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第1話

 最近、巷で大流行しているゲームがある。

 その名をテイマーズ&モンスターズとするそのゲームは名前も聞いたことのない企業が製作したオンラインゲームであり、プレイヤーは成長、進化していく魔物達を世話をしながら、時に他のプレイヤーの魔物と戦い、時に他のプレイヤーの魔物と協力し、より強大な魔物を倒すことで、様々な特典を手に入れ、自分や魔物を強化していくというゲームだった。

 その二番煎じ感は否めないながらも、女性用のかわいい魔物や男性用の厨二心をくすぐる魔物といったものや、まるでモデルがあるかのようなしっかりとした世界観が多くの人々を魅了し、また、ソフトの料金以外の月額料金を払う必要がない基本無料制も相まって口コミやネットの影響で大ブームを引き起こしていた。





*********



「急げ、急げってな!!」


 20××年夏の朝、日本の某県某市某所。そこでは一人のワイシャツを着て黒髪をアシンメトリーにした少年が必死に自転車を漕いでいた。

 少年の名は木津原葉月きつはらはつき、某県の私立高校に通う17歳の少年である。


「楽しみで寝れねえとか小学生かよって思っていたが、案外バカにできねえもんだな~」


 漕ぐ足を止めることなく自転車を走らせながら葉月は呟く。彼が現在進行形で自転車を漕いでいるのは全てはワクワクして寝れなかったため学校に遅刻しそうであるという事実に収束されていた。


「それにしても長かったが、やっと今日始められるんだよな!!う~、学校サボりてぇ!!」


 葉月は重度のゲーマーである。そんな彼はとある事情で今まで大流行中のゲームであるテイマーズ&モンスターズを手に入れることが出来なかった。だが、今日彼は念願のゲームを手に入れる目処がたったのだ。そのため彼は興奮し、前日眠れなかったことも相まって、自然と独り言が増えていた。


「本当特待生制度じゃなきゃ通えないとはいえ、皆勤であることを義務づけられてなければサボるんだけどな…っと着いた~」


 気づくと高校の入口が見えてくる。葉月は急いで自転車を駐輪場に止め、鞄を片手に駆け出す。時刻は始業5分前。教室が二階にあるものの、走れば十分間に合う時間だった。


「しゃあ!! セーフッ!!」


 廊下で友人達と挨拶をしたりしながら駆けたので時間ギリギリだったが、何とか間に合う。担任が来て無いことを確認し、それから自分の席に座る。すると、前の席の友人が声をかけてきた。


「おはよう、葉月。ずいぶんギリギリだね。またバイトかい?」


「はよ~っす健吾。いや今日はただの寝坊だ。やっとテイマーズ&モンスターズが手に入るんでな。ワクワクしちゃってさ」


 前の席の工藤健吾くどうけんごは高一からの友人で、葉月の事情も知る親友とも呼べる位置にいるメタルフレームの眼鏡をかけた細身の少年だった。


「ああ、葉月もテイマーズ&モンスターズを始められるんだね! ならもし第1サーバーだったら今度勝負しよう!!」


「もちろんだ! すぐに追い付いてやるからな!!」


 テイマーズ&モンスターズは始めに3つの国家を選択し、そのどれかに所属しながら魔物と育てる為の土地をもらい、魔物を育て、功績を積み上げていく。

 今のところそういうことぐらいしか葉月は知らない。だが、葉月にはそれで十分であり、後は何とかなるだろうとたかをくくっていた。葉月は説明書を読まずに始めるタイプの人間だったのだ。


「お~っす!!ホームルームを始めるぞ~」


 健吾と話しているうちに始業の鐘が鳴り、担任である20代後半の男が入ってくる。

 体つきは鍛え上げられておりいかにも厳つい顔をした男であるが、この担任もテイマーズ&モンスターズをやっている。なんでも見た目通りの厳つい巨人系を使っているとか、恋人がいない寂しさを紛らわすために女性の妖精系を使っているなど色々な噂があるが、本当に恐ろしきは誰がやってもおかしくないと思わせるテイマーズ&モンスターズの知名度の高さなのだろう。

 ふと葉月がそんなことを考えているとーー、


「~以上でホームルームは終わりだ。…それと木津原!! 昼に教員室に来てくれ」


 不意に葉月が呼ばれる。一瞬、身に覚えが無いから戸惑うが、直ぐに彼は理解する。逆に身に覚えが無いからこそ呼ばれるのだと。


「葉っちゃん。はよ~。朝から呼び出しなんて大変だね~」


「おはよ、祐希。どうせ叔母さんの呼び出しだろうよ。毎回こんな呼び出し方だからな」


 担任が去った後、葉月の斜め前、健吾の隣に座っていたショートカットの小柄な少女、小泉祐希こいずみゆうきが話しかけてくる。彼女とは中学からの腐れ縁で、やっぱり葉月の事情を知っている人物だった。


「理事長先生も心配しているんだよ~両親が居なくて独りで葉っちゃんが寂しくないか~とか」


「ほんと、実の親より親らしいよなあの人は………あ、そういや祐希。俺も今日からテイマーズ&モンスターズを始めるからよろしくな!!」


「うん! 健ちゃんとの会話を聞いてたから知ってる! 第1サーバーだったら私のモフモフ達が相手になるよ~」


 祐希は嬉しそうに答えた後、別の女友達と話始める。

 彼女は人当たりの良い性格と小動物的な外見と相まって、クラスの中では男女問わず人気者だった。

 そんな彼女を眺めていると、1限目の始まりを知らせる鐘が鳴り、それとともに教師が入ってきて授業が始まったのだった。





ーーそんなこんなで時間が過ぎ代わり映えの無い授業を過ごした後、昼になる。葉月は購買でパンを買い、健吾と教室で食べた後、担任のいる教員室に向かった。


「ちぃ~す。呼び出しの件なんすけど~」


「おお、木津原悪いな。だが、今回も用があるのは俺じゃないんだ。すまんが何時もの理事長命令って奴だ」


「ええ、そんなことだろうと思いましたっす。本当いつもお疲れ様です。あの人のワガママ聞いてもらって」


「いや、雇用主には逆らえねぇよ……っとほら、さっさと行かないとてぐすねひいてあの人が待ってるぞ」


 担任が指差す職員室から理事長室に繋がる扉が開けられ、そこから誰かの手が手招きしている。葉月はそれを見てため息をついた後、担任に頭を下げて、理事長室の方へ向かって行った。





「………で? 今日は何の用ですか叔母さん?」


 理事長室に入り、葉月は椅子に座る人物と向き合う。そこにいたのは葉月の母親の姉である50代始め位の女性だった。


「こらこら、学校にいるときは理事長と呼びなさいと言っているでしょう葉月? 公私混同をするなといつも言っているのに何でそういうところで親に似るのかしらね? 」


「へいへいすみませんね、どうせ俺は息子を置いてきぼりにどこかに消える無責任な二人の息子ですよっと」


 皮肉げに片手を振りながら返事を返す葉月。突然蒸発した両親のせいで苦学生としての生活を強いられている葉月にとって、両親の話題は出して欲しくない話だった。


「ふう、可哀想な事になっているのは十二分に承知しているけど、あんまりあの二人を責めるような言い方はダメよ。あの二人だって貴方に会いたくて頑張っているのだから」


「………はい?」


 思いがけない理事長の言葉に固まる葉月。一方理事長はしまったという顔をしていた。


「叔母さんは二人が何処で何をしているのか知っているのか!?」


「………ま、まぁ、あれを送ってきたと言うことはもう秘密にする必要はないと言うことよね。でもしまったな…“そんなんだからアンタには遊び心が足りないのよ”とか言われるのが目に浮かぶわ」


 葉月の質問に答えを返すことなく眉間に手を当ててブツブツと独り言を話す理事長。それから、葉月の方に顔を向ける。


「………とりあえず質問の答え代わりに今日ここに呼んだ理由であるこれを渡しておくわ」


「これは?」


 理事長から葉月に渡されたのはブレスレットのような白い円形の金属具だった。外側の白の中に金文字で何かが描かれている。


「それは通行証らしいわよ。それ以上は今は秘密。………あ、そうそう葉月。貴方テイマーズ&モンスターズは持っているのかしら?」


「いや、ちょうど貯金が貯まったから今日の帰りに買おうと思ってたとこだけど……」


「………そう。ならちょうどいいわ。金は必要だからとっておきなさい。代わりにこれをあげるわ」


 そう言って、理事長は机の引き出しから何かを取りだし葉月に手渡す。それはーー


「テイマーズ&モンスターズのソフトじゃねえか!? 良いのか叔母さん??」


「ええ、それはその腕輪と共に貴方に渡すよう貴方の両親に頼まれていたから問題ないわ。……何でもその腕輪を着けてゲームをすれば、道は開かれる。手紙にはそう書いてあったわ」


「道? それが通行証が云々の話なのか?」


「どうも、そうらしいわね。後は自分の目で確かめなさい。あの二人が何処で何をしているのか。何で消えたのか。恐らく答えはそこにあるはずよ………っとちょうど鐘が鳴るわね。そろそろ戻りなさい」


 理事長の言葉と同時に予鈴が鳴る。その音を聞きながら葉月は最後に一つだけ尋ねる。


「………なぁ、叔母さん。……アイツ等は、バカ親達は俺を見捨てたわけじゃなかったのか?」


 葉月の問いに理事長は少し言葉を詰まらせた後、


「………少なくとも、私に言えるのは、あの二人は貴方の近くにいれない事情があって、私に協力を要請してたってことくらいかしらね」


「……そっか。ありがと」


 呟くような言葉とともに葉月は腕輪とゲームを持って理事長室を出て行く。

 その背中を見送った後、理事長はふぅっと息を吐いて、呟く。


「まったく、“独りでも強く生きていくために生活支援はすんなよ”とか親が言うセリフかしらね。まぁ、実際、葉月も立派に育ったし、結果オーライかもしれないけど」


 これといった装飾品もない理事長室の机の上にある木彫りの鳥のようなモノを撫でながら彼女はさらに言葉を続ける。


「それにしても、楽園計画。ゲームと異世界をリンクさせ、新たな世界の創造か…私もあと15年若ければなぁ」


 理事長が木彫りの鳥を掲げ、眺めながらため息をつく。

 掲げられた木彫りのモノは鳥の顔をしているものの、身体は強靭な四肢を持ち、尻尾の代わりに蛇が生えているというまるで幻想上にしかいないような生き物の姿をしていたのだったーー





*********



 今日はバイトの予定も入っていなかった葉月は午後の授業を半分聞き流しながら過ごし、剣道部員として部活に向かう健吾と別れ、一人帰宅する。

 帰りにスーパーに寄って、買い出しをしていると、ふと小声で話声が聞こえてきた。


「………奥さん知ってます? あそこの男の子、両親が子供置いて夜逃げしちゃったらしいですわよ」


「………いやいや、何でも二人共何か犯罪を犯して服役中だとか聞きましたわよ」


 ひそひそと囁かれる根も葉も無い噂話が葉月の耳にも届いてくる。

 葉月が声のするほうへ目を向けると、そそくさと二人の主婦が逃げていく。

 …それを見ながら、葉月は思う。叔母さんは庇っていたが、やはりこういう話を聞いてしまうとあのバカ親達は一度締め上げないと気が済まない。

 余りにも突然消えてしまった両親のせいで、行き場の無い思いがずっと胸の中で燻っているのを感じながら、葉月は帰路へつくのだった。




「ふぅ、到着っと」


 買い出し袋を前かごに載せ、葉月は家であるマンションに着く。まだ家族が健在だった頃に買われたマンションは一人で住むには些か広かった。

 そして、4階まで階段を上り、その階の内の1つの扉に鍵を挿し、扉を開ける。


「ただいま~っと」


 返事のないことを知りながらもつい癖で言葉を紡ぐ。

 たまに隣の小娘が勝手にくつろいでいたりするが、今日はいないようだ。そんなことを考えながら葉月はパソコンの電源を入れ、部屋着に着替える。ついでにコーヒーでも飲もうかと湯を沸かしていると、パソコンの起動が終了した。


「さて、インストールっと」


 ゲームのパッケージを開け、ディスクを取り出し、インストールを始める。

 動き始めたパソコンを見てから、葉月は説明書の触りの部分を読み始める。詳しい操作は説明書を見ずに覚えるつもりだが、どんなことが出来るかくらいは読んでおくべきだと思ったのだ。


「ふうん。ずいぶんいろいろ出来るんだな」


 魔物を育成し、戦わせていくのは勿論、ある程度までの条件をクリアすれば、未開の地に町を作りNPCノンプレイヤーキャラクターを住ませる箱庭生活的なことも出来るらしい。その他にもゲームを始めた段階で個人個人に【タレント】と呼ばれるゲームの手助けになるものが与えられ、それを駆使して魔物達とともに成り上がって行くことが出来るなど、興味が引かれることが沢山書いてあったが、特に目を引かれたのはゲームをするのに時間制限があることだった。

 これは、廃人プレイを廃止し、日常をちゃんと過ごすために最長でも6時間までで一度強制ログアウトされ、12時間以上のインターバルが置かれるというシステムで、このゲームが有名になった理由でもあった。


「ま、後は成るように成れだよな」


 そう葉月は呟きながら、湯が沸いたようなので、説明書を閉じてコーヒーを入れにキッチンに向かう。

 ついでに、今日の夜の仕込みをしておこうと思い、米を研ぎ、炊飯器に入れた所で、ちょうどインストールが終了したという音が鳴った。


「お? 終わったみたいだな。じゃあ早速やってみますか!!」


 コーヒーを手にリビングにあるパソコンの元に向かう葉月。

 その時、ふと叔母から受け取った腕輪のことを思い出す。


「………バカ親達の元へと繋がる道か…、こんなんで何が出来るっていうんだ?」


 鞄から腕輪を取り出し眺めてみる葉月。

 ぱっと見、白さと金文字の装飾が特徴的な腕輪にしか見えない。だが、試しに腕にはめてみると、ピッタリとはまる。

 それを疑問に思いながら、葉月はコーヒーカップを片手にパソコンを見、テイマーズ&モンスターズを起動する。するとーー、


「なんだぁ!?」


 突如、パソコンの画面が光輝く。その溢れんばかりの輝きに葉月は思わず目を背けると、ちょうど腕輪が目に入る。

 するとそこには、金の装飾が腕輪から浮かび上がり、


“Welcome”


と宙に描かれているのを葉月は見た。

 そしてその光景に驚愕するのを最後に、葉月の意識は消えていったのだったーー。





*********



「………何処だここ??」


 光に包まれ、意識が消えた葉月が次に目を覚ました時、そこにあったのは家にいては絶対見られないような木々の並ぶ森の中だった。

 葉月はそれを見て夢でも見ているのかと思うが、その左手には未だ湯気が立ち上るコーヒーの入ったカップを持っていることに気づき、驚く。

 そのまま、カップに入ったコーヒーを飲むが、それが与えてくれる苦みと熱さがこれは夢でないと物語っていた。


「いや、夢じゃないならなんだよこりゃあ…本当に現実なのか?」


 呆然とした状態のまま呟く。

 周りに誰もいる気配は無く、ただむなしく響くだけかと思ったその時ーー、


「ええ、ここは夢では無く現実です。まぁ、理想や目標という意味では夢なのかもしれませんが」


 不意に葉月の後ろから声がかかる。驚き振り向く葉月の目に映ったのはーー、


「木津原葉月様でよろしいですね? ようこそ。 テイマーズ&モンスターズの世界に。ようこそ。神の望んだ楽園に!!」


 執事服を身に纏い、黒目の代わりに赤い目を爛々と輝かせる。黒い長髪の女が立っている光景だった。

 どうも前作に行き詰まったダメ作者のらいったです。


 前作に懲りて内面とかシンプルに行こうと思ったのですが、やはりくどくど書いてしまったり(泣


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