第6話
ロックブーケから南へ3キロ。見渡す限りの平原の中で、魔物の声が響く。
「ブモォォォォ!?」
声の発生源となる場所では、青銅の巨人がそびえ立ち、一頭の一本角を生やした牛の突進を全身を使って受け止めている。
そして其処から少し離れた所では、もう一頭の牛に巨大な蛇と機械の翼を生やす鷲、それに通常より巨大な芋虫を抱き抱えた所々が腐食した人型の何かが戦っており、それを二人の動物を肩に乗せた少年達が見守っていた。
「葉月!! 今だよ!!」
蛇が口から炎の塊を吐き出し、牛にぶち当てる。そして怯んだ牛に上空から鷲が突進し、吹き飛ばした。それにより牛が倒れピクピクと悶えているのを見て、健吾が叫ぶ。
「行け!!」
健吾の叫びに応じるように葉月がキャタピラー達に命令を下す。すると、ネイキッドゾンビはキャタピラーを抱き抱えながら牛に近づいていく。その姿は大変不恰好なものだったが、それでもよたよたと歩いていく。そして、
「ブモッ!?」
倒れている一本角の牛、マッドブルにゾンビがガブリと噛みつく。そんなB級ホラー映画のような光景の中で噛まれた牛は必死に暴れ、ゾンビを蹴飛ばすが、ゾンビは気にせず噛み続ける。すると、
「ブモォォォォ!?!?!?」
元々、圧倒的に能力が上である蛇と鷲の攻撃を受けていたマッドブルはすでに限界の状況であり、悲鳴を上げながら光の粒子になって消えて行く。
「よし!! 一頭撃破!! もう一頭行けそうかい?」
「ああ、やっぱりキャタピラーを抱えさせて正解だ!! 毒の棘の効果でどんどん回復しているから次も行けるぜ!!」
健吾の問いに葉月が答える。その目の前に出されたネイキッドゾンビのステータス画面上では、毒という表示と共に【アンデッド】の効果でどんどんHPの値が回復している様子が映されていた。
「よし!! じゃあゴーレ!! こっちに飛ばしてくれ!!」
「ゴッ!!」
健吾の言葉に応じて離れた場所でもう一頭のマッドブルを抑え込んでいた青銅の巨人がアクションを起こす。一度半身ほどずらした後、抑える力を緩め、マッドブルを進ませ距離をとる。それから、再び突進するマッドブルに対し腕を引きーー、
「ブモォ!?」
健吾や葉月のいる方におもいっきり殴り飛ばした。
それにより、それなりに重いと思われるマッドブルの身体が綺麗な弧を描き、葉月達の目の前に土煙を起こしながら落下する。
葉月はそのブロンズゴーレムのバカ力に思わず絶句する。そんな葉月をメフィが叱咤した。
「葉月様!! ぼさっとしてないで命令を!! このままじゃゴーレムが倒したと判定されますよ!?」
「……ッ! わかった!! おまえ達止めを刺せ!!」
メフィの声でフッと我にかえった葉月が二匹に命令を下す。
するとキャタピラーがのそのそと倒れたマッドブルに近づき、毒の棘を身体から生やし、体当たりをしかける。
それによりもはや死に体だったマッドブルは直撃を受けた後、光に包まれて消えていく。
そして、マッドブルが消えた後、葉月と健吾の前にそれぞれ液晶画面が出現した。
○●○●○●○●○●○
経験値560取得
124コル取得
マッドブルの角×2
マッドブルの皮×1取得
キャタピラー:Lv40→Lv76
ネイキッドゾンビ:Lv20→39
・マッドブルの角…レア度E。武装の材料として用いることが出来る
・マッドブルの皮…レア度E。武装の材料として用いることが出来る
○●○●○●○●○●○
「ふむ、きちんとボーナスを受けれたようですね」
表示された画面を覗きながらメフィが言う。
此処で言うボーナスとは、複数のプレイヤーが一つの魔物と交戦した時に止めを刺したものに優先的に経験値を渡すというもので、健吾が弱めつけた後に葉月に回したのもそれが原因だった。
「そうだな。これで、ギルドで依頼報酬もらえばちょうどキャタピラーが進化する感じか??」
葉月は言いながらステータスを開く。
○●○●○●○●○●○
個体名:なし
種族:ネイキッドゾンビ
Lv:39(4/33)
HP:41/52
MP:12/12
力:10
魔力:2
防御:18
魔防:3
素早さ:7
知力:5
称号:(不死を望むモノ)
【特性】:【アンデッド】【腐臭】
スキル:噛みつく
○●○●○●○●○●○
○●○●○●○●○●○
個体名:なし
種族:キャタピラー
Lv:76(13/16)
HP:29/29
MP:5/5
力:8
魔力:3
防御:11
魔防:5
素早さ:7
知力:8
称号:(ポイズン・メイカー)
【特性】:【脱皮】
スキル:体当たり、糸を吐く、毒の棘
○●○●○●○●○●○
「やっぱり健吾の魔物と比べるとまだまだ弱いか…ってか(称号)ってなんだこれ?」
ステータスを眺めていた葉月は知らない内に魔物に勝手に付いていた称号を疑問に思う。
「(称号)は魔物達が進化するときに進化先に影響を与える条件に名前をつけて明文化したモノです。例えば現在キャタピラーは(ポイズン・メイカー)という(称号)を持っていますね? これを越えるような特殊条件を満たし、(称号)を手に入れない限り、キャタピラーは毒を得意とする種に進化するでしょう」
「ちなみに僕のブロンズゴーレムも狩場にしている場所にいた土巨人という魔物を多く倒したお陰で、(巨人殺し)という(称号)を手に入れ、巨人種に進化したんだよ」
メフィと健吾の説明で大体理解できた葉月はついでだからとさらに質問を加える。
「大体わかったが、じゃあ、テイマーズカードにあった称号はどういう意味なんだ?」
葉月の疑問に、健吾は首にかけてあるケースから自らのテイマーズカードを取りだし、葉月に手渡した。
○●○●○●○●○●○
名:ケン
所属:カスパール帝国
ランク:中級テイマー
タレント:【蛇遣い座の加護】【初級鑑定】【人形使い】
装備:鑑定のルーペ
称号:人形奏者・見習い
パーティー:スカイ、ゴーレ、スネーク
○●○●○●○●○●○
「カードを見ればわかるけど、タレントが3つあるだろ? 後ろの2つはそれぞれ装備と称号による後天的なタレントで、好きに入れ替えることが出来るんだ。つまり、自由に入れ替えられず、進化にしか影響しないのが魔物の(称号)で、自由に入れ替えることが出来、何らかの効果を与えるのがテイマーの称号ってことさ」
葉月からテイマーズカードを受け取り、再び元に戻しながら健吾が教えてくれる。その説明に感心しながら葉月も自分のカードを見る。しかし、そこにはまだ称号は無かった。
「あ~、まだ俺には称号はないか」
「人間の称号は魔物と長くいたり、多くの魔物を扱ったりすることで手に入れるものだからね、そう簡単には手に入らないさ。だからとりあえずドンドン依頼をこなしたりしてコルを貯めて魔物を増やしたりしようよ」
「だな。とりあえず、ギルドに戻って報告にでも行くか」
健吾の言葉に同意し、葉月達は液晶を消した後、再びロックブーケへ向かい始めるのだった。
*********
「すみません。依頼を完了したんですけど~」
ロックブーケに戻った葉月達は魔物を預け、ギルドに向かい、カウンターの受付嬢に話しかける。
「わかりました。確認しますね……はい。確かに完了してます」
受付嬢の言葉とともに液晶画面が展開する。
○●○●○●○●○●○
依頼:マッドブルの討伐
依頼達成
経験値400取得
1000コル取得
キャタピラー:Lv76→100
ネイキッドゾンビ:Lv39→51 【特性】【闇属性耐性】取得
・【闇属性耐性】…闇属性の攻撃に対し、40%の軽減
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依頼達成の液晶が表示されるなか、葉月の前にだけ別にもう一枚、液晶が表示される。
○●○●○●○●○●○
キャタピラー(個体名:なし)が進化条件を満たしました。今すぐ進化させますか?
[yes/no]
○●○●○●○●○●○
表示された液晶を前に葉月はすぐに進化するかどうか悩む。すると後ろから眺めていたメフィが葉月の悩みに答える。
「進化は今拒否してもいつでも任意で進化できますので、せっかくですから外に出てから直に見ながら進化させませんか? 実感湧いて面白いと思いますよ?」
「そうなのか? じゃ、買い物したりしてから外に向かい、キャタピラーを進化させる。今日はそんなところでログアウトしようと思うんだけど?」
「うん。初日だし僕も今日はそれぐらいにしておくよ。それじゃあ道具屋にいこうか!」
葉月の提案に健吾は頷き、目の前の通りを東に歩きはじめる。そして、健吾の先導でしばらく歩くと、一軒一軒が幌で覆われテントのようになっているものが並ぶ広場に行き着いた。
「ここは?」
「ここはこの町の店が集う露店広場さ。葉月が来るまで暇だったから一通り見てきたけど中々良い品揃えだったよ」
健吾の説明を聞きながら、葉月は試しに一つのテントの中に入ってみる。すると、中は予想よりも広く、いくつか置かれた棚の中には瓶に入った薬品らしきものが陳列されていた。
「いらっしゃい!! ここは薬屋。購入の他にも材料持ち込みも歓迎だよ」
恰幅がよく、いかにも道具屋の店番をしてそうな女性が話しかけてくる。
「材料持ち込み?」
「魔物を倒した時の表示に取得していたモノで薬の材料になるものを持ち込むことですよ?」
メフィが葉月の問いに答える。その時、ふと葉月の脳裏に疑問がよぎった。
「そういや今まで取得したものってどうなってんだ? 薬とか買ったけど使ってないから忘れてたけど?」
「ああ、それなら…」
言いながらメフィは葉月の肩にぶら下がるのを止め、地面に降り、前足で何か宙を触る。
すると空間に穴が開き、棚のような網目状になったモノが現出する。その網目状の中には薬の入った瓶や何かの角、それに前にムルムルからもらい、いつの間にか消えていた鉱石などがそれぞれ入っていた。
「これが葉月様専用のアイテムインベントリとなり、最大100個まで収納出来ます。なお、それ以上の物を保存する際はファームに倉庫機能があるのでそちらに移す必要がありますね」
そう言って再びアイテムインベントリの空間を消すメフィ。それを見ながら健吾は薬屋の女主人に話しかける。
「それじゃあホワイトディアーの角4個と薬草で回復薬2つをお願い出来ますか?」
「あいよ!! じゃあここに材料を置きな!!」
健吾は肩の鳥と何やら話した後、葉月達と同様に自分のアイテムインベントリを開く。そしてその中から何かの角と草を取りだして女主人の指差すところに置いた。
「………うん。大丈夫だね!! じゃあ作るからちょっと待っておくれ」
そう言って、女主人は健吾が渡した角と草に手をかざす。するとーー、
「ーーーな!?!?」
かざした手が光を放つと共に、角と草が消え、代わりに緑の液体が入った瓶が2本現れた。
「 何驚いているんだい? 薬屋が薬品生成したの見たのが初めてなのかい?」
女主人の問いにカクカクと頭を振り肯定する葉月。隣では同じように健吾も驚いている。
「この世界では【薬品生成の心得】といったタレント持ちが店の主人を勤め、またそのタレントの効果で何かを作るのに必要な材料に手をかざすだけで、等価交換が起こり、品物が作られるのですよ」
「……ゲームの世界とリンクさせる必要があるからって物理法則を無視するのはどうかと思うぞあのアホ親め…」
すっかり解説役になっているメフィの説明を聞き、葉月は頭を抱え呟く。それを苦笑いしながら健吾は薬を受け取り、主人に礼を言う。それから葉月は買うものが無かったので薬屋を後にし、次の店に向かう。
そうして、葉月用のトラベルチケットを購入したりと一通り店を巡り物色した後、葉月達はいよいよキャタピラーを進化させるため、街の外へと向かうのだった。
*********
ロックブーケを出て魔物を厩舎から受け取った葉月達は街から少し離れた場所に集まる。そして葉月はメニューからキャタピラーのステータスを開き、先程と同様の進化しますか? という表示が出るのを確認して、Yesと押す。するとーー、
「キュイイイイ!?」
キャタピラーの身体を光が覆う。
眩い光のとともにキャタピラーの体が膨らんでいき、新たな姿を形作る。
そして、光が収まると、そこには体長80センチ程の身体を持つ蟻が立っていた。
「これが進化…」
呆然とする葉月の前に液晶画面が展開する。
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個体名:なし
種族名:ヴェノムアント
Lv:1(0/40)
HP:48/48
MP:12/12
力:16
魔力:10
防御:12
魔防:10
素早さ:15
知力:11
称号:(ポイズン・メイカー)
【特性】:【毒耐性】
スキル:噛みつく、毒液噴射
・【毒耐性】…毒の効果40%減少
・毒液噴射…MPを1消費し、毒液を生成し霧状に噴射する
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「キシャアア!!」
進化したヴェノムアントは自分の存在を主張するように声をあげる。
その声で初めて見た進化の光景に呆然としていた葉月と健吾はハッとした。
「ああ、ごめんな。初めての光景に見とれてた。これからもよろしくな!!」
葉月は謝りながらキャタピラーから進化したヴェノムアントの頭を撫でる。
そして、嬉しそうに声をあげるヴェノムアントを眺め、健吾は嬉しそうに笑う。
「いやぁ、やっぱ画面越しに見るのとは違うね! これなら僕の魔物や君のゾンビがどうなるかも楽しみだよ!………っとじゃあ僕は今日はここらで帰るとするよ。また明日!」
「おう、また明日!!」
言葉と共に、健吾はメニューを開き、魔物達は光と共に消えていく。
そしてそれを見届けた後、葉月も魔物達と別れを告げ、元の世界へと帰還するのだった。
文章レベルが酷い? もはや自覚症状です(泣。極力向上に努めて行きますので応援宜しくお願いします。