18-② 互いの大切なものの為に
*
リア達が再び要塞へ向けて出発したその頃。
レオルグとマルナは、要塞の壁に張り付いて、巡回する兵士の動向を伺っていた。
二人の居る位置から見える兵士は、門の付近に二名、詰所内の出入り口に一名だ。
レオルグから借りたシャツの袖を捲りながら、マルナが声を潜めて話す。
「正面は……流石に無理ですよね。レオルグさん、裏口とかご存知ですか?」
「幾つかはな。つっても、どうせ施錠されてるだろうから、そっちはアテにすんな。――つーか、本気でついてくる気かよ」
「ここまで来て戻るなんてできません、足手纏いにはならないようにします」
「…………」
「ほんとですよ! 戦士族や魔族の皆さんには適いませんけど、これでも一応実戦経験だって少しは――っ!?」
信用ならない、といった顔で見てくるレオルグに反論していたマルナは、地面から突き出していた石に躓いて転んだ。
「…………」
「痛たた……、だっ、大丈夫ですから!」
顔を真っ赤にして慌てて立ち上がったマルナは、笑いで誤魔化しながら土汚れを払う。
あまりにも緊張感が殺がれるので、レオルグはとりあえず一度マルナの存在は忘れることにして、周囲を警戒しながら暫く壁伝いに歩いた。
「確かこの辺に……あった」
闇夜に目を凝らしていたレオルグは、他より僅かに壁の凹凸の激しい部分を見つけて足を止めた。
「おいチビ、ここ登れるか?」
「へ? こ、これですか?」
マルナはレオルグの視線を辿って、幾つか突出しているレンガが要塞の上に向かって伸びているのを見た。
ロッククライミングを迫られたマルナは、ここで弱音を吐くわけにはいかないと、意を決して足をかける。
「ど、どこまで登ればいいんですか?」
「半分ほど登ったところに窓が並んでる、そっからコレで窓割って入れ」
レオルグは持っていたマイナスドライバーをマルナに放り投げた。
受け取ったマルナは首を傾げる。
「え、金槌とかは……?」
「ンなもん使ったら音でバレるだろ」
マルナは半信半疑のまま、それを腰につけていたポーチにしまって、ゆっくりと登り始める。
かなりのスローペースではあるが、着実に上へと向かうマルナを見て、レオルグは溜息を吐いた。
帰らせる為に言った冗談だったのだが、まさか本当に登るとは。
レオルグは呆れ半分、感心半分でその姿を見守る。
自分がやるつもりだっただけで、ルートはこれで間違いではない。マルナが完遂出来ればそれはそれで問題無いのだが……と思ったのも束の間、
「あっ……!!」
レオルグの視界の先で、マルナが足を踏み外した。
その小さな体が要塞の壁から剥がれ落ちて、重力に従って落下する。
「――――っ!!」
ずっと上だけを見て登ってきていたマルナは、そこで初めて下を向いて、その高さを知る。
恐怖に身を強張らせるマルナの体は、壁に復帰することは適わず地面に落ちた。
――正確には、下で待機していたレオルグの腕の中に落ちた。
「……まぁ、こんな事だろうとは思ったけどよ」
固く瞑っていた目を恐る恐る開いたマルナは、呆れ顔のレオルグを見てほっと息を吐いた。同時に、体が震えだす。
「ご……っ、ごめんなさい。つ、次はちゃんと、行けますから……、もう一度だけ……」
やっぱり足手纏いだな、と切り捨てられると思ったマルナは、恐怖を飲み込んでそう懇願したが、
「もういい、時間の無駄だ」
レオルグはそれを一蹴し、マルナを地面に下ろすと、ポーチを奪って一人で壁を登り始めた。
仕方が無いとマルナは思ったが、それでも悔しさに視界が滲んだ。
ここで泣いて諦めるわけにはいかないと、袖で涙を拭って、レオルグの後を追う。
レオルグはと言うと、マルナとは比べ物にならないスピードで壁を登りきって、あっと言う間に目的の場所に到着していた。ドライバーを数回窓枠に捻じ込んでガラスに亀裂が入れ、外れるようになったガラスの一部を無理矢理剥がすと、そこから腕を入れて鍵を外す。ここまで僅か十秒。
レオルグは作業を終えると、躊躇い無くそこから地上へと飛び降りた。
戦士族だからこそ出来る芸当だが、下から見ていたマルナは、その奇行にぎょっとする。
「れ、レオルグさん? どうしたんですか?」
「……テメェは何でまた登ってんだよ」
「あ、ごめんなさい。レオルグさんは先に行ってて下さい、わたしは後から追いかけますから……」
「それじゃ俺が降りて来た意味ねぇだろ」
「へ? ――ひゃっ!?」
一瞬でマルナの傍まで登ってきたレオルグは、マルナを小脇に抱えて、窓まで一気に駆け上がった。薄暗い廊下に身を滑り込ませて、その場にマルナを下ろす。
「あ、ありがとうございます……」
へなへなとへたり込んでしまったマルナを他所に、レオルグは耳と目で、近くに人の気配が無いか確認。
「だ、誰も居ませんね……?」
「警備を置く必要がねぇって事だろ。つまり、探し物はこの付近には無ぇってこった」
とはいえ、今後ここを誰かが通らないとも限らない。割れた窓を見れば、部外者が侵入した事はすぐにバレてしまうだろう。
「とっとと見つけんぞ」
「は、はいっ!」
膝が笑っている状態で無理に立ち上がったマルナの姿は、さながら生まれたての小鹿のようだった。
*
途中で見つけた要塞内の案内図から、武器が保管されていそうな場所を絞って、慎重に調べて回っていた二人は、十回目の空振りに揃って溜息を吐いた。
地区毎に区切られているとはいえ、巨大な要塞の中は広い。二人は休んでいる暇など無いと、直ぐに次の場所へと移動する。
「それにしても、ここまで人が居ないものなんでしょうか……? 遭遇せずに済むのは有難いですけど……」
なんとか落ち着きを取り戻したマルナは、怪訝な顔で周囲を見渡しながら、前を行くレオルグに問いかける。レオルグもまた、その違和感に眉を寄せていた。
ここに至るまで、二人は一度も人の姿を見かけていない。食堂や仮眠室など、人の居そうな場所を避けているとはいえ、巡回の兵士すら一人も居ないのは、流石におかしい。
「……油断はすんなよ」
マルナに、そして自分自身に言い聞かせるように、レオルグが答えた。
マルナは相棒である斧をぎゅっと握って、その言葉に応じる。
やがてその足は格納庫へと辿りついた。広い空間には管轄地区を見回る為の車両や整備用具の入ったコンテナが並び、壁際には武器も並んでいる。明かりも窓もないその空間は通路より更に暗く、その輪郭がかろうじて判る程度だ。
マルナは一目散にその武器へと駆け寄り、目を凝らして端から順に確認していく。そして、
「――あった! ありましたよレオルグさん!」
武器の一つを手に取ったマルナは声を上げた。
瞬間、室内の明かりが一斉に点る。
「学生が夜遊びとは感心しないな、此処へ入るのを許可した覚えは無いが?」
光に目を焼かれた二人は、真っ白な世界でその声を聞いた。
視力が戻ってきて始めて、部屋に幾人もの軍人たちが居たことを知る。どうやら最初から、ここで迎え討つ心算だったらしい。
「ハッ、その割にゃあ豪勢な出迎えじゃねぇか」
「ハーヴィのお嬢さん、その武器をどうするつもりかな?」
マルナは取り戻した武器を軍人たちから護るように抱きしめて、二階のギャラリーからこちらを俯瞰している男を見上げる。
「部隊長さん……、やっぱり、返しては貰えませんか?」
「であれば同等の対価を、と述べた筈だが? 己の意見ばかり通そうとするのは、子供の悪いところだな」
「テメェは違うのかよ。村の奴らを使って、自分の手は汚さずに美味しいとこだけかっ攫うテメェの方が、よほど意地汚く見えるけどな」
「……何のことだかさっぱりだな」
「アイツらのことはよく知ってんだよ。村ではデカい面してのさばってやがる癖に、ガルグラムの外にゃ出ていく勇気すらねぇビビりだってな。……中央区で盗みなんざ、自発的にやる奴らじゃねーんだよ」
「……!」
それは、つまり。
マルナはレオルグを見て、それから部隊長に向き直った。先程よりも、表情は険しい。
「フン、不良の妄言は聞くに耐えんな。――それより、今自分達の置かれている状況を理解しているか?」
「……覚悟の上です。うちの子たちは返してもらいます」
「たかが武器の一つや二つの為に名誉を捨てるとは、子供の考える事は理解し難いな。……では、こちらは賊に対して然るべき対処をするとしよう」
周囲に居た兵士たちが、一斉に銃を構えた。
無数の銃口を向けられたマルナは、青ざめて言葉を失う。
「……おいチビ、用は済んだだろ、テメェはそれ持ってとっとと逃げろ」
「そっ、そんな、レオルグさん1人置いて行くなんて出来るわけ……」
「戦士族の喧嘩に人間一人混ざったところで何になるってんだ。くだらねぇ偽善で、本来の目的見失ってんじゃねぇ。――それとも何だ? 散々大袈裟に騒いどいて、テメェにとっての武器っつーのは結局その程度かよ」
「それは……っ」
「……美しいやり取りに水を差すようで悪いが、みすみす逃がすと思うか?」
部隊長の言葉で、兵士達が二人の退路を塞ぐ。
レオルグはそれを一瞥して舌打ち。
「たかがガキ二人に大盤振る舞いだな」
「貴様のことは高く買っているのでな、レオルグ・アレクシード。バレッド・アルマイトに浮かされていただけの愚かな村民と違い、貴様の強さは本物だ。大人しくその娘を引き渡せば、我が部隊に招いてやらんことも無いぞ? 村で細々と暮らしていく事を思えば、破格の待遇だ。悪い話では無いと思うが」
「え、バレッドさん……?」
どうしてここで、バレッドの名が出てくるのか。
この村でかつてあった事を知らないマルナは困惑する。
「願い下げだな」
「そうか……、がっかりだな。教官になる道を選んだバレッド・アルマイトの堅実さを、少しは見習えばどうだ?」
「…………ッ」
わざと煽るようなことを言っているのだと理解していても、レオルグは気が昂ぶるのを抑えられなかった。
今にも暴れだそうとする己の体を、理性で押さえ込む。
「さて、無駄話はここまでにしよう。いくら貴様と言えど、これだけの数を相手にするのは不可能だ。無用な怪我を負いたくなければ大人しく――」
――部隊長の言葉は、最後まで続かなかった。
突然、格納庫内の全ての明かりが消えたからだ。
「なっ……なんだ!?」
混乱に陥る一同の中、一番先に平静を取り戻したのはレオルグだった。
まだ暗闇に順応していない視界の中、退路を塞いでいた兵士を殴り倒すと、マルナを抱えて走り出す。
兵士の悲鳴で何が起こったのかを理解した部隊長は、慌てて叫んだ。
「逃がすな、追え!! ――くそっ、誰だ電気を落としたのは!?」
噛み付くように怒鳴られた兵士達は、電源を操作してみたが、照明には何の変化もない。
「駄目です、恐らくブレーカーを操作されたのだと……」
「なら今すぐ配電室に行って来い!!」
部隊長は怒りを込めてギャラリーの手摺りを叩いた。戦士族の一撃に耐え切れなかった鉄製の手摺りは、鈍い音を立てて折れてしまう。
「……どうやら、ネズミは二匹では無かったらしいな」
*
追ってくる無数の足音を聞きながら、レオルグはマルナを肩に担いで、全速力で通路を駆け抜ける。
わざわざ出口を探さずとも、窓のある場所にさえ出れば、そこから飛び降りられる。軍人は半数以上が他地区から派遣されてきた者だ。村の中に逃げ込めば最後、地の利はレオルグにある。
「どういう訳か知らねぇが、このままズラかんぞ」
「あっ、待って下さいレオルグさん! あの、うちの子がまだ二つ残ってます……! こんな風になると思ってなかったので、全員抱えられてなくて……」
「あぁ!?」
申し訳無さそうに謝るマルナの手には、彼女が扱うには大きすぎるサイズの拳銃が握られていた。盗まれたうちの一つ、彼女がエクレイルと呼ぶものだ。
「……戻れとか言うんじゃねぇだろうな」
「あ、えっと、大丈夫です! ある場所はわかったので、後はわたし一人で……」
分かってはいたが、諦めるという選択肢は無いらしい。
レオルグは曲がり角の多い場所に差し掛かると、兵士たちの視界から自分達が消える僅かな隙を狙って、適当な部屋に身を隠した。兵士たちの足音が扉の向こうを通過して遠ざかっていく。
「追っ手が俺らを探してる間なら、格納庫も少しは手薄になってんだろ。暗闇の中なら尚の事好都合だ、今のうちに迂回して戻んぞ」
「レオルグさん……、あの、本当に有難う御座います」
「別にテメェの為にやってんじゃねぇよ。来る前の話、もう忘れたのか」
「忘れてません、村の人たちの為ですよね?」
「ならいちいち礼なんざ言うんじゃねぇ、テメェと仲良しごっごなんざする気ねぇぞ」
足音が聞こえなくなったと同時に、レオルグはゆっくりと扉を開いた。周囲を確認して、マルナについて来るよう促す。
「あの、聞いちゃいけない話だったらごめんなさい。さっき隊長さんと話してらっしゃった事ですけど……、レオルグさんとバレッドさんって……?」
「……別に、ただ同郷ってだけだ。アイツはこのクソな村をとっとと見捨てて出ていった。それだけだ。確かにアイツの選んだ道は、あの軍人の言う通り堅実で利口なんだろうよ」
マルナは、何でもないことのように言うレオルグの背を、切なげに見つめた。
「レオルグさんは、バレッドさんの事を怨んでいますか?」
「他人の選択に難癖つけるほど関心はねーし、ンな余裕もねぇよ」
「でもさっき隊長さんにその話をされた時、凄く怒ってるように見えました」
「ほっとけ」
「裏切られて怒るのは、多分、それだけ相手を信頼していたからだと思うんです」
マルナは話すうちに、かつて自分を置いて去っていった友人たちの姿を、その時の気持ちを思い出していた。
自分の身を護る為に逃げるしかなかった、それを選んだ友人たちを責めることなど出来はしない。そう頭では納得出来ても、心が感じるものはまた別だ。
「俺が一番腹立ってんのはアイツにじゃねぇよ。何の確証もねぇのに、アイツが語った夢物語が現実になると信じてた、ガキの頃の自分だ」
「…………」
「つーか、今はンな事どうでもいいんだよ。そろそろ気ぃ引き締めろ」
格納子のギャラリーに戻ってきた二人は、柱の影からそこに居る敵の数を確認する。
幸いなことに、ギャラリーに居た部隊長や他の兵士たちは消えているようだが、暗闇に慣れた目は、武器の近くをがっちりと固めている兵士たちの姿を捉えた。
「流石に馬鹿じゃあねぇみてぇだな。両側から襲撃すりゃ、上手くいくかもしれねぇが……」
「……ご、ごめんなさい、わたし、この高さを飛び降りるのはちょっと……」
「だろうな」
最初から期待はしていない、と言いたげに、レオルグは即答した。
暫くの間、それぞれ打開策を練るための沈黙が流れる。先に潜考から脱したのはマルナ。
「あの、わたしが此処で囮になります。レオルグさんはその隙に反対側から飛び降りて、あの人たちを倒す――っていうのは、駄目でしょうか?」
「囮ってお前、相手は銃持ってんだぞ。撃たれて死にてぇのか?」
「銃ならこっちにもありますよ?」
マルナは取り返したばかりの武器を構えてレオルグに見せた。
銃身の長いそれは回転式であるにも関わらず、何故かグリップはマルナの両手でなんとか握れるほど太い。そのせいで、トリガーにはぎりぎり指がかかる程度。
しかも、回転式には必要の無い筈の安全装置までついている。
「使えんのかよそれ」
「勿論です! わたしの子ですから」
自信満々のマルナだが、銃を持っているからといって決して安全とは言えない。
レオルグが危惧しているのは、敵の反撃をマルナが避けきれるかどうかという点だからだ。
「……最初に威嚇で一発撃つだけでいい。後は伏せてろ、余計なことはすんな」
「わかりました、レオルグさんも気をつけて下さいね」
三分経ったら撃つように命じて、レオルグは足音を殺しながら、一人反対側へ回りこむ。
マルナはハンマーを起こして、狙いを兵士達の足元に定めた。仮に当たったとしても、戦士族相手であれば致命傷にはならないだろうが、敵を直接狙わないのはマルナの気持ちの問題だ。
それでも、レオルグが劣勢になった場合は腹を括ろうと、マルナは深呼吸して、静かにその時を待つ。
残り十秒。――五秒、四、三、二、一、
「稲妻っ!」
銃身に仕込まれた電気伝導体製のレールと、特製の弾丸との間に発生した磁場が、通常の拳銃では有り得ないスピードで弾を弾き出す。
飛び出した弾は、電子的な発砲音と共に、兵士達の足元に着弾した。
マルナの握る本体と銃弾から火花が飛び散り、暗闇の中に居る人々を鮮烈に照らす。
「なっ、何だ!?」
慌てて銃を構えて、弾が飛んで来た方を見上げる兵士達。だが、そこにマルナの姿は無い。
マルナはレオルグの言いつけを守って即座に伏せていた――訳ではなく、発砲の衝撃で後ろへひっくり返っていた。
兵士達は闇雲にマルナの居た場所へ発砲するが、そのせいで、背後に迫っていたレオルグの気配には気付かず――
「ぐあっ!?」
正拳突きを後頭部に食らって、ばたばたと倒れていった。
「おいチビ! テメェの武器はどれだ!?」
レオルグの声を聞いて、マルナは急いで立ち上がる。
無事に済んだ事に安堵しながら、自分も下に降りるべく近くの階段へと駆け出して――
「そこまでだ、お嬢さん」
「っ!?」
突如、暗がりから出てきた部隊長に腕を捕まれた。
そのまま羽交い絞めにされ、首元に短剣を突きつけられる。
「せっかく逃げ果せられたものを、のこのこと帰ってくるとはな。武器への執着心、大したものだ」
「……っ!」
電力が復旧し、室内は再び明るさを取り戻した。部隊長に捕まっているマルナの姿が、レオルグの目に映る。
「さぁどうするアレクシード? ガルグラムの村民らしく、娘を見捨てて逃げるか? それとも、正義のヒーローでも気取って、大人しく投降するか? 好きな方を選ぶといい。今ここで逃げたとしても、法が貴様を逃がしはせん」
「…………」
「全く、貴様らの考えることは理解出来んな。我々に楯突いて何になる? 今ここでその武器を奪って逃げたところで、貴様らは裁かれ武器は再びこちらの手に戻ってくるだけだ。物を盗られて黙っては居られないというつまらん意地の為か? 心底下らんな」
「くだらねぇっつー割には、随分愉しそうじゃねぇかよ」
「あくまで貴様らの考えをそう評しているだけで、馬鹿で暇を潰すこと自体は嫌いではないのでな」
「ハッ、テメェも俺らと似たり寄ったりのクズじゃねぇか」
「いつまでも村で管を巻いているだけの無能と一緒にされたくは無いな。――さて、答えを聞こうか? お嬢さんに選ばせてやっても良いが」
部隊長は、黙したままのマルナに目を向けた。マルナはぎゅっと銃を握って、声を張る。
「レオルグさん! わたし、〝足手纏いにはならない〟って言いましたよね!」
何を言っている? と、レオルグと部隊長が思った、その時。
マルナは銃の安全装置――正確には、そう見えていたレバーを指で下ろした。
すると、カシャン、という音を立てて、グリップの底から刀身が現れる。
マルナはそれを、自分の両脇を抱える部隊長の腕に突き立てた。
「ぐぁっ!? 貴様――ッ!?」
力が緩んだ隙に、マルナは拘束から逃れ、素早く銃を構えると、狙いを定めることもせずに発砲した。
至近距離で発射された高速の弾は、激しい火花を放ちながら、部隊長の肩を貫通する。
突然のマルナの反撃に呆気にとられていたレオルグは、ハッとして対峙する二人の足元まで駆け寄った。
「――マルナ! 飛べ!!」
ここからどう逃げるかを考えていたマルナは、その声に反応して、手摺に足をかける。
そして、よろめきながらも迫る部隊長の腕が彼女を捕まえるよりも早く、マルナは跳躍した。
その体を、下で待ち構えていたレオルグが抱きとめる。
「有難う御座います!」
「いいから早く武器取って来い!」
レオルグの腕から下りたマルナは、言われた通り残る二つの武器を探し出して、今度こそ取り返す。
柄の長い斧――ハルバードのヘイムニルと、ガントレットのアシュトロンだ。
「待てッ、逃がすか……!」
「待てっつわれて待つようなお人好しだと思うかよ!」
マルナが武器を抱えたのを確認して、レオルグが再びその身を担ぐ。
手摺りを飛び越えて降りてくる部隊長めがけて、マルナはまたも発砲。部隊長の視界に再び閃光が走った。
「くそっ!」
自分に向けて銃を構えるマルナを目で捉えていた部隊長は、発砲の瞬間その場に伏せた。頭上を弾丸が通過し、背後の壁を穿つ。
攻撃が止んだのを確信して顔を上げたときには、レオルグ達の姿は無かった。
「~~~~ッ!! 溝鼠どもめ――ッ!!」
悔しさに顔を歪ませ床を叩いた部隊長は、懐から無線機を取り出して吠えた。
「――総員に告ぐ!! 五階通路及び一階出入り口は全て封鎖し、第一収容庫を解放して〝アレ〟を出せ!!」




