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悪魔乃恋愛芸舞  作者: 青紫 時雨
1/15

Innocent feather

午前一時、シトシトと小雨が降るビルの屋上に白いワンピース姿の女性が立っていた

ショートカットの黒髪は、湿って垂れ下り額に張り付き表情をも隠す

身につけた服も体にぴったりと張り付き、重たそうに垂れ下る

虚ろな瞳は階下に広がり咲く赤を見下ろしている

「・・・・今回も、だめ」

やっとの思いで出た彼女の声は、声は怯えたように震えている

「いやはや、早いですね・・私としては、喜ばしいのですが」

「・・・す・・・い・心・・」

彼女が振り返る

ビルの屋上の中心地からゆっくりと歩んでくる男性

顔には、白の下地に赤い瞳が書かれた仮面を身につけ、藍色のスーツと同色のシルクハットをしている

「これで、九十六人目・・流石に定めた人数が多かったので魅惑を付加させていただきましたが落ちた人間も愚かなものですね」

「・・・・馬鹿にしないでよ、しょうがない・・そうしょうがな――」

「さぁ、私はどのようなことか存じませんが・・貴方が定めた定員は残り三人です、木崎 加奈さん・・・失敗したら、分かっています・・・よね?」

彼女はガチガチと奥歯を鳴らし、その瞳から涙を流す

「御理解いただけているなら、ありがたい・・・木崎 加奈様、良い夢を」

水心は、恭しく会釈をするとすぅっと闇に飲まれていく

彼女は泣きながら地上で赤い花と化した男性の骸を見つめる


Innocent feather


「なぁ、知ってるか隣の県のガッコでビルの屋上から転落死した人がまたでたんだってさ」

「はぁ、転落死多いな?・・・この県で通算三十四人、周囲で六十五人だっけ?」

「それって、多くない?・・・それと、うちのガッコのあいつは、入れないの?」

「ありゃ、自殺だったじゃん・・私は耐え切れませんでした、あの方の真実にだから謝罪を込め・・なんだっけ?」

「何年前の話してるんだよ?」

「いや、転落死とか自殺って言えばあいつだろ・・」

大量の人が死んでいる話で大はしゃぎする、クラス内にショートカットに眼鏡をかけた木崎が入ってくる

木崎が来たことを指で示しあい確認し合う少女たち、そしてその一群から少女が二人木崎に近づいていく

「あ、木崎さん・・ごっめ~ん今日帰りに用事があるからさ・・日直よろしくね」

「あぁ・・え」

「まじ、助かるよじゃ宜しく」

返答も待たずに去ってしまう少女二人

彼女は、何もいえなくなって宙に浮いたままの手を引っ込めて授業の準備をして、空席に飾られた花瓶の水を取り返る

全員は、笑い話をしているため誰一人として気づこうともしない


「えぇ・・・今日の日直は、亜衣 恵この問題解いてみろ」

ボリュームのある白髪に老いを感じさせない皺の薄い顔をした男性の先生が面倒くさげに言う

数学教師でありながら、スーツの上に白衣を着こむ先生は、趣味で科学の勉強をする偏屈な性格の持ち主で有名だった

「え!!・・・わかりません」

チョークで黒板を叩く先生は、溜息を吐きつつ指であしらう

「・・・立花 綾香は?」

「・・・・わかりません」

教室に沈黙が走る

「はいっ先生!!」

その中でぱっと手が伸ばされる、その主は少年だった

先生は、溜息を吐きつつその主を見る

「衛・・・お前、本当に分かるのかぁ?」

「いえ、でも一応予習はしてきたので、やらせてください」

はきはきと答える衛に、苦笑しながら溜息を吐く先生は、手のひらで黒板に誘う

にっこりと笑った衛と呼ばれた少年がすたすたっと数学の問題に向き合う

衛が一生懸命解いていく問題を見ながら小刻みに頷く先生

「どうですか?」

「残念」

衛が問題を解いたので、聞いた瞬間にスパッと応える先生

それを、答えると素早く衛からチョークを受け取り衛が間違えていた所を解説する

衛と先生が黒板の方を向くので声は教室で座っている人には聞こえにくい

先生が黒板消しを取り出し答えである数字だけを記載して途中を消してしまう

これは全員に、考えさせるのが目的である先生の意図的な行為である

「木崎さん・・・ごめん、このプリント配って・・・はい、分からないが二人いたため宿題です、今週中に持ってこない場合は、天誅がくだります・・・では解散」

木崎が、プリントを配り終えたのを確認してから去っていく先生

木崎は、ついでに黒板の文字を消し始める

「(衛君、惜しかったな・・・やっぱ、計算は苦手なんだなぁ)」

木崎が、扱う黒板消しによってすぅっと消えていく黒板の文字が無くなって黒に変わっていく

「(また、あの時に戻れるのかな?・・・・いろんな人と付き合って、もう二年もたっちゃったけど)」

綺麗になった黒板から離れて手洗い場に向かう木崎は、ぼうっとしていた

「(もう、今年を逃せば・・・手に入らない、怖いけど我慢したくない)」

それまで、黒かった瞳に朱が一瞬走った


放課後のHRが終わって彼女が一人ではき掃除を行っている

教卓に背中を向けて、ゆっくりとゴミを掃いていく

「あれ、今日って亜衣さんと立花さんじゃなかったっけ?」

サッカー部なのだろう、大雑把に切られた髪の毛にサッカー部のユニホームを着た少年が彼女の居る教室近くの廊下に立つ

「あ・・・うん、用事があるって任されちゃったの」

そう言いつつも掃き掃除を止めようとしない彼女

サッカー少年は、うんうんと首を縦に振りながら教卓を見てにやりと笑った

「そっか・・木崎さん、いい人だもんな・・じゃ、頑張ってね」

「うん・・・・・」

タッタッタッという音だけが廊下に響きサッカー少年は去っていく

「はぁ・・今日は五時から塾なのになぁ・・・」

「なんだよ、じゃぁ手伝うよ」

「ひゃっ!!」

教卓ががたっと音をたてて揺れるのを、背中を向けた状態で聞いた木崎は、素早く振り返る

悪びれた様子もなく少年が教卓に肘をついている

「あはは、びっくりした?加奈ちゃん」

「衛君・・・」

衛とは、少女とは幼馴染で幼児期から二人で遊んでいる仲である

「いや~気づかれないように注意してたんだよ・・教卓の影で・・剛にはばれたみたいだけどね」

そういいつつ、掃除用具入れから箒を取り出し掃き掃除を手伝い始める

彼女は、ツヨシが誰なのかを頭で思案し先ほどのサッカー少年を思い出していた

「ごめんなさい・・・」

「ん?・・・ん~まぁ、いっか」

さっさっと掃き掃除を開始する衛と呼ばれた少年は、苦笑していた

二人で初めてからは、すぐに終わりゴミを集めてゴミ箱に捨てる

「よっし・・捨ててくるから帰る準備をしてて」

ゴミ袋を取り出して、走るようにゴミ集積所にもっていく衛

「え・・・っとぉ・・・はぁ」

木崎は宙に手を浮かせて、ゆっくりと引っ込めるとうつむき、自分の机に向かいノートや教科書等を鞄に直し始める

「・・・はぁ」

「人間たちは、確か溜息を吐くと幸せが逃げると申すらしいですが・・・よろしいのですか?」

「ひっ!!」

背後にぼぅっとたって居るのは、藍色のスーツとシルクハットに白い仮面の男

「水心・・・後、三人のはずよ」

「えぇ、わかっています・・しかし面白い手法をお使いですね、私の授けた能力でそのような遊びを行っているなんて・・まぁたしかに言いました、能力を使用している間は、魅了することは無いわけです・・先ほどの人ですよね、あれの代わりを探しているのですね」

「・・・・」

ニヤニヤと笑っているのだろうか左右に振り子のように揺れる水心

「いや、貴方が能力を求められませんでしたので、強くするのに最適な力を渡したつもりですが・・・可愛そうに」

「・・・」

脳裏に様々な単語が木崎の頭の中を反復する

木崎が一瞬考えに気を取られていて、考えから我に返ると目の前に水心はいない

「ふふふ・・・まぁ、宜しいでしょう・・せいぜい、残りの三人分楽しませてくださいね?」

背後から覆いかぶさるように抱きつく水心

「っ!!イヤァァッ!!・・はぁ・・はぁ・・」

一瞬だけ自分の死ぬ光景が頭に浮かび男を撥ね退けようと手を振る

しかし、男はおらず安堵のために腰が落ちる木崎という彼女

「一つ言い忘れました・・このまま時間をかけることが無いように期間を決めませんか、一ヶ月でよろしいでしょう?」

「ひっ!!」

やはり、背後から現れ不気味な赤い目を顔の前に持ってくる水心

怯えた瞳でそれを見るしかない木崎

「じゃぁね・・・木崎ちゃん」

「ひぃぃぃっ!!」

木崎は、必死の思いで近くに置いてある椅子に手を伸ばし水心に投げつけるも、椅子は空を飛んで派手な音を立てながら机や椅子を跳ねのけて落ちていく

誰もいない空間がやけに空しく感じられた

「はぁ・・はぁ・・・はぁ・・・無理・・・無理ぃぃ」

額には脂汗、瞳からは雫が垂れ落ちる、呼吸が荒くしゃくりあげる木崎

「どうしたの?・・・なんか、怖いのが居た?」

「ひゃう!!」

肩が上がる、それに驚きつつ木崎の投げた椅子をもってくる衛

「な・・なんでもない、テストあったけどちゃんと点数が取れないだろうなって」

咄嗟に思いついた嘘をつく目が泳いでしまっているのが木崎自身も感じられた

「そう・・・わかった」

少し悲しそうだが顔を外に向ける衛

「今日空いてる?・・空いてるんならついて来てよ」

「え・・っと・・塾が、あるんだけど」

「あぁ、そういやそだったじゃぁ、また別の日だね・・また明日ね!!」

シュビっと手を上げて鞄をつかむと元気が良さそうに走り出す衛その背中を呆然と見つめる木崎

「また・・ね・・・・・・・」

木崎は制服の胸の部分を強く握り締めた

空虚で嫌な感じが取れず、逆に胸が痛くて堪らなかった


「夜景が綺麗だな、まぁ未成年の君にはお酒はまだ飲ませられないのだが、夜景だったらいいだろう」

「そうですね・・・お酒がなくても未成年でもきれいだと思う気持ちは変わりません」

二十代ぐらいの男性がマンションのベランダから夜景をとなりにいる白いワンピースの女の子に勧める

「不思議だ、君を見た瞬間に好きになって・・僕もまだ若いんだなナンパをするなんてさ」

「いえ、声をかけてくれて嬉しかったです」

木崎にとって、その言葉が何度目の同じ言葉に同じ返答を行っていることが思い出される

男は片手のワインを口に含む

「まだ、君に手を出してしまう自分が分からない・・・しかし、君を好きでいるのは確かなんだ、僕の人生のパートナーになってくれないか?」

「・・・・私は、いいんです・・・でも、聞かせてください」

「なんだい?」

男は意外だと思い少女の小さな背中を見つめる

少女が男に向き合うそして何度も言った同じ言葉を言う

「貴方は、こんな私でも愛してくれますか?」


「なぁなぁ、聞いたか?・・また、飛び降りだってさ」

「あぁ、今度は学生じゃなくて二十代の社会人だろ」

「警察が全ての因果を探ったんだけど因果関係は全く無しだってさ・・」

「マジかよ、すっげぇ偶然だな」

興奮したように喋る風景にいつものように木崎が教室に入ってくる

「木崎さん、ごめん今日用事があるんだ・・日直お願い!!」

「えっ・・・」

「じゃぁ・・よろしく!!」

といって走り去る女子それを、呆然と見つめる木崎

これで、半年間木崎が日直をしなかった日はない

「はぁ・・やっぱり」

「おはよう、加奈ちゃん今日も塾・・・?」

「ひっ・・おはよう」

背後から現れたのは衛だった

「また、日直?」

「うん・・頼まれちゃったし今日はお休みだからいっかなって」

「ふぅ~ん・・じゃさ、帰りについてきてよ」

「え?・・あ、う――」

最後の言葉が出ない、彼が何故私を誘うのか彼が何処に誘おうとするのか全く見当がつかないでも一つだけ嫌な、彼からは絶対に聞きたくない質問がある

その言葉を思いつくだけで過去の赤い花と化した者達を思い出す

「・・・よっし、決定また手伝うからね日直」

そういうと自分の席に座る衛

「う・・・うん」

彼女の肯定ににっこりと笑みを向ける

やっぱり、衛に誘われるとうれしさが胸を込み上げてくるのだが、胸に痛みが走りうつむく木崎

「そういえば・・」

ふと自然に振り返る衛

「最近、どうしたの?伊達眼鏡とかして・・・似合ってるけど先生にばれたら怒られるよ」

ニコッと笑うとそのまま去っていく

「・・・」

驚きつつ、眼鏡を指先で触れてそれを消す木崎だった


「木崎さん・・・言ったよね、なんで邪魔するのかな?」

四人の女子生徒に囲まれて木崎は肩を小さくする

「真美が衛のことが好きなのは知ってるでしょ?・・・人の恋愛を邪魔すんなよ」

「そうそう、まったくここは学校だよ?・・・色仕掛けすんなって」

「貧相な体でってね?」

そういうと、木崎を囲む全員がげらげらと笑う

「そういうことだから、余計なことしないでよね・・本当に邪魔なの」

「・・・・今度は、真美さんなん――」

衝撃が木崎を襲う

倒れた所を四方八方から蹴ってくる少女たち

最適な力木崎の頭の中を何度も反復する水心の言葉

どす黒い感情が木崎の内心で湧きあがる

「分かったら、手を出すんじゃないよ、さもな――!!」

木崎の胸倉を掴もうとした手が別の何者かによって掴まれる

それは、地面の陰から異常な長さで伸びた手だった這い上がるために伸びた手元に力を入れ始めた

「ひっ!!なにこれぇぇぇ!!」

力を込めらつつも必死に抗おうとする少女

それを見てから逃げようとする他の女性たち

それは、唐突に出てきた

「ふぅ・・・お使いの移動は意外にしんどいです・・・よっと」

赤黒いレディースのパンツスーツに同色の小さなシルクハットに白いドレスシャツ姿の女性が、胸倉をつかもうとした少女の手首を握っている

その少女は、腰を抜かしたのかカタカタと震えながら女性を見た

他の取り巻きもゆっくりと戻ってくる

「どうも、木崎さんはじめまして・・・私、水心のお使い役であるユウリと申します・・・よろしくお願いします」

ペコリと深く頭を下げるユウリと名乗った女性に木崎も頭を下げた

「いやぁ、水心様が勝手に期間などを設けましたのでサービスにと邪魔ものの排除を命ぜられてきました」

小さなシルクハットを手に掴み中から赤い布を出す

「はっ・・やっぱ、あんた頭おかしい奴だったんだね――!!」

取り巻き四人の口元に向かい赤い布が枝分かれし、包帯のように巻き付ききつく締まる

「いいでしょう?・・・これも人間のなれの果てなんですってどんな御方か知りませんがとりあえず口が好きだったとか」

シルクハットに手を入れて今度は、太い釘と巨大なトンカチを取り出してその赤い布を地面に固定しはじめる

「さて、準備完了ですぅ・・・木崎さん、私いろいろ提案があるのですが、お聞きになられますか?」

無邪気な笑みをするユウリに木崎は、ただ頷いた

四人は釘に近づこうとしたりぐるぐる回ったり引っ張ったりと振りほどこうと必死に動いている

「この赤い布は可燃性がかなり強いうえに長く火が残りますが、すぐに復活されますので燃やしてしまおうかなって案」

そう言いながらまた、シルクハットから松明とマッチを取り出す

口にまかれた赤い布が燃えるということは、その巻き付いた部分は当然焼かれるだろうまして長く燃やされるのだ、顔に酷い火傷を負うことは確実である

「このお口大好きさんの意識を戻して、遊んでいただく」

チョンと触れると釘周辺ぶの赤いマントに無数の指が現れる

「自分の体の形を忘れちゃったんですねぇ・・たぶん口の中でこのように動かれます」

このような動きを口の中で行えば吐瀉物を吐けずに下手すれば窒息してしまうであろう

「そして、両方なんて意見も」

ニコッと笑ってそのような事を言うが、それを行えば口が原形をとどめるとは思えない

「・・・・ま・・まって考えさせて」

聞いた四人は、先ほど以上に必死に暴れる

「構いませんよ、時間は止められておりますので・・・ただ、もう一つ・・・・」

ユウリが、木崎を指さす

「あなた様のお力で、記憶を消しちゃえばいいんですよ」

ユウリと名乗る悪魔のにっこりと怖い微笑み

「弱いから、強者に負けるんですよ・・・でも、あなたは」

「・・・私は・・私は・・・わたしは」

「貴方は、なんだって作れるし・・・人間の物ならつくり変えられる・・そう記憶も例外じゃないんですよ」

ユウリの甘い言葉が木崎の耳から頭に入って反復される

「つくり変えられる・・・弱者だから・・強者を演じれば、苦しまない!!」

木崎の目が真っ赤に変わる


最後の選択を行い、ユウリは満足げに去って行った

四人は、かなりけいれんして倒れているところを木崎が発見したことになっていた

その胃袋に土を変化して作り上げた麻薬を入れて

その後、放課後となり掃き掃除を衛と木崎二人で行っている

「・・・・・・」

「よし、もう良いでしょ準備して!!」

「あ・・う、うん」

そそくさと、荷物をまとめるが昨夜のことが忘れられないままの彼女は、溜息を吐く

「はぁぁ・・・」

「そんなに嫌い、僕のこと?」

「ひっ」

背後からの衛の言葉、水心のせいで背後からの声に弱くなった

それは、見えないところからの声に恐怖を抱くのである

「・・・違、違う・・・」

「じゃぁ、なんで避けるの?・・・この学校に入った時は嬉しそうだったじゃないか、もう高校生活も終わるんだよ、次は大学で会えないかもしれないんだよ?それでも加奈ちゃんはいいの?」

「・・それは・・・」

―アンタ、ジャマナノヨネ?・・モウ、マモルニチカヅカナイデ―

頭に響く鋭い言葉、木崎はストレスで息が止まりそうになる

引き裂かれた仲、相手の無表情の顔その中に浸透した黒く燃える怒りを感じた

そして、当たり前だった楽しみを忘れた

気づいていて全てを避けて生きはじめた

そんなときに、彼から甘い誘いが来た彼女に対して


「あんた・・・前のガッコからあの人の近くうろついてるんだって?」

見知らぬ女生徒達数人に囲まれて肩を潜める木崎

新しく入った学校で、まだ使われないプール近く

すぐ近くでは、サッカー部の練習が行われている

そんな、見つかり総で見つからない場所

「ねぇ、あの人から離れててくんない?・・・正直うざいっと思ってるって絶対」

「なっ・・なんでですか・・衛とは友だ――」

その腹部に足が入る

思いっきり蹴られて前のめりに倒れる

「うっさいなぁ・・・あんた、邪魔なのよね?・・もう衛に近づかないで・・・・」

「恵美がさ・・・告白できないでしょ、あんた見たいのが近くに居たら」

「関係ないじゃない、私はただ友達とし――」

「それが邪魔だって言ってんの!!」

倒れている木崎に対し、数人が容赦無い蹴りを集中的に行いさっていく

「いいか、近づくなよ!!」

冷たい言葉に身がすくむものの、衛に対する思いだけが空しく心を支配する

諦めないとならないのかという、嫌な感情が信じられず肩を震わせる

そんな、彼女の肩を叩いたのが水心を名乗る悪魔だった

「欲しくはありませんか?貴方が失ったモノの代用か、それ自身が?」

水心と名乗った男は、さも当然のように言葉を紡ぐ

衛と一緒に部活動を見終えた後にきたのは、一目ぼれした集団による凶行

集団暴力という名の間違った正義

「貴方は心の安息を取られたくないのでしょう?・・・でもその行為は醜いと感じている、何を恐れるのです?」

突然降りかかる大粒の雨

それが、木崎の体についた血を洗い流す

「弱者であるから、つらいのです・・・貴方が醜く感じる強者を演じなさい、さすればそのLustの欲望が正当化される」

「・・・弱い・・・から・・・汚い・・・・・強いなら・・・・・・正当」

彼女の頭の中で、なぜ汚いのか、なぜ彼女が下がらなければならないのか、彼女が何を邪魔したのかという自問自答が沸々と湧き上がり、それは怒りとなる

「貴方は、正しい・・・私と芸舞を致しましょう、貴方の人生をかけて、私はあなたの後の人生の幸せを・・大丈夫です、貴方を邪魔できるものなどこの世に居ない」

そんな、彼女の目の前に水心の手が差し伸べられる

「お手を取れば、契約は完了・・・さぁ、恋愛芸舞を致しましょう」

「私は、衛を取られたくない!!」

彼女は、その手を強く握った


「・・・・・・・」

沈黙が続いていた

実際、彼女の頭の中ではあの日の会話が思い出されていたにすぎないのだが衛との間には沈黙が広がっていた

「・・・・・どうしちゃったのさ?」

「何でもない・・・」

「んな、わけない!!」

力強く机を叩く衛

「いきなりだよ・・・いきなり、何も言わずに勝手に帰ってしまって何も言わずにどこか遠くに行ってしまって・・塾だって行ってないじゃないか・・どうしてさ!!」

「あ・・なんで・・・しって」

真っ直ぐに見つめあう瞳と瞳

「幼馴染だよ、話ぐらい聞いてる・・・夜遊びが過ぎるとかさ・・・」

衛のまっすぐな瞳に彼女が射抜かれる

「人間にしては、面白いことをしていますね?」

突如として水心が衛の背後に立っていた

「・・・誰、なんで部外者がここに?」

いつもの藍色のスーツに帽子と今回は黒いトレンチコートを羽織っている水心

顔には、仮面がしてあり、傍らにトランクが置いてある

衛に対してシルクハットを軽く浮かせて、会釈する

空気を崩された衛は、怒りをあらわにしている

「貴方に用件はございません・・・・加奈さん、契約書のご確認をいたしますか?」

「っまだ、時間があるはずよ!!第一期限を勝手に短くしたのはあなたでしょう!!」

「えぇ、そのとおりです・・・しかし、貴方がお決めになったこと、告白を受けるなら天に近くないと、いけないのでは?」

その言葉で気づいた彼女は、衛の手を引いて教室の窓から飛び出す

重力に引かれた体は、地面に近づいていくも2人の体は急速に空に近づいていく

「blind」

水心が、指をパチンと鳴らすとうすい靄が空を飛ぶ彼女達の姿を消す

「・・・・力を授けると使い方が素人でいけませんね・・・さて、生きてたらいいですねあの子たち」

水心は、そう言いながら肩を下ろして鞄を手に取る


「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

二人の間に沈黙が続く

大量の人間の手で構成された青白い翼

それが、木崎の背中からさもそれが当然であるように生えている

「・・・ねぇ、衛くん・・・・」

「なに?」

先に口を開いたのは、木崎だった

「この学校の、田辺くんの自殺も含めてアレの原因が全部私だったら・・・衛は私の事を嫌いになる?」

「え?」


田辺 純人、クラスにおいて浮いた存在だった彼はいつも孤立していた

誰かが話しかけようとも彼は、そっけなく反応し能面のような無表情であった

そんな彼が、唯一笑顔になるのが衛だった

木崎は、如何しても集団暴力の傷から衛の前に出ることができなくなっていた

そのため、代わりの存在を探した

その代用の考えに胸が痛まなかったことはなかった

だから、田辺 純人はとても良い代用品だった

「・・・木崎・・・加奈さん・・・でしたよね?」

田辺は、不審げに誰もいない教室で告白を受けた

「俺と貴方は、クラスメイトだけで話したこともない・・・」

「そう・・・ですね」

田辺は、そのそっけなさを抜かせば衛に似ていた、とても親切なのだ

だが、話すことにかなり抵抗を持つ彼はどうしても陰で活動を行う

「・・・俺と付き合って貴方はクラスの嫌われものになるかもしれない・・・だから辞めた方が」

「関係ないよ・・・・そんなこと」

すぅっと無意識に出た言葉にまゆをひそめる田辺に対し木崎は、真っ直ぐに見つめる

「・・・関係ないか・・・・では、学校ではいつも道理にして日曜日このデパートのここで会いましょう、行きたくなかったら来なくて結構です・・では、お疲れ様」

すぅっと帰っていく田辺を木崎は追いかけなかった

日曜日となり田辺は、デパートで普通に買い物を勧めた

手をつないだりということもなく一日中デパートの中で商品を眺めたり評価したりゲームセンターに入ったり軽い食事をしたりして楽しんだあとに田辺は、今度は図書館に誘った

図書館では、会話こそ制限されたが、田辺がおもしろいと思った小説や本、趣味がないという木崎にモノ作りの本を見せて指さして一緒に読んでいた

学校に通う間は、友達以上の間が空いていて

日曜日になれば友達以上の幸せを田辺は木崎に与えた

夏休みには、図書館ですべての宿題を終えた後に海やプール、そして八月になれば互いの家に行き予習と復習や趣味の開発を行った

ただしそれは、絶対に日曜日という制約付きで行われた

「加奈さんは・・・なんで、告白したの?」

唐突に聞いてきた田辺の言葉にきょとんとなる木崎

「それは・・・親切なせぃ・・・」

「いや・・じゃなくてさ、他に理由があるんじゃないの?」

ズバッと内心を探る田辺の言葉に射抜かれた気がした

木崎自身が、内心田辺にあっても満たされていないことを見抜かされたような気がして

「・・・好きな人が居たの・・・その人と少し違うけど似てたから」

「あぁね」

「代用とか、そんなじゃないの・・・でも」

「そういう風に思ってはないよ・・・でも、そいつは無神経なふりしてるけど実際は・・・」

「?」

木崎の驚く顔を確認して田辺は首を振る

「何でもない・・・よ」

にっこりと父親のように優しく笑う田辺

だが、秋も深まった頃に木崎は前に出た

「・・・・・つ・・・・翼?」

一番最初当たり前の安息を取り戻そうとして田辺と学校の屋上で会う約束をした木崎は、能力を開放した

「・・・・・へぇ、綺麗な羽根だね」

田辺は落ち着いてその手のような翼に触れる

「怖くないの?」

真っ赤な目に涙を蓄えて木崎が問う

田辺は、いつものように大人の余裕のような笑みを浮かべた

「怖くないよ・・でも、君を俺は愛せない・・・早く気づきなよ、自分の本心にさ」

木崎の頬を、つぅっと涙がこぼれる

それを拭う田辺は、その顎に手をかけた

「君が好きなのは、俺じゃないんだよ・・・・今まで楽しかった、じゃぁね」

そう言って去って行った彼は、次の日の朝に同じ場所から飛び降りた

葬式には、学級委員ということもあり木崎と衛、それに担任の先生が行った

安らかな寝顔の田辺、衛も悔しそうに口を結ぶ

木崎は、ゆっくりと暗がりに向かう

「どうも、彼が死んだ理由でしょう?」

「その通りです・・水心」

落ち着いた声で問う木崎に対し、水心は肩をなでおろす

「その力故に振った異性は自殺致します・・それは回避できませんが、今回は確かに一回にカウントはされますが、独り言です」

水心は、すたすたと歩き始めこの場を去ろうとする

「彼は、恐ろしい事に魅了おも受け入れず貴方と付き合っているという考えを持っていなかった」

水心の言葉にふりかえってその袖を握りこむ木崎

「さらに貴方に告白されたとき、その言葉を拒絶ではなく受け入れながらあのような事を述べた・・・つまり、愛していながら、手を引いたのです」

「そんな、わけないでしょう!!・・・そんな」

「声は無効に飛びません、安心してください・・・続けますが、あれは自らで自らを殺したのです、作られた自殺ではありません・・彼は、望んで死にました・・正直信じられない」

悪魔は、そう言いながら去って行った


「は・・・ははは、嘘だろう・・なにそれ」

詰襟姿の少年が腰を抜かして木崎を指さす

「嘘じゃないよ・・・・本当に生えてるのこれ」

木崎は白いワンピースを風にたなびかせながら肩にかけたポンチョを正した

すると、巨大な手から多数の腕が生え出てくる

「貴方は、五十人目よ・・・死んだ人の数だけここに生えてくるのか分からないけどなんか増えた感じはする」

「殺されてたまるかぁ・・・あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「そう、みんなそうやって落ちて行ってしまうのよね・・・ばいばい」

走った先にあったのは、障害となる壁でも救いの手でもなく何もない空だった

空に飛ばされた彼は飛ぶこともできずに叫びながら落ちて行くのだった


「なぁ・・・君、私と付き合ってくれないか?」

「・・・はぁ」

九十七人目は、魅了に深くはまった二十代の男性だった

付き合って数週間もたつが自慢話が多く、女性の使い方も荒かった

だから、さっさとこの関係を終わらせるために木崎は問うのだった

「はぁ?・・・・ふざけるな、大人で遊ぶんじゃない!!」

台所に行くと、どこの家庭にもある刃を持って走ってきて彼女の咽元に押さえつけてきた

「俺はね、かなりのエリートだよ、愚かだったが親は財源があったし全てにおいて俺は完璧なのに・・ここで邪魔な者があるわけにはいかないんだ――」

本当に、彼がすべきだったのは断ることである

そうすれば、自分の意志で死ぬことができたのに彼は、未知の恐怖から混乱してしまった

その結果、決断を行わずに殺害をしようとしたため翼によってベランダから投げ出された

彼女が、聞いた悲鳴の中では一番醜く哀れなものだった

包丁がカランカランっと音を立ててベランダに落ちた

「・・・・ばいばい・・・・」

つぅっと流れた涙は、田辺に対するものなのか衛に対するものなのか木崎には分からない


「わかる?最近の転落死の犯人は私なんだよ・・・」

目から、涙を流しつつ衛に独白を続ける

衛は、静かに聴いていた

「だから・・・・私は、貴方には聞けない・・・こんな、汚れたままじゃ言えないんだよ・・・」

強い風が吹き少女が空高く上がっていく

「・・・・・・・・・」

衛は、ただ呆然としていた

「・・・・・・・・・・・・・・」

そして、衛は踵を返すと走っていくのだった


深夜二時に白いワンピース姿の木崎がデパートの屋上に降り立つ

「最後二人・・・だったけど・・」

そうつぶやいた、誰が聞くわけでもないのにと気づいているがつぶやかずに入られなかったある

「・・・衛くん、生まれ変わって綺麗だったら好きになってくれるかな?・・・本当は大好きで大好きで・・離したくなかったのにな」

屋上のフェンスを乗り越えて地上を見下ろす

「サヨウナラ・・・・衛くん」

力強い風が彼女を包み空に引っ張っていく

走馬灯によって楽しかった彼との思い出が木崎の脳裏に蘇る

ふと、強い衝撃が彼女を襲う

「案外追いつくものなんだな・・・・」

「は・・・えぇ!!」

胴体に抱きついた衛を、視界に入れた木崎は体全身を強張らせる

「君だけで逝かせるか・・ついてくよ」

「ば・・馬鹿ぁぁぁぁぁぁ」

多量の腕が力強く羽ばたき地面スレスレで持ち上がる

しかし、ちゃんとは上がれずにごろごろと転がった

「あ・・っ・・う」

「加奈!!・・・・大丈夫か?」

翼は、二人合わせて百キロにもなる衝撃を受けたため一方は変な方向に曲がって多数生えた腕もぐちゃぐちゃになってしまっている

「な・・なんで・・・ここに」

木崎は、激痛に悩まされながら衛に問うのだった

にっこり笑う衛は、安心したように木崎を胸に抱いた

「あの後ずっと待ってたんだよ?・・・ここじゃなかったらやばかったけどね」

たははっと笑う衛にたいし、木崎は歯を噛みしめた

「・・・こんな、汚れてる私なんか死ねば良いのよ!!」

ばぁぁっと木崎の感情に共感した羽根が勢いよく広げられる

「九十七人も殺してしまって・・・私は、本当に好きな人に告白できるわ――」

木崎が、その言葉を叫ぶと同時に乾いた音が鳴った

木崎の頬が赤く腫れる

「・・・・・・え?」

「・・・・・・・・馬鹿」

がばっと抱きしめられる木崎は、困惑する

今まで叩かれたりという暴力は多数あったその中で一番痛くないのに、心が痛いと叫ぶ

「お前は汚れてない・・もし汚れてても悪魔でも君は君だ・・好きだよ」

「あ・・・・あぁぁ・・・うわぁぁぁ」

泣き声が駐車場に響く

翼が呼応するように崩れて、金色の粉となっていくと衛の持つ、田辺の記憶がよみがえる


「・・・木崎さんが逃げるって?」

「あぁ・・・加奈ちゃん逃げちゃうんだ、もういい加減、幼馴染から発展してもいいだろう?」

その言葉に苦笑いを浮かべる田辺

「俺に話していいのか・・・・同じ遊び仲間でありながらお前のことを妬んでいた奴だぞ?」

その言葉を理解できないと首をかしげる衛

その姿にため息を吐く田辺

「いい加減お前も正直になってくれよ・・・俺は昔の木崎さんの笑みが好きなんだから、俺じゃあの笑みを作れないからさ」

「なに、老成したことを言ってるんだよあっくん・・・・俺ら木崎さんを追いかけるライバルなんだろ」

「だからお前は、莫迦なんだよ・・・・・いい加減気づけよ馬鹿」


「あっくん・・・の馬鹿野郎・・・あっくんも正直になれってんだよ」

「・・・・ごめんなさい、田辺君・・・・本当にありがとう」

二人は、自分から身を引いた田辺のために感謝と謝罪を込めて二人は泣いた


「・・・・・・・・」

二人が飛び降りた所から彼らを見下ろす存在がいた

水心と名乗る悪魔は、学校で二人が最後に見た姿のまま彼らが飛び降りたデパートの屋上に立っていた

強い風が吹こうとも水心の帽子は飛ぶことなく、ましてや揺れようともしない

「行なってみるものだ、中々に病みつきになりそうだ」

「・・・・・・・・・」

彼が手に持っているトランクが揺れる

中に入っているものがするのかそれともそれ自体が生きているようである

「案ずる事は無い・・君は、そのままで居なさい・・まだ私は答えを出せる状態ではない・・・・しかし」

無言になりながら何かを語る二人を見る

「ゲームとは、生涯で手にした己の技能と知識をふんだんに使った最高の遊びだと誰かが言いましたね・・・・・ふむ、だが私には」

水心は、帽子をかぶりなおすと二人に背を向ける

「私の最大たる難問を解く鍵として利用させていただきましょう」

それは蜃気楼のように像が、揺れながら消えていく

デパートの駐車場では二人が抱きしめ合い、泣いていた



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