Unhappiness of liquor
「舞・・・ほら、おいで」
バケツとスコップを使って遊んでいた少女が声を聞き、その方向に顔を向ける
細身の男性が手を差し伸べているので、少女が駆け寄っていく
駆け寄られた、少女を見て苦笑する男
少女は、かなり泥にまみれていた
「ほら、母さんがベンチで待ちくたびれてしまっただろうが」
少女は、ベンチに座る女性を見てからもう一度父親を見る
「舞、起しておいで・・・・」
優しげに語り掛ける父親に笑顔を向ける少女
だが、この幸福は永遠ではなかった
Unhappiness of liquor
「このクソ餓鬼、飯も満足に作れないのか!!」
バキィっと派手な音が鳴り女性が吹っ飛び壁に当たる
「・・・・・ごめん――」
ガンっと派手に頭を殴られる女性
女性は、一瞬気絶したようにぼうっと虚ろな目になる
「誰の御蔭で生きてんだお前は、言ってみろ!!」
「お父さんの御蔭です」
「あぁ、そうだよな!!・・・たく、女って生き物は・・・さっさと片付けろ!!」
「・・・はい」
かちゃかちゃと皿を片付けて流しで洗っていく女性
口を固く結び、必死に吐き出したい息を絶える
ここで吐けば、また殴られてしまうからというのを理解しているからである
「別に不味くないのになぁ・・・何で、でしょう?」
不意に少女の声が聞こえる
「・・・・・・・」
「あぁ、やっぱ無視しちゃうんですね・・・ちぇ」
「・・・・・・」
反応すれば父親が怒鳴りに来ることが彼女には、目に見えている
だったら幻聴でも可愛いものだと思えるから、彼女は黙っている
「くすくす・・・私を幻聴だなんて失礼しちゃうな」
「ユウリその辺にしておきなさい・・・・貴方は、まだ反応しなくていいでしょう」
洗い物を終えて向こうの部屋に戻ろうとすると今度は幻覚らしきものがさも当然のように食卓のテーブル席につきコーヒーを飲みながら新聞を読んでいる
藍色のスーツに白い仮面といういかにも好き者のスタイルと小さなシルクハットに赤と黒を混ぜたスーツで白いシャツの格好をした女性という好き者の組み合わせ
「・・・・・・・・・」
「あぁ、気にしないでくれたまえ・・・・回収するものを回収に来ただけだ、君には迷惑をかけてしまうでしょうがね」
「はっ?」
反応してしまい声が出る女性
その声に反応した父親がすごい形相でこちらに現れる
「このクソ餓鬼・・・何が不満な・・・・な・・・あぁ・・・・」
父親が小さなシルクハットの女性の後ろ姿を見てから、男を見る
「こんばんは、和義さん・・・・書類にご明記された、時間になったので来てみましたが・・・如何ですか?」
「あ・・・あぅ」
「あぁ残念ながら、貴方の仰られた時間には間に合わなかったようですね・・・・ならご理解しているでしょうが・・・」
藍色のスーツの男が立ち上がる
すると、すぅっと男と女性が消える
はっとなり父親を見るがそこには誰も居なかった
「・・・・え?・・・・何・・・・何が起きたの」
今までお酒らしきものを飲んでいた部屋、父親の片付いた部屋、自分の部屋、綺麗に整頓された仏間どれを見ても誰も居ない
「いない、そんな」
ガチャリっと扉が開く音がする
女性の肩が跳ね上がる
「・・・・・舞?」
彼女にとって、聞きなれていたがもう、久しぶりとなる声が玄関から聞こえた
「・・・・・・眩しい」
初夏のこの季節は、太陽を見なくてもとても眩しいと思えた舞は、そう口にしていた
今日は、大学の授業が無いため時間つぶしにここに舞は座っていた
「・・・・・・」
「お隣・・宜しいでしょうかな?」
古ぼけたスーツに茶色い少しぼろいトランクを持つ老人がふと現れそういった
老人の反対側にずれる事で肯定する舞は、ほほ笑みを忘れない
「ありがとう」
そういうと、隣に座る老人
白く長いひげと開ききっていないような目が印象的な老人である
「何か・・・・迷いがあるのでしょう?」
「なぜ?」
「君が、この公園に来て一時間がたつよ・・・・私は、そんな子を見たのは初めてでね」
「・・・はぁ、嘘は仰らないでください・・・・私はほぼ毎日ここに居て、こんな感じで過ごしています」
「ふむ・・・だが、違うのは今回考えている内容がある一つに固定されていることでしょう」
いきなり声色が変わったので、隣に座っているはずの老人を見る
そこには、藍色のスーツ姿に白い仮面をつけた男性が座っていた
「二度目ですね・・・一年ぶりです、だが自己紹介はしていませんでした」
「そうでしたっけ・・・・?」
「ん?・・まぁ、何か違和感互いにありますが、ご進言したいことが在ります」
「はぁ・・・」
その反応に、面白くなさそうに首をかしげて両手を広げる
「まずは、自己紹介からですね・・・私、夢追と申します」
「ゆ・・・めつい・・さん?」
「えぇ、夢追です・・・・貴方は?」
「そんな、偽者っぽい名前を言う人に、答えなきゃならないの?」
「分け合って、真名はお答えできないのですよ・・・・別に貴方の不利になるようなことはしませんよ・・たぶん」
「・・・・・二之宮 舞よ」
「舞さんですね・・・はい、私こういうものを配っているのです」
そういうと、夢追と名乗った男は、どこからか黒いパンフレットを取り出す
「・・・・なにこれ?」
それを、開くと白い文字でルールと書かれていた
「恋愛芸舞という、芸舞を進めているのですよ私」
「おもしろくなさそう」
「でしてね、恋愛に必要な力と刻限・・これは、告白する人数もしくは時間・・期間でも良いんですがね・・を定めていただきます」
「乗り気じゃないわ」
「力は、使用する際にすごく醜くて恐ろしい姿にあなたを変容させます」
「いきなり、不利じゃない」
舞は、聴く気がないと目線をそらせているのに夢追は話を続ける
「その姿でも、相手があなたを愛せたらあなたの勝ちです・・その瞬間能力は消えてしまいます・・逆に負ければ、貴方は私の玩具になります」
「ねぇ・・それのどこに私が行うメリットがあるの?不利しかないじゃない」
厳しい口調で問いただす舞に対し夢追は首を振る
「この、力の根源は天使です・・・あなたには、幸福の源がその魂に刻まれます・・決して失敗することのない望んだようになる素敵な人生をお約束します」
遠くを見るような感じで語りだす夢追に対し今度は舞が溜息を吐きながら首を振る
「馬鹿にしないで、そんなの信じられるとでも?」
「貴方の父上は、それを望んで・・・消えましたよ」
抑揚も無い声で答える夢追、その夢追の顔を睨むように見る舞
「そう・・だから居ないんだ・・・・」
舞は、遠くを見て興味がないようにしていた、それでも夢追は、その場に居た
「えぇ、ゲームの敗者ですので・・・当然の処理かと」
「一方的に誘ってこっちには体を差し出せ、お前が勝ったら残りの人生を約束する・・不公平だわ!!」
それに対し、首を左右に振る夢追
「やれやれ・・これだから、人間は困るのですよ・・・ランプの魔人が行ったように願い事でも叶えればよろしいのですか?それだったら告白された彼氏君は怖い思いをしてOK出したのに彼女はただ、自らの欲求を満たすためだなんて悲しすぎませんか?」
「・・知らないわよ、だったら、彼氏にもメリットになることを考えなさいよ」
いまだ厳しい口調の舞に対し両手を広げる夢追
「メリットデメリットで言うなら、私は確かに保証ができません・・貴方が思うようにデメリットばかりでしょうしメリットと思えるところが見当たらないんでしょうね・・私たち悪魔なら、この手の芸舞は笑い話で遊ぶものですよ・・・まぁ、我々は悪魔だからこの天使の残骸があなた方人間の小さな小さな幸せを叶える人間が提唱するどのような幸運のアイテムよりも確実性のあることは補償できますよ・・・まぁ、恋愛に関しては望むなら死者でも犬でも猫でもどのような者とも普通の恋愛ができますがね」
「はぁ・・・しつこいわね・・じゃぁ、私が納得のいくように貴方がそういう力を渡せるものだという証拠をみせてみてよ」
「・・・・ふむ、今どこぞのダレカに力を渡すことは出来かねます・・・今度からストローなどを持ち歩くことにしましょう・・・今持ってるのは、これくらいですからね」
手品のように黄色いボールが次々と右手から左手にジャグリングの要領で回る
合計八つの黄色いボールが回る
そのボールが増えるにつれて笑い声やうめき声、怒鳴る声が聞こえる
舞にとってそれはとても聞き覚えのある声である
「はい・・・これが宜しいでしょう」
そのうちの一つが舞の手元に飛び込んでくる
それを、無意識にキャッチする舞はちょうど変な凹凸のある部分を見る
「・・・・な!!」
それは、父親の苦しそうな顔でうめき声を上げ続けている
「潰しても構いませんよ?・・・こんな感じに」
夢追は、片手でジャグリングを行いながら別の一個を左手にもち突きつけてくる
それは、見憶えのある顔をしていて大きく口をあけて大笑いをしている顔
それを少しの間見せ付けてから一気に父親の顔をしたそれを握りつぶす夢追
苦しそうな声が聞こえてくる、その後ゆっくり離すと潰れたままで醜い顔のままで留まっていたかと思うと、ゆっくりと元に戻っていく
「あぁぁ・・・あぁぁぁぁぁ」
平静を装い初めてまた同じように笑い出す顔から、目が離せなかった
「面白いでしょう?」
右手で回っていた他のボールを懐に一個ずつ戻していく
「・・・よ・・・よく出来たおもちゃね?」
舞の認めたくないという気持ちが動揺という形で現れる
それは、自分自身を生贄として差し出した場合、失敗した場合の図が目の前に突き出された純粋な恐怖からである
「・・・・・・」
だが、相手は正真正銘の人間には味わえない美食を楽しみ、娯楽を楽しんでいる残酷な存在である
夢追が指を鳴らす音が脳裏に響く
―――マ・・イ・・・―――
掠れて小さな、しかし聞きなれた声が聞こえる
その声は、手に持っているオモチャが発していた
「っ!!お父さん!!」
舞が持っているものを含めて父親であるボールを懐に収める夢追
「御理解いただけましたか?・・・なんでしたら、貴方が勝てば父親を返してほしいなら返しましょう・・・ただし私と出会う前のあの性格ですがね」
「・・・」
「お選びください・・・勝った景品は、今の生活を劇的に変えうる力を持つ天使の残骸かそれとも、今の生活に並行して私に奪われた人間を取り戻す・・・か?・・もっとも、まぁ、独り言ですがね・・貴方は今の生活ですら変えたいのでは?」
そういってくる、夢追におびえた表情を向けてしまう舞は逃げるようにパンフレットを眺める
どこまで、家の現状を知っているのだろうと不思議に思う舞
「・・先ほども言いましたが、あり得ない存在とも恋愛は可能です・・そうなんなら女性ともね?」
「あり得ない・・・犬、死者、猫、女性・・・だったら―――は?」
彼女は、昔から抱いていた悩みを思い出して口に出してしまう
「あぁ、だからですか・・・すごく納得がいきます・・・えぇ、私が知る限り貴方なら可能です」
そういって、立ち上がり恭しく礼をする夢追に、もう戻れないのだと確信する舞だった
「して、景品はいかがなさいますか?」
「・・・本当に幸せを呼ぶんでしょうね?」
「あなたのその低い学力でも、有名大学の定期試験で記号問題ならパーフェクトを記録したり、有名会社の就職競争でほぼ負けないって言えるほどの自信はありましょうよ?」
「なにその・・曖昧な言い回しは」
「しょうがないでしょう・・・私にとって、貴方がたが仰る幸せなんてわけがわからないのですから、不幸にしても昔の人なら怪我を負ったらとか地位を失ったらとかで記録が下だからとか良い学校が落ちたとか分からないですよ」
「本心ね、だったら交渉設立・・・私は、たった一人に全力を注ぎます」
「幸一・・・どうしたの、こんなところに座って」
「・・・・あ、あぁ・・・・」
幸一と呼ばれる細身の男性が、舞に話しかけられベンチから身を起こす
「どうかした、幸一」
「・・・いや、なんでもない」
「そう、具合でも悪い?」
そう言って舞は、幸一のでこに触れる
「少し、暖かくて気持ちよかっただけさ」
「・・・今は夏です・・・幸一」
少し呆れつつも舞は笑みを崩さなかった
幸一は、苦笑で返した
「さってと、舞確か授業はないんだよな、だったら遊びにいこう――か―?」
幸一が立ち上がるとぐらぁっと体が倒れそうになるが、素早く力強く体を元に戻す
いらない力がかかっただけに戻すのにもかなり反動がくる
「幸一!!」
「・・・・大丈夫だよ」
幸一は、手をひらひらと振るも明らかに動揺しているのが目に分かる
「変な病気持ってるんじゃないの?・・・力が入りすぎてるじゃない?」
「大丈夫だって・・・まぁ、寝起きだからだろ目覚ましのためにも付き合ってくれよ」
「しょうがない・・いいよ、少しなら」
そういいながら、二人はどこかに向かうのだった
「・・・・どうかしたの?」
「な・・・・なにが?」
二人は、喫茶店で珈琲とケーキを食べながらゆっくりしていた
とても静かな空間で、周囲に客は見られない
「とても不機嫌そう・・・・」
「あ・・あぁ・・・そうなのかもな」
眉や体全体に力が入りきり、指を曲げたり伸ばしたり足を動かしたりと忙しない行動を繰り返す幸一に不信の目を送る舞
「いや・・・なんか、おかしいんだ・・・まるで、自分の体じゃないように動かしにくいし」
「そうなんだ、ちょっと手を貸して」
そういって、右手を取る舞そして、目をつぶって黙り込む
「・・・・?」
幸一の袖口を一瞬何かが通ったような違和感が走ったように幸一は感じたが感触はすぐに消え去り気のせいに思えた
そして、幸一が指を曲げたり伸ばしたりしても違和感は無くなっていた
「どう?」
「あ・・・あぁ、すごく動かしやすい」
体から違和感が消えて、幸一はにっこりと笑いながら動かしていた
それを、舞は優しい目をして見つめる
「ありがとう・・・」
そういうと、彼女の頬に静かにキスをする幸一、その行為に顔がすごい勢いで真っ赤になる舞
「そ・・・そそそそ・・それなら、良かった・・じゃぁ、出かけましょう!!」
舞は、足はやに伝票を手に握り会計を済ませてしまうとそそくさと出て行ってしまう、それを追いかける幸一は足を速める
「ありがとうございました・・・またのお越しをお待ちできませんでしょう」
若いマスターは、単調な声でそういうと二人を見送る
「・・・あぁ、いいなぁ青春よねぇ」
「・・・・・」
ズブズブっと音を発しながら周囲の風景が壊れていく
その壊れる風景は、先ほどまで彼女たちが居た喫茶店だった
マスター姿だった男は白い仮面をつける
「少し、呆れてるのですよ?・・・貴方の我侭に」
「だってぇ・・・あのままじゃ、自殺しちゃうじゃないですか」
「おや、そこまで見れるようになったのですか?・・・ちゃんとお勉強をされているのですね」
そういうと、イイコイイコをするように撫でる夢追
白い仮面は、相変わらずだが白いシャツに黒いベストを羽織って同色のズボンの立ち姿でとてもすっきりしている夢追
ニコニコっと笑いながら受容するユウリはあの時の姿である
景色は歪んでいくが、いまだカウンターと椅子の一つだけが無事である
「にへへ・・・褒めて褒めて、でご褒美頂戴」
「・・・そこまで、甘やかしません・・第一貴方の我儘で今回このようなゲームを行っているのですよ・・・死にかけは、死ににかけでもあのタイプは、認めがたいのですがね?」
一瞬にしてふいっとそっぽを向く夢追
「うぅ・・それとこれとは、話は別にしてくださいよぅ」
「・・・わかりましたよ」
白い仮面を外し、先ほどとは違う整った顔が現れ、彼女の頬に近づく
「まった!!真名のことは分かってるので・・・でも、顔まで偽らないでください!!」
「・・・・・・」
本当に泣きそうな顔で抗議するユウリに驚いた顔を向ける夢追
「たしかに、貴方は悪魔です・・・でも、死にかけてて貴方と契約した私に今も素晴らしい夢を見せてくれてる・・・貴方だけは、偽らないで!!」
「・・・・・・」
二人の間に沈黙が、続く
もう一度、白い仮面をつけて少し躊躇してまたつけなおした
「ふっ・・・・私は、悪魔ですよ?・・・・嘘偽り偽善邪道愚行横暴破壊下克上反逆これらを好み行う存在に何を言われますか・・貴方は、全く」
夢追は、その羅列を全く噛むことなく言い放ち、そっぽを向いてしまう
「・・・・・そう・・ですよね、ごめんなさいご主人さま」
しゅんっとなるユウリの頭をぽんぽんっとなだめるように叩く夢追
次の日、舞と幸一は大学の講義を終えると時間を合わせたかのようにあのベンチに同時についた
「幸一・・・どう、体の調子は?」
「あ・・・あぁ、もうなんとも無いよ、家事全般を行っても全く痛みもなかったしね」
「そう、なら良かった・・・そういえば、独り暮らしだったね・・もうここで寝ようなんて考えないでね」
「ぐ・・・・以後気をつけますよ」
そういうと、微笑む舞に対して幸一は苦笑を返す
「で・・今日は何処に行くつもり?」
「・・・そうだな、買い物に行こうか、服とか見ておきたいし」
「いいよ・・・じゃぁ、行こっか」
そういうと、舞は幸一の手を引くのだった
「・・・・・?」
服を見に来て、幸一はかなり困惑していた
それは、彼が覚えていたサイズでは、小さかったのである
M等の記号で覚えていた性であろうと彼は考えたがそれでも、今迄だって買ってきたのに何故ここで間違えるのかが幸一には、理解できなかった
また、必死になってズボンの覚えていたサイズを探していたが、一向に見つからずに適当に近いものを引っ張り出したが、それはかなり細くて筋肉の薄く張った幸一の足では、入らないことが見て分かった
「おかしいな・・・・なんでだ?」
「なんで、でしょう?」
デパートの喫茶店で二人は、お茶とケーキを食べながらそんな会話をしていた
休憩に利用するセールスマンやおばちゃん達に小さな子を連れた親等が利用していた
「・・・・・あぁ・・・おかしいな」
「元気出しなさい」
そういうと肩をぽんぽんっと叩く舞に苦笑いする幸一
そしてケーキを一口、口に入れるのだった
「・・・・なぁ、この後の予定は?」
「特に無いけど、どうしたの?」
「じゃぁ、俺主導ばっかだけど付き合ってくれよ」
伝票を幸一が手に掴むと財布からお金を取り出して清算し、舞の手を引いて出て行く
「ふぅ・・・意外に遠いいんだな」
夕日の朱に塗りつぶされた寂れた丘の上にある公園に二人は来ていた
舞は、驚きながら周囲を見ていた
「ここは・・・・」
「あぁ・・・子供の頃さ、両親とよく来ていたんだ・・・あそこのベンチで母親が疲れて寝ちゃったりしたらさ、父親が起しておいでっていうんだ・・よ・・・・・?」
違和感が頭を過ぎる、何か言葉が抜けているような気がして
「・・・どうしたの?」
「え?・・あ・・・・いや、別に・・・・舞は、俺のことが好きか?」
「えぇ、好きよ・・・・そういう貴方は?」
「好きだよ・・・・当然じゃな―――」
ズルルッと舞の背中から四方八方に黒い蛇が伸びている
「こんなでも、という前に意外に早かったね?」
「・・・はは、舞何の冗談だ?」
「そうよね、貴方は知るはずがないでしょうね?」
蛇の一匹が舞の右手に撫でられて頭を下げる
「ねぇ、もう一人の私・・・男性の私」
そういわれた瞬間、様々な情報が幸一の頭に流れてくる、限界異常に溜め込まれた水がダムを破壊し脅威となって押し寄せるように記憶が呼び戻される
「ぐぅあ・・・・・・・・あぁ?」
「泥だらけになった私を、苦笑しながらお父さんが呼ぶんじゃない?」
「・・・・・・・・・・」
「でもね、私は遊んでおいでって言われてからシーソーで遊ぶところまでしか感覚で覚えてない」
「・・・俺は、シーソーから呼ばれるところまで」
「そう・・・一つの体にあった二つの心を切り離してもらったの、なんででしょ?」
「?」
「貴方が、時折・・父親の暴行を請け負ってくれた御蔭で私は生きてこれました・・・それが・・・それが・・・・私には、辛かったんです」
「あぁ・・・・そうか」
包丁を持ち一升瓶を振り上げる父親から必死に逃げたり反抗する細い腕が幸一に思い出される
「だから・・・俺の体なのに始めて扱うような錯覚があったのか」
「えぇ、だから・・・服のサイズを私のと間違えた・・・そして、ごめんなさい」
「・・・なにが?」
「父親の暴行を、受けてくださって・・・もう、無理に盾にはならなくても大丈夫です、幼少の頃のように楽しく過ごされてください」
そういうと、蛇が悲しそうに消えていき舞は、自宅に向かって歩き始める
「待て!!」
ガバッと後ろから舞を抱きしめる幸一
反射的に蛇が飛び出し幸一の腕や足の皮膚ギリギリに刃がかざされる
「・・・・好きだ、俺はお前が居ないと駄目なんだ」
「は・・・・・はい、何を仰ってるんです―――」
舞が後ろに向けた顔に幸一が唇を唇で塞ぐ
思考が急停止する舞に対してゆっくりと向き合う幸一
「俺は、無理じゃなくてお前が好きだから守っていたんだ唯一の兄妹・・・だから、まだ守らせてくれ、好きだから」
「は・・・ははは・・・・え・・・何を仰ってるんです、私はゴミのような人間なの・・・父親からは暴行、助けにきたと思った母親からはこき使われてまるで召使よ、私は・・もう死にたいの・・・よ・・・・・・こんな、こんな・・・両親に愛されない私なんて!!」
「知ってるさ・・・だから、そんな家から出て来いよ俺がお前を愛してる!!」
その言葉に自然と涙が流れでてくる舞
蛇たちは、金色の粉となって消えていき二人の周囲で螺旋を描きながらに天に上がっていった
「おぉ・・・・お父さんのほうは駄目だったのにねぇ」
「・・・骨が折れましたよ・・・・・すべての人間のそして書類とか人間の規律をすべて変更しましたからね・・まぁ、本よりも勉強になりますね・・遺伝的要因は全くなしっと」
「違和感を無くすための奴ですね・・・お疲れ様です」
そういいながら、二人は公園にたたずむ二人を見つめる
「・・・・命を捨ててでも相手の幸せを願います・・・か、私には信じられませんね」
「かっこいいですね・・・・好きっちゃ、好きですよ」
「・・・おや?・・・・なら――」
そういって、仮面を外そうとする夢追のその手を掴むユウリ
「でも、似せるのは嫌・・だったら、あなた自身が見たいですご主人さま」
「・・・・・我侭な下僕ですね」
言おうとした言葉をすべて弾かれて、肩を降ろしつつも夢追は二人を見つめていた
そして、手元から一個の和義であるボールを取り出しその光景を見させると、笑っていた和義の顔がゆっくりと涙が加わりながらも無理やり笑っていた
「人間なんて、分からないものでしょう」
冷たく言い放ちゆっくりとその場から消えていく二人