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それから少女は幾人かの男と踊った。
一人目はダンスが下手で、事あるごとに足をぶつけてきた。
二人目は口下手で、黙っていた。相手が話さないので、少女も黙っていた。
三人目は会話もダンスも申し分なかったが、ダンスにかこつけて胸を触ってきたので、最後まで踊らずに逃げ出してきた。
***
少女は庭園にいた。
噴水の縁に腰掛けて、物思いに沈んでいる。
白い肌が暗闇に照らされていた。
木々に吊るされた灯りが幻想的な眺めを醸し出す。
少女は、これまでのこと、これからのこと。そして、自分に課された任務について考えた。彼女はどうしてもそれをやり遂げなくてはならなかった。
背後からの気配に振り向いた。
「またお会いできましたね。」
最初に踊った男だ。
少女は顔を赤らめた。
「さきほどはどうもありがとう。おかげで助かりました。」
「それほどでもありません。」
いまや、互いに惹かれあっているさまがはっきり見てとれる。他人の眼など気にしていられなかった。
「ホールで食事が供されています。何か口になさいましたか。」
「いいえ、まだ。」
「鶏の香草焼きが大層美味です。シェフのお得意ですから。」
「そうなのですね。まだ残ってるかしら。」
少女は男の腕にするりと自分の腕を絡めた。城と庭園を隔てていたガラス扉を抜けて広間に戻る。
彼が姿を現すや否や、侍従が駆け寄ってきた。
「ああ、王子!ここにおいででしたか。」
侍従は男を王子と呼んだ。
少女は、底なしの暗がりに転落していくような気がしていた。
***
少女は暗澹とした気分だった。
男は懸命に話し掛けたが、何を聞くにも生返事。どこか遠くを見ているようだった。
「どうかしましたか。なにか心懸かりがおありでしょうか。」たまらず男は尋ねた。
「ごめんなさい。」
少女は虚な眼で呟いた。
「十二時には帰らないといけないの。」
なおも男は食い下がった。
「たしかに、あまり遅くなると御家族も御心配なさるでしょう。誰かを供につけて送らせましょうか。」
時計の針は、十一時五十八分を指していた。
「ねえ、あなたは王子なんでしょう。」
「はい。」
少女の頬に水滴が一筋垂れる。
「あなたが王子じゃなきゃよかったのに。」
発砲音がした。




