日常の怪物
初投稿!気合入れていこう。
コメントなどでアドバイス、感想などを書いていただけると私が大喜びの舞をします。
チートはまだ出てきません。
尾根に挟まれた小さな谷。そこに小さな町があった。そこではいたる所で火の手が上がり、怒号が飛び交い、顔を憎しみに歪めた男達が駆け回っていた。
ジュファ·ルージァは目の前の光景に戦慄していた。自分が生まれ育ち、親しんできた町の面影などはない。ただ負の感情が渦巻き町を燃やしていた。魔法によって水滴が激しく跳ね飛ぶ噴水はひび割れ、傾き、人々の感情の爆発を形に表しているようだった。
「犯罪者を殺せ!」
「闇属性は悪だ!」
早朝の曇り空の元、そんな怒鳴り声が聞こえてくる。男達は闇属性の魔法使いが住む家を襲撃しているようだ。
しかし程なくして、男達は異変に気づく。
「おい、中に誰もいないぞ!」
「どうなってやがる! どこももぬけの殻だ!」
「昨晩逃げたのか⁉」
男達が襲っている家はどこも人の気配が無い。多くの人が混乱し、物などに当たり散らす者もいる。
ジュファは混沌とした町中をオロオロと歩いていた。
そこへ、よく見知った肉屋の店長が顔真っ赤にしてやって来た。ジュファの両肩を乱暴に掴み、激しい口調でこう言った。
「おいジュファ! おめぇ確か闇属性のガキに惚れてたよなぁ⁉ 何か知ってんじゃねぇのかぁ?」
「し、し、知らないよ! そんなこと……」
するとその肉屋は途端に表情を緩めた。
「そうだよなぁ。おめぇは臆病者で、そいつに話しかけるのもままならなかったか」
肉屋は、再び包丁を振り上げどこかへ走り去った。
ジュファはこの状況が信じられず愕然としていた。ジュファが知っている温厚なはずの肉屋のおじさんが、まるで別人だった。肉屋だけではない、近所の住人や商店街のおじさん、さらには友達の親でさえ血相を変えて怒り狂っている。
彼らは、昨日まで隣人だった闇属性の人を殺そうとしているのだ。
ジュファは人通りの少ない路地から町を出て、この町を取り囲む森に入っていった。ジュファは人目を盗んで、森の中のとある場所に向かっているのだ。闇属性の人達が隠れている場所へ。
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尾根に挟まれた小さな谷。そこに村ほどの大きさの小さな町があった。それはいたる所に花や木々が茂り、川と小鳥が歌い、そして心優しく穏やかな町人が住む素晴らしい町だった。
ジュファ·ルージァは魔術学校の長期休暇を憎たらしく思いながら、噴水がある広場を横切っていた。季節は夏。魔法によって水滴が軽やかに跳ね飛ぶ噴水は涼しげで、この広場に多くの人を引き寄せている。
ジュファは広場にいる人たちを尻目に、ただぼーっと散歩している「ふり」をしていた。彼は目的もなく歩いているように見せかけて、片思い中のエイカ·レンゲツの家付近を目指しているのだ。学校が休みなので、まだ単なる友人であるエイカと顔を合わせる機会がないのだ。
しかし彼にはおしゃべりしに彼女を訪ねたり、遊びに誘ったりする度胸などは無い。だからこそ家「付近」を目指し、「偶然」会えたらいいなぁという淡い期待を持って歩いているだけなのである。
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ここは魔法が存在する世界。人々は自分達の内から湧き出る魔力を使って魔法を使いこなしていた。魔力は属性で分かれており、火、水、草、風、地、光、闇とある。
日常生活に用いる簡単な魔法は誰でも使えるが、より強力なものは一人一人に先天的に与えられる一つの属性しか使えない。ちなみにジュファは草属性、彼の想い人のエイカは闇属性である。
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大通りから、人通りが少ない路地に入る。この先に2回角を曲がればエイカの家が見えてくる。どこまで行こうかとジュファが悶々としていると、向こうの角からエイカが弟らしき子供を連れて現れた。
エイカは小さい子供に何か言っていて、ジュファには気づいていないようだった。ジュファの方はすぐ気づいたが、とっさにどこかの鳥でも眺めるようにして視線をそらしていた。
不意にエイカは顔を上げ、斜め前方にいるジュファを見つける。
「あれ? おはようジュファ。こんなとこで珍しいねぇ」
「お、おぉ。……おはよう」
ジュファはわざと驚いたふうを装って返した。
それだけの挨拶だ。しかしそれだけで、ジュファはとろけるような幸せを味わった。心を覆っていたグレーのモヤモヤが取りさらわれ、雲一つない空の様に晴れ渡る。
ジュファは満足して、スキップしそうな軽い足取りで角を曲がり、大通りに出ようとした。すると大通りに面する肉屋の裏口から、人の良さそうなおじさんがこちらを見てニヤついている。ジュファは急に恥ずかしくなり、おじさんをにらみつけた。
「おいおい、ジュファ〜、ストーカーか? やめてくれよ、エイカに」
「は、はぁ⁉ そ、そんなんじゃない。いまは、たまたま会っただけで……」
おじさんがガハハと笑いながらジュファをからかった。
ジュファがエイカに恋心を抱いているのは、この辺ではそこそこ知られている。なにしろ態度でバレバレなのだ。
エイカは愛想がよく、この商店が立ち並ぶ通りでも人気だ。そして、ジュファの前でエイカのことを話すともの凄くその話に食いついてくる、という事もよく知られているのであった。
ジュファは急に母親からお遣いを頼まれていたことを思い出した。
「そ、そうだ。ここには買い物で来たんだよ。ほら、モモ肉を500g! 早くしてよ!」
「はいはい、わかったわかったぁ。ハッハッハッ」
おじさんはゲラゲラ笑いながら店に戻った。ジュファは家の方角とは違う路地から来たのだ。おじさんも苦しすぎる言い訳には突っ込まないでやった。
このようにジュファは決して性格が暗いとか、コミュニケーションが苦手だとかいうわけではなかった。ただ恋愛を知らなかっただけなのだ。エイカを見るだけで心がときめき、同時に恥ずかしくなる。ジュファは16歳にして、この初めての感情に戸惑い、どうしたら良いかわからないだけなのだ。
通りを家に向かって歩きながらジュファは、さっき見たエイカの笑顔を思い出しつつ顔をほころばせていた。どこか古いヨーロッパの街並みのような、石造りの商店街は買い物客で賑わっている。
そんな美しい街並みに墨を垂らすように、不穏な会話がジュファの耳に入ってきた。
「……ねぇ聞いた? 昨日の放送」
「聞いた聞いた。ちょっと不気味よね」
「本当なのかしら。『闇属性』が――――って」
闇属性と聞いて、ジュファはエイカを思い浮かべた……もとい、思い浮かべ直した。
「昨日の放送」とは深夜に過激な内容を放送するガイグウィ·ルユィオと呼ばれる番組だ。
ルユィオとは魔力によって音声データを飛ばしそれを各家庭などの受信機が再生する、魔法世界のラジオのようなである。ガイグウィ·ルユィオは世界共通語で「守護者のラジオ」というような意味になる。
しかしガイグウィを名乗っておきながらその内容は好戦的である。例えば「あの大臣はただのテロリストだから、誰か一発殴ってこい!」だとか「この芸能人は表ではあんな事言ってるが、実際は何も考えてないビッチ」のように汚い言葉で過激な内容を放送するのだ。
誰もその番組のことを大っぴらに話題にしない。しかしその放送を実際に聞いている人は結構な数がいるのだ。その過激な発言が、誰もが考えたことがあるようなことを指摘して痛快だからである。
ジュファはその番組の存在自体は知っていたが、その放送を聞こうとは思わなかった。その番組の内容は主観的……というより偏見に近い物もある。多くの人は娯楽として聞いているのだろう、とジュファは思っていた。
西の空に見える雨雲を気にしながらジュファは家に帰った。
不定期なので次がいつになるか分かりませんが、なるべく早く書けるように頑張ります。
ブックマークなどして待っていただければHappyです。