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第5話



ーーーRiRiRi、RiRiRiーーー


 とあるマンションの一室。目覚まし時計の音が響く。


「ふぁ~あ、朝か……」


 布団から半分起き上がり、目をこすりながら葉月は呟く。

 それからのそのそと布団から出て、布団を畳んだ後、壁にかけてあった制服に腕を通していく。


「……今日は夕方バイトか。……あと学校で叔母さんに話聞かなくちゃな……」


 寝ぼけた頭のまま今日の予定を思い出す葉月。そのまま制服に着替え終わり、部屋から出てキッチンに向かうとーー、


「おや、おはようございます葉月様。食事の用意が出来ますので座って待っていてくださいな」


 黒長髪に赤目の女がエプロンをつけ、料理を作っていた。

 葉月は一度目をパチパチとした後、申し訳なさそうな顔で、ダイニングルームの椅子に座り呟く。


「………ありがとなメフィ」


「いえいえ、これくらい当然のことですよ。……それより今日の予定はどうなっているんです?」


 テーブルにサラダを置きながらメフィが尋ねる。


「今日は学校の後バイトだから遅くなる。お前は?」


「そうですね…。テイマーズ&モンスターズを作った奴から手助けを頼まれているので、葉月様が出ている間はそちらに行こうと思います」


「テイマーズ&モンスターズを作った奴か……どんな奴なんだ?」


 目の前に置かれたパンにジャムを塗り、食べながら葉月は尋ねる。


「私と同じ魔神でしょっちゅう嫁自慢するムカつく奴ですよ。まぁ、もともと研究者気質だったんで今回のことには適任なんですけどね」


 全ての用意を終え、エプロンを外し葉月と向かい合うように座りながらメフィが答える。


「魔神で結婚してるのか?」


「ええ、それも元の世界の人間に自分の神格を少し分け与えて、ですよ。葉月様もお気をつけを。アイツのノロケはウザいですから」


 めんどくさそうな顔をしながら語るメフィを見ながら、葉月は食事を終える。


「まぁ、あのバカ親の関係者ならいつか会うだろうがせいぜい気をつけるよ。………っとそろそろ時間だから行ってくる」


 時計を見て葉月は席を立ち、顔を洗い、身だしなみを整える。そして玄関に向かう葉月を見送りながらメフィは微笑む。


「いってらっしゃい。葉月様」


「……おう」


 何気ないメフィの言葉に胸のどこかがざわめく音を聞きながら葉月は鞄を手に家を出て行くのだった。




*********



「おはよう。葉月。結局テイマーズ&モンスターズを始められたのかい?」


「おう。まぁ色々あったけどな」


 学校に着き、葉月が自分の席に座ると健吾が話しかけてくる。


「どのサーバーだったんだい? 何でもサーバーはランダムで選ばれるらしいけど」


 その言葉に葉月は一瞬頭を抱え自分がどのサーバーなのか悩むが、リースの言葉を思いだし答える。


「第1サーバーだったぞ」


「第1だって!? それなら僕もそうだから今日の夜にでも一緒に依頼でも受けよう!! ……それにしても葉月が第1に来てその上アップデートも始まるとか楽しくなってきたなぁ」


「アップデート? ああ、魔王云々の件か」


 葉月の言葉に嬉しそうにする健吾。


「そうそれ。ついにメインストーリーが出来るんだってさ!何でも未開地域の何処かにある7人の魔王の治める集落に行き、試練に挑むんだってさ! う~、待ち遠しい!!」


 わくわくが隠せないといった態度を取る健吾。それを見ながら葉月は健吾もあの世界に連れて行ってやりたいななどとつい考えてしまう。


「ん? どうしたんだい葉月?」


 考え込む葉月に健吾が尋ねる。


「………なぁ、もしゲームの世界に入れるなら入ってみたいか?」


 突然の問いに困惑する健吾。


「……そりゃ、そんなことが出来るなら入ってみたいよ。けど突然どうしたんだい?」


「いや…なんでもない。気にしないでくれ」


 頭に疑問符を浮かべる健吾をよそに葉月はそれ以上言うのをやめる。腕輪が他にあるのかわからない以上安易な期待をさせないほうが良いと思ったのだ。

 そして、丁度良く始業の鐘が鳴り担任が入ってきたことによって、会話はそれ以上進展することは無くホームルームが始まった。




 それから昼になり、葉月は健吾の昼食の誘いを断りまっすぐ理事長室に向かう。


「来客中か……?」


 理事長室の前に立ち、ノックしようとした時、中から話し声が葉月の耳に聞こえてきた。

 何を話しているかわからないが、さすがに邪魔はできない。そう考え出直そうとしたとき、理事長室の扉が開き、理事長が顔を出す。


「あら、本当にいたのね。……ちょうどいいわ。貴方にも関係あるお客様だからいらっしゃい」


 言葉と共に葉月は理事長室に連れ込まれる。

 そこには理事長である葉月の叔母以外に、金髪碧眼の何となく天然そうな印象を受ける女性と白衣を着て眼鏡をかけた黒髪のいかにも研究者風の男がいた。


「やぁ、木津原葉月君。お会いできて嬉しいよ」


 どういう状況かと戸惑う葉月に白衣を着た男が話しかけてくる。

 葉月は自分の名前を呼ぶ男に疑問に思うが、朝方のメフィとの会話を思いだし、理解する。


「ああ、あんたがメフィが言っていたテイマーズ&モンスターズを作った嫁自慢するムカつく奴か」


「………何だろう、間違っていないけどそう言われるとなんか傷つくね。…まぁいいや。初めまして葉月君。僕はザミエル。君の言うようにテイマーズ&モンスターズのゲームを作り、管理している者さ。そして隣の美人は妻のマルト。ああ、マルトが綺麗だからといって惚れちゃ駄目だぞ??」


 ザミエルと名乗る男が喋りながら、ゆっくりと礼をする。それに合わせてマルトと呼ばれた女性は優しく微笑み、優雅に頭を下げる。

 そして、そうやって下げた頭を二人は戻した後、ザミエルは不敵に笑い葉月に問いかけた。


「で、どうだい? ゲームの中の世界は楽しいかい??」


 聞くまでもないような問いに葉月もニヤリとしながら答える。


「ああ、お陰様で始めたばかりだけど楽しませてもらってるぜ。……それで? 今日はどうしてこんなところに? メフィが手伝いに行っていると聞いたが?」


「うん、今日はメフィのお陰で時間が取れたからね。デートついでにスポンサーにアップデートの内容報告さ。あと君に渡すものがあってね」


 言いながら白衣のポケットを探るザミエル。そして、そのポケットからはーー、


「それは……!?」


 葉月の腕についている腕輪の色違いが3つほど出てきた。


「そう、君の腕輪と同じものさ」


「……これは他の奴にも渡して良いということか?」


「そうだよ。君だけじゃなく、あの世界には色々な刺激を与えてみる必要があるからね。ただいきなり何人も来られると処理しきれないから、アップデートを実施する一週間後くらいまでは一人を招待に止めておいてくれるかな?」


 誰か一人を招待出来る。それを聞き、葉月の脳裏に浮かんだのは親友の姿だった。


「わかった。じゃあ色々親父達のこととか聞きたいこともあったんだが、早速友達に渡しに行っても良いか? この学校で渡したい奴がいるんだ」


「うん、構わないよ。それじゃあ霜月さん達のことは今度ゆっくり話そう。ついでにマルトの素晴らしいところを存分に語ってあげるからさ。じゃ、またね」


 ヘラヘラ笑いながら手を振るザミエル。葉月は最後の言葉を聞かなかったことにして、早速理事長室を後にし健吾の元へと急いだ。





*********



 あれから葉月は健吾に事情を説明し、青に金の紋様が入った腕輪を渡した。健吾は半信半疑だったが、腕輪を付けゲームをすることを約束し、中に入れたら連絡することを約束してくれる。

 そして、葉月は夕方、バイトを終えて帰宅し、メフィに迎えられながら食事を済ませ、パソコンの前に座りテイマーズ&モンスターズを起動する。

 すると眩い光と共に意識が遠のき、次に目を開けた所はファームの小屋の中だった。


「元気にしてたかお前ら?」


「キュイイイ♪」

「…………♪」


 小屋から出ると葉月はキャタピラーとゾンビに迎えられる。そいつらに挨拶をした後、腕輪のボタンを押し、パーティーに魔物達を入れる。

 それが完了した時、タイミング良く連絡がきたという情報とともに液晶画面が出現し、画面上に肩に青い鳥を乗せた健吾の姿が映し出された。


『すごいよ葉月! 夢みたいだ!! まさか本当に魔物達の側に居られるなんて!!』


 興奮を抑えきれない様子でまくし立てる健吾。


「おう、健吾。無事に来れたんだな」


『うん! ホントこんな世界を作ってくれた君の両親にはいくら感謝しても足りないよ!!』


 純粋な健吾の霜月達への感謝の念に息子として何となくむず痒い思いに葉月はかられる。


「………なら、魔王の試練を乗り越えて一緒にあのバカ親の元にいって直接言ってやろうぜ!! 」


『そうだね!! じゃあ早速会わないかい?? ……っとそうか葉月は昨日始めたばかりだからトラベルチケットとか持ってないんだよね? じゃあ、僕が葉月のファームに一番近い町に向かうよ。どこの町だい??』


「俺のファームに近いのはロックブーケってとこのはずだけど、トラベルチケットって何だ?」


「ファームと任意の町の間に転移陣を作るアイテムのことですよ」


 聞き慣れない単語を疑問に思う葉月にメフィが答える。その様子に画面越しの健吾が頷いたあと、言葉を紡ぐ。


『わかった!! ロックブーケに先に転移して待ってるから着いたら連絡して!!』


 そう言って返事も待たずに健吾の画像を映し出す液晶が消える。

 その健吾の舞い上がっている様子に苦笑いしながら葉月はメフィの方を向き、話しかけた。


「じゃあ、ロックブーケの町に行こう。どう行けばいいんだ?」


「そうですね~ここからだと北西の方角に2キロくらいといったところですかね」


「了解。じゃあ早速行こうぜ!!」


 言葉と共に葉月は歩き始め、その後ろを黒猫とキャタピラーとゾンビがゾロゾロと歩いてファームから出て行くのだった。




*********




 ファームを出てから40分。

 昨日が夕方だったのに対して今日は昼間であったため、弱体化したゾンビのことを考え魔物を避けて歩いた葉月達は巨大な壁に囲まれた町、ロックブーケに行き着く。

 その入り口には巨大な門があり、そこには鎧姿の巨漢が立っていた。


「お前はテイマーだな! なら町に入るに辺り、魔物は厩舎で手続きをして預かってもらえ!!」


 言いながら男は近くにある建物を指さす。

 葉月達はそれに従い建物に入り手続きを済ませ、魔物達を一時的に預かってもらい町に入る。


「すごいな……」


 町の中の様子を見て、葉月が呟く。葉月の目の前には多くの人間が生活を送っており、賑やかな雰囲気に包まれていた。

 此処に来るまでに葉月がメフィから聞いた話だと、この世界ではテイマーは実際にゲームをやっているプレイヤーのアクションをフィードバックし、サポートユニットとして擬態しているある魔神の分体達がその情報から最適な感情をテイマーに与え、より人間らしく表現しているらしい。

 そしてテイマー以外の人間はリースと言った緊急時に対応出来る一部の者を除いて大半は霜月と弥生の手によって、職務を全うすることや、テイマーの職業以外は街の外に出てはならないという制約を課された上でこの世界で新たに生み出され、自由に生きているという。


「ほら、葉月様。着いたのだから連絡しないと」


 この世界に来て初めて見る人々の動きを呆然と見ていた葉月はメフィの言葉で我に返り、健吾に連絡をとる。すると健吾はこの街のテイマーズギルドにいるというのでそこに向かって歩いていく。そして、


「やぁ、葉月。遅かったね!!」


 西部劇の酒場のような作りをしたテイマーズギルドの建物に入った葉月の前には肩に鳥を乗せ、独特の文様が付いたワイシャツを羽織り、首からカードを入れたパスケースのような物を下げた少年、工藤健吾くどうけんごが立っていた。葉月は謝りながら健吾に近づいていく。


「すまん。ちょっと遠回りが必要になってさ。それで? これからどうする?」


「そうだね…折角だからここら辺でこなせる依頼を受けてみようか? まだここら辺なら強い魔物の討伐依頼は出されないだろうしさ」


 その言葉に葉月は頷き、健吾はカウンターに向かう。そしてそこの受付嬢と何らかの会話をしたあと、葉月を呼び寄せる。


「ちょうどよくこんな依頼があるけど、どうかな?」


 そう言って健吾は宙に液晶を表示させる。



○●○●○●○●○●○



 依頼:マッドブルの討伐



(達成条件)マッドブル2体の撃破



 報酬:経験値400、1000コル



○●○●○●○●○●○



「マッドブルってのがどんなのか知らないが大丈夫なのか??」


 依頼の報酬経験値が昨日の強制イベントで取得した経験値より高い数値であるがため、葉月は警戒する。


「マッドブルはすでに倒したことがあるから大丈夫だよ。なぁ、クルースニク?」


 そんな葉月と対照的に健吾は自信に満ちた声色で肩の鳥に問いかける。


「ああ、主の魔物ならまず負けることはないな。だから、霜月の息子よ案ずるな。いざとなったら我が主がなんとかするさ」


 健吾の問いに無駄に厳つい声で答える青い鳥。それを聞き、おそらくメフィと同じ魔神であろう鳥が肯定するなら間違いないだろうと葉月は思い、頷く。


「……わかった。俺も早く強くなりたいし、その依頼を受けよう」


 それを聞き、健吾は受付嬢に頼み、依頼を受注する。

 そして、依頼を受けに来たテイマー達と会釈をしながらすれ違い、二人はテイマーズギルドを後にした。




*********



「おお、すっげーな!! 格好良いじゃねーか!!」


 ロックブーケの町を出たところにて葉月の声が響きわたる。その葉月の視線は健吾の3匹の魔物達に注がれていた。

 何故ならそこには翼を機械化した鷲、全身を青銅で形作る巨大な巨人、そして全長3メートルはあろうかという大きさの黒い蛇がいたのだ。


「いいだろ? 僕の自慢の魔物達さ!!」


 葉月の羨望の眼差しに気分を良くする健吾。そのまま葉月にステータスを見せる。



○●○●○●○●○●○



個体名:スカイ


種族:ストライクイーグル・融機獣サイボーグ


Lv:34(157/600)


HP:252/252

MP:190/190


力:128

魔力:64

防御:52

魔防:64

素早さ:150

知力:90


称号:(融機獣化第2段階)


【特性】:【鳥目】【飛行】【機械の翼】【威圧感】


スキル:真空波、突撃、威圧



○●○●○●○●○●○



○●○●○●○●○●○



個体名:ゴーレ


種族:ブロンズゴーレム・巨人種ジャイアント


Lv:24(129/710)


HP:350/350

MP:60/60


力:200

魔力:0

防御:212

魔防:60

素早さ:29

知力:45


称号:(巨人殺しティターンスレイヤー


【特性】:【メタルボディ】【巨人の血統】【豪腕】


スキル 殴る、 蹴る、鋼体化



○●○●○●○●○●○



○●○●○●○●○●○



個体名:スネーク


種族:キリングスネークリーダー


Lv:48(438/748)


HP:270/270

MP:100/100


力:98

魔力:94

防御:98

魔防:90

素早さ:105

知力:110


(称号):(リーダーの器)


【特性】:【脱皮】【リーダーシップ】【毒強化】


スキル:猛毒牙、巻き付き、火炎弾、士気向上



○●○●○●○●○●○



「これを見ると俺の魔物はまだ弱いよな」


 健吾の魔物のステータスを見て葉月は呟く。健吾はあはは、と頬を掻きながら、


「これでも僕は中級テイマーだから始めて一日の奴に負けたらくやしいって。まぁ、すぐに葉月が追いつけるように手伝うからとりあえずガンガン依頼をこなそうよ」


 言いながら、メニューを開け、依頼の魔物の居場所を確認する健吾。

 その言葉に葉月は頷いたあと、歩き始める健吾達一行の後を追い、歩き始めるのだった。

少し微妙なところですが長くなるので一度切ります。次回は戦闘とキャタピラーの進化まで行く予定。


次回から地の文を増やしたりなど、工夫したいことが多いので、投稿はゆっくりと。

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