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雨の滴と恋の雫とエトセトラ  作者: CoconaKid
第一章 雨が降ったから
9/50

 噂をすれば何とやら──。

 なんとそこには池谷君がいた。

 制服姿の女子高生が固まっているだけで目立つ狭い空間は、すでに身を隠す事ができない。

 無駄な抵抗とわかっていても、本能的に見つからないようにと体が縮こまる。

 そんな努力も甲斐なく、その時千佳が声を出した。

「アキ! あんたも来たの?」

「なんだ千佳もかの子もきてたのか」

「なんだとはないでしょ。明彦」

 かの子もどうやら知っている様子。

 そこに池谷君が私を見てしまい、嫌味っぽく笑顔を見せた。

「おっ、倉持じゃないか」

「なんで、池谷君がここにいるのよ」

「あれ、瑛太の知り合いが、千佳の友達なんだ。へぇ、すごい偶然」

 千佳にアキと呼ばれた男の子は私達の近くに寄ってきた。 

「おっ、アキちゃん、いらっしゃい。今日は姉弟で友達連れて来てくれるなんて嬉しいね」

 ヒロヤさんが姉弟といったとき、私とみのりは顔を合わせた。

「ヒロヤさん、こんにちは。これ、俺のダチの池谷瑛太」

 池谷君は頭を下げて挨拶をしている間に「千佳と明彦って双子の姉弟なんだよ」と、かの子がさらりと説明してくれた。

 そういわれて二人を見比べれば、全く同じとは言えなかったが普通の兄弟よりはかなり似たような顔をしていた。

 だけど男っぽい粗野な千佳に対して、明彦の方は中性的な繊細さを持ち合わせていた。

 二人は姉弟であっても、性別が逆転しているように思えた。

 一人っ子の私には、兄弟がいるというだけでもよく分かってないのに、性別の違う双子で顔が似ているというのは不思議に思えた。

 私が千佳と明彦を観察している時、みのりは池谷君を見ていた。

「ねぇねぇ、もしかしてあの人が例の昨日現れた第三者?」

 みのりが小声で問いかけると、私はこっくりと頷いた。

 しかし、どうしてこうなるのか。

 千佳の双子の弟、明彦は池谷君と同じ高校に通っていた。

 私が千佳と偶然友達になったように、明彦も池谷君と友達になっていた。

 そして偶然が偶然を呼び、千佳と明彦を媒介してこの喫茶店に来てしまった。

 これはなるようにしかならないという、避けられないことなのだろうか。

 どんどん接点が広がって嫌になってくる。

「アキはあっち行ってな。ここは女子会なんだから」

「千佳が女子会って言う顔かよ。男っぽいくせに」

「あんた殴られたいの」

「はいはい、すみませんでした。瑛太、あっちいこう」

 池谷君は私をチラリとみて、そして明彦に引っ張られるままに離れた席についた。

 ヒロヤさんはにこやかな笑顔で二人の接客をして、話が弾みだしていた。

 私は池谷君が側にいるだけで、気分が悪くなってくる。

 落ち着くために、カップを手にとってとっくに冷めてしまったお茶をすすって一息ついた。

「弟がいるって聞いてたけど、双子だったなんて知らなかった」

 雰囲気を少しでも変えようと、私は千佳の話題を持ちかけた。

「双子でも先に生まれたのが私だったから、一応分刻みでも後から生まれたのが弟だからね」

「でもさ、千佳は男っぽいのに、弟君の方は少し優男というのか、かわいらしいよね」

 みのりが遠慮がちに小声で言った。

 髪も千佳よりも長めだったし、本当は女の子みたいといいたかったと思う。

 それは私も感じたことだった。

 でも千佳が髪を伸ばせば、同じようになっていたと思う。

 千佳がボーイッシュすぎたから、明彦が余計に女性っぽく見えるだけなのかもしれない。

「それさ、中学でもよく言われてたね、千佳」

 かの子は二人と同じ中学だけにこの双子の姉弟の事は良く知ってそうだった。

「まあね。弟は確かに私よりは女らしいところがあってさ、悔しいけどあいつの方が器用なんだよ。料理や裁縫なんか得意で、ほんと宿る体を間違えたかもしれない」

「うんうん、千佳はその点スポーツとか喧嘩が得意だもんね」

「ちょっとかの子、喧嘩って何よ」

「ごめんごめん、まあ昔は千佳ちょっとぐれてたからつい」

「えー、千佳ってぐれてたの?」

 私とみのりがびっくりすると、千佳は隠すこともなく余裕の笑みを浮かべて肯定した。

 でも詳しいことは何も話したがらずに、その後はかの子が続けた。

「ぐれてたっていっても中学一年の時だけだったから、その後はなぜか真面目になって一生懸命勉強し出して、見る見るうちに変わっていった感じだった。私が仲良くなったのも、変わった後だったから、私も千佳がぐれてたときの事は噂でしかしらない」

「何かしら、皆色々と事情があるもんさ」

 またこの時も千佳はヒロヤさんを目で追った。

 千佳が変わった理由がヒロヤさんの存在ではないだろうかと、ふと私は推測した。

「ちょっと、それよりも、なんか真由の話ができなくなったね」

 かの子が離れたテーブルに座る池谷君を一瞥する。

「でも、事情は全て聞いた後だったし、そこでご尊顔も拝めたし、これで一層詳しく理解できた気がする」

 みのりが囁くように言うと、私を除く三人は露骨にも池谷君の方向に首を向けた。

「まあ、家に帰ったら私もアキからどういう人か聞いておくよ。繋がったお陰で、情報が入手できるからよかったんじゃないの」

 千佳の双子の弟から情報が入ってくると言われても、私にとったら係わりたくないだけに、繋がったことがいいことだとは思えなかった。

 その時、池谷君の笑い声が聞こえてくる。

 逃げられないんだぞとこっちの気持ちを読まれているみたいで、悪夢に思えた。

 なんでこうなるのか、ヤケクソでグラスの水を一気に飲み干してしまった。

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