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雨の滴と恋の雫とエトセトラ  作者: CoconaKid
第五章 いい雨の日
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 四月も下旬に近づいて巷では大型連休の話が出てきたり、五月を迎えるときになると気温も徐々に上がって、若葉の緑が何かと目に付く季節へと変わっていた。

 拓登とは色んな事を知ったお陰ですっかり慣れ、周りの目も気にしないほど、私も拓登との関係に自信がもてるようになっていた。

 まだ友達の域から抜けてないけども、特にその先を急ぐほどでもないし、拓登も私もいい関係を続けているという温めあっているものがあったから、充分他の誰よりも親密さは増して行く。

 一組の一部の女の子からはたまに視線を感じる時があるけど、その人たちは拓登に好意を寄せているから、私が気に食わないのが透けて見える。

 そういう人たちに限って、どこかきつそうな部分があるが、でもやはり分別のある人なのか、露骨な行動にまでは出なかった。

 一時の鬱憤を晴らすくらいのノリか、偶然気持ちに抱いた感情が顔にでるだけのことなのか、そんなに気にするものでもなかった。

 気に入らない事があれば、人間顔に出るのは自然の摂理というもの。

 私ですら、瑛太に何か嫌な事をされたら睨むし、はっきりと口に出すくらいだから、こういうのはまだ許せるものだった。

 それとは反対に、全く知らないクラスの女の子から突然、手を振られて挨拶されることもあるから時々びっくりする。

 私が拓登と仲がいいことに、私まで特別扱いするのだろうか。

 この心理の方がよくわからなかった。

 でも、頼もしいかの子と千佳が側にいるので、大概の人たちは怖がって見て見ぬふりをしている。

 この二人と係わったら最後、容赦なくはっきりと言うので、時々面倒なことに巻き込まれると思われている節がある。

 実際、かの子も千佳もただハキハキしているだけで、何も揉め事など起こす人たちじゃない。

 でもどこかで力のバランス加減を見たとき、雰囲気だけでかの子と千佳は権力を持っているように見えるから不思議だった。

 高校生というのは、自分の中で勝手にレベルを築いて、自分より上か下か、得か否かと、自分の損得で計算してみている事があると思う。

 いわゆる、派手なグループ、地味なグループ、というようにカテゴライズしてしまうような感じだった。

 だけど、皆、勉強に忙しく、中学の時ほど友達関係に執着するような幼稚な事はしないので、それほど問題が起きることもなかった。

 アイドル化されている拓登と友達になると言うことは、憧れている女の子にはやはり羨ましく思ってしまうのだろう。

 私も拓登に傘を貸さなかったら、声を掛けてもらうこともなく、ただ遠くから気になる程度で見ているだけだったと思う。

 自分が拓登と親しくなれたことを考えたら、やっぱりすごいことだし、ましてや拓登の秘密を知っているから特別な思いというのもある。

 自分でもしょうもないところで、優越感に浸っているとは思う。

 そういう部分がやっぱり知らずと出ていたのだろう。

 それをみのりは見逃さなかった。

「真由ってさ、最近生き生きしてるよね」

「やっぱ恋する女っていうのは色々とアクティブになっていくんだよ」

 かの子がわざとらしく私を見てはニヤニヤする。

「当たり前のことを一々いわなくてもいいの」

 千佳が放っておけと言わんばかりにかの子を牽制する。

 私はなんて言っていいのか分からず、その場は笑っているだけだった。

 自分が生き生きしているのは少なからず拓登との事が原因だけど、もう一つ、瑛太の過去の事を探ろうと阿部君と会う約束をすでに取り付けたからやる気が出ているのかもしれない。


 遡って数日前のこと。

 萌から阿部君の事を知らされて、その後学校からいそいそと帰ってきては小学校へと向かった。

 阿部君の住所も電話番号もわからなかったので、直接お母さんである阿部先生に聞くのが一番早いと思ったからだった。

 とても勇気がいったけど、小学校の中に入ったとたん、最初に出会った見知らぬ先生に不審者と思われて声を掛けられたのをきっかけに、すぐに阿部先生のことを聞く事ができた。

 卒業生という事を強調し、阿部先生に会いに来たと話せば、恩師だと思ってくれて、すぐに阿部先生に会うのはそんなに難しくなかった。

 阿部先生が姿を現したときは、私を見てキョトンとしていたが、私の制服でどこの高校生かすぐにわかったみたいで、変なことではなさそうだとすぐに安心した表情になっていた。

 自分の名前を言ってもピンとこないまま、阿部先生は私の事はあまり覚えてなさそうながらも、笑顔だけは絶やさずに始終温かく接してくれた。

「そうだったの。うちの茂と同学年で、小学一年の時同じクラスだったの。倉持さんっていったわね。ごめんなさいね、私は覚えてなくて」

「いいんです。先生は受け持たれていた学年が違いますし、直接私もお話したことはなかったから、仕方がないです。たまたま、阿部君のお母さんが学校の先生だったから、それでまだいらっしゃるか半信半疑だったんですけど、お会いできてよかったです」

「それで、茂に聞きたい事があるらしいけど、何かしら」

「すみません。たまたま小学一年の時の想い出に疑問があって、それを調べていたら、阿部君のことを思い出したんです。阿部君は池谷瑛太と仲がよかったと思うんですが」

「ああ、池谷君ね。そういえば時々遊びに来ていたわ」

「やっぱりそうですか。じゃあ、二人は仲がよかったんですね」

「そうね、でも中学に上がるころには学校が違うからそれからは会う機会も少なくなったみたいだけど、でも連絡はたまにあるんじゃないかしら。茂に聞かないとわからないけど」

「あの、直接阿部君とお話はできないでしょうか」

「別にいいと思うわよ。でも池谷君とうちの茂がどうかしたの?」

「いえ、その、当時のあることで、どうしても気になる事があって、その時の証人を探しているというのか」

「あら、なんだか事件の解決をしようとする刑事さんみたいね」

 私は苦笑いになってしまった。

 私の頬にキスした犯人を捜しているなんて、先生には言えない。

 私は予め用意していた、自分の電話番号とメールアドレスを書いた紙を先生に渡した。

 それを先生は受け取って、息子に渡すからと快く承知してくれた。

 訪ねた日のその夜、本当に阿部君から電話がかかってきた時は、すごく嬉しく思う反面どこか落ち着かなかった。

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