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生まれつき魔族と戦士族  作者: 稲木 なゆた
第二章①:ガルグラム編
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14-② 五人寄れば文殊の知恵

 昼。ミーナが納得するまで延々下段の話をしていたリアは、げっそりした顔で食堂へとやって来た。それを見たラクアがぎょっとする。


「何でそんなにやつれてるんだ?」


「ミーナちゃんがね……、――いや、やっぱりいいや、もう説明はしたくない……」


 事情を知らないラクアは、一緒に食事をとっていたナイゼルと揃って首を傾げた。


「それより、今日はナイゼル君だけ? ロザリーちゃんとかマルナちゃんは?」


「ロザリア君は実地訓練の詳細の説明を聞いてくれていてね、席の確保に僕達だけ先に来たんだ。マルナ君はまだ見ていないけれど……」


「マルナさんは今日はお休みじゃないかな。――ここお邪魔してもいい?」


 きっぱりと答えたのはオリバーだった。返事の代わりに、ナイゼルが隣の椅子を引いて迎える。


「お休みって、どこか具合でも悪いの?」


「あれ、昨夜の話知らないの? もう結構噂になってるけど」


「昨夜の話って?」


「マルナさんの店で窃盗事件があったんだよ。正確には、マルナさんのお祖父さんの店だけど」


「窃盗事件!? なにそれ、どういうこと!?」


「どういうことも何もそのままの意味……、あ、来たみたいだね」


 オリバーの視線を辿ったリアは、その先で幾人かの生徒に囲まれて食堂に入ってくるマルナを見つけた。

 リアは席を立って慌ててその輪に駆け寄る。


「マルナちゃん大丈夫!?」


「あ……、リアさん……」


 周囲に居た白組の女子生徒たちは、突然入ってきたリアに吃驚していたが、リアはそちらに気を回していられなかった。

マルナは明らかに憔悴しており、真っ赤に腫れた両目が弱々しげにリアを見つめている。


「ヘイムニルとアシュトロンとエクレイルが……」


「え、誰?」


「うちの子たちです……、ショーウインドーに飾ってあった……」


「ああ! マルナちゃんのとこの武器ね! その子たちが盗まれたの?」


「そうなんです……、深夜だったから、わたしもおじいちゃんも部屋で眠ってて……、すごい音がしたから見に行ったら……、ガラスが割れてて……それで……」


 マルナは口を結んで、両手でスカートを握り締めた。

 肩を震わせて今にも泣き出しそうな彼女を、リアが抱きしめる。


「大丈夫だよマルナちゃん、あたしが絶対見つけ出してあげるから!」


「お前はそうやって適当なことを言うなよ」


 後ろからラクアに頭を小突かれて、リアがキッとした目で振り返った。


「だってこのままじゃ可哀想だよ!」


「だからって、今その盗まれた武器が何処にあるのかなんて分からないだろ?」


「そ、それはそうだけど……」


 冷静に諭されて、リアは閉口した。ラクアはマルナへと向いて、


「マルナちゃん、今わかってることって何かあるか?」


「えと……、一応、店に防犯カメラがあるんです。それに盗んでいった人も映ってて……」


「防犯カメラって?」


「こういう事件があった時のために、映像を録画して記録しておく装置なんです。携帯と同じで、ほとんど出回ってないんですけど……」


「ってことは、それ見たら犯人が誰なのかもわかるってこと?」


「そう思ってわたしも今朝見てみたんですけど、頭からローブを被ってて、顔は見えなかったんです……」


「じゃあ、誰か盗んでいきそうな人に心当たりとかは……」


 白組生徒たちが呆気に取られている中、食堂の入り口で討論を繰り広げる三人に、


「とりあえず、詳しい話はこっちでしたらどうだい?」


 見かねたナイゼルが席から声をかけた。





 話し合いの末、放課後にその記録された映像を見せてもらうことになったリアとラクアとナイゼル、そしてあの後にやって来たロザリアは、マルナに先導され中央通りを歩いていた。

 店の近くまで来ると、ショーウインドーのあった場所にベニヤ板が貼り付けられているのが見える。


「痛々しいな……、店の中には入っていいのか?」


「はい、現場検証はもう終わってるはずですから」


 とはいえ、流石に事件直後に店を営業しているということは無いようで、案内されて入った店の中は静まり返っていた。

 ベニヤ板の裏側の割れたショーウインドーを見て、リア達が顔をしかめる。


「悪質なことをする輩が居るものですわね……」


「マルナ君に怪我がなかったのは幸いだけれどね。盗まれたのはここに飾っていたものだけなのかい?」


「はい、他の子は皆揃ってます。カメラの映像は二階で見れ――」


 その先の言葉は、バァン!! という音にかき消された。


 なんだか前にもこんな事があったような気がする。リアとマルナはそう思いながら入り口の方へと顔を向けた。

 そこに居たのは、かつてと同じ男。


「れ、レオルグさん……?」


 どうして、と言いたげなマルナを、レオルグは睨みながら、


「映像見せろ」


 簡潔に要求を述べた。


「え、映像って……?」


「昨日ここに入った盗人、撮ってたんだろうがよ」


「どうしてそれ知って……」


「いいから見せろっつってんだ!!」


「ひっ!」


 凄まれて萎縮したマルナは、やはりかつてと同じようにリアの腰に抱きつく。

 舌打ちを漏らすレオルグに、リアは怒りを通り越して呆れていた。


「レオルグさ、もうちょっと穏やかに会話できないの?」


「うるせぇよ。つーか何でてめぇがここに居んだよ」


「いやそれこっちの台詞だし……」


 レオルグは周囲に居る面々を見渡して、鼻で笑う。


「探偵ゴッコか?」


「へぇ、僕らをそうやって揶揄するってことは、君はまた別の事情で例の記録が見たい様だね? ――証拠の隠滅にでも来たのかな?」


「あぁ?」


「あっ、あのっ! 映像見てもらうことに関しては何の問題もないですから! 皆で見ませんか……?」


 また店内で諍いを起こしそうなナイゼルとレオルグに、マルナは慌ててそう提案した。


「それがいい。ほら行くぞリア」


「えっ? わっ、ちょっとラクア! わかったから!」


 リアはラクアに引き摺られるようにして二階へ上がっていく。

 残された他の面々も、渋々ながらそれに従った。

 

 マルナの案内で通された部屋は、電子機器が所狭しと並んでいた。

 それらに皆が目を奪われている間に、マルナはキーボードと一体になった、ブラウン管のパソコンに手をつける。


「えーっと、確かここをこうして……」


「それ何?」


「パーソナルコンピュータっていうものらしいです。こういうものの扱いはおじいちゃんの専門分野なので、わたしは簡単な操作しか出来ないんですけど……」


 マルナがパソコンと格闘すること数分。小さなモニターに、白黒の映像が映し出された。

 皆がパソコンの前に集まって、それを見る。


 テレビというものを知らないリア達は、その内容よりも映像記録の方に食いついて騒ぎ立てた。


「すっごい! なにこれ! どうなってるの!?」


「写真が動いてますわ!」


「過去の光景を再現できるなんて、まるで魔法のようだね……」


「機械ってこんなことまで出来るんだな……」


「……あの、すみません、映ってる人に関して何か感想はありませんか?」


 映像が終わったところでマルナが控え目に言って、リア達は、


「あ、ごめん、全然気にしてなかったや」


 揃ってそんな返事をしたので、マルナは映像を巻き戻して再生する。

 今度は皆真面目に人物のほうに注目したのだが、映っている複数名の犯人は、誰も彼もが目深にマントを被っていて、顔どころか性別すら判断し難かった。


「うーん、これじゃあ何とも……」


「手に持っているのはただのバールですわね。せめて特定の武器を持っていれば、種族ぐらいは判別できたかもしれませんけれど……」


「けれど、ショーウインドーは強化ガラス製だろう? それを叩き割っているところを見るに、戦士族ベラトールか人間の仕業じゃあないかな? 魔族マグスにそんな腕力はないよ」


「でも叩き割ったところは映ってないだろ? バールで割ったかどうかはわからないし、魔術を使ったのなら魔族マグスの可能性もあるんじゃないか?」


 いくつも可能性は上がれど、犯人を特定する決定的な発言は誰の口からも出なかった。

 やはりこの程度の情報では何の手がかりにもならないかと溜息を吐いたマルナは、皆の討論には加わらずにじっと画面を凝視しているレオルグに気付いた。


「レオルグさんも、お目当てのものは見れましたか?」


「…………」


「あ、あの……?」


「もっかい最初から見せろ」


「えっ? あ、はい……」


 マルナは言われた通り、最後まで流しきった映像を三度巻き戻して再生する。

 ガラスが飛散して、謎の集団が店内に入り込んできて、武器を袋に詰めて、マントを翻して立ち去る――


「そこで止めろ」


「へ?」


「今んとこだ、止めろ。出来ねぇのか?」


「で、出来ますけど……」


 訳がわからないまま、マルナはスクロールバーを少しだけ左にズラして、ボタンを押して映像を固定する。

 マルナには特別目に留めるようなシーンでもないように思えたのだが、レオルグは元々寄っていた眉間の皺を一段と深くした。


 そして、何も言わぬままその場を離れ、部屋を出て行く。


「あれ、レオルグもう帰るの? 何かわかったの?」


「マルナ君、何か聞いたかい?」


「い、いえ、何も……、今見てらっしゃったのは、ここなんですけど……」


 マルナがモニターを指して、皆の視線がそこに集まる。

 そこには他の場面と何ら変わらない、マント姿の犯人の姿が映っているだけだったが、ラクアは気付いた。

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