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第七話

 「きゃああああああああ!!!」


 私はいきなり引っ張られるような圧力に襲われた。

影の触手が後ろから伸びてきていたのだ。

 いきなり事態に三人共ジョーカーから目を離し、私の方を見た。

すぐさま由良さんが私の事を助けに、触手を鎌で両断してくれた。が、由良さんは私が触手から解放されると同時にジョーカーに蹴り飛ばされた。

 強く地面にたたき付けられ、由良さんは吐血した。


 「由良!!!!!」


 斉藤君が由良さんに駆け寄ろうとした瞬間、ジョーカーは由良さんを蹴った足でそのまま斉藤君を踏み潰した。


 「ぐはっ!!!」


 地面が割れる。

斉藤君はその衝撃を全身で受けた。


 「くそっ!!」


 緒川君は触手に追われていた。

一瞬で2人もやられてしまったが、幸い彼女の鎌があった。

 走りながらそれを拾おうとする。だが緒川君がその鎌に触ろうとした瞬間、その手は鎌をすり抜けてしまった。

彼はそのまま避けて走り回ったが、右足を触手に捕らわれそのままつかまった。

 なんと言う事だろう。

ほんの数分前まで追い詰めていたのはこちらだったのに、一気に形勢が逆転してしまった。

 私の所為で、皆が危険な状態になってしまった。

ジョーカーの顔が向こうで笑っている。

 あの状態で笑っていた。

由良さんは気絶し、斉藤君は踏まれたまま、そして緒川君は影に捕らわれてしまった。


 「う、あああ!!!」


 緒川君が苦しそうに悲鳴を上げた。

触手が彼の体を締め上げ、つぶそうと圧をかけているのだ。

 このままでは、数分と持たないうちに緒川君はつぶされてしまうだろう。

いま、自由に動けるのは私しかいなかった。

 ジョーカーは私を見向きもしない。

多分、ジョーカー自身は私の事などまるで興味がないのだろう。

 悔しい、私は今、力の無い自分を呪いたいと思った。

私ではジョーカーを倒せない。

 悔しい…


 「花井…逃げろ」


 緒川君が不意にそう言った。

また同じ事を言われた。

 

 -逃げる?

-逃げない?


 簡単な選択肢。

どちらをとるべきかなど明白。

 でも、私はとりたい方の選択を選んだ。


 「逃げたくない!!」


 私は由良さんの落とした鎌に向かって走り出した。

ジョーカーはそんな私の行動になど何の興味を示さなかった。

 私は鎌を持とうと何度も手を伸ばすが、その鎌は私の手をすり抜けるだけで触れる事すら出来なかった。

 先ほど緒川君が触ろうとした時もすり抜けたように見えたのは幻覚などではなかったのだ。

 触れない。


 「花井…その鎌は…ソーマ体で出来…てる」


 斉藤君がつぶされたまま私に話しかけてきた。息をあまり吸えない状態のため、言葉が途切れ途切れではあったが、私の耳ににはちゃんと聞こえていた。


 「ソーマを…使えない…お前には持て…ないはずだ」

 「そんなのって…」

 「緒川の言うとおり…今のうちに…この場から…離れろ」


 皆、私に逃げろと言う。

だが、こんなピンチの時に誰かを置いて逃げられるわけが無い。

 私はずっと守られてばかりいた。

皆勝手だ。私一人だけいつも置いてけぼりにして…

 あの人も……

でも皆に守られてばかりじゃ駄目なんだ。


 「皆勝手だよ。ここに居ろとか、逃げろだとか。私は守られてばっかじゃない…」

 「……」

 「花井…」 

 「私だって友達を守るためなら戦うよ。一人でなんて逃げられるわけないじゃない!」


 私はまた鎌を掴もうとする。

相変わらずすり抜け続ける鎌はまるで笑っているようだった。


 「無理だ」

 「最初からあきらめてんじゃないわよ。そんなの…やってみなくちゃわかんないじゃない!!!!」

 「お前じゃ…触れない」

 「何がソーマよ。何が無理だよ。皆は命懸けて戦ってんのに私だけ蚊屋の外?」


 すり抜ける手が心なしか遅くなってきた。

つかれてきてしまったのあろうか。

 そんな場合じゃないのに!


 「私だって命くらい懸けるよ。此処で何も出来ずに誰かが死ぬのを見るくらいなら…死んだほうがマシ!!」


 そう叫んだ瞬間、私の周りの景色が一瞬ゆがんだ気がした。

初めて感じる感覚に包まれたような気がして安心する。

 私はまた鎌を掴もうとして手を伸ばす。

そこにはさっきまで無かった感触を伝える物が存在していた。

 私は鎌を持てたのだ。

軽い、非常に。まるで重さを感じないその鎌は切れないものなんてない気がした。









 「なんでだ?」


 俺は目を疑った。ソーマ物質はソーマを使える者にしか触れない代物であったはず。

彼女はただの人間。

 ソーマなんてものを知らないのに、今目の前で少女はソーマを使っている。ソーマ体で出来ている由良の鎌を持っている。

 俺にとっては信じがたい出来事だった。

なんでそんな事が出来るんだ?

 なぜそんなにお前は必死になれるんだ?

わからない。

 俺はこいつの事を少しなめ過ぎていたのかも知れない。

花井は、弱くなんて無い。









 「花井…?」

 「緒川君、今助けてあげるよ」


 私は鎌でジョーカーの触手を軽くなぎ払った。

触手から開放されて咳き込みながらも緒川君はジョーカーをにらんでいた。

 

 「助かった。花井…」

 「下がってろなんて言わないよね」

 

 私は彼の言葉をさえぎり指を指を立てた。


 「なにもやらないで見てるだけなんて、嫌」

 

 彼はそのまま何も言わなかったが私を見て笑いながら一言だけ言った。


 「本当に言う事聞かない奴だな」


 そう言い彼はジョーカーの腹部にとび蹴りを入れた。

そのまま倒れこむジョーカー。

 開放される斉藤君。

斉藤君はすぐさま由良さんに駆け寄り、そのままジョーカーから距離をとった。

 

 「さて、ならさっさと片付けるか」

 「うん」


 私達が構えると影は立ち上がり体中から黒い煙のようなオーラを出した。

黒く黒く染められる体はそのまま広がり、そのオーラが消えた頃には今まで与えた傷がなくなっていた。

 千切れとんだ左手も、首も完全に元に戻っていた。


 「ええ!?」

 「元々影に実態なんて無いんだろ。これくらい最初から出来たんだろ」

 「じゃあ…」

 「相手にとってもこれがラストってことなんだろ」

 「ぐおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!」


 ジョーカーは一際大きく雄たけびを上げる。

緒川君はその首を狙って蹴りを出したがジョーカーは右手でそれを受け止めた。

 そのまま左手で緒川君を殴ろうとするが、私が鎌でその左腕を切り落とす。

だがすぐにその左腕は回復し、今度は私に触手が伸びてきた。

 全て凪ぎ切る私、鎌は本当に軽く、私の手の動きに完璧にあっていた。

緒川君がジョーカーの右手を掴み、それを踏み台に高く飛び上がり、落下の速度を利用して右手でパンチを繰り出した。

 私が両腕を切り落とし、それが回復する前に彼の右手がジョーカーの額に入る。


 「「よし」」

 「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉおお」


 確実にダメージが入った。

だがジョーカーはまだまだ倒れる気配は無い。

 

 「がぁぁあああああああああああああああああ!!!!」


 地面をたたきつけその衝撃が襲ってくる。

衝撃波。

 私達はジャンプして避けるしかなかった。

緒川君は高く飛べるが、私は本当にただのジャンプ。

 ジョーカーは私に蹴りを繰り出し、緒川君に触手を伸ばした。

私はその蹴りにあわせて鎌を縦にスイングし、ゴルフさながらにジョーカーの足を切り落とした。

 空中で触手に捕らわれる緒川君。

私は緒川君を捕らえている触手を薙ぎ払い、緒川君は解放される。

 

 「おおおおおおおおおおお!!!!」


 緒川君が着地した瞬間、ジョーカーは両腕で私達を連続して殴りだした。

私はその手を全て切り落とすが、ジョーカーはお構いなしに殴り続ける。

 ぎりぎりのところで腕が届かないのでこの攻防が続いたが、緒川君がジョーカーの後頭部に蹴りを入れたため、影の攻撃の手が止んだ。

 すかさず両足を切り、ジョーカーのバランスが崩れたところに緒川君のオーバーヘッドシュートがその頭を飛ばす。サマーソルトキックと言うやつだ。

 本日二回目の首が飛ぶ。

だが、ジョーカーの首はすぐに戻り、再び私達を攻撃してきた。

 

 「なんで!?」

 「多分、核ってのを破壊しなくちゃいけないんじゃないか?」

 「核?脳とか?」

 「分からん」

 「じゃあ脳味噌狙いで」

 「そんなセルじゃあるまいし」

 「いいから試すの!」

 「はいはい」


 緒川君が腹部にパンチを入れ、くの字に曲がったジョーカーの繰り出す両腕を切り落とす。

 

 「Chance!」

 「行くぞ!」


 緒川君を踏み台にして私が切り飛ばした頭を緒川君が地面にたたきつけた。

つぶれる頭部。

 しかし、すぐに回復した。


 「脳じゃないんだ」

 「くそ、埒が明かねぇ」


 ジョーカーはすぐさま攻撃して来る。

私達はそれを避けるが、ジョーカーは触手を体中から出して襲ってきた。

 黒い物体が次々と伸びてくる。

私はそれを切り落とすが、数が多く足元を取られてしまった。

 そのまま逆さに吊り上げられたが緒川君に助けられて地面に放り出された。

緒川君はそのままジョーカーに攻撃を加えるが、その攻撃した部分から触手が放たれとうとうつかまってしまった。

 すぐに助けようとするが触手の量が多すぎてまるで近づけない。

触手で黒い壁が出来ていた。

 私がここにいる間にも緒川君はジョーカーに締め上げられている。

私は焦った。

 何度も鎌を振るが、切られてもすぐに別の触手が道をさえぎる。


 「そんな……」


 緒川君------

私はその時、我を忘れていたのかも知れない。

 やけに自分の心臓の音が大きく聞こえた。

嫌な汗が垂れる。

 どうしたらいいんだろう。

触手の壁が厚過ぎる。

 回復速度に追いつけない。

ならもっと速く、鎌を振れれば?

 でも、そんなこと出来ない。


 -自分を信じて-


 どこからか声がした。

やわらかくて優しい声。

 透き通った綺麗な声。


 -あなたが願えば、あなたが望めば、あなたが想えば-


 声が聞こえる。

誰もいないのに、頭の中に響く。


 -ソーマは与えてくれる-


 心に響く。


 -ソーマを、自分を信じて-


 私の目の前に一瞬だけその声の主が見えた気がした。

綺麗な長い髪は水のように透き通った色をしていて、その顔には笑顔------


 私は鎌を振った。

わき目も振らず、たたなにも考えず。

 緒川君を助けたいとだけ想いながら。

触手の壁はすぐにその姿を消した。

 私はそのまま緒川君を捕まえている触手を切り、ジョーカーと対峙した。

後ろで開放された緒川君が咳き込んでいた。

 こいつが、ジョーカーがいるから。

緒川君が傷ついた。

 由良さんを傷つけた。

斉藤君を傷つけた。

 高谷君を、クラスの友達を傷つけた。

こいつの所為で。

 私は鎌を振るった。

なにも感じなかった。

 鎌は相変わらず軽い、遠心力を利用して切り、その重心をそらしてそのまま次につなげば切る速度はどんどん上がった。

 一振り、二振りと加速していく鎌。


 「全ての生命が迎える」


 私の口をある言葉がついた。


 「死と言う迎えるべき友を」


 あの人が創った詩を。


 「受け入れし人々の想いを受け継ぐ」


 私の大切な友達の詩


 「我、あの花より」


 私は影を切る。


 「願わくば」


 私は詠う。


 「安らかなる眠りにつかんことを-」


 私の想いを。


 「『彼岸花』!!」


 気がつけば私はジョーカーを切り刻んでいた。

核は完全に消失し、ジョーカーはドッペルゲンガーと同様に闇に溶けるように消えて行った。

 これで本当に終わった。

私の手から鎌が落ち、私もそのままへたり込んだ。

 腰が抜けたのだ。


 「花井!」

 

 緒川君が走り寄ってきた。


 「大丈夫か!?」

 「うん。緒川君は…?」

 「大丈夫だ」

 

 緒川君からそう聞いた瞬間、私は後ろに倒れこんだ。

それを抱きとめてくれた緒川君と私の目が合う。

 

 「大丈夫じゃないじゃん」

 「えへへへへへ…そだね」

 「笑ってる場合かよ」


 全く。と付け足して彼も笑い出した。

やっと見れた彼の笑顔。

 私はそのまま彼の腕の中で意識を失った。









 目を覚ますと私は緒川君に背負われていた。

初めてジョーカーと緒川君が対峙しているところを見た川の辺、日はもう完全に傾いて綺麗なオレンジ色に染まっていた。

 彼はなにも言わず歩いてた。


 「緒川君?」

 「ああ、気がついたか」

 「あれ?ここは?」

 「まぁ聞きたいことは山ほどあると思うが花井、まず俺の話を聞いてくれ」

 「?」

 「花井、結構胸でかいな」

 「最低ーーーーーーーーーーー!!!!」


 私の声が近所に響いた。








 私達は川の前に腰を下ろし、話し合った。

私が気を失った後、斉藤君は私のことをすごいとだけ言い残して由良さんを抱えて帰ったそうだ。

 あの人にすごいと言われるとは…


 「当分ジョーカーのことは心配しなくていいみたいだ」

 「え、なんで?」

 「ジョーカーは虚の集まりって言ってたろ。集まってあの存在になるにはそれなりの期間が必要なんだと」

 

 確かにあんな化け物がほいほい出てきたら困る。

これは朗報ととってもいいのかな?


 「ってか最後の花井すごかったな」

 「なんかもう無我夢中で」

 「いきなり詩なんて読み出すしさ」

 「あ、アレはその。たまたまだよ」

 「彼岸花ってい詩なのか」

 「うん」

 

 本当に静かで気兼ねない時間が流れた。

ただ緒川君にはこういう時間はいつぶりなのだろうと思うとこの時間は大切に思えた。


 「それはそうと花井」

 「うん?」

 「ありがとう。お前のおかげで助かった」


 緒川君は頭を下げて言った。


 「俺は今日で本当は死ぬつもりでいたんだ」

 「…………」

 「お前がいてくれてなかったら多分俺は死んでた」

 「気にしなくていいよ」

 「それと、出来ればでいいんだが…」


 緒川君は顔を赤らめながら視線をそらす。


 「これからも、仲良くしてくれると…その、うれしいんだが…」

 「……」


 その言葉を聴いてなんとなく私はうれしくなって、顔が少しにやけてしまった。


 「あ、いや。嫌なら別に構わないんだが…」

 「構うよ」


 ちょっと前に、私はここで緒川君に拒絶されたが、今は友達として求められた。

断る理由なんて無い。


 「;F;フローラ…」

 「え?」


 私が言うと緒川君は首をかしげた。


 「ラテン語で『花の女神』。私の正式名称」

 「花井:フローラ;恵?」

 「そう」

 「フローラ…」

 「日本じゃこんなの恥ずかしいでしょ。誰にも言わないでよ?」

 「え?」

 「大切な友達にだけ私の本名を教えるの。私。」


 その言葉を聴き、緒川君は笑う。

私も笑う。


 「いい名前じゃないか?」

 「でも恥ずかしいからメグって呼んで?」

 「メグ?」

 「昔はそう呼ばれてたの」

 「そうか…」


 緒川君は立ち上がりこちらに手を差し出してきた。


 「じゃあ、メグ」


 彼は笑っている。

この二週間、私は彼の笑顔を一度も見たことが無かったが、彼は今、笑っていた。


 「友達から」


 そう言う彼の手をとり、私も立ち上がる。

握手をする形のまま私も笑顔で言う。


 「友達から」


 太陽は黄昏、見る景色は緋色に染まり、少し、また少しと暗くなっていくなか。

私は生涯で一番の友達を一人得た。

 大切な縁。

彼にとっても大切な縁になったであろうこの出来事を、私は一生忘れないだろう。




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