスは、グルークやアモンと共に、皇帝宮の居室棟を訪ねた。

 皇子時代は、週に一、二回は集まって酒を酌み交わす仲だったので、今回、ルイタスの帰国を理由に居室棟を訪れても、何の不自然もなかった。


 訪れると、皇帝はいつものように皇后と寛ぎながら酒を楽しんでいた。

 酒の飲めない皇后は傍らでハーブのお茶を飲んでおり、いつもと変わらぬ平和な光景だ。


「皇后陛下、最近、何やら不穏な噂を耳にされておりませんか?」

 開口一番、ルイタスは皇后の方に話を振ってみる。皇帝には直接聞きづらいが、朗らかな皇后なら、少々の事は笑い飛ばしてくれそうだからだ。


 ルイタスの問いにヴィアは笑い、「聞きましたとも」ところころと笑い出した。

 意外と言うか、この皇后なら当たり前と言うべきか、皇后は全く堪えていなかった。

「今も二人で、その話をしていたところでしたのよ」


 ヴィアは楽しそうに傍らのアレク皇帝を見上げ、アレクは傍らで苦笑している。どうやら臣下が気を揉むほどには、皇帝はショックを受けなかったようだ。


「噂の出どころは、パレシス皇帝の御子を流した侍女のようですわね」

 一方の皇后は、ちゃんと詳しい情報を仕入れていたらしい。

「何でも寝物語で、パレシス陛下が口を滑らせたとか」


「昔の事を掘り出されて、ご不快ではありませんでしたか?」

ルイタスがきくと、ヴィアは笑って首を振った。


「わたくしは、母が望んでパレシス陛下の側妃となったと噂される方が口惜しかったので、何の異存もありませんの。

 母も今頃、きっと清々していますわ。パレシス陛下の寵愛をありがたがっていたと、思われる方が迷惑でしたし」

 そう言った後、ちょっと心配そうにアレクを見た。


「でも、陛下はご不快でしたわね。このようなことになって、申し訳ございませんでしたわ」

「気にするな。お前が嫌でなければそれでいい。それに私も、パレシス皇帝にはいい思い出がない」


 お陰で五年前には危うく死ぬところだったし、と続けるアレクに、側近達も苦い笑みを返す。


 パレシス陛下は、彼らにとっても大変傍迷惑な皇帝だった。

 自分に権力を集中させておきたいというだけの理由で皇太子を決めず、お陰で急死した時には、第一皇子のアレクと第三皇子ロマリスとの間で、皇位継承戦争が起こった。


「それにしても、色々な噂が飛び交っていて、さすがにわたくしも驚きましたわ。

 今日もシーズの大使やセクルトの公子方に、お気の毒な事です、と口々に言われましたのよ」


 馬鹿げた噂を、一つ一つ楽しそうに指を折って話すヴィアの傍らで、アレクはのんびりと酒を飲んでいる。


 ルイタスの目から見ても、皇后は根っからの楽天家で、孤独な幼少期を過ごしてきた皇帝は、ヴィア妃を迎えてようやく楽しそうな笑みを浮かべるようになった。

 今も時折、その優し気な眼差しが皇后に向けられている。本当に大事で仕方がないのだろう。


 人目を引く精悍な容姿を持ち、幼い頃から次期皇帝と目されていたアレクの周りには、皇子時代から蜜に群がる蟻のように女性が群がっていた。

 噂となる女性には事欠かず、このままこの性癖が続くのだろうと友らはそう見切っていたが、義妹であるヴィア皇女を側妃と迎えてからは、女遊びをしていた頃が嘘のように、今は清廉な生活を送っている。

 

 もっとも五つ年下の皇后は、側近たちの目から見ても、半端なく美しい。すでに、皇太子である第一皇子と一つ違いの皇女殿下を皇帝との間にもうけているが、子を持っているとは到底思えないほどの若さと美貌の持ち主だ。


 それに、愛する皇帝の心を虜にするために、容姿には殊の外気を遣っている事を、三人は秘かに知っていた。

 何と言ってもこの皇后は、肌や髪や爪の手入れができていないという下らない理由で、皇帝を閨から締め出したという前科があるのだ。

 そしてその時皇帝がものすごくへこんでいた事を、幼馴染みでもある三人の側近たちは知っていた。

 

「何か勘違いしているようでしたから、陛下がどんなに素晴らしい方か、どんなにわたくしを大切にして下さるかとか、懇切丁寧にずっと教えて差し上げていましたのよ」


 よくよく話を伺うに、シーズの大使やセクルトの公子方を相手に、皇后は一刻以上も皇帝の事を惚気ていたらしい。


「陛下は精悍で凛々しい顔立ちをなさってらして、今でもお姿を見ていると心がときめくという事を、納得して頂けるまでずっと話しておりましたの。その上、人柄も申し分なく聡明でいらっしゃるでしょう?いつも民のために専心されて、とても素晴らしいと思いますわ。皇帝陛下としても非の打ちどころがないばかりでなく、わたくしの事も大層大切にして下さって、ついこの間なんかも…」


 水を得た魚のように生き生きと話し始める皇后の横で、何だか体が痒くなった気がしたアモンは、ああ、そうか、と心で呟く。

 カミエはこの惚気を、今日は一日延々と聞き続けていたのだ。妙に疲れた顔をしていたのも道理だ。こうなると、もはや苦行と言えるだろう。


 そうしたアモンの心の叫びにも気づかず、ヴィアはほうっと幸せそうなため息をつく。

「自分の好きな方の事を、遠慮なく惚気るのって、本当に楽しくて仕方がないですわ」


 ヴィアとしては、普段は遠慮があるから言いたくても言えない惚気を、最近は思う存分できるのだ。お陰で心は満たされて、心なしか肌の艶も良くなった気がする。


 ちなみに最愛の皇后が幸せそうにしているので、皇帝陛下もすこぶる機嫌がいい。

 

 その様子を眺めていた側近三人は、虚しさが胸に去来するのを止めることができなかった。

 あの噂を聞いて以来、噂をもみ消す事に奔走し、胃が痛くなるほど悩んだのは一体何だったのだろう。


 皇后がこの調子なら、不穏な噂もそのうち消える筈だ。というか、噂が完全に消えるまで、この皇后は喜々として、傍迷惑な惚気話を続けるに違いない。

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