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生まれつき魔族と戦士族  作者: 稲木 なゆた
第二章③:カルネラ編
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27.色彩豊かな町カルネラ

「あれ? オリバーくんだ!」


 所変わって、中央区の駅舎にて。

 実地訓練の時のことを思い出しながら、戦士族(ベラトール)区へ向かう列車に乗り込んだリアは、以前より人の多い車内で空いた席を探している最中に、見知った顔を見つけた。


 ラクアのルームメイトかつ共通の友人でもあるオリバーは、隣に座ってもいいかと尋ねるリアを座席に招く。


「珍しいところで会ったね。今日は一人?」


「うん、ちょっと友達のお見舞いに行こうと思って」


「友達って言うと……もしかしてマクシリアさん?」


「えっ、なんで分かったの!?」


「地元で領主交代(サレンダー)の報せを聞いて、多分今日は休むだろうなって思ってたから」


 オリバーはどこか憂うように言った。

 その向こう側で、動き出した景色が流れていく。


「地元? オリバーくんの地元ってどこ?」


「カルネラだよ。僕は休みの間実家に帰省してるから、マクシリアさんの件も先に知ってたんだ」


「そうなんだ? ってことは、ミーナちゃんとも元々知り合い?」


「うーん、知り合いって程の関わりは無いかな。一応、初等学校の同級生だったんだけど……」


「えっ!? じゃあ昔のミーナちゃんのこと知ってるの!?」


 興味津々といった様子で前のめりになって聞いてくるリアに、オリバーは困り顔で返す。


「一応知ってはいるけど、今の君とマクシリアさんよりも関係はずっと浅かったから、語れるような思い出話は何も無いよ」


「そうなんだ……ミーナちゃんの子供の頃の話とか聞きたかったなあ」


「……それを聞いてどうするの?」


「え? どうって?」


 その質問の意図が分からないリアは、きょとんとした顔でオリバーを見た。


 ただ友人の昔話が聞きたかっただけだと言わんばかりのその反応に、オリバーは何やらバツの悪そうな顔をして笑う。


「ごめん、気にしないで。そうだよね、リアさんはそういう子だもんね」


「?? うん! ――何が?」


「あっはは!」


 何がそんなに面白かったのかと、オリバーが笑うのを、リアは不思議そうに見ていた。





 列車は暫く走ったあと、二人の目的地であるカルネラに到着した。

 車内のアナウンスを聞いて列車から降りたリアは、たかたかとホームの端まで歩いて眼下の町並みを見下ろす。


 カラフルな家々が並んでいるという点では中央区に似ているが、こちらは整然とした中央区よりも良い意味で纏まりが無い。

 家の大きさも形も色味も、飾られているものもバラバラで、人々が思い思いに好きなものを持ち寄って作ったかのような印象を受けた。色鮮やかではあるが煌びやかとは違う、子供が絵の具を混ぜた粘土を捏ねて作ったかのような味わい深さがある。


 リアは居ても立ってもいられずさっさと階段を降りて、道行く人に混ざって町中を歩き始めた。

 行き交う人の服装もてんでバラバラだ。吹く風に乗って運ばれてくる空気の匂いも、花の香りがしたかと思えば、次は料理の匂いがしたり、家と家の間に渡された紐に吊られた洗濯物の匂いがしたり。


 自由という言葉を町にして表すとこうなるのだろうか。

 リアはそんな風に感じながら、迷子にならないようにとついて来てくれていたオリバーを振り返って一言。


「カルネラって、すーっごく楽しそうな町だね!」


「そうだね。実際親しみ易い良い町だよ。昔はこんな風じゃなかったけど」


「昔って?」


「領主がマクシリアさんじゃ無かった頃の話。ってそうだ、マクシリアさんの家は知ってる? 知らないなら案内するよ」


「お願いします!」


 オリバーのツアーガイドのような案内を受けつつ、リアはカルネラの領主邸兼ミーナの実家へ向かった。

 ガルグラムのように分かりやすく配置されているのかと思えばそんなことは無く、件の家は他の民家に紛れるように建っており、そうだと言われなければ気付けないような出で立ちだった。


「ここがミーナちゃんのお家? お花いっぱいで可愛いけど……普通のお家だね?」


「マクシリアさんは庶民派だからね。それじゃ、案内も済んだし僕はこれで」


「えっ、ミーナちゃんに会っていかないの?」


「さっきも言ったけど、僕はマクシリアさんと親しい訳じゃないから。行っても困らせるだけだろうし、お見舞いはリアさんに任せるよ」


「そっかぁ……じゃあ、また学校でね! 案内ありが――――」


「冗談じゃないわよ!! アタシはそんなの絶対に認めないから!!」


 案内ありがとう、と言いかけたリアの台詞は、家の中から聞こえてきたその怒声に遮られた。

 驚き目を見張る二人の視線の先で扉が乱雑に開かれ、中から私服姿のミーナが飛び出してくる。


「えっ、ミーナちゃん!? どうしたの――ってちょっと!? どこ行くのー!?」


 ミーナはリア達の存在などまるで見えていないかのように、二人の合間をすり抜けて駆けて行ってしまった。

 続けて、家の中から彼女の両親と思しき男女が揃って顔を出し、呆気に取られているリア達と対面。


「あら、あなた達は……?」


「あ、えと、あの、あたし、ミーナちゃんのお見舞いに……その、今日お休みだったから、プリントとか届けに来たん……ですけど……」


 初めてのお見舞いに出向くにあたって、失礼のないようにと一応脳内でシュミレーションしていた内容は、今の出来事ですっかり頭から飛んでしまい、リアは不思議そうにするミーナの母親にたどたどしく答えた。


 聞いた相手は、淡い色味の綿のワンピースと白いフリルエプロンに似合う穏やかな微笑みを浮かべて、「わざわざ有難うね」と礼を述べる。


「でもごめんなさい、せっかく来て貰ったのに、あの子ったら飛び出して行っちゃって……」


「こちらこそ、何だか大変な時に来ちゃったみたいでごめんなさい。えと、あたし探して来ましょうか?」


「気持ちは有難いが、今はあの子も冷静じゃないだろうから、少し一人にしてやって欲しい」


 そう答えた父親も、柔らかそうな白い綿のシャツに生成色のスラックスという出で立ちに相応しいのんびりした口調で、少し申し訳なさそうに言う。


「時期に帰ってくるだろうから、もし良ければそれまで一緒にお茶でもどうかな? 学院であの子がどんな風に過ごしているか聞かせて欲しい」


「あなたったら、そんな風に引き留めてはいけませんよ。こんなおじさんおばさんとお話しても、若い子は楽しく無いでしょうし……付き合わせるのは悪いわ」


「え、あの、そんなことないです! 迷惑じゃないなら、あたしもミーナちゃんが戻ってくるまでここで待ってたいんですけど……いいですか?」


 リアが控えめに尋ねると、夫婦は揃って快諾し家の中に招いた。

 オリバーはどうしたものかと決めかねていたが、見知らぬ場所で一人置いていかれることが不安らしいリアに「一緒にいて欲しい」と目で訴えられて、その場に留まることを選ぶ。


 リビングに通された二人は、円形のテーブルを囲うように並べられた椅子の一つにそれぞれ座り、マクシリア夫人は焼きたてのパイやクッキーを紅茶と共に机に並べ始めた。


「申し遅れたが、私はブルーノ・マクリシア。ここカルネラの領主を任されている者だ。こちらは妻のパネラ。君達は……娘の友人、という事でいいのかな?」


「あ、はい! あたしはリア・サテライトっていいます! 初めまして!」


「オリバー・ロランスと申します。僕はカルネラの住民ですので、領主夫妻には母共々かねてよりお世話になっております」


「あら、そうだったのね! こちらこそ、うちのミーナがお世話になっているみたいで……」


 パネラは嬉しそうにそう言ったあと、不意に表情を暗くして不安げに問う。


「……その、あの子はあなた達に迷惑をかけたりはしていないかしら? 例えば今日来て貰ったのも、本当は来たくないのに無理に押し付けられたとか……」


「え? そんなことないですよ? 先生に〝行くついでにプリント渡しといてくれ〟とは言われましたけど……お見舞いはあたしが来たがったんです」


「そう? それなら良いのだけれど……もし私達に気を遣ってくれているのなら、そんな必要は無いのよ。正直に話してくれればいいわ」


「????」


 リアはパネラが何を言いたいのか分からず首を傾げた。

 代わりにオリバーが改めて答える。


「僕もリアさんも、誰かに強制されてここに来た訳ではありませんから、安心してください」


「そう……なら良かったわ」


 パネラも、話を聞いていたブルーノも、オリバーの言葉に揃って胸を撫で下ろした。

 そのリアクションと質問の内容に、オリバーはほんの少し眉をひそめて続ける。


「お言葉ですが、お嬢さんはお二人にそんな心配をさせてしまうような方でしょうか?」


「……昔は違ったわ。あの子は優しくて慎ましくて……見た目だってあんな風じゃなかった。私達の自慢の娘だったの。なのにどうして……育て方を間違えたのかしら……」


 悲嘆する妻を慰めながら、ブルーノは物言いたげなオリバーを真っ直ぐに見詰める。


「カルネラに住んでいて、ミーナの同期生ということは、君もかつてのミーナを知っているんじゃないか? ならば私達の言いたいことも分かってくれる筈だ。彼女は随分と変わってしまった」


「確かに変わったかもしれませんが、彼女が貴方がたの大切な一人娘だと言うことに変わりはないでしょう」


「だからこそ苦しいんだ。私達も娘を悪く言いたくは無い。だが……」


 次第に重くなっていく場の空気に、未だ話が理解出来ていないリアだけが、困惑した様子でおろおろと三人の顔を見渡す。


「……もう一つ、これはカルネラの民の一人としてお尋ねしたいのですが、今回の領主交代(サレンダー)要求についてはどうお考えですか?」


「ああ、それについてはもう決めてある。領主の座は譲るつもりだよ」


 すんなりと答えたブルーノに、オリバーは「やっぱりか」といった顔をしたが、リアは思わず「えっ」と声を上げる。


「そんな簡単に辞めちゃっていいんですか? あたしはまだ良く分かってないんですけど、領主になるのってすっごく大変なことなんじゃ……」


「いや、私達に限ってはそうでも無いさ。当時は他にやりたがる人が居なくてね、それならばと立候補しただけだったんだ。だから他にやりたいと望む人が居るのなら、拒む理由もない」


「……カルネラの民の多くは交代を望んでは居ないと思いますが、それでもですか?」


「支持してくれる人達が居ることはとても有難いけれど、皆が皆そうという訳でも無いだろう? それに、拒むとなると決闘になる。私も妻も荒事は苦手でね。戦ったとしても結果は変わらないだろう。なら、わざわざ血を流す必要も無い」


「そっかぁ……でも、ミーナちゃんはそれで納得してるんですか?」


「それがあの子ったら、〝戦いもせず領主の座を明け渡すなんて有り得ない〟って言って聞かないのよ。さっきもそれで口論になって……」


「……ご事情は分かりました。出過ぎたことを言ってすみません。お話有難うございます」


「さぁさぁ、そんな話よりもっと楽しいお話をしましょう! パイも冷めないうちに召し上がってね。これ自信作なのよ!」


「さっきから気になってたんですけど、これ何のパイですか?」


「それは切ってからのお楽しみね! 私が切り分けるのと、自分で切って食べるのとどっちがいいかしら?」


「あっ、じゃああたし切りたいです!」


 暗い雰囲気を吹き飛ばすかのようなリアの明るさにパネラが笑顔で応じ、以降は和やかなムードで世間話に興じた。





「あ〜美味しかった! チェリーのパイってあたし初めて食べたよ〜!」


 それから暫く。

 パネラが出してくれた菓子をたらふく食べたリアは、満足そうに言ってマクシリア宅を後にした。


 名残惜しそうな夫婦に「またいつでも遊びに来て頂戴ね」と見送られたリアの隣を、「良かったね」と苦笑するオリバーが歩く。


「でも、結局ミーナちゃんは帰ってこなかったねぇ。どこ行っちゃったのかな……」


「さぁ……そろそろ陽も暮れるし、あんまり一人で出歩かない方がいいとは思うけど……」


「ここも夜はガルグラムみたいな感じなの?」


「いや、流石にあそこまで治安は悪くないけど……どこにだって悪いことを考える人は居るからね。マクシリアさんは強いから、そこまで心配する必要は無いかもしれないけど」


「う〜ん……でもやっぱり心配だから、あたし探してみるよ。オリバーくん、今日は有難うね!」


「それはいいんだけど、あんまり遅くなると帰りの列車が無くなるよ? 泊まるところ決めてあるの?」


「え? ――――あ」


 全く考えていなかったと今更思い至ったリアは、バレッドから貰った小銭入れを確認。

 が、日帰りのつもりで渡されたものなので、そこには行き帰りの電車賃しか入っていない。


 どうしようと冷や汗を流すリアに、見兼ねたオリバーが提案。


「僕の実家の客間で良ければ使っていいよ。もしマクシリアさんが家に帰りたくないって言ってたら、一緒に連れてきてもいいし。〝人間の家なんか〟って嫌がる様なら、無理にとは言わないけど」


「え、いいの!? 有難う助かるよ〜! でも、ミーナちゃんが帰りたくないって、どして?」


「喧嘩して飛び出したみたいだし、ご両親があの調子だと、マクシリアさん辛いんじゃないかなって」


「あの調子って?」


「あの人達は、今のマクシリアさんを良く思ってないみたいだったから。有り体に言うと、〝娘が不良になって困ってます〟って感じ。僕達がマクシリアさんの友人だって言うのも半信半疑だったし……まあ、僕は実際違うけど」


「えーっと、つまりあたしがミーナちゃんの友達っぽくないってこと?」


「あの二人にはそう見えたんだと思うよ」


「そ、そっかぁ……」


 確かに、ミーナや彼女の他の友人達と自分では、諸々の系統が違うのかもしれないが。

 友達であることを疑われるほど不釣り合いだとは思っていなかったリアは、その判定にほんの少しショックを受ける。


「昔のマクシリアさんなら、君との関係を疑われるようなことも無かっただろうけどね」


「昔のミーナちゃんって、どんな感じだったの?」


「うーんと……リアさんが知ってる中で言うと、マルナさんに似てたかな?」


「えっ、マルナちゃん!? ミーナちゃんが!?」


 正反対のタイプを挙げられて、全く想像できないと戸惑うリアに、オリバーは「まあそう思うよね」と同意。


「でも、本当にそんな感じだったんだ。だから、ご両親が今のマクシリアさんを別人のように評するのは分かる。ただ……変わってしまったからと言って、あんな風に否定したり拒絶しなくてもいいんじゃないかなぁ。変わったのにも、彼女なりの理由があるんだろうし」


「理由ってどんな?」


「僕はそこまで詳しくは知らないから、気になるなら本人に聞いてみて。とりあえず、僕の実家はここね」


 そう言って、オリバーは常に持ち歩いているらしいメモ帳に簡易的な地図を描いて、千切り取ったそれをリアに手渡した。

 リアはそれを受け取り、オリバーに別れを告げると、一人ミーナを探しに向かった。

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