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依頼人は雑な男だった。
路頭に迷っていた少女と妹を引き取った。
一見ただの好々爺だが、よくよく彼を眺めた人だけはその眼の冷たさに気づくだろう。
「王子を殺せ。そうすれば妹の薬を一生分、買ってやってもいい。」
少女は二つの眼でじっと奴の顔を見つめた。妹は屋敷の中に寝かされているらしい。もう随分長いこと顔を見せてもらっていない。
「学校にだって行かせてやろう。」
黙っていた。
「ふざけるな。」殴られた。蹴られた。
「妹を殺してやる。」と脅された。
仕方がないので従った。
殺せというなら王子の姿絵くらいは見せなさいよ。思ったけど口には出さなかった。
これまで一度も通してもらえなかった、屋敷の中に連れて来られる。
依頼人は書斎の扉をきっちり閉めて鍵をかけた。
からくりが施された箪笥を開け、なにやら包みを取り出して寄越した。
包み紙を解くと、黒光りする小銃が姿を現した。
「最新のものだ。お前の命などよりよほど高価だ。」
冷え冷えとした眼で睨まれる。
「失敗してみろ、どうなるか。」
少女は息を飲む。恐怖で指先ひとつ動かせない。
「これからも妹と暮らし続けたいのなら、万事上手くやることだ。」
頷くことしかできなかった。
***
屋敷の奥へ連れて行かれる。
身体を洗い、ごわごわする動きにくいドレスを纏い、ヒールを履かされた。なにやら熱いもので髪をいじられ首やら耳やらにいろいろ付けられる。
鏡を見て驚く。
自分が自分でないようだ。
依頼人は少女の変貌にも眉ひとつ動かさず、少女を馬車に詰め込んだ。
馬車の中から城を眺める。
月明かりに照らされて白く光っている。
珍しい造りで、城の周囲にはぐるりと回廊が巡らされている。それをずっと辿ってゆけば、やがて城の頂上に辿り着くのだ。
少女はなおも城を見つめる。
藍色の空を背負って白光りしている。
城は、螺旋を巻いた貝のようだった。
***
王子は崩れ落ちた。
硝煙の匂いが鼻を突く。
腹を押さえた手から赤いものが滲み出していた。
痛みによる涙でぼやけた視界に、唇をわななかせてこちらを見つめて銃を構える少女が映る。
男は叫んだ。
「逃げろ!」
少女は弾かれたように飛び出した。
天を仰ぐ。
ステンドグラス。冷たい月。
数時間前、出会ったときの彼女を思い出す。
不安に揺れる眼。
桜色のかわいらしい唇。
そして、ダンスのときにそっと触れた。
体温の低い、冷たい手。
君に殺される。
そんな最期なら、それもまた一興かもしれない。
周囲の喧騒を他所に、男はゆっくりと眼を閉じた。




