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悪魔乃恋愛芸舞  作者: 青紫 時雨
4/15

Sorrow

その人は、歩いていた

同じ時間を同じように同じ道順だが姿の変わった場所を同じように

歩く彼が、零時に死んだ場所から十二時間かけて歩いて十二時間かけて戻っていく

あらゆる方向へまっすぐに、時に曲がりくねりながら変わっていく風景に寂しさを感じながら、そしてある人と出会った

その人は、ある人に一目ぼれしてしまった

一か月の間、その人は朝早くに学校へ向かうあの人の背後に付いていき、共に授業を受けて共に寄り道をしてあの人が帰る際の途中で別れるのを繰り返した

そんな、ある日その人に話しかける仮面の男が現れた

「やぁ、はじめまして・・・私は、瑪瑙と申します」

「・・・」

出会い頭に名を名乗る、藍色のスーツに同色のシルクハット、白い陶磁器を思わせる仮面をつけた男

その背後に立つ女性は、赤黒いスーツと同色の小さなシルクハットをして静かに微笑んでいた

仮面の男以下瑪瑙と名乗った男は、人ではない雰囲気を醸し出し、その人はそれを感じ取り警戒していた

瑪瑙は、そんなことはお構いなしと態度を変えようともしない

「貴方が、諦めていることがあるではないですか・・これはできない、これはできないっと重複してわかりきっているのに諦められないあなたの性質が故の妄執でしょうかね?」

「っ・・・」

その人は、図星を指され歯噛みする

その人の顔に悔しさが現れているのを見ても瑪瑙は、けらけらと嘲笑っているようだった

その背後に立っている、女性も口元に手をやって微笑を隠している

そのように、その人の悔しい気持ちに泥を塗るような行為を目の前でしつつ瑪瑙は、その人に向かって手を差しだす

「その諦め・・・私だったら、可能にできますと言われたら・・・あなたはどうします?」

その人は、その甘い言葉に瞬間的に取りつかれてしまった


Sorrow


十月に入ろうとしているのに、外の気温は26度を最低気温とし、まだまだ暑い日が続いている

コンクリートやその上を歩く者に容赦無く照りつける日差しが喫茶店の窓際に座る二人を照らす

「暑いですね、籐さん」

「そうですね、真夏日のような日差しですからね・・・ですが、自然の光のほうが心地よいでしょう・・・そう思いませんか?弥生さん」

微笑みながらも籐と呼ばれた男は、スーツ服に身を通して眼の前に置かれたノートパソコンの打ち込みをやめようとしない

「・・・ごめんなさい、忙しいなか呼び出したみたいで」

「いえ、もう終わりました・・・さて次は、貴方のお勉強といきましょうか?」

いそいそとノートパソコンを操作し片づけていく、籐に困ったように笑いながら勉強道具を出す弥生と呼ばれた女性は、高校の制服に身を包んでいる黒い長髪をまっすぐに伸ばした整った顔立ちの子だった

「じゃぁ・・・よろしくお願いします」

「えぇ、微力ながら務めさせて頂きます」

そうやって、二人は顔を見合わせると微笑みあった


「・・・なかなかに、刺激のないカップルですね?」

「そうですね、二人とも兄弟のように親しみのある関係でありながら一線を越えようとしない・・そんな感じです」

先ほどの男女が居た喫茶店の向かいに、そそり立っているビルの屋上で遅い昼休みを満喫するOLやサラリーマンに交じってユウリと仮面の男は、階下を見下していた

「実に面白くない・・・これも、恋愛とみるべきでしょうか?」

「しょうがないじゃないですか・・・生まれた時代が時代だからかもしれないですし?」

「・・・・・まぁ・・そうなのかもしれませんがね、いかんせん傍観するのも飽きますよ」

「今までが、刺激が強すぎたんですぅ」

「まぁ、情報としては不足するわけでしょうがね」

「ははは、でも・・・これも新しい情報ですよ・・・2人の間に見えない壁があって触れるか触れないかの瀬戸際で相手をけん制してるんですから」

ふふっと誇らしげに言うユウリに対して瑪瑙は、溜息を吐くように仮面の下で視線を泳がせていた


「はぁ・・・終わった」

「ふふ、お疲れさま・・・っと、もうこんな時間ですね、そろそろ御暇しましょう」

「あ・・・送らなくていいですよ、遠いから」

即座に手を上げつつ言う弥生に時計で時間を確認し始める籐

現在時刻は、18時34分で辺りが夕闇に沈み始めた頃合である

「あ・・はい、分かりました・・では、そうしましょう」

ニコッと笑っててきぱきと荷物を片づけていく籐

「・・・・」

弥生は、何か言いたげに押し黙るだけだった


「感情が、あるならはっきり言えばいいのに・・・なぜ言わないのでしょう?」

瑪瑙とユウリは、雑貨屋で様々なものを眺めていた

「・・・ご主人さまが、飽きたからここに来たのにぃ・・・」

「難しい、言葉とは伝達の手段だ・・・言わなければ伝わらないではないですか」

その言葉にゆっくりと首を振るユウリに、その感情を読み取っても理解ができずにいる瑪瑙

「すべて伝えればいいってもんじゃないんですぅ!!」

「ほう、たとえば?」

「たとえば・・・私が、今ご主人様が行ってる恋愛芸舞は、文化や人、性格さまざまな因子が関係して様々な形で終わりを遂げるからどんなに学習しても無駄だ・・・・と・・・この状態!!」

「むっ!!ユウリ・・・何が言いたいのでしょうか?」

あと少しでユウリの頭を手で叩こうとしたところで止めさせられた瑪瑙は、不機嫌そうである

「自分の考えを相手に押しつけたら、相手様困っちゃうでしょう・・・不機嫌にもなりますしだから心の中で止めるのも一つの手段でありまして・・・今のは、例えですから内心全くそのような考えはございませんよ?」

「ほう・・・例えですか・・ですがその、例え一言一句間違いなく同じ言葉を聞いた覚えがあるのですが?」

ツボ刺激用の棒を手に持ちながら瑪瑙は、ユウリに近づく

「ご主人さま・・・今それやったら駄目です!!変な声でます、インサキュバスさんとのやり取り見たじゃないですか!!」

「そうですね、目立っては困ります・・・じゃぁ、買いましょう」

「買うんですか!!買っちゃうんですか!?いじめること前提で、買っちゃうんですか!!」

「インサキュバスが喜びますから・・・」

「いや・・・あの人どう考えても、使い方を誤りそうなんですけど!!」

「・・・たとえば?」

「投げる!!」

「あぁ・・しますね、そして改造しますね」

考え込む瑪瑙に、ユウリは安堵の溜息を吐くのだった


「・・・・・・・」

無言で打ち込まれる数字の羅列

異常な早さのブラインドタッチにて行われる、高速の仕事風景

籐が来る以前からなのだろうが、ここの職場は人と接するのが苦手な孤立主義のような人で構成された部署である

部長である男は、23年間一度も休むことも失敗もなく仕事をこなすのだが、ある時を境に対人関係が冷たくなり社会能力に問題がありこの部署の主となってしまっている

ちなみに、この部署は他部署から声さらいの部署と呼ばれていた

誰も声を出す人がいないからそう思われているらしいのであった

籐がこの会社に就職して二年、彼女に告白して一年がたっている・・・・・ことになっている

それは、彼が一か月前に現世に蘇ったことに由来する

籐に対して渡された、ある一種のハンデ、他者の記憶の改竄による偽りの記憶を植え付けた行為は、神をも恐れぬ暴挙を彼は簡単に成し遂げてしまったのである

「お疲れ様です・・・」

軽い音がして湯のみが置かれる

「ありがとうございます・・・」

「いえ・・・お疲れ様です」

足音もなくゆっくりと皆にお茶を配給する女性は、静かに自分の仕事場に戻って行った

部長が険しい顔つきで立ち上がりお茶を配給した女性の書類を少し持っていく

彼はいつもそうだった、自分の仕事がなくなると遅くなるであろう部下の仕事を奪いそのままやってしまう

「・・・・」

藤も負けじと、書類を素早く終わらせるも誤字や不備を指摘されてしまうのだった


「藤さん・・・明日は、休みなんですよね」

弥生は、確認するように藤に問いかける

「あぁ・・・だから、今回受験生と一泊する予定ではあるね」

「勉強合宿って、両親には言いました・・友達にも裏付けは、頼みましたよ」

「少々耳に痛い話だ・・・」

そう言いながら苦笑する藤に対し弥生は、面白くないようにほほを膨らませる

二人は、藤の家に向かっていた

弥生の受験勉強を手伝うために藤は弥生を家に上げることを許可したのだが弥生本人は、どうも面白くない様である

かくして、暗くなった住宅街を歩いていると横道の真ん中でスケボーを使う集団が目に入った

男のみだが6人で酒らしきものを煽りながら一つのスケボーを代わる代わる扱っている

「・・・おや、だらしのない」

ため息をつきながら藤は、その集団に向かって近づいていく

それに気づいた弥生は、藤の裾を引っ張る

「藤さん・・・ダメ」

「・・・なぜ?」

本当に疑問に思っているという声で藤が聞くが異変は先に起こった

「あ・・弥生じゃん、おい皆弥生だぜ」

スケボーを扱っていた男がそのまま、弥生に近づいていく

それを、目で追った男たちがそれぞれ歩いてくる

「い~男連れてんじゃん」

「金もってそうぉ・・・恵んでよぅ」

口々に下卑な笑みを浮かべながら彼らは、藤に聞く

藤は、呆れながらため息を吐いた

「弥生ちゃん、最近来ないんだもんな・・・」

「体は、疼かないのかなぁ?」

「そろそろ、これがほしいんじゃないの?」

そういって、男の一人が妙な錠剤の入った袋を取り出す

「いらない・・し、人違いです・・・行きましょう」

「おいおい・・・このアマァふざくんなよぉ!!」

スケボーに乗っていた男が弥生に向かって拳を向ける

それを、素早く藤が防いだ

「へっナイト気どりかよ・・・おら、よっと」

別の男が弥生に手を上げようとしたが、その手はスケボーを捜査していた男の背にぶつかる

「はっ!!」

一瞬の出来事であった藤がスケボーの男をつかみ片手で反対側にいた男目掛けて投げたのである

その、投げられた男を殴ったのだがそれでも力は消せずにそのまま二人とも道路を転がる

「・・・・退きなさい」

冷たく重い声が辺りに響く

「へ、かっこつけやがってよぉ!!」

藤に男から向って素早く拳が出される

それを、片手で掴むと同時に男を睨む

「もういっちょ――!!」

激しい激痛が繰り出した拳から彼に向かって送られる

ぎりぎりとでも音が鳴りそうなほどの拳に藤の指がめり込んでいる

「がっはっふ――」

「少々機嫌が悪いのだ・・・全員を倒さねば通れないのかな?」

そういうと、藤は男たち全員をにらむ

男たちは口々に小声で話す

「おいおい、俺らが何をしたよ?・・・一方的に暴力をふるってんのはおまえだろ」

溜息を出しながら男の一人がそのようなことをいう

それに対し藤は、不機嫌そうな顔をする

「ほら、慰謝料払えよ・・・こいつら、肩やってるわけだしさぁ」

「・・・・」

「そいつとか、手を――」

「黙れ、外道が・・・・・」

先ほど殴ってきた男から手を放し、ぺらぺらっと正当防衛を主張した男の腹部に拳を入れる

「貴様らが遊んでいる場所が悪いのだ・・とっとと去れ餓鬼ども」

冷やかに指摘され捨て台詞を言いながら彼らは去っていく

「・・・すみません、少しカッとなってしまって」

「いえ・・・ねぇ、藤さんって昔武道とかをされていたんですか?」

「え・・・えぇ、少しですがね・・・さて、私の家に案内しますよっとその前に」

すぅっと弥生の頬に藤の顔が近づく

その行為にびくっと体を震わせて反応する弥生

「・・・薬とか飲んでるみたいだけど体大丈夫?」

「え?」

「ほら、なんでかさっきの人たちが持ってたでしょう?」

首をかしげつつ聞く藤に首を振ってこたえる弥生

その後2人は、藤の家で晩御飯を食べてから、勉強してから就寝した


「・・・こことここ」

「あ・・・はい」

部長の指摘が行われすごすごと戻る藤

その間に、お茶が運ばれていたので口に含む

「・・・・・・」

他の部署と違いここでは残業になることは極稀である

というのも、他の部署の失敗が廻されてくるからである

現在時刻は、19時54分で他部署の尻拭いが廻されてきていた

どうも、担当していたはずの男性が腹痛を起こし休んでしまったことが原因らしい

その男の失敗は多く横暴な性格から、流石に会社側も最終手段を考えているという話であった

「・・はぁ、これでどうでしょうか?」

「御苦労・・・ちょうどいい、手伝え」

そう単調に言うと部長は、後ろを指差す

藤の後ろには、部長の指摘を受けた社員がそれぞれ並んでいた

「こっち側をやるから・・・そっちだ」

「わかりました」

それだけ言うと素早く業務を開始する藤であった


「終わった・・・君達は」

背筋を伸ばしてリラックスをしようとした藤の目に車の助手席から首を出す昨夜の男の一人が目に入る

「はっはー、ナイトさんよぉ弥生ちゃんは貰ってやったから安心しなAVは送ってやんぜ!!」

それを告げたと同時に車が発進する

それを、見送る藤

「不愉快だな・・・韋駄天」

藤は、足の筋を伸ばすのだった


「全く・・・お前らこんなガキで遊んでたのか?」

「いやぁ・・・でも、なかなか可愛いでしょう?」

煙草を吹かすスーツ姿の男は呆れたように煙を吐く

廃棄された工場の隅に置かれた大きめのベッドの上で弥生は、荒い呼吸を繰り返し、体を丸めていた

「・・・つまんねぇ・・で、何なんだよこいつの男か?」

「そうなんだよ、哲も一樹もやられてさ・・・まったく、やっぱ和也の兄貴がいねぇと駄目なんだよ」

「そうか・・そうだよな」

気分を良くしたのかスーツ姿の男は、にたぁっと笑う

「くだらないですね」

だが、その笑い顔は藤の冷たい言葉によってすぐさま消えた

「あんだと・・てぇめぇ?」

「くだらない・・・か弱き存在を貶めて喜ぶその醜い行為がくだらないと言ったんだ」

藤の革靴が床とふれあいコツコツと音を出す

「弥生・・待っていなさい、すぐに私が助けてあげるから」

バチィっと音が鳴り藤の足が変化する

ジュクジュクに溶け出して内臓のようなものが浮き出てくる

「・・・気色悪・・・・なんだよおま――!!」

次の瞬間男達全員の血管が膨れ上がり始める

「韋駄天・・・彼は、そう言っていた元来の韋駄天とは違い、高速移動の類を可能にするのではない」

ひゅっと風が切れる音がすると、藤の足から同時に男たちに向って管が延びる

「これは、相手の中身を食らう事を生業とする・・その性質から相手を食事しやすいように加工する・・・それがその血管だ、一種の蛭だよ、こいつは」

管が彼らに噛みつく、彼等は動けない膨張した血管に脳が圧迫されすべての機能がマヒする

そして、急激にやせ細っていく彼等は、干からびたミイラとなろうとも砂と化すまで水分を吸われ続けた

「・・・弥生」

「はぁ・・・はぁ・・・・」

管が一本延びて弥生の皮膚を舐める

「・・・はぁ」

「殺しはしない・・・ただ、その体から薬物を抜く」

空気を吸い込むような音と同時に見るみる弥生の顔色が良くなる

「はぁ・・・嘘だったのね、一年の記憶」

「・・・」

「本当の記憶は、あの男達に薬漬けにされて弄ばれてたんでしょ!!」

「・・・そうか、記憶が戻ったんだね」

荒い呼吸に混ざって涙を流す弥生

「えぇ、そして貴方の顔ずぅっと私を追い回していたあの幽霊だってこともね!!」

「み、見えていたのか?」

「夜中で別れる変な幽霊よ覚えるわよ・・・本当は親も居ないじゃない私」

「すべて戻ったんだね」

ざぁぁぁっと音がして画像がぶれた様に周囲の背景が変わる

足元に転がるナイフに貫かれた死体達

先ほどの男達であるそれに混ざって年配の男女が横たわっていた

「私が殺したのよね・・・」

「・・・そうだね、でも私ならこれらを抹消することができる」

「どうして、私のためにそんなことができるの?」

泣き続ける彼女

「あの日から一秒も立っていない・・・まだ、見つからない・・・ただ、愛してるからだよ君を」

「嘘つき、私ごと消してよ・・・私は駄目、誰かの代わりになれない」

「っ!!・・・・分かった」

韋駄天が藤の体中からあふれ出る

「・・・これが本当の姿なんだ」

ジュクジュクと音をたてて内臓の塊が周囲の死骸に管を伸ばすと肉ごと吸引し始める

そして彼女に向って巨大な肉塊が大きく口を開ける

「さようなら、藤さん」

それが、彼女の最後の言葉となった


「約束よ・・・戻ってきて」

「無駄死には、しないだけさ・・・アメ公に一泡吹かせたる」

「もう、藤ったら・・・私の言葉も聞いて」

女性は、溜息を吐きながらそう言うそれに対し藤はつまらなさそうに舌打ちを打った

「約束して・・・ねっ」

「・・・あぁ、分かった・・じゃぁな」

そっけなく言い残し藤は汽車に乗っていく、それを見送る人々の中で弥生によく似たその人は手を振ったそれが基地に行くまでの記憶だった

「君達が乗るのは、一式陸攻に積まれた桜花と呼ばれる・・・突撃機である」

「・・・」

何か長ったらしい説明を行われているようだが藤の耳には届いていない

ただ、彼女の最後のぬくもりを思い出していた

「説明は、以上だ・・さぁ、乗りこめぇぇ!!」

飛行機に乗り込んでからも全く意識が無く生きた心地がしない

そして彼は、静かに涙を流していた

「くっそう、アメ公め!!・・ぐぅぅ!!退避、退避!!」

焦げ付く落下傘を手に空高くから海に向かい一式陸攻という飛行機から飛び降りると同時に落下傘を開く

少し燃えていたが、何とか使えていた

少し離れて、乗っていた飛行機が爆発する

それは、炎に焼かれた桜花によってなのか大爆発を起こす

他にも来ていた飛行機が次々と落とされていくが、落下傘は自分ぐらいしか見つからなかった

その夜、海の上漂流しているとアメリカの軍艦に助けられた

戦争が終わって帰ると広島の街は廃墟だった


「よろしいでしょうか?」

「はっ!!」

藤が、記憶を回想していて気付くと瑪瑙が目の前に立っていた

「ふふ、いやショックで思想に逃げ込むのはご勝手でしょうが・・・ね」

ジュクジュクと膨れ上がる肉塊である韋駄天を見上げる瑪瑙

「最愛の人によく似た、彼女を愛するために時間を止めた上で新たな時間軸を形成したというのに嫌無駄になりましたね・・・この韋駄天が、肉を食らい時間を操作する足が速くみせかけることも、薬を摂取する前に戻すことも可能だったでしょう」

「あぁ・・・だが、私の夢は叶わなかったがなぁ!!」

ブクブクと膨れた韋駄天が瑪瑙に倒れこむ

「くっそう!!彼女の元に戻らなければならないのだ、邪魔をされてたまるか!!」

「それは、貴方のエゴでしょう?」

ばっと後ろを振り返る藤

後ろに立っているのは、赤黒いパンツスタイルのスーツに同色の小さなシルクハットをつけた女性であるユウリが立っていた

「貴方は、諦めて死ぬべきだったんだよ・・・こんな所を彷徨わずにね」

「貴様!!」

「馬鹿みたい・・・誘ったのは私たちだけど、貴方みたいな馬鹿は、素敵な玩具になるんでしょうね、ご主人さま」

気づくと藤からあふれ出ていたはずの肉塊は無くなっていた

代わりに瑪瑙という男が先ほどと変わらない位置に立ち奇妙な内臓をその手に握っていた

「ふむ・・少々、不愉快なので時間をいただきましょうか」

そう言うと奇妙な内臓を高く上に投げて指を鳴らす

一直線上に青白い雷が落ちてきて内臓を瞬時に蒸発させてしまう

「お待たせしました・・・次はあなたの番でございますね・・藤様」

「あ・・・あぁぁぁぁ!!」

奇声をあげて藤は瑪瑙に近づき手を上げる

しかし、その手は瑪瑙には届かない

地面から現れた植物のような真っ黒い何かに飲み込まれる藤

「貴方様の体は、元より私たちが用意したもの・・・正直、勿体ないの一言なのですが・・・不問といたしましょう」

「ぎゅ・・ぎ・・・ぎゃ・・・あぁ・・・」

「あぁ・・・まだ、悲鳴をあげられるのですか・・・大丈夫ですよそのうち体の五臓六腑と四肢や骨がすべてグチャグチャと混ざり合い一つの材料となりますから」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「ご主人さま・・・今回は、何にするんです、箪笥ですか?」

ニコニコっと笑いながらユウリが瑪瑙に近づく

「あぁ・・・そうでしたね、今回目玉だけを残そうと思っていたのです・・そうですね、姿身とかいかがでしょうかね?」

「姿身・・・って、確認するたびに見られるんですか・・・この人に」

「そうですね・・・ユウリの裸体や下着姿を見せると・・・あまり、お仕置きにもなりませんでしょうがね・・あの世界で鏡は、重宝されますよ・・・みんな、割ってしまいますから」

そう言うと黒い植物に手を入れる瑪瑙

「出しなさい・・・もう、十分です」

瑪瑙が、そういうとジュクジュクと音をたてて植物が溶けていく

中に居た筈の藤は、グチャグチャとピンク色の何か分からない半固体に目玉がギョロギョロと動く何かになっていた

それを、掴む瑪瑙は素早く形を整えていく

反楕円形で周囲に手や足や顔や舌を象ったオブジェの中心に鏡をはめる場所を用意すると中心に手を突っ込み何かを取り出す

それは、どう見ても鋭利に磨かれた刃物だった

「あの世界では、鏡のようなガラスは脆くて使えないので鉄が鏡なのですよなので痛いでしょうが頑張ってください・・・廻しておきますので」

楕円形の刃物が時計の長針のようにゆっくりと回り始める時々早く時々秒に合わせて回る刃物は、藤の体である枠を貫きながら回る

顔に着いた目玉が激痛に見開かれる

「・・・傷口をいじめる方もいらっしゃいますので、ヒマにはなりませんよ」

そういうと、藤である姿身の上部を瑪瑙は掴む

ユウリは、姿身に笑顔を送る

「では、これにて・・・貴方は終わりです」

瑪瑙がそう告げるとズブズブと藤である姿身が地面に埋まっていく

すべてが没したころ2人は、外に向かって歩き始めた


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