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3-③ 彼の心の闇

「いやーまいったまいった、あいつの武器に対する熱の入りようは相変わらずコエーな」


 マルナの長いお説教の後、四人は寮を目指して歩いていた。

 陽は傾き、橙色に輝く夕日の光を受けた白い通りは、その色に染められている。


「すごい、さっきまでは青かったのに、今度はオレンジ色になってる……、太陽も赤くなってるし、なんで?」


「なんでって、夕方になりゃーそうなるだろ」


「実際には、時間の経過とともに太陽の位置が傾き、それによって照射している光に含まれる青の色素の分散率がより高くなるからで……」


「あーもう、いちいちそういう小難しい説明はいいっつの!」


「生徒の質問にはちゃんと答えてやるのが教師の務めだろう」


「授業中だけでいーんだよ、眠くなってくるからやめろ。――つーかお前ら、夕日も見たことなかったのかよ?」


「二段目だと、だいたいいつも雲ってましたから。明るい暗いの差はありましたけど」


 他愛も無い会話をしているうちに、学院の正門が見えてくる。

 夕日をバックにした白い校舎は、今は逆光で黒いシルエットとして浮かび上がっていた。


 バレッドは抱えているラクアの分の教材を部屋まで運ばなければならないので、そのまま魔族マグス寮へと向かう。


「嬢ちゃんは先帰ってろよ」


「…………」


「おーい? 聞いてるか?」


「……あのう、あたしも、そっちの寮見てみたいなぁーって……」


 わざわざ寮を分けているのだから、戦士族ベラトール魔族マグスの寮に入るのはおそらく禁止されているのだろうとなんとなく察していたリアが、それでも好奇心を抑えられずにおずおずと発言した。


「んー、一応、戦士族ベラトールは立ち入り禁止なんだけどな」


「うぅ、やっぱりダメですよね……」


「ま、それを言えば俺も戦士族ベラトールだし、今は休暇中で魔族マグス生徒はほとんどいねーし、いいんじゃねーの?」


「えっ? いいんですか!?」


 お許しが出て、やったー!と喜んで寮に駆けて行くリアを、ラクアが追いかける。

 そして二人揃ってユリアナに捕縛されて、あらん限りの出迎えを受けた。


 その様子を、バレッドとウォレアが苦笑交じりで遠巻きに見守る。


「あなたがもう一人の子ね! 寮が違うから、ご挨拶は出来ないかと思っていたけれど、こうして会えて嬉しいわ~!」


「あたしも嬉しいです! えーっとお名前は……」


「ユリアナよ、あなたはリアちゃんだったかしら?」


「あれ、知ってるんですか?」


「もちろん! 可愛い生徒のことですもの、名前くらい把握しておかなくっちゃ」


 きゃいきゃいと騒ぐ二人を放置して、バレッドは「さっさと荷物運んで帰るぞー」と、ラクアを引き連れて寮の奥へと消える。


 魔族マグス寮内も戦士族ベラトールのそれと造りはほぼ同じで、違いといえば廊下に伸びる絨毯や、部屋にある家具の色くらいだ。戦士族ベラトール寮にあった赤色の代わりの青色が、いたるところで目に付く。どうやら、この二色がそれぞれの種族のシンボルカラーらしい。

 ラクアの部屋もリアの部屋と同じく三人部屋。全ての部屋がそうなっているわけではなく、二人部屋や一人部屋もある。それによって部屋の大きさも変わるので、ラクアとリアの部屋は他二つと比べるとかなり広い方だ。


 バレッドが机に買ってきた教材を置いて、ラクアはそれを備え付けの大きな本棚にしまっていく。


「さてと、そんじゃ後は自分らで上手くやれよー」


「上手くって、具体的にどうすればいいんですか?」


「式の当日になったら、制服着て書類持って、あとは他の生徒についていきゃ分かる。寮でわかんねーことはユリアナさんに聞け」


「わかりました、有難うございます」


 作業の手は止めず、顔だけ向けて素直に礼を述べたラクアに、バレッドは口をへの字に曲げた。


「? どうかしました?」


「いちいち礼は言わなくていい」


「えぇ? でも、やって貰ったことに対して礼くらいは言わないと」


「お前に言われると色々と複雑なんだよ、こっちは」


 バレッドの胸中を推し量ろうと、ラクアは暫し考える。

 思い当たることは一つしかなかった。


「もしかして、一段目に連れてきたことですか? それは俺にとっても有難いって、前にも言ったじゃないですか。バレッドさんが気に病むことないですよ」


「……その事じゃねぇよ」


「じゃあ何なんですか」


 バレッドはしかめっ面で他所を向くだけで答えようとしない。

 ラクアは仕方なく詮索するのをやめて、片付けに専念しようとしたが、


「――そういや、お前の本当の両親はどうしてんだ?」


 バレッドのその問いかけに動きを止めた。


「……なんですか急に」


「いや、ちょっと気になってな。お前の親も嬢ちゃんと同じで片側だけが魔族マグスなのか? それとも両方か? もし下段にまだ居るんなら……」


「知りませんよそんな事」


 ラクアは教材を乱暴に棚に押し込んで、バレッドの言葉を遮った。

 その動作から、ラクアの苛立ちを感じ取ったバレッドは、大人しく引き下がる。


「一応こっちとしては大事な事なんだが、デリカシーの無い質問して悪かったな」


 そう言い残してバレッドが部屋を出て行くと、ラクアは盛大な溜息を吐いて項垂れた。


「何処で何してるかなんて、俺が知りたい……」


 両親が自分を捨てた理由も、その後どうしているのかも、ラクアは何一つ知らない。

 これまで、サテライト夫婦はその事を話題に上げることはなかった。引き取られた当初のラクアはしつこく尋ねていたが、今は相手と連絡もつかない状態らしく、大した話は聞けていない。だが、ある意味ではそれが答えなのだろう。


 ラクアの両親は、ラクアを捨てた上に、その後何の連絡も寄越してこない。

 それはつまり、ラクアが今どうしているのかなど、全く気にも留めていないという事ではないだろうか。


「実は借金取りに追われてて、それどころじゃないとか……、連絡が無いのは、俺達を巻き込まない為の配慮だったり……」


 そんな僅かな希望を捨てきれない己がなんとも惨めで、ラクアは再び盛大な溜息を吐いた。



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