恋のライバルⅡ
ふぅーと大きく深呼吸。なんだかんだ言って来てしまった王宮
あれ?私、お兄様に会う以外の目的で王宮に来たの初めてかも
とか、どうでもいい事を考えながら気をまぎらわすのはきっと緊張を隠すため
ゆっくりと進んでいくと、こちらに気づいたメイドが頭を下げて出迎える
「こんにちは。レ、レオナルド様に会いに来たのですが・・・」
「ようこそいらっしゃいました。アン様、こちらへご案内いたします」
メイドはレオナルドから何か聞いていたのか、そのままアンを執務室に案内した
「レオナルド様、アン様がお越しになりました」
扉をノックしても返事がなく、もう一度呼び掛けてみたがまた返事がない
レオナルドに今日は一日中執務室にいる、と聞いていたメイドは返事がない事を不思議に思いドアノブに手をかけようとしたが、その瞬間ドアが勢いよく開いた
「ご、ごほん。今は少し手が離せなかったんだ。え〜、と」
ぐしゃぐしゃな髪に半開きの目、そして口から垂れているよだれ
「ジャック・・・あなた絶対寝てたでしょ」
「いやいやいや!そんな事はない!断じてないぞ!って・・・あれ?お前なにやってんだ?」
何って・・・レオナルドに会いに来たなんてのは恥ずかしくて絶対言えない
少し頬を染め口ごもっていると、ジャックはアンがここに訪れた理由を察したらしく急にニヤニヤしだした
「そうか〜、まぁ中に入って茶でも飲んでけよ」
「ここはレオナルド様の執務室なのに、なんでそんなに偉そうなのよ。ところで、レオナルド様は?」
「あぁ、あいつは・・・今ここにはいない。急な客人に会いに行ってる」
眉をピクッと動かしたメイドはくるりと向きを代えアンと向かい合う
「失礼いたしました、アン様。ではそちらの方へご案内いたします」
「ちょ、ちょ、・・・!」
ジャックは慌ててアンの腕を掴み、掴まれたアンもびっくりしてジャックの方に振り向いた
「今は・・・先客中だろ?!そんな所に行ったら相手のお客さんに失礼だ!レオナルドが戻ってくるまでここでゆっくりしてようぜ!?」
どこか必死なジャックを怪しく思いつつも、たしかにそうだな・・・と考えていたらメイドがジャックの前に立った
「失礼いたします、ジャック様。レオナルド様よりのご命令で"どんな急用な会議に出ていてもアン様が来たらすぐに知らせるように"と言いつけられておりますので、そのような事はできません。」
言い返す言葉もなくぽかん・・・とメイドを見つれていると一度ジャックに向かってお辞儀をした
「では、アン様。こちらへご案内いたします」
「え、えぇ」
執務室の前の長い廊下を歩いていくと中庭が見えた。色んな花が咲いており、中心にある噴水がととも綺麗だ
そういえばこの前レオナルド様に中庭を案内してもらったわ・・・
「レオナルド様はどこにいらっしゃるの?」
「執務室にはいらっしゃらなかったので、私室だと思います」
・・・私室!?
レオナルドの私室へ行くと考えるとさらに緊張感が増した
「レオナルド様はこの中庭が大変気に入っておられまして、部屋のテラスからいつも景色を眺めておられるのです」
「そうなの・・・」
そういえば、庭を案内してもらっていた時すごい嬉しそうな顔をして花達の説明をしてた気がする・・・
そんなしっかり覚えてないけどね、だってあの時は早く帰りたくてしかたなかったもの
「着きました、こちらでございます」
大きな扉をノックしようとしたら中から声が聞こえてきた
『・・・・美しいな』
『そう言ってもらえると嬉しいですわ』
『もっと・・・・こちらに』
女の声が聞こえた
妙に甘ったるく、どこかで聞いたことがある声
「レオナルド様、アン様がいらっしゃいました」
すると中から騒がしい音が聞こえ、扉を開いた先にいたのは――――
「あら、お久しぶりね」
「・・・ミランダ様」
「いやだ、私の事はミランダとお呼びになって?アン」
「アン!来てくれたのか!」
嬉しそうな顔、でもどこか複雑そうな顔をして近づいてくるレオナルドに胸が傷んだ
「え、えぇ・・・ですが、私はお邪魔のようですわね」
アンの態度に焦ったレオナルドはそんなことない、と声をあげようとしたがそれよりも早くミランダが口を開いた
「そんなことないわ、私はいつでもレオナルド様と会えるから気にしないで。ではレオ様、今日はこれで失礼いたしますね」
優雅にその場でお辞儀をすると満面の笑みをレオナルドに向け去っていった
その場に立ち尽くしているアンに中に入るように促すが、アンはそこから一歩も動かない
「どうした、そんな所に立ってないで部屋に入ったらどうだ?」
中を覗くと2人分のティーカップに食べ終わったお菓子
アンは何故か胸が悲しくなった
「いえ、私は・・・帰ります」
「え!?せっかく会いに来てくれたばかりじゃないか」
「はい、ですがレオナルド様は仕事で忙しいのでは?」
「そうだが、アンと話すくらいの時間は取れるといっただろ?」
「・・・・私の変わりにミランダ様と喋ってたじゃないですか」
ぼそ、と呟いた言葉はレオナルドには届いておらず自然と顔がうつ向いてしまう
部屋から聞こえてきた言葉がアンの頭で何回も繰り返される
あんな言葉をだだの友達の女性に言うはずがない
だが、ミランダ様の事はなんとも思っていないとレオナルドは言っていた
じゃぁ、あの言葉は何!?
怒りよりも悲しみが胸に広がった
「・・・やはり今日は失礼します」
「ア、アン?」
「この場に来ておいてなんですが、少し体調が優れなくて・・・レオナルド様との約束だから少し無理をしました。また後日お伺いします」
不安そうなレオナルドを納得させるように微笑むと直ぐにその場を立ち去った