表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

祈る手

 私たちは自由だった。

 私の人生の中で、そして彼女の人生の中でも、あれほど自由な時間はもう、永遠に来ないであろう。

 新しい街。友達もいない。家と職場の往復。

 私たちはまるで、逃亡者のようだった。何から逃げているのかはわからない。たった二十二歳とたった二歳のギャングだった。

 仕事以外の時間は、本当に自由だった。

 好きな時間に眠り、好きな時間に起きた。好きな物を食べ、好きな物を飲んだ。たまに洗濯や掃除をする。買い物もする。時々外食をして、時々出前もとった。ほとんどの時間を二人きりで過ごした。

 恐い思いもした。

 タクシーから降ろしてもらえなかったり、ちょっと強引な押し売りが来たり、後をつけられたりした事もあった。

 でも私は勇敢だった。

 どんなことにも屈することはなかった。声も手も、心までも震えていた。それでも私は、私たちは勇敢だった。

 私たちは、アパートの部屋という小さな世界でたった二人、よく笑い、よくしゃべり、よく泣いた。彼女の世界の中心には私がいて、私の世界の真ん中に彼女がいた。

 しかし、そんな幸せは、そう長くは続かない。

 やがて私にも友達ができ、彼女にも新しい世界が開ける時がやってきた。

 私たちは時間に支配されるようになっていった。一緒に過ごす時間は減り続ける。彼女の話には、私の知らない名前が飛び交う。私の知らない涙、知らない悩み、知らないときめき。世界の中心は確実にずれていく。

 親が子を殺す、酷い話を聞いては胸を痛める。

 小さかったその手が、どんどん私の手の大きさに近づくように、彼女の欲しがるモノが、どんどん現実的になって行く。

 一向によくなりそうのない世の中に、取り残されたようなあの頃の勇敢で優しい気持ちが、どんどん不安を募らせる。私の欲しがるモノがどんどん抽象的になっていく。

 私たちは自由だった。

 それは儚いもので、そしていつかは壊れゆくもの。

 もしも壊れない自由を、この手に入れたなら、私たちは次に何を欲しがるのだろう。

 私は祈り続ける。

 せめて彼女を導く手が、優しいものでありますように。かつて私がいつも繋いでいた手を、温め続けてくれますように。

 私たちは自由だった……

ほのぼのした雰囲気でまとめたかったのですが、上手く伝わったでしょうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ