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雨の滴と恋の雫とエトセトラ  作者: CoconaKid
第五章 いい雨の日
42/50

 ディスプレイに出てきた電話番号。

 知らない番号だったが、心当たりがあるだけに恐々と電話に出た。

「もしもし」

 緊張しすぎて声が裏返りそうになってしまう。

「もしもし、阿部と申しますが、倉持さん?」

 阿部君もどこかおどおどとした調子で様子を探るようだった。

「はい、そうです。阿部君、わざわざ電話ありがとう。急にお母さんを頼って連絡してごめんなさい」

「別にいいけど……」

 戸惑った声だったので、もしかしたら迷惑なのかもしれないと思うとそわそわしてしまう。

「全くいきなりだもんね。私の事も覚えてないだろうし、本当にごめんなさい」

「いや、倉持さんのことは覚えてるけど、話すのはあまりにも久し振りだし、僕もなんだか緊張しちゃってさ。とにかく聞きたい事って何かな」

「その池谷瑛太のことなんだけど」

「ああ、瑛太か。瑛太がどうかしたの?」

 阿部君は母親とは違って、電話越しでは少し冷く感じられた。

 突然に、連絡をしたことで、やはりどこかで気に入らない感情があるのかもしれないと思うと落ち着かない。

 阿部君の態度に飲まれてしまって私は話し辛かった。

「すごくしょうもないことで申し訳ないんだけど、過去のあることでどうしても真相を知りたいことがあるの。それで、その当時同じクラスだった阿部君の事を思い出して、何か聞けないかなって思ったの」

「それで、その聞きたい事って瑛太に関係ある訳?」

「ええっと、関係あるんだけど小学一年の時、瑛太とすごく仲がよかった人は誰か分かる?」

「そんなの僕に決まってるじゃないか。瑛太とは親友だと今でも思ってるよ。中学で学校が違うから離れてしまったけど、時々は連絡取り合ってはいるよ」

「えっ、阿部君が一番仲がいい? じゃあそれって……」

 私の頬にキスをした人はもしかして阿部君なの?

 瑛太と過去のキス事件の話をしていたとき、犯人は瑛太の親友だといった事が思い出された。

「ん? どうしたの?」

「あっ、その」

「何か電話では言い難い話じゃないのかな。僕も大体何を聞きたいのか分かってきたよ。雨の日のことだろ」

「えっ!」

「あのさ、僕、一度倉持さんと会いたいんだ。だから会って話さないかい?」

「あっ、はい」

 勢いで返事してしまった。

「よかった。倉持さんと会えるなんて光栄だな。小学生以来だもんね」

 急に阿部君の声が明るくなった。

 それから、スケジュールを調整するからと、普段勉強で忙しい事をアピールされて、そして会う日にちは後日メールで伝えるからと言ってそして電話は切れた。

 終わった後ではあっけなかったが、私は自分の記憶を明確にする鍵になる人を探り当てたのではないだろうか。

 阿部君に会えば、充分自分が聞きたい事が聞けるような気がしてくる。

 しかもこの話の流れでは阿部君があの時の犯人の可能性が高くなってきた。

 瑛太はあの時、キスをしたのは同じクラスで、そして瑛太の親友で、未だに連絡を取り合ってる人だと言っていた。

 阿部君のことが大いに当てはまってくる。

 そうすると、私の事をまだ好きで恋心を抱いているという話が浮上してきた。

 まさか──。

 色々と頭の中でぐるぐるとしてくるが、会って話を聞くまでは確かなことではない。

 会う日がいつになるのか。

 それを待っていた数日後、阿部君からメールが入った。

 大型連休の前の金曜日の夕方、地元の神社で六時に待っているということだった。

 あまり人気のないひっそりとした神社で待ち合わせなくてもと思ったが、お互い地元なのでそこが一番無難だったのだろう。

 阿部君にわざわざ来てもらうから、待ち合わせ場所に文句は言えなかった。

 その時、阿部君の口から何が飛び出すのか、私は何を聞いても驚かないと覚悟を決めた。

 その約束の日が近づいてくる。

 やっとこれですっきりできるような気持ちになって、一つ問題が片付く気分でいた。


「ねぇ、ゴールデンウィークの四連休は皆何するの?」

 みのりが言い出した。

 今年の連休は土日月火と四連休もあった。

 お金があれば旅行なり、色んなところに遊びに行きたいと思うが、高校生ではやれることはたかが知れてる。

 私はその連休が始まる前日の金曜日の夕方に、過去の記憶と対峙する予定があり、それが終わらないことには四連休をどうしたいとか考える余裕がなかった。

 皆それぞれ、特に予定はないといっているが、皆で何かをしたいと計画することもなかった。

「真由は山之内君とデートでもするんでしょ」

 かの子がまたわざとらしい笑みを浮かべて言ってくれる。

「そんな予定もないし、今はそれどころじゃないんだ」

「ちょっとどうしたのよ、真由。何かあったの?」

 千佳が心配して聞いてくれた。

 別に隠すほどのことでもなかったので、少し小声になりながら、三人に阿部君に会う事を伝えた。

「へぇ、そんなことになってたのか。あの池谷君は嘘ついてたのか。でもなんでそんな嘘ついたんだろうね。その後は親友のために人肌脱ごうとしても、最初は成りすましってなんか矛盾してない?」

 かの子は不思議がっていた。

「だから池谷君は真由の事が好きだから、魔が差して親友の代わりになれるかもって思ったんじゃないの?」

 みのりは一般論的な意見だった。

「でもさ、池谷君をみていると、真由とは確かに相性はよさそうなんだけど、どうもなんか違うんだよね。なんでもいい合える割には、どこかで意地を張り合って競争して、でも結局は本音でぶつかり合う後腐れのない関係っていうのかな。お互いすごく似ている」

「やだ、千佳、やめてよ。私と瑛太が似てるってそれひどい」

 まさかそんな事を言われるとは思ってなかったので、少し憤慨してしまった。

「ごめんごめん、真由。だけど、池谷君ってさ……」

 そこまで千佳が言った時、休み時間終了のベルがなった。

 そのベルに邪魔されて、千佳はその先を言うのをやめた。

「ちょっとどうしたのよ、千佳。瑛太がどうしたの」

「なんでもないんだ。結局は私が言うことじゃないないなって、なんかお節介に、気になってね。ごめんごめん」

「そこまで言いいかけたんだから、教えてよ」

 白黒はっきりさせたい私には、中途半端にされるのすごく嫌だった。

 しかし、強く千佳に言うのは憚れる。

 こういうとき、かの子がはっきりと言ってくれた。

「千佳は、時々何かを感じて鋭いんだけど、常に干渉しないスタンスだから、話してる内に飽きてしまって、どうでもいいって投げちゃう事がよくあるんだよね。冷めてるというのか」

「かの子は熱くなりすぎて余計な事まで言い過ぎるじゃないか」

 千佳も精一杯言い返しているが、そういう千佳とかの子は正反対なところがいいバランスを保ってるとはいえる。

「でもさ、過去の事がはっきりしたら、池谷君はもう真由の邪魔をしなくなるのかな。私はそんな気がしないな。池谷君が真由の邪魔をするのは、真由が池谷君の気に入らない事をしてるからでしょ」

 みのりが考えながら口にする。

「だから、池谷君は真由に振られて腹いせをしてるってことだろ」

 かの子がずばりいった。

「思うようにならないと悪意をむき出しにする人もいるけどさ、好きな女の子に振られて、とことん意地悪してやろうってすごいエネルギーがいると思うんだ。 だって振られたら、個人差はあるけど最初は落ち込んで暗く辛い日々を過ごすと思うんだ。それなのに池谷君はすぐに邪魔すると敵意を見せる心理が、私には ちょっとわからないな」

 みのりの意見ももっともだった。

 何かしら例外はあるかもしれないが、振られたら落ち込むのがまず普通な感覚だと思う。

 それなのに瑛太は、最初に怒りの方が来て、その後は明るく楽しそうに邪魔をしにきている。

 みのりに言われて初めて気がついた。

 そして千佳はその時、難しそうな顔になって宙をみつめていた。

 千佳は確実に私の気がつけなかった何かを感じ取ってるようだった。

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