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意思確認の面接

 応接室のドアーが開いている。

金井代議士(通称は本人と云う)は、この時間は党本部での幹事長を交えての朝食会のため不在である。

結城憲護(第一秘書・政策秘書)が上座の代議士用ソファーに深々と座っている。

採用を許可された土屋政人と二回目の面接中である。

結城は傲慢な上から目線で、

 「土屋くん。前回の面接の続きだが君はジバン、カンバン、カバンと云う言葉を聞いた事があるね」

 「は?」

 「 ハ? って知らないのか?」

 「いや、聞いた事は有りますけど」

 「ならハイと答えなさい」

 「あ、はい」

結城は暫く土屋をニラむ。

そして、

 「・・・昨今はその三文字以外にメディア、いわゆる媒体の活用が有る」

 「ああ、SNSですね」

 「? なんだ、その答え方は」

 「あッ、すいません」

結城はまた土屋を睨む。

 「・・・キミは理屈っぽい性格だろう」

 「いえ、あッ、まあ。はい」

 「? どっちなんだ」

 「あッ、いや、はい」

結城は首を傾げ、怪訝ケゲンな顔で土屋を見る。

松永(松永笑美子・事務員 兼 秘書)がケヤキの盆にお茶とコーヒーを載せて、ヒラいている応接室のドアーをノックする。

 「コンコン。失礼します」

結城は松永を見て、

 「おう、松永くん。キミにも紹介しておこう。土屋政人くんだ。今日からこの事務所でバリバリ働いてもらう。ナッ!」

結城はソファーから中腰に立ち上がり、テーブルを隔てて小さく固まっている土屋の背中を力強く叩。

 「バンッ!」

気合いを入れられた土屋は一瞬、前のめりに。

急いで態勢を整え起立。

 「あッ、土屋政人です。宜しくお願いします」

松永は爽やかな笑顔で、

 「松永です。宜しくお願いします。頑張って下さい」

松永はテーブルの上にお茶、コーヒーを置いて丁寧に会釈して応接室を出て行く。

土屋は松永の後姿に見惚れている。

それを見て結城がキツイ口調で、

 「どこを見てる」

 「あッ、いえ、まあ」

結城は土屋のまどろっこしい応対に声を荒げて、

 「どっちだッ!」

 「まあ」

 「ま~あ?」

結城は呆れた顔で土屋を見る。

そしてテーブルの上に置かれたお茶とコーヒーを見て、

 「・・・君はお茶かコーヒーか?」

 「あ、はい。じゃ、お茶で・・・」

 「じゃ、お茶で?」

 「あ、いや、お茶で良いです」

 「お茶で良いです?」

 「あッ、すいません!」

 「お茶でよろしいです」

結城は土屋を睨みながらコーヒーカップを取り、ブラックでコーヒーを一口、口にする。

 「・・・旨い。君も飲め」

 「エ? あ、はい。頂きます」

土屋はお茶を口にする。

結城は土屋を見てコーヒーカップを置く。

 「君の応え方は時間が掛かるな」

 「は?」

 「ハではない。ハイだ!」

 「エ? アッ、はい」

結城は更にキツい口調で、

 「声が小さいッ! アもいらないッ!」

 「ハイッ!」

結城はまたコーヒーのカップを取り一口。

 「・・・出来るじゃないか」

土屋は結城をそっとノゾき、

 「ただ・・・」

 「タダ? ・・・何だ」

姿勢を正し、

 「これからの政治はシッカリとした国民への説明責任が必要じゃないかと・・・」

 「うん? ・・・裏金の件か? ・・・君は出馬したいのか?」

 「あ、いや、そんなあ~」

土屋の弱気な言葉に、

 「ウンな事は国民が考える事だッ! 秘書はメ・カ・ケ!」

 「メカケ?」

 「メイシ、カバン、ケジメ! メ・カ・ケだ。余計な事を考えないでハイハイと答えていれば良いッ!」

 「あ~あ、それでメカケですか。なるほど」

 「ナルホド? 何だその応え方は」

 「あ、すいません」

 「スイマセン?」

土屋は萎縮して、

 「・・・はい」

結城は声を荒げる。

 「声が小さいッ!」

土屋は声を張って、

 「ハイッ!」

結城はまたコーヒーを一口、口にして、

 「・・・君は国会議員秘書の仕事を知らないだろ」

 「ハイッ! 分かりません!」

急変した土屋の対応に、

 「うん? ・・・うん。まあそれで良い。・・・で、議員秘書の仕事とはな・・・」

すると事務室から松永の声が、

 「結城さん、一番に本人(代議士)からです」

 「ホンニン?・・・あいよー」

 「全くウルセーなあ」

結城はイブったげに立ち上がり代議士用のテーブルの上の受話器を取る。

 「はい、結城です。・・・来てます。・・・やってます。・・・はい。・・・はい、分かりました」

結城は受話器を置いて席に座る。

 「で、何処まで話したっけ?」

土屋が姿勢を正し、

 「ケです」

 「ケ? ケか。そうだ。そのケだ。秘書の仕事は陳情処理、ツナぎ役。あとはそのケだ」

 「ケはさっき話したケジメじゃないのですか?」

結城はまた声を荒げて、

 「違う! ケアーのケだ」

 「ケアー?」

結城は怪訝な顔をして土屋を睨み、

 「・・・君はケアーを知らないのか? 早稲田の法を出てるにしちゃボキャが不足してるな。ケアーとは世話だろう」

 「あ~あ、そのケですか」

 「そうだ。そのケだ。他にあるか?」

 「いや・・・」

結城は真顔になり、

 「ケにはケジメ以外にもう一つのケ。その裏毛が大切なんだ」

 「ウラケ・・・」

 「それが今言ったケアーだ。ケアーとはこの世界では世話焼きと聴き役の事を云う。議員の鬱憤ウップンのハケグチだ。簡単に言うと怒鳴られ役だな。自分の人格なんか吹っ飛んじまうぞ」

 「えッ、そんなに怖いんですか」

 「怖くは無い。ただ、・・・ウルセー(うるさい)んだ」

                           つづく

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