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第四話

 「昨夜未明、紅梅市の二丁目に住む赤木 智代(56)さんが上半身と下半身を引き裂かれると言う非常に悪質な惨殺事件が発生しました。この事件に対し、警察は…」



 休日の日曜日、4月17日の夜。私はそのニュースを見た。

入学してからすでに二週間が過ぎ、明日で三週間目に突入する。

 クラスは相変わらずで面白おかしいのだが、彼-緒川 優斗-だけは相変わらず人目を避けるように一人で過ごしていた。

 皆もそれを知りながら出来るだけ関わらないようにしているのがよくわかった。

これまではそうだった。

 この日このニュースが流れるまでは-











 「ちょっと、なんであんた此処に居るのよ!?」


 4月18日月曜日、あのニュースを見た次の日に事件は起きた。

教室に入るといきなりそのような怒号が聞こえたので私は驚いて鞄を落としてしまった。

 教室を見ると普段は見向きもしない緒川君を十数人の男女が取り囲んでいる光景が映った。


 「何のことだ?」

 「しらばっくれるな、化け物!」

 「昨夜のニュース、近所のおばさんが死んだアレ、あんたが犯人なんでしょ?」

 「はぁ?」

 「あんなことあんた以外に誰が出来るって言うの?」

 「違う」

 「どうしてそんな嘘が言えるの!?」

 「また人が一人死んだんだぞ!」


 また……?


 「あの死に方、高谷君の時と同じじゃない!!」

 「!!!」

 「高谷やおばさんを殺しておいて知らないってのはどういうことなんだ!!」

 「…………」

 「おい、何とか言えよ!」


 なんかすごく白熱している……事情をまだ飲み込めていない私は自分の席につき。その光景を見ていたが、私があの中に入ることは許されないような雰囲気だった。

 と言うか……またって……?


 「ど、どうしたんですか。皆さん?」


 いつの間にか先生が来ていてこの状況に混乱していた。

生徒の目が先生に集まる。

 すると緒川君は手提げの鞄を持ってつかつかと先生のところまで行き。


 「先生、早退します」


 と言った。


 「どうしました、体の調子でも悪いのですか?」

 「そんなところです」

 「はい、わかりました。お大事に」

 「どうも…」


 緒川君はそれだけ言うとさっさと教室から出て行ってしまった。

閉まるドア。静まり返る教室。

 空気が重たい……私は緒川君を助けるどころか話しかけることすら出来なかった。

その後、緒川は逃げたのだのとか汚い野次が所々でとびかったが、そんなことはどうでもよかった。

 私は涙を流さないようにするのに必死だった。

状況は全くわからない。皆の言う高谷って人と緒川君に何があったのかは知らない。

 だけど、こんな状況で緒川君はどう思っているのだろう。

皆に嫌われ、何を感じているんだろう。

 影が在るだけでまるで全てを敵に回しているようじゃないか。

彼の心情を想像しただけで胸が苦しくなる。

 どうしたらいいんだろう?

泣くのだけはだめだ。それこそ彼を侮辱すると思う。彼は同情なんて求めていない。

 求めていたらあんな行動はしないだろう。彼は強い。

私は、わからなくなって悲しくなった。

 自分のことじゃないのに、無性に悲しくなった。




 





--俺は歩道を走っていた。

家まで急いでいた。俺が本気で走れば車を簡単に抜かすことくらいはわけは無い。

 周りの景色はどんどん後ろに流れていく。

自分に影を取り戻してから、俺の身体能力は爆発的に伸びた。いや、伸びたというより体自体に何か大きな変化があったのかも知れない。これじゃあ化け物と言われても仕方が無い。

 本当に不可解な変化だから。

でも、影を取り戻してからとんでもない化け物に狙われるとは思わなかった。

 本物の化け物。ドッペルゲンガーは俺とと同じ姿かたちをしていたが、あいつは全く違う。体は真っ黒で大きく、目だけが紅く光り輝く姿はまさに化け物だった。

 影の在る者を追いかけ、殺す化け物。

高谷は……あいつに……

 影の在る俺と一緒にいたばっかりに……

クラスの皆の言うとおりだ。

 あの化け物がまた近所に出現した。俺が決着をつけなきゃいけないことだった。

のんきに学校に行っている場合じゃなかった。

 皆にこれ以上迷惑かけられない。俺は、そこにいるべきではない存在だから。

俺が弱いからいけないのに。全部俺が悪いのに。なんで、目から涙が止まらないんだろう。

 早く見つけて、あの化け物を消す。それが俺のいまやるべきこと。

この事実だけ見ろ!前だけ見ろ!そうすれば泣かなくて済む。

 俺は走る速度をさらに上げた。逃げるように。

いや、実際に逃げているのだと思う。俺は、現実から目を背けている。

 自分は一人だと言うことから。

目を背けて、皆のためだと自分に言い聞かせ、卑しくも皆との絆にしがみつくように足掻いて。

 もう友達としての繋がりなんてあるわけないのに、無いものにすがり付いて、その無いものをなくしたくないと言い、見苦しくもいまを生きてる。だけどそれももうすぐ終わるだろう。

 あの化け物、一体どう対処したものか……?

俺はそんな事を考えながら走り続けた--







 


 「ねぇ、今朝のことなんだけど…」


 私は昼休み、緒川君を取り囲んでいた男子の一人に声をかけた。

私の知らないことを知っている気がしたから。

 そしてそれが大切なことなんじゃないかと思ったから。


 「緒川の事か?」

 「うん。前に私が聞いた時には話してない事があるよね?」

 「それは言えないんだ」

 「そんな…」

 「悪いな。そう言う事になってるんだ」

 「どうして?」

 「決まり事なんだよ」

 「なにそれ?」

 「だから…」

 「いい、武志。俺が話す」

 「田中君」

 「いいのかよ田中」

 「ああ、これ以上もたないだろ。もう話した方がいい」

 「ならいいけど…」

 「花井、ちょっといいか?」

 「うん」


 私は田中君に連れられて部室棟の前まで行った。

昼食時ということもあってそこには誰もいなかった。


 「田中君、皆は私の知らない事を知ってるんだよね?」

 「ああ。高谷の事を話してないな」

 「昨日の事件と何か関係があるの?」

 「あるなんてもんじゃないから今日、ああなったんだよ」

 「I Know(やっぱり)

「高谷ってのは去年同じクラスだった奴なんだ。俺と同じでサッカー部に所属してた。足の速いMFミッドフィルダーでな。中学の頃にサッカーやってた緒川と仲がよかったんだ」

 「サッカー…」


 私は昨日の光景を思い出す。

確かに緒川君は化け物を足で攻撃していた。多分中学の頃の名残があるのだろう。


 「でもある日突然いなくなったんだよ。いきなりな」

 「どういう事?」

 「亡くなったって事だよ」

 「あ……」

 「驚いたよ。学校来たらあいつの席が無くなってんだぜ?」

 「……」

 「あいつは昨日の事件のような事態に巻き込まれて、そのままにされたんだ」

 「そのまま?」

 「警察が原因を突き止める事が出来なくて、学校側はこの事件の事を隠したんだ。生徒達に恐怖を与える必要は無いって事にしてよ。でも本当は学校のこれからが怖くなって隠したんだけどさ。こんな事件が起こった事が公になれば入学希望者が一気に減るだろう。結局は上の保身のためさ。学校側はこの大きな問題を隠蔽したんだ」

 「どうやって高谷って人が死んだのを知ったの?」

 「あいつが、緒川が俺達に喋ったんだよ。こんなのおかしいって、人が死んだのにこんなのはあまりにもおかしいって。でもそれを知ってからかな。俺たちは高谷が死んだのはあいつのせいだと思い始めたんだ。あいつの影が高谷を殺した化け物を呼んだんだと。いや、もしくはあいつが、あいつ自身がその化け物の可能性もあるんだ。あのばかげた身体能力ひとつとっても、あいつはもう人間なんかじゃない。化け物だ」

 「そうなんだ……」

 「高谷はな、影が在るからってそんなこと全く気にせずあいつと仲がよかったんだ。むしろ影が在ることを羨ましいとまで言ってたよ」

 「…………」

 「緒川自身も全部わかってるはずだ。誰ともつるまないのはあいつと一緒にいると命が危ない事になるから。これが全部だ」

 「ありがと。全部わかったよ」

 「わかったんなら気をつけろよ?花井が初めて聞いてきた頃に答えなった意味がなくなるからな」

 「え?」

 「鈍い奴だな。だから皆に高谷のことを花井に言うなって決めてたのは俺なんだよ」

 「どうして?」 

 「緒川に影が在ることをなんとも思わない奴だったからだよ。普通なら影が在るあいつと距離を置くが、花井は違ったからさ。皆でそういうことにしたんだ」

 「…………」

 「あいつに関わると危ないから……」

 「うん、ありがとう」

 「え?」

 「心配してくれてありがとう」

 「あ、ああ…」

 「私、今自分でなにがしたいのかはっきりしたよ」

 「そうか…」

 「じゃあ私行くね。話してくれてありがとう」

 「……花井!」 


 私が田中君に背を向けて走り出した瞬間、田中君は私を呼び止めた。


 「なに?」

 「ひとつ聞かせてくれ。お前は何でそこまであいつにこだわるんだ。あいつとは今年からの付き合いだろ?」

 「うん」

 「ならなんでなんだ?なんで皆が避けるあいつにお前はそこまで必死になれる?」

 「……多分…」


 私はまぶたを閉じて田中君に答えた。


 「理由なんて色々言えるし、なんにも無いような気もしているんだけどね。多分、『直感』だと思う」

 「直感……」

 「直感が体を動かすこともあると思うんだ。私ね。緒川君のことに関してだけじゃなくて、こんな世界事態が間違ってるような気がするんだ」

 「…………」

 「だってそうじゃない。こんなのおかしいよ。緒川君はなにも悪いことなんてしてないのに皆に酷い事されてさ。たった一人で泣いてたんだよ?」

 「…………」

 「だから私はなにかしたいの。この世界のことは私にはどうすることも出来ないけど、緒川君のことはなにかしてあげられるかも知れないでしょ?」

 

 私は目を開き、田中君の目を見て言った。


 「出来ることから、やって生きたいの」

 「そうか…」

 「そうなのだ。じゃあね」

 

 私はその場を後にして駆け出した。

これで分かった。何もかも。緒川君が私に言った最初の言葉の意味も。なんで皆私が聞いたときには高谷君の事を話さなかったのかも。

 用は彼は優しすぎたのだ。彼は自分の罪ではない罪まで背負って生きている。

きっと今町中を走ってその化け物を探しているかも知れない。

 自分の中でパズルのピースが埋まっていくのが分かる。

霧が晴れるようだった。どんどん分かる。彼が何をしようとしているのか。

 自分がどうしたらいいのか。

私は鞄を持って急いで教室を飛び出した。

 そして職員室に行き。先生に早退すると伝え、自転車に乗って家に帰った。

多分緒川君は町中をその化け物を探しているのだろう。

 なら私はそれを手伝う必要がある気がした。

間違った選択だとも思う、ただのおせっかい、自己満足。

 でも私がそれをしたいと思った。

だから間違いじゃないと思いたい。

 私は自転車に乗り、そのまま町の中へと走り出した。

本当にあてのない行動だったが、私の直感は間違っていない気がした。









 「え~~、花井さんは体調不良で早退しました」


 五時間目、先生からそう聞いた。

花井の行動力の高さには本当に頭が下がる。

 きっと、いや、ほぼ100%。花井は緒川を探しに行った。

これでよかったのかは俺にはわからない。

 アレだけ皆に「花井に高谷の事は話すな」と言っておいて自分から話すなんて本当に滑稽だ。

 でも、多分これでよかったと思う。

なにかずっと止まっていたものが動き出したような…

 うまくは言えないがそんな気がした。

俺は、いや俺達はこの二年近くあいつを深く傷つけた。

 おれ自身間違ってるような気がしていた。

もしかしたら、俺は花井ならあの緒川を助けられると期待しているのだろうか。

 優しくて、どうしようもなくまっすぐなあいつなら何とかできると思ったのだろうか。

あいつの為に泣けるくらい優しい花井なら。

 だが、なにかがうまくいっても緒川はもう俺達を友達としては見てもらえないだろう。

この二年はあまりにもでかすぎた。あいつにはもう何をされても俺達は文句なんて言えない。

 それだけのことをしている。

もう、俺にはあいつと仲直りする資格なんて無いが、せめて今の状況だけは変わって欲しいと思う。

 多分、こう思ったからあんな行動に出たのだろう。

花井に本当のことを話したのだろう。

 これが…俺の直感だったのだろう。

俺は窓の外をぼんやり眺めながら木の陰を見ていた。

 時間だけが過ぎていく。

俺には特別な力なんて無いが、この時なんとなく分かったような気がした。今日…なにか起きる。








 私は家で動きやすい私服に着替えてからすぐにまた自転車を走らせた。

両親が共働きなのでいつもなら少し寂しい気がしていたが、こんな事態の時にはむしろ都合がよかった。

 紅梅町の中は静かだった。普段ならこの時間は学校にいて、授業を受けているから分からなかったが、町はこんなにも静かだったのかと思う。

 車なんて一台も見なかった。歩行者なんていなかった。

聞こえるのは私の自転車のペダルを踏む音だけ。

 おかしいなんてものじゃない。鳥のさえずる声すら聞こえないのだ。まるで時間が止まっていて、今動けるのは自分だけなのかも知れないと錯覚するほどに。

 家を出てからすでに一時間は軽く経過していると思うのだが、私は今、ありとあらゆる生物との接触を絶たれた、言い換えれば世界に存在しているのは私だけのような気がしていた。

 私は町の中を走り回った。

この前見た川の辺、近所の山の辺り、神社…人の目につきにくそうな所を色々とまわったが、影どころか緒川君にも会わなかった。

 私はそのまま住宅街のに入った。

家が一定感覚で立ち並び、十字路が何本も見える。

 どこを曲がっても家が立ち並んでいる景色だ。

まるで蜘蛛の巣のように入り乱れ繫がっている。

 A地点まで行きなさいといわれたら何通りもの行き方があります。っていえる感じだ。

私は少しだけ立ち止まり休憩することにした。

 本当に田舎だ。景色が穏やかなのも悪くない。

見えるのは家や田んぼ、川の向こうの遠くには高いビル、近くに広場のような公園、そして…十字路の先の黒い影だけだった。









 最初に警戒すべきだった。周りに誰もいないというこの状況をおかしいと思うべきだった。いないというより、気配すら感じない。

 誰もいないこの世界の真ん中に黒くて大きな影。

私はぼんやりとその光景を見ていた。

 大きな影はゆったりと歩いていた。人のような形をしているが目は紅く輝き、とてもおおきく、何かを探すようにきょろきょろしながら歩いていた。周りに誰もいない理由、まだちょっと分からないけどもしかしたら此処は違う世界なのかも知れない。

 私の知っている町をそのままに、待ったく違う世界に迷い込んだのかも知れない。

あんな化け物が存在していたらすぐさま報道されて騒ぎになるはずだ。あんなに我が物顔で道のど真ん中を歩いていていいような生き物じゃない。

 多分あれが昨日の事件の化け物だろう。

私が見つけようとしていたもの。

 緒川君を苦しめている元凶。

私は見つけたのに、緒川君はいない。

 そもそも緒川君はあの化け物をどうするつもりだったのだろうか?

素手でどうにかできるものなのだろうか?

 彼ならどうにかする事も出来るのかも知れないが、少なくとも私にはどうすることも出来ない相手だろう。

 ふと目が合った。化け物と。

コンマ数秒、一瞬だった。私は過すぐに自転車を漕ぎその場から離脱した。

 命の危険を感じる。あの生物は私の敵う相手じゃない。

私は逃げた。振り返って見るが幸い追ってきてはいなかった。

 このまま逃げ切れる。

 そう思った瞬間、私は宙を舞っていた。

何が起きたのか全く分からなかった。

 目に映るのは空と、雲と、大きな影。

油断してた。この化け物にとって私に追いつくことくらい訳なかったんだ。

 私は死を覚悟した。

空中で体制を整えるなんて出来ない。頭から落ちる。

 地面が近くなって目を閉じた私は抱えられるような感覚を味わった。

目を開けると緒川君の姿が映った。



 





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