5.古書店のとある本
「吉本さん、現場に同行してくれないかな?」
柊さんの一言で本日の仕事が決まった。
昨日、一件の相談依頼が入った。依頼主は古書店の店長。年老いたその方は、一冊の本を手に持っていた。本人の話によると、
「本の文字が読めない?」
「正確には頭に入らないそうだね。」
読もうと視界に入れても頭の中から滑る。内容を理解する前に、滑り落ちていく。だからいつまでもこの本を読み終えることができない。
「それ依頼主が読めないだけじゃないの?ほら、結構な年齢だったし。」
「如月さーん、それ言ったら俺も結構な年齢ってことになりますね〜。」
「あら、もう御堂は定年退職の時期なのかしら。」
車内に2人の笑い声が生まれる中、手元にある資料に目を落とす。頭から滑り落ちるってどんな感覚なんだろう。依頼主が本を持ってきた時、御堂さんも読めなかったらしいし…。ちなみに御堂さんからストップをくらい、私は本に触れることすらしていない。
「しかも、古書店から離れないと。」
「試しに事務所へ来た時に預かったんだけどねぇ。今日の朝、確認したら無くなってたよ。」
「だから急行してるってことね。」
売っても預けても店に帰ってくる本。不思議なこともあるものだな。窓の外に視線を移し、日差しに目を細めた。ああ、今日も外は暑そうだ。
車の外に出ると、日差しが肌に突き刺さる。アスファルトからの照り返しで肌が痛い。如月さんは日傘を持参してるし、御堂さんは運転の時からサングラスをかけている。私も何か持ってくればよかったかも、と後悔し始めたところで目的地は現れた。
ビルとビルの間にぽつんと佇む古書店。古めの建物から歴史を感じる。入り口から入ると、本特有の匂いが私達を迎えた。
「いらっしゃいませ、お待ちしておりました。」
少し腰の曲がった白髪のおじいさん。腰掛けている椅子は、この人の指定席なんだろう。隣には読みかけの本が置かれていた。御堂さんは「昨日ぶりです〜。」と緩やかな声で挨拶をしている。
「初めまして、庚の如月と申します。」
「所沢と申します。よろしくお願いします。」
如月さんに倣って私も名前を言い、頭を下げた。こちらを見て微笑む依頼主…所沢さんは優しい顔つきだった。少し緊張していた心がほぐれたのを感じた。周囲をきょろきょろ見ていた御堂さんが、ところで、と口を開く。
「帰ってきてますよね?」
「はい。今朝、そちらに。」
しわくちゃの指がさした先は本棚。如月さんと近づいてみると、そこには昨日、事務所で見た本が存在していた。
「なにこれ、側面が真っ白じゃない。タイトルも作者名も書かれてないの?」
「表紙にも書かれてないよ。だけど中身だけは文章がある。」
読めないけどね、と御堂さんは肩をすくめた。ふぅんと相槌を打った如月さんは、依頼主に断りを入れて、本棚からそれを取り出した。ジェルネイルが施された指先が、ページを捲る。静かな室内にぱらぱらという音が際立った。
「…読めないわね。」
皺を寄せた如月さんは本を閉じた。彼女も読めなかったらしい。どんな感じなんだろう、とさらに謎は深まった。そわそわした私に気づいたのか、御堂さんがこちらを見て薄く笑う。
「紗枝ちゃんはダメだよ。」
「…わかってます。」
「ン、よろしい。君はすぐに共鳴するからね。」
共鳴?
御堂さんはそれ以上、話すことは無いようで視線を依頼主に戻した。
「この位置に必ず戻るんですか?」
「はい。他の本棚が空いていても、必ずその位置に。」
「ここに他の本が並んでいたら?」
「他の本は弾かれた様子で床に落とされてます。」
そして所定の位置に白い本が収まっている、と。改めて聞いても不思議な話である。如月さんが本を戻しながら聞いた。
「この本は何回か購入されたのよね?」
「ええ。どこからか噂を嗅ぎつけた何人かが…。」
でも、と依頼主は眉を下げた。
「次の日には、必ず戻ってくるんです。」
ーーー誰かの手に渡るのを拒んでるみたい。
「拒む、ね。」
「え。」
「紗枝ちゃん、口に出てたわよ。」
あっ。自身の口を抑えるがもう遅い。完全に無意識だった。きょろりと周りを見渡すと、所沢さんはぽかんとしているし庚の2人はなにか考えているようだった。てっきり御堂さんには注意されるか笑われるかと思っていたばかりに、少し拍子抜けしてしまった。
「所沢さん、これ暫くは購入されないようにお願いできるかしら。」
「ええ、勿論です。」
「それで、何かあれば必ずこちらに連絡を。」
御堂さんが庚の連絡先が書かれた番号の紙を渡して、「それじゃあ失礼します。」と言った。あれ、今日は特に何もしないのか。如月さんは依頼主に何かを渡した。それは小さな包み紙だった。
「庚の職員が清めた塩が中に入ってます。念のため、これを肌身離さず持ち歩いてくださいね。」
それでは、と微笑んだ如月さんが入り口に向かう。私も慌てて依頼主に頭を下げ、その背中を追った。
店を出た時、なんだか無性に離れ難く感じた。
「依頼主はシロなのよね?」
「真っ白だよ。怪しい点は一切ナシ。」
車に戻ると、2人の話が始まる。私はそれを黙って聴きながらシートベルトを装着していた。御堂さんは白川さんに書類を渡した。
「随分あの店は歴史があるのね。外観からも感じてたけど…へぇ、代々継いでるんだ。」
「でもそれも今代までらしいねぇ。」
「えっ、閉められるんですか。」
あんなに素敵な場所だったのに。
「売上も落ちてるようだしね。そもそも本自体も電子が発達してるから、新規獲得も難しいんじゃない?」
そっか…何だか勿体無いなぁ。御堂さんの合図で動き出した車に身を委ねながらそう思った。
「じゃ、私は直帰だから!お疲れ様〜。」
「お疲れ様です。」
「おつかれ〜。」
意気揚々と改札に向かう姿に首を傾げる。
「如月さん、何かあるんですかね。」
「推しのライブらしいよ。」
へぇ。推しがいるのか。どうりで今日は大荷物だったし(車に荷物をたくさん詰め込んでた。)いつもより身嗜みにも気合を入れてた。朝からの疑問が晴れて少しスッキリする。
動き出した車はこのまま事務所に戻る。そして私も今日は退勤だ。すっかりと日が傾いてきた空を眺めていると、御堂さんが口を開いた。
「紗枝ちゃんってさ。」
「はい。」
「本、好きなの?」
「本ですか?」
そう、本。御堂さんは運転したまま尋ねてきた。突然何なんだ。内心疑問に思いながら、「あれば読みますけど。話題のやつとか。」と答えた。
「ふーん、そっか。」
「何なんですか、急に。」
「いやさぁ、さっきの店が無くなるって聞いた途端、すごく分かりやすく落ち込んでいたから。」
好きなのかなって。
御堂さんの言葉に、あれ?と思った。確かに。私、何であんなにも残念だと思ってるんだろう。
「……まぁ、歴史ありそうな場所でしたし。」
「ふーん、そう。」
だから勿体なく感じた。きっとそうだろう。
息が詰まる。耳鳴りがする。いつかの時のような、そんな感覚。いつかっていつだったっけ。その感覚に少し苦しみながら、沈んでいく思考を感じていく。
ぱちりと開かれた視界では綺麗な白い指が本の表紙をなぞっていた。視界の隅で、三つ編みに結われた黒髪が揺れている。
ああ、こんなにも素敵な物語は初めて。私の心に触れたのは、はじめて。ねぇ、どうしたら私だけのものになってくれるの?他の人の元へ行かないで。ずっと私だけのものでいて。ここにいて。変わらずに、永遠に、ずっとーーーーー。
最後の言葉は聞こえず、意識は浮上した。
「……夢?」
古書店に行った日に見るなんて、タイムリー。
「おや。」
「あれ。」
偶々見つけた喫茶店。そこに入ると窓側の席に見覚えのある人物がいた。古書店の所沢さんだ。頭を下げると皺々な手が私を招いた。
「こんにちは。」
「こんにちは。庚の方でしたよね?」
「そうです…あ、でも私はアルバイトですけど。」
「もしよろしければ。いかがですか。」
手が差す方向は、向かいの席。相席か。したことないけど、店内も少し混み合ってるし良いかもしれない。お言葉に甘えて腰を落とす。すかさずやってきた店員へ注文を伝えたあと、しんと沈黙が落ちた。
「今日はお店、お休みなんですか?」
沈黙が少し気まずくて、聞いてみる。所沢さんは頷いた。
「ええ。今日明日は休みにしているんです。」
「そうなんですね。お休みの日も、本を読まれてるんですね。」
「はい。読書はもう、毎日の一部になっておりまして。本の虫、というやつですな。」
「素敵です。」
机に置かれた単行本をそっと撫でる手は、とても優しい手つきだった。その姿になぜか自然と口元が緩んだ。
運ばれてきたカフェオレは、香ばしくて良い香りをしている。口に含むとミルクとコーヒー豆のバランスが絶妙でとても美味しい。ブレンドとも悩んだけど、こちらで正解だった。
「こちらへは、よく来られるんですか?」
「初めてです。」
「そうでしたか。私は家が近いもので、度々お邪魔しております。ここは、メロンクリームソーダも美味しいですよ。」
「メロンクリームソーダ。」
「はい。」
白い髭を揺らして、少し茶目っ気に笑う。てっきり、コーヒーを好みそうだと思っていたけど、メロンクリームソーダも好きなのか。なんだか意外…可愛らしいな。心がふわりと温かくなり、自然と笑顔が生まれた。
「是非、飲んでみます。」
「へえ!すごい偶然もあったものね。」
週明け、如月さんの推し活について聞いていた時。「紗枝ちゃんは何してたの?」と聞かれ、依頼人と偶々会ったことを伝えた。開かれた瞳はカラーコンタクトの色味をしっかりと映し出している。
「そのあとは奥様から連絡がきて、すぐにお店を出られたんですけどね。」
まだ全て読みきれてないのに、と眉を下げて帰り支度を始めていた。なんでもこの後は奥様の買い出しの荷物持ちをしにいくとか。「困った妻です」と言いながらも、どこか嬉しそうな表情だった。
会話もそこそこに切り上げ、出来上がった資料を印刷するために腰を上げる。コピー機のある場所へと向かい、印刷されていく用紙を眺めていると、隣から「ねぇ」と声をかけられた。御堂さんに「はい」と返す。
「紗枝ちゃんってどの辺に住んでるっけ。」
「…え、急になんですか。桜木町あたりですけど。」
「そうだよね〜。じゃあさ、本町町あたりにはよく行くの?」
本町町は、古書店のあるところ。そして喫茶店も。
「いえ、先週の依頼で初めて行きました。」
「だよね。結構家から距離あるもんね。」
「まぁ…。」
「じゃあさ、」
なんで週末にその町へ行こうと思ったの?
「……なんで、ですかね。」
なんだか行きたくなったんです。
黒々とした瞳が、すうと細められる。見つめられる視線にどくんと胸が跳ねた。続く沈黙に、意味が不明ゆえの不安が募っていく。私、何か変なこと言った…?そんな私か、周囲の空気を見かねてか、自分のデスクから様子を見ていたらしい、如月さんが「紗枝ちゃん」とその沈黙を終わらせた。如月さんはにこりと笑って言った。
「今日、古書店行って、あの本を読んでみよっか。」
「…ちょっと、如月さん。」
「御堂、車出して。紗枝ちゃん、私たちは先に下に行くから10分後に降りて来れる?」
「だ、大丈夫です。」
「ありがとう。ほら御堂、行くわよ。」
半ば強引に御堂さんの腕に手を回して、事務所を出ていく。呆気に取られていると、新しく奥の部屋の扉が開かれた。
「吉本さん」
柊さんはいつもの笑顔をこちらへ向けた。眼鏡越しに見える瞳は、少しだけ開かれている。
「いってらっしゃい」
はいと声が震えてしまったのは、不安か高揚感かそれとも、別の何かか。
***
「お待ちしておりました。」
古書店の依頼人ーーー所沢さんは、私達を見て駆け寄った。まるで待ち侘びていた人が訪れたかのように。いや、実際はそうなんだろうけど。というか、今日は元から来る予定だったのだろうか。唐突に思えたけど、所沢さんの様子では予定していた出来事だったらしい。如月さんは「いえ、お待たせしました。」と微笑んでいる。車内からずっと沈黙を守っている御堂さんに、違和感を覚えつつも、如月さんの話に耳を澄ますことにした。
「それで、奥様のご様子は?」
「変わらずです。」
奥様。何かあったのだろうか。首を傾げていると、如月さんはくるりと後方へ目を向けた。つまり、私へと。
「この店は、明治初期から建てられたの。ひっそりと建てられてから、本が好きな人達には憩いの場所だったようよ。」
「代々長子に受け継がれていて、今代は所沢さんの奥様が店主の血筋。昨日から少し調子が悪いみたい。婿入りの所沢さんは今のところ大丈夫だけどね、渡したお塩は灰色よ。奥様のお塩なんて、もう真っ黒。」
「でもどうなっても、来月にはこのお店は閉められることは決まった。ここにある蔵書達は各所に寄付を予定しているそうよ。もちろん、あの本も。」
「さぁ、どうする?」
綺麗に彩られた唇が弧を描いた。
確かに私に向けられて言っているはず。言葉の意味がわからない。
はずなのに、きぃんと耳鳴りがして、そのまま体が動き出した。
心の赴くままに。本がたくさん並ぶ店内をまわる。古書店特有の香りに胸が躍る。そう、私は本が好き。だって本は色んなものを教えてくれるから。綺麗なものも、汚いものも。全部。ページを捲るたびに、私の知らないことが広がる。世界が、広がる。
「『ああ、おまたせ。』」
ぴたりと足を止めた。
目の前には、白い本。私はそれを知っている。いちばんのお気に入りの物語。私以外、触れないで。立ち入らないで。この物語に。
「『ようやく会えた。またあなたに触れられるなんて、夢みたい。やっぱりあなたはここに、存在し続けることが相応しい。そしてずっと、私と共にあるの。』」
「形あるものは存在する場所を変えて、いつかは無くなる。必然の摂理だよ。」
「『だめ、だめ。そうやってなんでも奪ってく。どうして奪うの。』」
ああ悲しい。胸が引き裂かれたように痛む。冷たい水が頬をつたっていく。ぎゅうと本を胸に抱えた。奪われないように。これ以上、とられたくない。お願い、とらないでよ。
「貴女はそれで良いのかしら。」
「ひとつのところに留まるものは、いつかは廃れていく。多くに知られることなく、ただひとりのみに知られて、ひっそりとね。逆に多くの関わりを持ったものは、たとえその存在がなくなったとしても、たくさんの人の中で生き続けていくでしょう。」
「素晴らしい物語だったのでしょう、貴女の恋人になるほどに。とられたくないのね。…だけどそれは、貴女の恋人から存在証明を奪い取っているのと同じじゃないかしら。」
私が?
奪い取っているの?誰から?
…愛しい本から?
ほとりと涙が床へ落ち、同時にかくんと足から力が抜けた。薔薇の華やかな香りが私を包みこむと、古書店の香りが段々と遠ざかっていく。なぜかそれがとても悲しくて嫌だった。
「きっと、奪い取られる悲しみを知っているのよね。こんなにも強い思いを抱くほどに。それを愛しい存在に同じ思いをさせて、良いのかしら。貴女はそんな存在を許せる?」
許せない。許したくない。
奪い取られるのは、殺されることと同じこと。
だから守りたかった。ただ、それだけ。
「大丈夫よ、まだ間に合うわ。守りましょう、この本を。」
…でも離れたくない。離したくない。
「あら、ずっとそばにいるじゃない。貴女がこの本を覚えている限り、貴女の頭と心のそばにいるわよ。」
だから、覚えていなさい。
離したくないなら、貴女の頭と心に刻み込んで、しっかりとね。
ちょきんと何かが切れる音がした。
ぱぁんと弾けた。
後日談。
買い出し後から鬱々としてしまい、涙が止まらなかった奥様は調子が戻ったようで、元気に過ごされているようだ。お店は順調に閉店の準備が進められており、本達も様々な引き取り手に渡っているとか。そして、件の本。
「ばっちり清めておきました〜!」
「さすが妹尾ね。」
痕跡がべっとりと残っていたとのことで、妹尾さんがお清めをした後に、また別の古書店へと渡ったらしい。所沢さん曰く、「あちらのお店は、私の友人が営んでいて、とても良いお店です。」とのこと。ちなみに古書店自体のお清めは、如月さんと御堂さんで行った、らしい。というのも、全て後に聞いた話。なぜなら私はあの日、古書店でまたもや気を失ってしまったので。如月さんから事後報告を受けたのだった。
「それにしても愛してるから独り占めしたいって…本にそんな感情が湧くんですねぇ。」
「それくらい大切なかけがえの無い存在だったのよ。」
彼女にとっては。
彼女。
如月さんの言葉にふと脳裏によぎるのは、三つ編みの女の子。ある日の夢の中で、彼女は愛おしそうに本を撫でていた。きっと彼女にとってはあの本が人生の全てで。妹尾さんがお清めをした後で、無事に読めるようになった本を試しに読んでみた。それは私にはなんの変哲もない、ただ、良い物語だったねといえる。だけど、彼女にとっては深く琴線に触れた存在だったのだろう。
気を失って、目が覚める前。
ぼんやりとした意識の中で現れた彼女は、暴れそうになる独占欲や自分から離れてしまった悲しみを抑え込みながら、あの本の存在証明を奪い取るまいとしていた。
「人間が救われるのは、必ずしも人間によってじゃないのよ。もちろん、恋愛の対象もね。」
難しいですねぇと妹尾さんが唇を尖らせた。
「手に入れたいなら、購入すればよかったのではないでしょうか。」
小野さん、それを言うか。言ってしまうか。
リアリストというかなんというか…な発言に、御堂さんが大きく笑った。
「小野くーん、買いたくても買えない事情があったのかもしれないよ?時代も時代だし、なにかあったのかもしれないね〜。あの店に存在していることにも意味や魅力を見出してたようだし…まぁそれはもう、本人にしか分からないことだけど。」
「はぁ…。」
小野さんはあまりパッと来ていない様子だ。現に今も首を傾げている。全てを知ろうとしなくて良い、本人の思いは本人だけのものだ。彼女にしか分からない。
ただ、依頼は解決した。白かった本は、霧が晴れたように表紙が現れ、文字も頭を通過する。あの本はこれからも色んな人の目や手に触れて、存在していく。いつかは消えてしまっても、きっと残り続けて、自信に刻みつけた人のそばで生き続ける。それで良い。
ちらりと御堂さんを見た。小野さんを揶揄う姿は、いつも通り薄っぺらい笑顔を浮かべて軽口を叩いている。
『形あるものは存在する場所を変えて、いつかは無くなる。必然の摂理だよ。』
あの時の御堂さんの声は、低かった。彼女の気持ちが溢れ出しそうになった時、ちょきんと聞こえた音はどこか冷たく感じた。
御堂さんのことが、どこか恐ろしく思えた。
誤魔化すように、缶のメロンクリームソーダを飲む。炭酸の抜けたそれは甘ったるくて、美味しくなかった。




