結城憲護と云う秘書
土屋と結城が議員会館を走って出て来る。
「おい、土屋! タクシーを捕まえろ」
「ハイ!」
土屋は右手を挙げタクシーを停める。
二人が乗り込むと結城は運転手に、
「林さん、経産省ッ! 今日は半日付き合ってもらうよ」
結城は運転手に名刺を渡す。
運転手は渡された名刺を見て、
「秘書サンですか」
土屋は小声で結城に、
「知ってる方ですか?」
「メーターの上を見ろ」
「・・・あ~あ、さすがですね」
結城は土屋を蔑んだ目で睨む。
タクシーが経産省の前に止まる。
正面玄関からは多くの人が出入りしている。
「林さん。ここで少し待っててくれる」
「ハイ。頑張って下さい」
「あいよ!」
結城の調子の良い返事。
結城と土屋は省内の廊下を歩走りに歩いて行く。
結城は土屋の靴を見て、
「土屋、待てッ! 」
「ハイ」
「オマエなあ、靴ぐらい磨けよ」
「え? あッ、ハイ」
土屋はしゃがんでハンカチで靴を拭く。
「それと、そのネクタイ!」
「え?」
「曲がってるぞ」
「あッ!」
ガラス窓に自分の姿を映し、ネクタイを直す。
結城はそれを見て呆れた顔で、
「あのな~あ、これから会うヤツは偉い人なんだ。ビシとしろ、ビシと」
「ハイ。すいません」
暫くして、結城と土屋が経産省の正門から走って出て来る。
二人はドアーの開いたタクシーに飛び込む。
「林さん、次、財務省」
「ザイムショウですね。はい」
結城は隣りに座る土屋を睨み、
「おい」
「ハイ」
「受付嬢の前でニヤニヤしてるんじやない! 副大臣の秘書だぞ」
「え? あッ、すいません」
土屋は結城に奇妙な事を質問する。
「結城さん・・・」
「何だ」
「先ほど経産省の日高課長補佐の話しの中で『デンジレン』て言ってましたね。何の事ですか」
「電事連? 電気事業連合会だ。電気屋の一番偉い連中が居る所だ。ここは特に大切な所だから覚えて置け」
「はい」
「・・・この辺を揺らすと『葉っぱ』は落ちて来る」
「ハッパ?」
結城は土屋を睨んで、
「葉っぱって言ったら分かるだろう」
「ひょっとして、アレですか?」
「アレだ」
タクシーは財務省の前に停まる。
運転手が、
「財務省の正門です」
「おう、着いたか。林さん、ここでまた待っててくれる」
「ハイ、気を付けて下さい」
「あいよ~」
結城は相変わらずリズミカルな返事である。
つづく