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生まれつき魔族と戦士族  作者: 稲木 なゆた
第二章②:エルトリア編
58/88

20-② フォルワード伯爵邸

 *


 その後、玄関を潜り、吹き抜けの広いエントランスを抜け、ラクア達が連れてこられたのは応接間。

 出入り口と逆側の壁はほぼ前面ガラス張りの大きな窓になっていて、その向こうにある庭や野原が望めるようになっている。

 見るからに高そうな絨毯の敷かれた広い空間にあるのは、豪奢なソファーとクロスに覆われたテーブルのみで、ラクアには逆に空間の無駄遣いなのではないかと思えてしまう。

 そしてソファーに腰掛ける四人の目の前のテーブルには、メイドが運んできてくれた紅茶が人数分と、菓子類が乗った二段重ねのケーキスタンドが置かれていた。


「下段に居た時も、お客さんが来たらステラおばさんがお菓子を振舞ってたけど……、スケールが違いすぎて落ち着かないな……」


「そうなの? 下段のお菓子ってどんな感じ?」


「うーん、やっぱり一番印象に残ってるのは、おばさんが作ってくれてたケーキだけど……、一段目のケーキとは結構違うんだよな。生クリームとか獲れたてのフルーツが乗ってるこっちのケーキも美味しいけど、おばさんの作ってくれたドライフルーツのケーキも同じくらい美味かったよ」


「へぇ、それは是非とも一度ご相伴にあずかりたいものだね」


 なんて他愛も無い話をしていると、部屋の扉が開いて、待ち人が現れた。

 全員が立ち上がったのを見て、一拍遅れてラクアもそれに倣う。


「待たせてしまってすまないね。よくぞお出でくださった、ノブリージュ学院の生徒諸君。私がこの屋敷の主人であり、エルトリアを治めている領主のヘルゼン・フォン・フォルワードだ、以後見知りおき願おう」


 歳は四十後半だろうか、ナイゼルと同じ色の癖のある短めの髪に、蓄えられた顎鬚、齢を感じさせる皺が入った顔は柔和な笑みを浮かべている。

 身なりはよくあるスーツ姿だが、色や小物使いから、本人の美意識の高さが伝わってくる出で立ちでもあった。


「ご無沙汰しております、ヘルゼン小父様。ご息災で何よりですわ。この度はわたくし達の勉学の為にこの地での活動を許可して下さいましたこと、班を代表してお礼申し上げます」


「おお、これはこれは、ロザリアお嬢様ではありませんか。こちらこそ、いつも我が愚息が世話になっておりますな。――して、そちらのお二方とは初対面になりますかな?」


 先のロザリアからの忠告もあって、この場は黙ってやり過ごせないかと考えていたラクアは、ヘルゼン伯爵のその問いかけにぎくりとした。

 まあ流石に自己紹介も無しというのはそれはそれで失礼かと考え直し、意を決して口を開く。


「初めまして、ええと、ラクア・ベルガモットといいます。今日から数日こちらでお世話になります、宜しくお願いします」


 優雅な言葉遣いも振る舞いも知らないので、ラクアは自分の知り得るだけの礼儀を尽くして深々と頭を下げた。そしてその隣で、


「フィアです、宜しくお願いします」


 ラクアよりも簡潔な挨拶をフィアが済ませる。

 流石に短すぎますわよ、というロザリアの焦りが滲む呟きがラクアには聞こえた気がしたが、フィアには聞こえていないのか、彼女はしれっとした顔で下げていた頭を上げた。


 一方、そんな二人の挨拶を受けたヘルゼン伯爵は、意味有り気な沈黙の後、


「ああ、宜しく」


 笑顔を湛えたまま、更に短い返答をした。


「まぁ皆座ってくれ。せっかく来て貰ったんだ、もてなして親睦を深めたいところだが、生憎と仕事が立て込んでいてね、早速だが本題に入らせて貰うよ」


 ヘルゼン伯爵はそう言うと、入り口に控えていたメイドから数枚の書類を受け取って、皆に見えるように机の上に並べる。

 そこに書かれていたのは、実地訓練の内容と三日間の大まかなスケジュール、エルトリアや屋敷での滞在中に尊守して貰いたい細かなルール等々。


 ヘルゼン伯爵の説明を聞きながら文面を目で追っていたロザリアは、説明が終わると同時にそれらの書類を受け取った。


「承知いたしましたわ。滞在期間中、小父様並びに市民の皆様のご迷惑にならぬよう、礼節を持って行動させて頂きます」


「そうして頂けると助かります。まぁ、ロザリアお嬢様が居られるのなら、瑣末な心配は無用でしょうが。――それでは、私は一先ずこれで失礼させて頂こう。この部屋と各々の寝室は自由に使って貰って構わないよ、分からないことがあれば使用人に聞いてくれ」


「お心遣いに感謝いたします、お忙しい中お時間を頂戴して申し訳ありませんでした」


「なんの、こちらの台詞です。わざわざ足を運んで頂いたのに、大したもてなしも出来ない非礼をお許し下さい」


 ヘルゼン伯爵はロザリアに会釈すると、そこで初めてナイゼル(息子)を見て、


「ナイゼル、後は任せたぞ。くれぐれもロザリアお嬢様に失礼の無いようにな」


 それだけ言って出て行った。

 ナイゼルは了承の言葉を返して、扉の向こうに相手が消えるまで頭を垂れる。


「……相変わらずですね、父上」


 それから、険しい顔でぽつりとそんな言葉を漏らした。

 だがラクアがそれについて言及する間もなく、ナイゼルは手を叩いてパッといつもの調子に戻る。


「さて! 父の堅苦しい挨拶に付き合わせてしまってすまないね、もう楽にしてくれていいよ」


「え? ああ、いやこっちこそ、いまいち礼儀がわかってなくて悪い」


「あれで充分だよ、自分から聞いておいてあんな反応しか返さない父のほうがよほど無礼だ。毎度毎度付き合ってくれているロザリア君には頭が上がらないよ」


「それは貴方が気にすることではありませんわよ、ナイゼル。謝罪も不要です」


「フィアさんも、もし気を悪くされていたら――」


「……? 何が?」


 本気で何のことかわかっていなさそうなフィアは、ケーキスタンドの上にあった菓子を一人でもりもりと食べていた。

 その様子を見たロザリアは、


「彼女は、絶対に気にしていませんわね……」


 額を押さえながらそう結論づけた。

 

「で、今日はこれからどうする? さっきの説明を聞いてた限りだと、今日やるべき課題って一つだけだよな?」


 ラクアは言いながら、確認の為にロザリアの方を向いた。

 彼女は首肯しつつ、手に持っている書類に書かれていた課題の内容を読み上げる。


「〝エルトリア市内ビエント通りにある学舎にて、午後の授業の教鞭を執る事〟――訓練の内容は滞在地区の領主が決めるとは聞いておりましたけれど、まさかたったこれだけとは思いませんでしたわ。大方、わたくしのせいでしょうけれど」


「? なんでロザリアさんのせいなんだ?」


 ラクアの問いに、ロザリアは複雑な顔をして押し黙った。ナイゼルが、その心中を代弁する。


「学院からのお達しとはいえ、ロザリア君に雑務を任せるのを父は良しとしなかったんだろう。だから比較的楽な、それでいて彼女の尊厳を損なわない内容のものを選んだ、という事だよ。但しそれはロザリア君のせいじゃない、父の身勝手な采配によるものだ」


 ロザリアは盛大に溜息を吐いて、数枚の資料を持参していた小さな手提げ鞄に入れると、冷めた紅茶を飲み干して立ち上がった。


「まあ、今回はそのご厚意に甘えさせて頂くのも悪くはありませんわね、たまには息抜きも必要ですもの。とりあえず今日は指示通り、午後の授業の講師役を全力でやりましょう。それ以外の時間は列車で話していた通り、ナイゼルによる観光案内、ということで如何かしら?」


 ロザリアの提案に残る三人は賛成を表明し、フィアが出された菓子や紅茶を綺麗に空にしたところで、屋敷を後にするのだった。


 *


 そうして、四人はナイゼルの案内のもと、時間ギリギリまでエルトリア市内を見て回る事になった。

 大きな滝のある碧色の河をボートで下ったり、国内の植物を全て集めたのではないかと思えるような巨大な植物園を散策したり、花の咲き乱れる広大な野原を散歩したり。

 昼時になると、ナイゼルおすすめのレストランがあるということで、繁華街に向かうことになった。その道中は、エルトリアでは車よりも主流だという馬車に二人一組で乗る。


「あんまりこういう事聞くもんじゃないのかもしれないけど、ロザリアさんはナイゼルのことは好きじゃないのか?」


 馬に引かれて走る個室の中、ロザリアと二人きりになったラクアは、特に面白くも無さそうに小窓から外の景色を眺めていたロザリアに意を決して尋ねた。


「好きですわよ、友人としてですけれど」


「そうか……」


 露骨に安堵したラクアに、ロザリアは怪訝な顔で視線を外から中へ移す。


「どうして貴方がそれを気にするんですの?」


「いやその、ナイゼルはほら、あれだろ? 好きな人が居るだろ? 俺、特に何も考えずにそっちを応援してたからさ、もしロザリアさんもナイゼルの事を好きなんだったとしたら、ちょっと軽率だったかと思って」


「別に濁して言わなくても、ナイゼルの意中の相手ぐらいわたくしだって知っていますわよ。それとも、わたくしがナイゼルのあの態度を見て気付かないほどに鈍感だとでも言いたいのかしら?」


「いやっ、そういう訳じゃなくて!」


「冗談ですわよ」


 取り乱したラクアに苦笑しながら、ロザリアはやれやれと首を振った。


「自分がそうだからといって、幼馴染の男女は皆相手に恋心を抱くだなんて思わないで下さいな」


「はっ!? へっ!?」


「今はナイゼルの話ですから貴方の話は横に置きますわよ、宜しいですわね?」


「え、あ、はい、そうして下さい……」


 何の前触れもなく己の本心を言い当てられて青くも赤くもなっていたラクアは、自分とは裏腹に至極冷静なロザリアに、急速に落ち着きを取り戻しながら答える。


「私にとって、ナイゼルはそれこそ家族のようなものですわ。今まで彼に恋心を抱いたことはありませんし、これから先もきっと抱くことは無いのでしょう。その資格もありません」


「え、なんでだ?」


「貴方も少しは感じていたんじゃありませんの? 伯爵邸でのヘルゼン小父様とわたくし、それからナイゼルの関係の歪さを」


 ロザリアが悲痛な顔で俯いたのを受けて、ラクアは数刻前のやり取りを思い返しながら閉口する。


「普通、家に息子が帰って来たら、それを一番喜ぶ筈でしょう? けれど、かの家はそうでは無いんですのよ。……ヘルゼン小父様にとって、私は侯爵家の――自分より身分の高い家の娘ですわ。何か無礼を働けば家格に関わると危ぶんで居られるのでしょう、わたくしがナイゼルの傍に居ると、いつもわたくしの顔色ばかり窺うんですの。それは仕方のない事ですけれど、その度にナイゼルは自分を蔑むんですのよ」


 ロザリアは拳を握り締めて、ラクアに向き直った。


「貴方がもしわたくしと同じ立場だったら、自分が傍に居ることで相手が傷つくと知って、それでも生涯傍に居たいと思います?」


「それは……、思わないな」


「ですから、資格が無いんですのよ。わたくしはただでさえ低いナイゼルの自尊心を殊更に下げてしまう存在にしか成り得ません。――その意味では、フィアさんのような方が現れて下さったのは幸運でしたわ。フィアさんと出逢ってからのナイゼルは、とても楽しそうですもの」


 そう言って、彼女にしては珍しく眉尻を下げながら、ロザリアは微笑する。

 ラクアはその胸中を推し量りながら、以前から疑問に思っていたことを口にした。


「ナイゼルは父親と……というより、家族と上手くいってないんだな?」


「あら、そこまで知っていますのね? 出逢ってまだそれほど時間も経っていないのに、そこまで仲良くなっていたとは思いませんでしたわ」


「本人から聞いた訳じゃないけどな。お兄さん――セリウス先輩のことだけど、名前が出る度に複雑な顔をしてたから、何か確執みたいなものがあるんだろうとは思ってた。前にその事を直接聞いたら、〝優秀な兄を持つ者なら誰しも感じ得る程度の劣等感だ〟って言ってたけど……、相当根が深いみたいだな」


「ヘルゼン小父様は何かにつけてセリウス様とナイゼルを比較しますから、ナイゼルが気にするのは当然と言えば当然ですわね。彼をそうたらしめたのはひとえに家庭環境のせいですから、彼を責めることは出来ませんけれど……、彼のことを案じている側としては、ナイゼルのあの自尊心の低さは悩みの種ですわ。あの調子では、どれだけこちらが仲を取り持っても、フィアさんに告白することは出来ないでしょうし」


「ああ、やっぱりこれまでの言動はそういう意図があったんだな?」


 エルトリア市内を観光している間、例えばボートに乗るときなど、ロザリアは何かにつけてナイゼルとフィア、ラクアと自分という組み合わせにしようとしていた。その理由を彼女は「もしはぐれた場合、フィアさんとラクアさんでは迷子になってしまうでしょう?」と説明していたが、ラクアはそれだけでは無いのだろうと感じていたのだ。


「そもそも、今日の課題をたった一つでいいと妥協したのもその為ですわよ? こんな時でもないと、ナイゼルがフィアさんと二人で出かける機会なんてきっと訪れませんもの。本当なら、課題は一日に最低五個は欲しいところでしたけれど」


「す、ストイックだな……、流石ウォレアさんの妹というか」


「ウィスターシュ家に名を連ねる者として、当然の事ですわ」


 と、馬車はそこでガタン、と大きく揺れて止まった。どうやら目的地に着いたらしい。

 御者にそれを告げられたロザリアは、小窓越しに返事をしながら、今一度ラクアに向き直る。


「ちなみに、先ほどはフィアさんのことを言いましたけれど、貴方に関しても同じですのよ」


「? どれのことだ?」


「ナイゼルに良い影響を与える存在だという話ですわよ。――期待していますからね?」


 ロザリアはそう言って微笑むと、先んじて馬車から下りて外へ。

 残されたラクアは、


「期待って言われてもな……、俺はフィアさんにはなれないぞ……?」


 そう一人ごちながら、彼女の後に続いた。


 *


 レストランでエルトリアの名物だというチーズや乳製品、新鮮な野菜等を使った、見た目にも美しいコース料理の数々をたらふく食べた四人は、胃が落ち着くまで談笑して店を出た。時刻はちょうど、訓練が始まる一時間ほど前。


「それじゃあ、そろそろ実地訓練場所に向かおうか。ビエント通りならここから徒歩で十数分ほどで着くし、腹ごなしも兼ねて歩いてもいいかな?」


「俺はいいぞ」


「私も大丈夫」


わたくしも異存はありませんわ。ついでに、到着までにある程度段取りはつけておきましょう。まず授業の内容についてと、どの順番で講師役を務めるか、ですわね」


「……ちなみに今更なんだが、俺は魔術の授業は出来る気がしない」


 控え目にそう主張したラクアに、ナイゼル達は三者三様に理解を示す。


「まあ、授業の内容についての指示はありませんから、貴方は魔術以外の分野について講義すれば宜しいのではなくて?」


「でもエルトリアにあるってことは、今から行くのって魔族マグスの学校なんじゃないのか? 魔術以外のことを話してもなぁ……」


「一応人間の生徒も居るよ? 魔族マグス生徒が過半数だけれどね」


「そうなの?」


「ノブリージュ学院は特別ですけれど、基本はどの地区の学校も、元を辿れば人間のものですもの。いくら国が魔族マグス戦士族ベラトールを大事にしているからといって、元より居た人間を追い出すのは流石に横暴というものですわ。ですから今は、人間と魔族マグス、ないし戦士族ベラトールの混成学校が主流ですわね」


 そのことも知らないのか、とロザリアは言いたげだったか、列車内でフィアの境遇を聞いていたからか、それを口に出す事はしなかった。ラクアはそれを横目に見つつ納得。


「まぁ、それでもやっぱり授業は魔族マグス寄りになってしまっているから、人間生徒のほとんどは途中で辞めてしまうけれどね。国全体の人口の割合としてはまだ人間の方が勝っているのに、学舎では比率が逆転しているのはその為だよ」


「なるほど……、じゃあ魔族マグス戦士族ベラトールの混成学校とかもあるのか?」


「それはノブリージュ学院だけですわね、魔族マグス区も戦士族ベラトール区も、互いの種族の出入りを禁じていますもの。余計な争いを避ける為の国の処置ですけれど」


「何だってそんなに互いのことを嫌い合ってるんだ? 別に魔族マグス戦士族ベラトールも人間もそう変わらないだろ、区で住み分けたりしなくても、仲良くやっていける気がするんだけどな」


「確かに、君とリア君を見ていると説得力を感じるけど……、根付いてしまった潜在意識を変えるのは、なかなか難しい事だよ。魔族マグスは〝戦士族ベラトールは野蛮な種族だ〟と教えられて育つし、逆もまた然り。誰が最初にそう言い出したのかは知らないけれど、僕も実際に学院で戦士族ベラトールと過ごすようになって、その教えは間違っていなかったと思っているしね。ああ、リア君は例外だけれど」


「そもそも三種族は体の構造からして違いますし、考え方や生活様式の異なる者同士が共に暮らしていても、いずれかが我慢を強いられることになるだけですわよ。現に人間は今そのせいで苦しんでいるのでしょうし、無理に仲良くするよりは住処を分けた方が皆の幸せの為になるとわたくしは思いますわよ?」


「それは……確かに一理あるかもしれないけど」


「それよりも今は授業の段取りですわよ、一番手は誰にします?」


 ロザリアがナイゼルと相談し始めるのを後ろから見ながら、ラクアは一人思案を続ける。

 フィアはその隣に並んで、


「私は、貴方の意見に賛成」


 そう呟いた。


「王様だって、本当はそれを望んでる。だからこそノブリージュ学院がある。魔族マグス戦士族ベラトールは互いの欠点を補える存在なんだから、仲良くするのが一番。というか、仲良くして貰わないと困る。もしいずれかの種族をこの国から追い出すなんてことになったら……アルスやイアンと一緒に居られなくなる」


「ああ、その気持ちはよくわかる。俺もリアと引き離されるのは困るし、おばさんも含め皆が一段目で暮らせるようになったら嬉しい。――それにしても、フィアさんは一段目の魔族マグスなのに、戦士族ベラトールや人間に対して偏見は持ってないんだな?」


「小さい頃からアルスやイアンと居たし、逆に国の皆がそんな考えを持ってるだなんて知らなかった。多分、境遇的には貴方と一緒」


「……フィアさんは、一段目の人って認識で合ってるんだよな? って、ごめん、あんまり家のことは話したくないんだっけ」


 話を打ち切ろうとしたラクアに、フィアは気にしないで、という意思表示の為に首を振る。


「皆に不信感を持たれるくらいなら、私は自分のこと全部話したい。でも今は、話すと沢山の人に迷惑がかかる。だから、話せる時が来るまで待ってて欲しい」


「え、そのうち話せるようになるのか?」


「うん、そう遠くない未来に」


 話すと迷惑がかかるというのも、将来的に明かせるというのも、ラクアにはいまいち意味がわからなかったが、


「わかった、じゃあ待ってる。フィアさんがどこの誰でも、俺にとっては何も変わりないと思うし」


 そう返すと、フィアは「ありがと」と言って、綺麗に微笑んだ。


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