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フリークス (Freaks)  作者: 宮沢弘
第五章: 信仰世界・自由技芸世界3
24/26

5-4: 教院からの手紙2

 昼食を終え、私は自分の机の前で落ち着かずにいた。

 これまでに、教院は提言、進言はしたことはあっても、なにごとかを発布する、それも教院の内部においてではなく、社会全体に向けて発布するということは聞いたことがなかった。

 チラチラと壁にある時計を見ていた。そして、やはりチラチラと課長を見た。

 その時間が来た。課長は封筒を手に取り、封を開け、目をとおした。

 課長が手を叩いた。

「注目、注目」

 そう言って、また手を叩いた。

「これより、教院からの発布を読み上げる」

 机に置いていた便箋を取った。


|    この発布の内容を読み上げる間、かつ内容を改変しない場合におい

|   て、読み上げる者を教院の代理人とする。また受け取り先に限らず、

|   機会を得たならば繰り返し読み上げることを求める。

|

|    200年前、人工人間を題材とした戯曲が刊行された。その戯曲の

|   内容を受け、教院は200年間、人間自身のありかたについて議論を

|   続け、重ねてきた。

|    しかし、結論が出ることはなく、のみならず社会は教院が危惧した

|   方向へと変化してきた。

|    30年前、社会の変化を受け、教院においては新たな議論を開始し

|   た。その結果を、ここに発布する。

|

|   神聖事項

|    1: 神は唯一であり、すべてである(至高条項)

|    2: 偶像を作ってはならない(偶像条項)

|    3: 神の御名をみだりに唱えてはならない(御名条項)

|

|   労役事項

|    4: あなたは、労苦を逃れようとしてはならない(苦役条項)

|    5: あなたは、労苦を与えるものを敬わなければならない(尊敬条

|      項)

|    6: あなたは、神の祝福の日をよろこびとしなければならない(日

|      曜条項)

|

|   加害事項

|    7: あなたは、自らを殺めてはならない(自傷条項)

|    8: あなたは、人を殺めてはならない(殺傷条項)

|    9: あなたは、姦淫をしてはならない(姦淫条項)

|

|   欲望事項

|    10: あなたは、盗んではならない(窃盗条項)

|    11: あなたは、隣人のものを欲っしてはならない(強欲条項)

|    12: あなたは、隣人を偽ろうと試みてはならない(誠意条項)

|

|   不遜事項

|    13: あなたは、神を偽ろうと試みてはならない(偽証条項)

|    14: あなたは、神を試そうとしてはならない(傲慢条項)

|    15: あなたは、神に頼ろうとしてはならない(自助条項)

|

|    X年Y月Z日13:30をもって、教院は上記の戒め全15項の実

|   効を停止する。これにより、慣習の根拠としての戒め全15項の実効

|   も停止されるとともに、すべての律法、および規則の根拠としての戒

|   め全15項の実効も停止する。

|    同時に、科学に対しての制限もすべて廃止する。

|

|    現在の、教院が危惧したとおりの社会のありかたについての責任は、

|   すべて教院にある。よって、戒め全15項の実効の停止に関する疑問、

|   法理論上の疑問などについては、教院によってとくに承認された教父

|   が説明にあたる準備がなされている。ただし、200年間の議論によっ

|   ても結論は出ていないことには注意されたい。

|

|    以上

|    教院日本統括会議および教院本部


 課長は便箋から目を上げ、部屋の中を見渡した。読み上げの前と、今の読み上げと、課長は二度読んだことになる。それでも課長の顔には混乱が見てとれた。

 私も混乱していた。社会の根底を教院自体が否定した。200年の議論とはどういうものだったのだろう。どういう経緯でこのような結論になったのだろう。

 そして気づいた。教院は社会に対しての影響を捨てたことになる。すべてではないだろう。すべてを捨てようとしても、社会は教院を頼ることになるだろう。対して、科学への制限を廃止した。それは、これからは教院ではなく科学を頼れということだろうか。これは、教会から科学への権威の委譲でもあるのだろうか。

 不安があった。教父と話したい。だが、今日は教父も忙しいだろうか。それでも教院へは行こうと思った。


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