校長先生の願い
「パパ~、何を見てるの?」
新庄は額に入れて飾ってある表彰状をしばらく見つめていた。
「ああ、これね。パパが小さい頃、先生に褒められた時の表彰状なんだよ」
「ふ~ん。なんで褒められたの?」
「学校をお掃除したの」
「お掃除? ママがいつもやってるけど、パパもお掃除が好きなの?」
「う~ん、あんまり好きじゃないけど、学校が綺麗になって喜んでる人がいたからね。だから褒められたんだと思うよ」
息子の勇太は「ふ~ん」と納得したが、その話題に飽きたのか、おもちゃのトミカを持ったまま何処かへ行ってしまった。
「……しっかし、なんでこんな表彰状を後生大事に飾ってあるんだ? ちょっとドブを掃除しただけなのに」
「それはな、俺が飾ったんだよ」
――急に話し掛けられたため、新庄は驚いて振り返る。
「なんだ父ちゃんか。不意打ちで話し掛けないでくれよ、ビックリするだろ」
「うるせぇ、人を幽霊みたいに言うな」
「これってさぁ、いい加減に仕舞ったらどうなの? 立派な額縁に釣り合わないと思うけどな」
「いいんだよ。おまえが他人様に喜ばれるようなことしたんだからな。俺は嬉しかったから、今でも飾ってるんだ」
そう言うと、新庄の父親は持っていたペットボトルの麦茶をゴクゴクと飲んだ。
「……10年ほど前の話だが、居酒屋で校長の二階堂さんとバッタリ出会ったことがあってな。そこで色々と話を聞いたんだ。あの頃、来年に小学校が閉校になるってぇワケで、生徒を褒めたくて褒めたくて仕方なかったらしい。そんな時、おまえがドブ掃除なんてしたもんだから、これ幸いとばかりに表彰状を用意したんだと」
「へえ~、校長先生ってそんなこと考えてたんだ」
「小さな行動かもしれんが、幸せに感じた人もいるんだよ。そいつを忘れるな」
新庄の父親は麦茶を一口飲むと、蓋をキュッと閉めた。
「ああそれから、新しい会社を立ち上げるんだってな。頑張れよ」
「……珍しいな、父ちゃんが俺の仕事を応援するなんて」
「馬鹿野郎。おまえが大学生の時、あの仕事で食って行けるのか本気で心配したんだ。今じゃ状況がまったく違うし、どんな仕事かもちゃんと理解してる。母ちゃんなんか、ネットに載ってるおまえのインタビュー記事を、わざわざプリントしてファイルにしてるからな」
「それ、私じゃなくてお父ちゃんがやってるから。パソコンのことなんて全然分からないし」
突然、洗濯籠を持って現れた新庄の母親が、二人を素通りして洗面所に入った。
新庄の父親は気まずそうな顔をする。
「ま、まあいい……そういうことだ。とりあえず頑張れ」
「分かった分かった、頑張るよ」
新庄は苦笑いを浮かべながら、再び表彰状へ視線を向けた。
(みんなの願いを叶える……か)
……そんなことを考えながら、新庄はしばらく腕を組んで表彰状を見つめていた。




