アンチヒーロー
英雄《ひでお》は都内の高校に通うごく普通の生徒だ。否、生徒だった。
今、世界中の注目を浴びている謎の覆面ヒーロー、ジャスティス。その正体が英雄本人なのである。
勿論、正体をバレていない。このご時世、正体などバレたのなら、連日のマスコミからの取材、様々な機関から研究の対象として引っ張りだこに違いない。世界の平和を守る前に、自分の平和も守らなければならない。
誰にも褒められず、見返りもなく、日々悪と戦う毎日。
だが、そこがかっこいいのだ。
ヒーローは孤独なのだ。
そんな僕らの味方、ジャスティス。今日はテストという強大な敵と戦わなければならない。
ここ最近、悪との戦いで本業である学業がさっぱりな英雄は、なんとしても、この敵を倒さねばならない。
徹夜覚悟で勉学に励んでいた時分、英雄の頭に激しい痛みが。
この痛みを英雄は、バッドシングと呼んでいる。悪が出す波長が英雄の頭を刺激する。
また今夜もか。
そして英雄は夜の街に繰り出す。
昨晩のナイトウォーカーの戦いで、勉強はおざなりになってしまった。
ナイトウォーカーは強さ自体、そんなに大したことないのだが、深夜に行動するのが厄介だ。
こっちにだって、生活がある。
人間、夜は寝るのだ。
でも、弱音を吐かない。
なぜなら、ヒーローだから。
だから、ヒーローはかっこいいのだ。
ヒーローは日夜戦わなければならない。
英雄は、今数学のテストと戦っている。
こいつは強敵だ。
なにせ、昨日予習をしてる暇などなかったのだから。
微分積分、ベクトル解析。
昨晩戦ったナイトウォーカーのほうが、英雄には優しい。
ナイトウォーカーとの戦いを思い出しながら、窓の外を覗こうとした瞬間、英雄の頭に激しい痛みが。
うう、これはバッドシング。
眼を凝らして、悪を探る。
校門の方に一人の女子生徒が。
遅刻をしたのだろうか?急ぎ足で校舎に向かう生徒の背後に、悪の気配が。
眼を凝らす。
ジャスティスアイ。
英雄の視力はなんと3、0もあるのだ。
見えないものなどない。
だが、悪の姿が見えない。
英雄は気付く。見えないだけで、悪はそこにいる。
あいつはきっと、スケルトン。
眼には見えない悪なのだ。
このままではあの子が危ない。
今すぐ助けに行かなければ。
しかし、目の前の強敵も倒さなければならない。
第一、この場から立ち去ることが出来るのか?
先生にはなんて言えばいい?
テストの時間内に戻ってこれるのか?
スケルトンは悪ランクD。
大体の戦闘所要時間は二十分ぐらい。
どうあがいても間に合わない。
しかし、あの生徒を助けねば。
悶々としながら、窓の外を見ていると、案の定、女子生徒は殺されてしまい、昇降口が血で真っ赤に染まった。
鳴り響く、終業チャイム。
白紙のテスト用紙。
後日返却されたテストは勿論赤かった。