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悪魔乃恋愛芸舞  作者: 青紫 時雨
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13/15

Harm Dog

「・・・あぁ、最悪だ」

激しい雨が降り注ぐ中橋の下で足をだらしなく投げ出して座る男は、静かにそう呟いた

「はっは・・・思い出せばくだらない人生だったなぁ」

男が激しく咳き込むと口の端から赤い液体が垂れる

良く見ると男の腹部が赤く彩られていく

それと比例してか男の眼の力も失われていく

「どうせなら、最後に賭けがしてぇなぁ」

涙を流してそう懇願する男

聞く者などいないと懐の鉄の塊に手を伸ばす

叶わぬ望みならば、せめて自らの手で苦しみを終わらせようと考えたのであった

だが、その手に冷たい存在が触れてきた

「ほう、例えばどのような賭けを望むのですか?」

男が諦めていた言葉は、不気味な男に聞かれていた


Harm Dog


「あっ・・・・・・・・・・」

男が布団から飛び起きる

痩せた頬に無精髭をはやしボサボサの髪が重力に引かれて流れる

額や体から大粒の汗が浮き出て布団やシャツを汚す

「・・・ちっ」

舌打ちをすると憎らしそうに風呂場へと向かう

目が覚めたのか男は素早い動作で身支度を整え、ある程度清潔な装いとなると枕と布団のシーツを洗濯機に放り込んでから、洗濯機を回す

布団を干しつつ時刻を確認しアパートを後にする


「おはようさん」

「あ・・・おはようございます」

男が挨拶すると数名の従業員とバイトが挨拶を返す

男は、パチンコ屋の事務室にある自分の席につくとパソコンを起動する

「森本君掃除は、終わった・・・」

「はい、あとは時間を待つだけです」

「そう・・・」

男は、顔色一つ変えずにパソコンを使い事務作業を始める

始業二分前のベルがなり従業員とバイト達が出て行き仕事を開始し始めた


「・・・・・・・・・・・・・・・・」

無言で仕事を続ける男

挨拶をされれば返すがそれ以降会話は無い

それほど、男が他の人に興味が無い事が伺えた

「こんにちは!!」

昼の12:00になると、一際明るい声が事務に響いた

ビニール袋に入った大量の弁当箱を下げて女性が立っていた

「・・・お前は、静かに入れないのか?」

流石に男が反応する

「春日井店長、これで練習してるんですから無理ですよ…さて、弁当の即売会ですよ」

部屋にゆっくりと充満し始める肉などの食べ物の香り

春日井店長と呼ばれた男の腹部で静かに虫が鳴った

「・・・河上一つくれ」

「まいど、450円でっす」

懐からちょうどその金額を出すと手渡しする

河上と呼ばれる女性フリーターがこのように自分の時間前にこうして弁当を作っては売り始めたのだった

最初は、頭がおかしいだろうと皆、鼻で笑いながらもコンビニに行くより楽なので利用していた

今では、コンビニの弁当を食うぐらいならと皆こっちを買うのだった

「はい、お茶です」

キーボードとかを退けて弁当を目の前に置いた時、気前良く河上が気前良く準備する

「・・・そんなことしても給金はあげんぞ」

「ははっそりゃつらいです」

春日井は、河上を変なタイプの金の亡者だと思った

バイトに入って初日に聞かれたのがどうやったら時給が上がるかだったから

働けるのは、絶対午後だけで午前は、無理だった

「・・・天ぷら定食か、海老じゃなくて牛なのがお前らしい・・・塩か」

「塩ですよ・・・おぃしいじゃないですか」

「そうか」

白い米と450円にしては、ボリュームのある具を胃に流し込む男

河上はプラスチック製の小さな弁当に余った材料で作った物を食べ始める

「・・・同じ物を食わないのか?」

「あはは、節約です」

春日井は、河上のことを今年で二十歳と聞いていたが化粧もせず着飾らないし外観にお金をかけているように見えない、むしろ何処か追いかけ回す今の時代から、かけ離れているように見えていた

春日井は、箸でゆっくりとデカい塊となっている肉を河上の弁当に入れる

「うぉ!!」

「もう、三十路の奴には重すぎる」

「店長って三十路なんですよね、四十に見えますけど」

「最低賃金は、幾らだったかな?」

「すいませんしったぁ!!」

そんな、やり取りをしていると休憩組が入って来てお弁当屋になる河上だった


「・・中華か・・・」

店の鍵を締め終えて、他の従業員が牛のテンプラが中華にあったことを話していたのを思い出す

「久々に了蘭軒に行くか」

了蘭軒とは、以前のオーナーは中国人だったが現在は日本人のオーナーに変わった低価格の中華料理をふるまう店である

そういうと、春日井は車に向い歩いて行くのだった


「いらっしゃいまっ――せぃ」

店に着くと、春日井の来客に驚いた、見覚えのある顔が働いて居た

その独特の明るい声の主は、河上である

「どうぞ、こちらに」

「・・・」

落ち着こうと、客席へ誘導するが明らかに動揺している

「・・・別にバイトの併用ぐらい構わんぞ」

春日井が気を使いそのように伝える

「いえ、すみません…ご注文が御決まりになりましたらお呼びください」

そういうと、そそくさっと去る河上

昼に食べた牛肉の天ぷらに炒飯を頼むと静かに食べて帰っていった


「ふぅ・・・」

溜め息を吐き出す春日井は電気も点けずに暗闇の中で昼間のように動いて準備を行う

「御帰りになさいませ・・・・」

「ありがとよ、だがまだ会えねぇんだ・・・ワリィな泡責」

突如現われた紺色のスーツに白い仮面をつけた男は何も言わずに静かに去っていった

「離してください!!ちゃんと毎日払ってるでしょう!!」

聞いた事のある声が外から響いた

「そう、言わずにさ・・・かなり、儲るよ?」

「今のままでも返せています、絶対にやりません」

静かに春日井が外に出る

色眼鏡にパンチのきいた頭と柄の悪いスーツを着込んだ男が河上の部屋のドアを塞いでいる

「ねぇちゃん、あんま調子のんなや」

「夜中に五月蠅いな、勧誘禁止だろ?」

「あぁん?」

第三者たる、春日井が介入する

声の主を知る河上は、驚く

しつこい男は、面倒クサそうに溜息をはく

「はいはい、この金返さない嬢ちゃんに良い仕事すすめとるだけやしぃ、黙っといてや」

そういうと、懐から短刀を取り出す男

普段ならそれで黙って去って行くのだろうが

自分の命も人の命をも道具のように扱ってきた春日井は、去りはしなかった

「テメェが黙れ」

春日井の突然発せられた言葉に周囲が沈黙する

「あ・・・あぁ、テメェ何様や?」

明らかな動揺しているのを無理に圧し殺そうとする男

「ここは、カタギの場だ何処の使いパシリかは知らんがサッサと帰れって言ってんだ、マッポ呼ばれるか歯を全部つめるのどっちか選ばすぞ」

その言葉に男は、短刀を抜いたはずだった

だが、春日井が木製の柄と鞘の間を握りつぶしてしまう

「・・・・・・・・・え」

短刀の柄と鞘は握られた所は完璧に潰れてヒビが走っている

中の刀は、潰れてひしゃげている

それらが、落とされてむなしい音を奏でる

「次はここか?」

そういうと、男の顎を掴む春日井

「ま、待て!!分かった帰る・・・・帰りますから」

春日井の手から逃れて走って去っていく男

「気をつけろよ」

そう言って去ろうとする春日井の裾を掴む河上

「どうしたんだ?」

そう聞くも河上は黙ったままだった

外の寒さが二人を襲う

「寒いんだ・・・・中入れ」

「店長、私を買いませんか?」

いつもの明るい声では無い河上とは、思えない暗く冷たい声

内心春日井は、自分が何故河上に興味を持ったのかが分かった気がした

「・・・入れ」

「はい」


「・・・一晩だったな」

久々につけた明かりの下で二人は向かい合う

「はい、何でも聞きます・・・・でも、五万ください」

深々と頭を下げる河上

春日井は、驚くも溜息をはく

「・・・先払い」

そう言って財布から六枚の札を投げ渡す

「六万で否定権を剥奪する・・・それが呑めないなら帰れ」

「っ・・・はい」

涙を流しながらお金を受け取る

「質問に答えろ・・・何故金を荒稼ぎする」

「帰ってこない父の借金返済です」

「額は?」

「三千六百万・・・だから毎月二十万稼いで渡しています・・・あと少しの辛抱なんです」

「同じ言葉を昔聞いた・・・何処で借りた?」

「鼎金融です」

沈黙する二人

不安そうに河上は、春日井を見る

「風呂に入ってこい」

端的に春日井は命令すると諦めたように風呂場に向かう

「鼎ねぇ・・・・・・・・・・」

春日井はゆっくりと押し入れから使われなくなって久しい布団を取り出す

そして、電気を消すと自分が先ほどしいた布団で寝るのだった


「あっ・・・」

汗にまみれた体で飛び起きる春日井

その隣りで無防備な寝顔を晒す河上

「・・・・」

ゆっくりとした動作で風呂に入りに行く春日井

汗にまみれた体はあの時の死ぬ手前の感触を覚えている

あの死ぬ手前で春日井に関する全ての時間は止まっている

「・・・あのやり方、たぶん間違いねぇな」

いつもより長くシャワーを浴びてから出ていくとのそのそと河上が起きる

「おはようございます」

ぼんやりとした顔で挨拶して来る

「おはよう、支度しろお前の家に用事ができた」

「もう、私の夜は終わー」

「拒否権は無い・・・昼間まで有効だ」

春日井の暗く冷たい声に圧倒されて身を縮ませて首を縦に振る河上は、いそいそと支度をした

春日井も畳みの下からアタッシュケースを二つ取り出す


二人が向かった先は、鼎金融の事務所だった途中で銀行によって来たため現在時刻は11時を回った

最初河上が案内していたが途中で春日井が知っているようにハンドルを操作しその場に到着した

「これで良いな」

アタッシュケースを手に持つと勢い良くドアを開ける

そこは、タバコの煙で満ちた暗い事務所だった

取締役と数名の男が一斉に春日井と河上を睨む

昨夜の男が春日井の顔を確認して驚く

「田中さん、コイツっすよ、ヤッパ握りつぶした奴っすよ!!」

叫ぶ男を無視して春日井は、田中と呼ばれた男と机を挟んで対峙する

「困りますね、アポイントを取っていただかないとー」

「河上家の借用書を買い取ろう」

アタッシュケースをドスンっと派手な音がなるように置く

「・・・売り物では御座いません」

カチャッと音がなりアタッシュケースが開かれると中には札束が詰められていた

「・・・」

流石に生唾を飲み込む

春日井は、にやりと笑う

「4000万ある・・・・足りるだろ?」

「利息抜きで3600万ですから――ね」

その言葉に河上が叫ぶ

「待ってよ!!私が今まで返してきた分は?」

春日井は、溜息を吐く

田中は、惚けたにやけ顔で河上を見る

「さぁ、そのような・・・・ことは、記載されていませんが誰か受け取りましたか?」

「いや、知らないっすよ…お前は?」

周りの男が次々と首を振る

春日井は絶望する河上の頭を叩き田中を見る

「あなた、どこかで会いました?」

「さぁ・・・・ナンパの口上を聞く前に、売れるのか?」

取締役は溜息を吐きつつ少し考える

「・・・おい、お出ししろ」

周りにいる男の一人が奥から借用書を持って来る

「金を確認しろ」

田中がそういうと他の男達が確認作業を始める

数分の時間を有して作業が終わる

「はい、ではこちらをお受け取りください」

紙を差し出され受け取った瞬間、春日井の瞳の色が変わる

静かに素早く春日井の手が田中の喉元を掴む

全員がその行動に驚く

田中に至っては、恐怖から懐の拳銃を取り出して向けている

「ふざけるな、残りもデータも全てよこすんだよ!!」

「な・・・ふざけ・・・・・ん・・な」

「欲に溺れなければ、長生きできたのになぁ」

田中の顔から血の気が失せていき力が抜けていく

何故なのか、腹部が真っ赤に染まっていく

「なぁ!!テメェ!!」

周囲の男達が次々に弾丸を放つ

それらは、春日井の体を貫き、穴を空ける

だが、それでも春日井は立っていた

そして銃声が止む

春日井は笑っていた、その赤い瞳を爛々と輝かせて

「因果応報って、知ってるか?」

春日井の肩から男達に向かって手が伸びる

どれもこれも黒く細い

そして、驚くのも束の間春日井の穴が消えていき

男達に穴が開き、血が吹き出る

「ぎゃぁぁぁ!!」

叫ぶ男達の中を春日井は、つまらないものでも見るように見つめた

春日井は慣れた手つきで残りの書類を全て取り出すと河上の腕を掴んで車に向かう

春日井が、指で合図し河上を助手席に座らせる

河上は、今まで払ってきたお金がまったくの無意味であったショックに悩まされ頭が動いてはいなかった

春日井が運転席に座ってから、時間を確認し溜息を吐く

「・・・もう、金で買った分は終わった、俺も復讐を果たしてしまった・・・・両親は?」

「父は、本当は他界してて・・・・母は多分、今家に居ます」

「・・・お前ん家に案内してくれないか」

河上は、ただ黙ったまま指を指した


「何の用?」

遊び人と言うのがあっている風貌の女性と対峙する河上と春日井

「母さん、こちらバイトの店長で春日井さん」

「ふぅ~ん、で何の用なの?」

全く興味が無いというようにそっぽを向く河上の母に春日井は笑みを向ける

「借金の払い先の変更です」

「あぁ、知らないわよ死ぬ前に離婚してんだし、つまんない男だったわ・・・まぁ、結構貢いで貰ったけどね・・・三千万で許してやったんだから」

河上の肩が震える

「この借用書を娘さんと引き換えにしませんか?」

「いいわよ、要らないから」

「では」

春日井は借用書を破って使えなくしてから渡す

「あそこに入れて」

そういって、ゴミ箱を指差した為そこに入れる

河上の肩を掴みその部屋を出ていく

それを、嬉しそうに眺める女だった


「さて、最後に・・・河上っほれ」

助手席で絶望に顔を染めた河上に残りの妙にでかいアタッシュケースを渡す

「俺の一億が入れてある大学行きながら暮らす事も出来る、俺は消えるから幸せにな」

「はっ!?」

驚きの声を上げる河上

「・・・悪魔になっちまった俺は生きる資格は、ねぇしな有効に使いな」

「・・・酷いよ・・・借金とりからもい裏切られて、親にも要らないものだと言われて・・・で貴方からは金を渡すからこの地獄で生きろなんて・・・酷いよ」

そういう、河上の頭を静かに春日井は撫でた

「・・本当に地獄か?・・・・偶々二つの不幸があっただけさ、内の従業員もバイトも皆お前の弁当を楽しみにしてるし・・・家の常連客のアンケートもお前が一番だし、お前が働いてた中華屋の常連連中はお前の接客を気に入ってる・・・さらに、うちのアパートのやつらも、お前の事を気に入ってる・・・本当にお前にとって地獄なのか?」

春日井の言葉に発狂寸前だった河上の感情が落ち着き始める

虚ろな目をして河上は黙り込む

春日井も、黙々と車を走らせた

かなりの距離を走らせてから河上を降ろす

「あ、最後に我儘きいちゃくれねぇか?」

「?」

先ほどの様子と違い照れつつ口ごもる春日井

「その・・・な、お前似てたんだよ俺の死んだ彼女にさ、だからよ接吻をさ、かわりにしてくれねぇか?」

すぅっと自然にキスをする河上に春日井は、片手で挨拶して車を発進させた


「我ながらベタだな」

春日井は、平日のしかも寒い冬場の崖の付近に立っていた

「さてと、そんじゃまぁ行くかな?」

「それでは、賭けではないじゃないですか」

泡責が春日井の背後に立っていた

となりに赤と黒を交ぜたスーツを来た女性を従わせて

「だったな、わがままだがアイツはもう居なかったんだ、似てても違うしよ」

悪魔は黙って春日井を見つめる

「そう考えたらどうでもよくなっちまっ――」

泡責が霧のように像が揺れて河上が春日井に向けて飛び込んで来る

真っ向から受けた春日井の腹部に衝撃が走る

「グヌォォ・・・お前何をしやがる」

「私の我儘を聞いてくれないの!!私を置いてくの?・・・私の否定権のはく奪は昼までだったでしょ!!」

「おいおい、醜い姿を見ただ」

唇が重ねられる

「私は、いつも相手を酔わせて誤魔化して来たの、だからまだ体の関係は知りません・・・私を買ったなら最後まで面倒見てよ!!一億も払ったなら、嘘でもいいから愛してよ!!」

「・・・・」

彼女の感情が手に取るように分かる、お金が理由ではない

あの日々で積み重ねた物、そして力強い姿にあこがれた、これに尽きるのだ

春日井はため息を出す

―あいつも、そこが好きだといってたなぁ―

「・・・ばぁか、お前こんな俺を愛せるのか?」

春日井の背中から昆虫のような硬そうな皮膚を持つ人のような手が多数出現する

それらの手のひらには、うめき声を上げる紀色の悪い顔がうごめいていた

だが、河上は全く目を離そうとはしなかった

春日井は驚く

「私に、否定する権利はないんでしょ」

河上の力強い言葉に、うめき声を上げる顔が叫びだす

「・・・・・・・あぁ、そうだったな」

彼女は、盲目であり脳に腫瘍を抱えていた

盲目である彼女は、春日井の姿を知らずに死んだ

でも、彼女は春日井よりも力強かった

そこに、春日井は惚れていた

今目の前の彼女は、恐怖を抱かなかった

たぶん恋心であろう物を春日井は感じていた

「・・ふっ、ばぁか」

そういうと、春日井は車に向かって歩き始める

その瞬間、体から生えていたはずの手が消えていく

絶望したようにしゃがみ込む河上

「帰るぞ由佳・・・さみぃんだよ」

その言葉を聞いて走り出す河上

春日井の車の近くにアタッシュケースは置かれていた

それを、二人が確認すると春日井から金色の粉末が体から飛翔して行くのだった


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