第二話
今年の聖夜も、両親の手伝いをすることになった。
特に頑張ったわけではないけれど、私は今年も誰かと付き合うことはなかった。
……いい雰囲気になった男の子ならいるけれど、今はどう思ってくれているのかわからない。
結局、今年のクリスマスも独りである私は、両親の仕事の手伝いをするほかなかった。
両親は都会でパン屋を営んでいる。そこそこの売り上げで、私も不自由なく生活出来ている。
店の目の前には大きな広場があり、たまに何かのイベント会場になったり、冬には大きなクリスマスツリーが毎年たてられたりする。
場所がよかったからうちは続けられているんだよ、なんて父は言っていた。
私は、ここのパンが実はかなり好きだったりする。
それはそうと、サンタクロースの衣装に着替えた私は、小さな袋を模したバスケットを片手に店先へ繰り出した。中には焼きたてのパンが入っていて、道行く人に配るのが私の仕事だ。外は寒く、あまりもたもたしていてはパンが冷めてしまう。冷めてしまったパンは固くなり、他人に勧めても嫌な顔をされてしまうため、私は手際良くパンを配って行く。
パンが無くなれば、その場でしばらく呼びこみを続け、またパンが焼き上がると、私はそれをバスケットに詰めてから再び外へ出た。
随分と時間が経ち、冷え込みも厳しくなってきた。
サンタクロースの衣装はあまり素材が厚くはないし、下半身がスカートにストッキングだけということもあって、こんなにも長い間外で呼びこみを続けていては風邪をひいてしまいそうだった。
母からパンを受け取ると、私は最後の呼びこみをするために外へ出る。外はもうすっかり暗くなり、クリスマスツリーのイルミネーションがより一層明るく見えた。人の通りも増え、パン屋を購入していく人も増えた。
突然風が吹き、私をなでて行った。さむー、とつぶやきながら身体をさする。
それでも、笑顔を振りまき続けるのが私の仕事だ。少しこわばった笑顔だけど、街の人は多めに見てくれるだろうか。
そして、ふと通りがかった人に私は声を掛ける。
精一杯の笑顔で、
「焼きたてのパンは、いかがですかー?」
と言った。
その人はうつむき加減だった顔をあげて私の方を見る。
バスケットを差しだそうとした私の手が固まった。
頑張ったビジネススマイルも驚きの表情へと変わる。
しばらくの間、私は息をするのを忘れていた。