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雨の滴と恋の雫とエトセトラ  作者: CoconaKid
第二章 よくわからないのに
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 朝は充分な時間がなかったし、どんどんクラスの生徒が登校してきて聞かれてもこまるから、詳しいことは話せなかったが、とりあえずはあの帰りに二人と駅で出会った事を話した。

 こういう話は聞く方にとっては面白いのか、好奇心一杯に瞳をランランとさせて私の言葉をフンフンと聞いていた。

 二人が言い争って、それでエスカレートして拓登から真剣に考えて欲しいというところまでは話したが、担任の先生がやってきたところで、残りは放課後ということになった。

 私ばかりが恋の相談するなんていいのだろうかと思いつつ、拓登の話題だけに皆は好奇心を持って聞きたがるから困惑する。

 まあいいかとそこは臨機応変に構えることにした。

 授業が始まれば、そんなことも気にならなくなって、ノートをとることに必死になる。

 結構授業の進み方が早いのは、すでに大学受験を視野にいれてるからだろうか。

 まだ高校に入学して間もないが、ここに入ったからには多少の努力はしないとついていけないと困ってしまう。

 もしかしたら拓登もそういう事を見込んで、あまり恋に現を抜かすことを避けたいのかもしれない。

 中間テストもそんなに遠くないし、私も浮かれている場合ではないと、必死に手を動かしていた。

 休み時間、トイレに行くときだけ廊下に出たが、拓登とは偶然出会うことはなかった。

 教室にいるのか確認してみたいけど、私が露骨に覗いたらそれこそを噂の元になり益々何を言われるか分からない。

 一組の教室は見ないでおこうと意識をすればするほど、とてもぎこちなく首までが固定されて動かなくなってしまった。

 そして放課後、話の続きを聞きたいと三人が寄ってくるが、その時「真由!」と教室のドアの方から声が聞こえてきた。

 まさに、ピキッと電流が走るほどにびっくりしてしまった。

 拓登がそこに立ってるし、堂々とみんなの前で私の名前を呼び捨てにしたことに誰もが振り向いて驚いた。

 私は何かを隠したい気分でさっと立ち上がり、拓登の前にさささと走り寄った。

「はい、な、何? どうしたの?」

 周りの目が自分に突き刺さっているのが肌で感じ取れる。

 拓登の腕を咄嗟に取って廊下の窓際に無意識に引っ張ってしまった。

「真由、何をそんなに慌ててるの?」

「えっ、あっ、ごめん。だって、拓登が私の名前を呼ぶから目立っちゃって」

「僕、真由に迷惑かけてる?」

「そういうのじゃないんだけど、ほら、皆誤解しやすいから」

「誤解?」

 拓登の眉間が狭まって私を見ていた。

「あの、その、ほら、あれでしょ。みんな色々と好き勝手に話すから、何を言われるかわからないでしょ」

「僕は別にそんなことどうでもいい。僕はもっと真由と話をしないといけないと思うくらいだ」

 周りを気にしすぎている私と違って、拓登は堂々として清々しい。

 学校では拓登から逃げようとしていた自分がとても恥ずかしく感じてしまう。

 真剣に見てと言われているのに、自分がこんな逃げ腰では拓登に失礼だった。

「そうだよね。私も拓登と色々沢山話をしたい」

 この時、体の力がすっと抜けていった。

 おどおどとしたものや恐れていたものは、全て人の目を気にしすぎて自分が勝手に作り出したものだった。

 自分が気にしなければ、そういうものは体から離れて行く。

 私も拓登が気になって、好きという思いがどんどん育っていることをいい加減認めるべきだと思うようになった。

 私の瞳は心の思うままに拓登を映し出していたと思う。

 それを感じ取ってくれたのか、拓登は笑みを浮かべていた。

「じゃあ、また一緒に帰ろう。今日は少し寄り道しないか? ただ家に帰るだけならつまらないしさ。それに刺激があれば、きっともっと僕のこと考えてくれると思うんだ」

「刺激?」

 拓登が目の前に居るだけで、充分過ぎるほどの刺激ですが…… と突っ込みたくなった。

「それじゃ先に下駄箱で待ってるから」

 返事を言う前に拓登は行ってしまった。

 私はすぐに教室に戻り、三人に事情を話した。

「へぇ、私達より山之内君をとるんだ」

 かの子が嫌味っぽく言う。

「そういうこと言うのやめなさい」

 千佳がかの子の頭を軽く叩く。

 かの子が舌を出しておどけていることからそれは冗談なのは分かっていた。

「なんか私ちょっと嫉妬しちゃうな。真由をとられちゃうみたいで」

 みのりも笑っていたので、ちょっとした冗談だが、自分だけこういうことになると、友達の輪が崩れないか少し心配だった。

「ごめんね。私から話を振っておいて、投げ出しちゃって」

「いいっていいて。とにかくまたネタが増えるから、後日ちゃんと報告したらそれでオッケー」

 かの子がそういえば、残りの二人も気を悪くすることはなかった。

「それより、早く行きなよ。山之内君待たせたら失礼だぞ」

 千佳に後押しされて、私は鞄を持って教室を出た。

 その時、廊下で一組の女の子達が私を睨んでるような目つきで見ていたような気がしたのは、気のせいだと思いたかった。

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