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舞姫~エリス~

エリスの家にお泊り。

美少女と楽しい楽しい夜が始まった。そんなことを考えていた。

しかし気付けば朝になっていた。


「あれ?」


わたしはエリスの部屋のベッドで目が覚めた。


「あ、サイリさん目が覚めたんですね。おはようございます」

「あ、うん。おはよう?」


部屋の隅でエリスは着替えをしていた。

どうやら一瞬で眠りに落ちていたようだった。

自覚のないくらいに疲れていたようだ。

夢も覚えていないほどぐっすりと睡眠を貪っていた。

体調はすこぶる元気になっていた。

一緒にエリスがいたおかげかな?

誰かが近くに居る安心感が睡眠の深さに影響を与えているようだ。


「わたし、いつの間に寝てた?」

「昨日、ご飯を食べて、お風呂に入った後、ベッドに案内したら、そのまま寝ちゃいましたよ?」

「まじか……」


やっぱり自分の体感以上に疲労が蓄積していたようだ。エリスがいて良かった。

独りだったら、いつともどこともしれないタイミングで倒れていただろう。

そのエリスはちょうど着替え中。

下着姿だった。

ミルクのような白い肌にライトグリーンの下着の映えること映えること。

エリスは背は大きくないけれど、姿勢が良い。

身体は細くても美しい体幹をしているから小さく見えない。

身長自体はわたしと同じくらいだけど、エリスの方が視線が高い。

なんて美しいんだろう。

その立ち姿は朝日より眩しい。

下着姿のエリスは初日の出のように拝みたくなる神々しさだった。

わたしはその後光を浴びてベッドにうつ伏せになる。

五体投地の姿勢をとる。


「どうかしたんですか?」


エリスはわたしの謎行動にうろたえていた。


「朝から素敵なものを見せて頂いたので、こちらも礼を尽くさないといけないのです」

「はい?」


エリスは小首をかしげてよく分かっていないことを表現していた。

まぁ、そうなるよね。

と、そんな冗談はさておいて。

わたしも着替えよう。

今は、昨晩エリスに借りた寝巻を着ている。

わたしはエリスから昨日着ていたセーラー服を受け取る。

どこかの学校指定と思われる紺色セーラー。

ものの一分で着替え終わる。

ポケットに拳銃ピートガンも忘れない。


「では、行きましょうか」


エリスとこれから二人で、わたしの家に行くことになった。

どうやらこちらの世界に転生したとき、一人に一軒の家が与えられているらしい。

その家に生活に必要な物は全て置いてあるのだとか。

大抵の人はこの世界に来た時に教えてもらえることなのだそうだ。

しかしわたしはあの家での探索はあまりせずに町に出てきてしまったから、必要な物資に気が付かなかった。

あの家をもっと調べるのが正着だったようだ。

結局わたしが持ってきたのは拳銃一丁だけ。

このままではこの世界で生活できない。

というわけでわたしが家に戻るのにエリスもついて来てくれることになった。

一人だと危ないからとのことで、一緒にいてくれるのだ。

エリスはとても優しい。本当に大好き。


「わたしの家に生活のためのお金ってあるのかしら?」


ふと気になったことをエリスに聞いてみた。

これからの生活の支度をしようとしても最初の元手は必要だ。

もしかして職を探すところからになる?


「お金はあると思いますよ。

 皆さん、最初の家にスマホがあって、そこにお金がチャージされているんです」

「電子マネーなのね」


現代的だなぁ。


「それに働かなくても毎月政府から一定金額が振り込まれて、みんなそれで生活しています」

「ベーシックインカム!?」


現代的を通り越して未来的だった。

こんなところでベーシックインカムが実現していたのか。

わたしの生きていた時代だと実験段階の国はあっても、完全な成功例はなかった気がする。

まさか異世界で体感することになるとは驚きだ。


「というわけでスマホは大事ですよ。肌身離さず持っていたいです」

「そうね。早く取りに行かなきゃ」


この世界では生活のキーがスマホになるようだ。

近未来の光景だ。

そんなことを考えながら、わたしはエリスと一緒に町に繰り出した。

手を繋いで舗装された歩道を歩行する。

エリスの手は水風船のように柔らかい。

ずっと握っていたくなる感触だ。

何を食べていたらこんな素敵な手になるんだろう?


「料理は自分で作っているの?」

「ええ。この世界に来てから、他にすることもないので料理はたくさんしています。

 いろいろと凝った料理も作りますよ。

 最近は日本食も挑戦しているんです。肉じゃがは作れますよ」

「結婚しよう!」

「ええ……」


エリスはわたしと距離を置きたいような表情をしていた。

まぁ、それは冗談として。


「良い天気ね」


昨日と同じような快晴だった。

風もない。散歩するには良い気候。

隣には美少女。

最高だった。


「あたしも久し振りの散歩です。こんな良い天気の下で大手を振って歩けて気持ち良いです」


エリスは晴れ晴れとした表情を浮かべていた。


「外に出ることはあまりないんだ?」

「怪物が出るようになったので外に出るのが怖くなって、みんな家に閉じこもっています。

 閉じこもっても生活できる世界なので、みんな閉じこもっちゃうんですよね」

「なるほど」

「あたしはもっと実際に友達と面と向かって会話したり触れあったりしたいのですが、ネットでのやりとりで満足する人がほとんどなんです」

「そういえば、インターネットも完備なのね」


通販があるのだから、そりゃそうか。

これが2100年の科学技術か。


「皆がもっと安心して外に出られるようになれば良いんですけど」

「人間は太陽を浴びないとビタミンが不足するみたいだしね」

「ビタミンって何ですか?」


エリスは青い瞳をきょとんとさせていた。

ああ、そうか。

1800年代の栄養学だとビタミンは知らないのか。ビタミンの発見は1900年代になってからだったはず。


「ごめん。分からないよね。そういう栄養があるのよ」

「すみません。学はないもので」

「エリスからしたら未来の話だし。知らなくても仕方がないわ」


時代が違うからこういう所で会話の齟齬が発生する。

気を付けないといけないところでもあるし、面白味のあるところでもある。


「サイリさんは賢そうですよね。きっと前世でもかなり優秀な方だったのだと思いますよ」

「そうかな?」


エリスの前では美少女にはしゃぐみーはーにしかみえないと思うけど。


「きっとそうですよ。なんとなくそんな雰囲気が感じられます」

「雰囲気ね」


わたしがどんな前世だったのか、今のところ想像もつかない。

当たっているかどうかはともかく、美少女の勘は大事にしよう。


「あたしは学がないので、勉強ができる人は羨ましいです」

「エリスは勉強は苦手だったの?」


わたしのことは分からないことだらけなので話が膨らまない。

エリス自身のことを語ってもらおう。


「貧乏なものでしたからろくに学校など行っていません。十五のときにダンスを習って舞台で踊っていました」

「なるほど。だから踊りの衣装が様になっているのね」


エリスの佇まいはまったく惚れ惚れする。衣装を着て立っているだけで人を魅了できる。


「ダンスは上手な方だったんですよ。ヰクトリア座での人気は第二位でした」

「ん?」


エリスの言葉にひっかかりを覚えた。

ヰクトリア座。ヴィクトリア座。

エリスが行っていた舞台の名前だろう。

普通に考えれば、日本人のわたしがドイツにある芝居小屋の名前なんて聞いたことがあるはずがない。

自然に考えれば縁のない場所のはず。

ただ、ヰクトリア座の字面は日本人なら目にしたことがあってもおかしくない。

記憶喪失のわたしでもその記憶は残っていた。


「森鴎外の『舞姫』!!」


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