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生まれつき魔族と戦士族  作者: 稲木 なゆた
第二章①:ガルグラム編
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Reminiscence:レオルグ

 俺が居た場所は、この上ないくらいに荒んだ村だった。


 最初の領主が無能だったからか、治安を維持すべき軍が仕事をサボったからか、国の偉い奴らが、何らかの思惑でこうなるよう仕向けたのか。

 その村が荒廃した原因がどこにあるのかは知らないし、過去の真相を追求したところで何が変わる訳でもないので興味も無いが、とにかく酷い村だった。


 住んでる連中はろくでもない奴ばかりで、他所に住んでる奴らから見れば、そこは掃き溜めのようにしか見えなかっただろう。

 だがその村は、そんな風にでもならなければ生きていけないような世界だった。他者を思いやり自分を犠牲にするような聖人は、そうでない奴らに嗤われながら、真っ先に死んでいった。それを哀れんだり、救おうとした奴はその次に死んだ。


 他人から服を奪い、食い物を奪い、居場所を奪い、命を奪い、そうして生きていく。

 恥や外聞なんざ持っているだけ無駄だった。冷酷だの自己中心的だのと言われようが知ったこっちゃない、そう揶揄する奴らは誰も救いの手を差し伸べてはくれないからだ。


 その村では誰もが、自分一人を生かすのに精一杯だった。

 考えられるのはせいぜい今日明日のことまで。夢や希望なんてものは持とうという発想すらなかった。


 そんな生活の中で、俺はある男に出会った。


「お前ら、いつまでもこんな場所で、地べた這い蹲って生きていくつもりかよ? 俺はゴメンだね。ただ此処に生まれたからって、何でこんな生活に甘んじなきゃいけねーんだ? おかしいと思わねーのか? ちょっと隣見りゃ、食う寝るに困らねぇ生活してる奴らがゴロゴロ居んのによ」


 男の口から発せられた言葉には、絶望や悲哀や諦めではなく、煮え滾るような怒りが込められていた。

 

 境遇に不満のある奴は村にごまんと居ただろう。だが、それを口にしたところで何も変わらないことを知っている手前、わざわざ口に出して苛立ちを募らせるようなバカは居なかった。その男以外には。


「高みの見物して嗤ってる奴ら、口先ばっかで何もしようとしねぇ奴ら、自分には関係ねーからって見てみぬフリしてる奴ら、この地獄に居るべきはそういう連中の筈だ。――俺がこの不当な世界を変えてやる」


 絵空事だと、その話を聞いていた誰もが思っただろう。俺もそうだった。

 それでもその場を立ち去ることが出来なかったのは、心のどこかで願っていたからだろうか。男が語る、その奇跡が起こることを。


 男は若かったが、大した実力の持ち主だった。力が物を言わせるこの世界において、その存在は住民達を惹きつけるに足るものだった。男の言動は皆がとっくに捨て去っていたはずの怒りの感情に火を灯していき、その火はあっという間に村を呑み込んでいった。


 怒りと言えば聞こえが悪いかもしれないが、それは現状を打破しようとする熱意となり、停滞していた村が前に進むための原動力となった。当時の村は、かつてないほど活気付いていた。

 少なくとも俺にとっては、その頃が一番、充実した日々だったと思う。


 やがて男は、国内にある有名な学院へと入学することになった。そこでは此処よりも随分と裕福な生活が出来るらしく、


「タダで贅沢させて貰えんなら行かねー手はねぇだろ! 村を良くするにしても、良い状態がどんなもんか知らねーと、やりようがねぇしな!」


 と言う男に便乗して、入学資格のある住民の何人かがそれに着いていった。


 卒業は六年後。俺が戻ってきたその時が、この村の革命の時だ――、男が残していったその言葉を信じて、俺達は待った。武器を仕入れ、己の腕を磨き、革命が起こった後どんな風に暮らすかなど嬉々として話し合いながら。

 そこには誰一人、輝かしい未来が訪れることを疑うものなど居なかった。



 だが、熱に浮かされた俺達は忘れていた。

 この世界はいつだって、他人を信じて待つような、純粋な者こそ裏切るものなのだと。



 六年が経っても、夢に見た革命は起こらなかった。卒業して村に戻ってきた者は、終に一人も居なかった。


 住民たちは怒り狂って、村はかつて男が現れた時とは別の熱狂の渦に巻き込まれていった。

 やがて俺達の耳に、どこからともなくこんな噂が流れこんでくる。


 ――あの男は、学院で教師になるらしい。


 それを聞いた瞬間、夢から醒めるような感覚に襲われた。それと同時に、己の愚かさに笑いが零れた。


 どうして信じられていたんだろう? なんの確証もないただの口約束を、どうして疑わなかったのだろう。


 これまでの自分があまりにも滑稽に思えて、俺はひたすら笑った。不思議とその時は、怒りや絶望なんてものはなく、ただ可笑しくて仕方がなかった。


 騙されていたのか、それとも学院での生活に絆されて野心を失ったのか。

 そりゃあこんな何の価値もない村や住民の為に、せっかく得た楽な生活を捨てることを選ぶような聖人は居ないだろう。そう特に、この村で生きてきた者ならば。


 散々怒りに怒って、力尽きた村は掃き溜めへと戻っていった。

 そもそも他者に己の人生を託すことが間違いだったのだと、誰もが身をもって思い知らされた。いつか男が与えてくれた熱意は、人々の心から消え去った。


 ただ俺だけは、その感情をいつまでも手放すことが出来なかった。

 僅かとはいえ、活気に満ち溢れた村を見てしまった俺は、現状がどれほど退屈で異常なものかを知ってしまったからだ。

 

 もう、知らなかった頃には戻れなかった。


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