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失くした運動靴

ーー次の日。


新庄は同じクラスにいる小学3年生の堀田智幸に話し掛けた。

「えっ? 叶えてほしい願いがあるかって?」

堀田はキョトンとした顔をする。

「なんでもいいよ。プロ野球選手になりたいとか、芸能人になりたいとかデッカイ夢は無理だけど、俺たちが力になれそうな願いなら叶えてやるぞ」

「急にそんなこと言われても……う〜ん、願い事かぁ」

「困っていることとかもOK! 助けてあげっから」

「あっ、じゃあ失くした運動靴を探してほしいな」

「運動靴?」

新庄と古橋は一緒に首を傾げた。

「うん、父ちゃんが買ってくれた運動靴なんだ。大切に使ってたんだけど、去年の運動会で失くしちゃったんだよね」

「あれ? ほっちゃん(堀田のこと)のお父さんて確か……」

「半年前に死んじゃった。だから失くしちゃったのすんごい悔しいんだ」

新庄は少しだけ悲しそうな顔をしたが、理由を聞くと俄然やる気が湧いて来た。

「おっし! それを聞いたらほっとけないな。絶対に見つけてやるから任しといて」


ーーその日の放課後。


新庄、古橋、堀田の三人は、運動靴を失くした場所と思われる、学校の運動場を探すことにした。

しかし、去年の運動会からかなりの時間が経っているため、簡単に見つかるはずもない。

「……そりゃそうだよな。今探しても見つかる訳がないよ。運動靴が落ちていたら、とっくに誰かが見つけていると思うし」

「どんな感じで失くしたか覚えてる?」

「リレーの時にちょっと気分が悪くなって倒れちゃったんだけど、気が付いたら保健室で寝てた。多分、先生が運んでくれたと思う。その時に、片方の運動靴がないことが分かったかな」

「ああ、覚えてる覚えてる。ほっちゃんが気を失って運ばれてるとこ見たもん」

生徒の数が少ない学校なので、些細な出来事でも記憶している者は多い。

「恥ずかしいな〜。忘れてよ」

「急に倒れたから皆んなビックリしてた。ふるちん(古橋のこと)も心配になって、一緒に保健室へ行ったもん。先生が言うには『貧血』で倒れたって」

「ヒンケツ? ヒンケツってなんだ?」

「よう分からんけど、血が薄いんだって」

「えっ、ぼくって血が薄いの? ピンク色になってるとか?」

堀田が慌てているのを横目に、新庄と古橋は運動場を歩き回って探したが、肝心の運動靴は見つからなかった。

「……やっぱり見つからねぇな」

「よくよく考えればさ、リレーの時は履いてたんだよね運動靴。運んでいる途中で脱げちゃったのかも」

「ああ〜なるほど。じゃあ運動場じゃなくて、学校の廊下で落としたのかな」

「ここから保健室へ行ってみよう。何処ら辺で落としたか分かるかもしれないし」

そう言うと三人は、運動場から保健室に向かって歩き始めた。


保健室へのルートは、学校の昇降口から左に曲がり廊下へ出ると、途中には清掃道具を入れるロッカーと職員用のトイレがあり、そこを過ぎれば左手に保健室が現れる。

まず怪しいのは、昇降口にある下駄箱である。

「誰かが間違えて、ほっちゃんのじゃない下駄箱へ入れちゃったとか」

「そう思って俺も探してみたけど、見つからなかったぜ」

「ええ~、残念」

生徒の数が少ないため、間違えて他の場所へ入れたなら目立つはずだ。

だが、教室内で「堀田君の運動靴が間違えて入ってたよ~」などの話は聞いたことがない。

「じゃあ、清掃道具入れのロッカーにあるのかな?」

「そんなとこに?」

「絶対ないとは言えないじゃん。落ちてたのを誰かが拾って、ロッカーに仕舞っちゃったのかもしれないし」

「でも、あのロッカーっていつもロックされてるよ」

それを聞き、新庄は職員室まで行ってロッカーの中が見られるよう北里先生にお願いする。

そして北里先生が新庄と一緒に戻ってくると、懐から鍵の束を取り出してロッカーの鍵を開けた。

だが、中を探しても運動靴は見つからなかった。

「やっぱりないか……」

「おまえたち、それって去年の秋頃の話だろ? いくらなんでも見つからないと思うぞ」

「でも、ほっちゃんが大切にしてた運動靴なんです」

「う~ん、そう言われるとこっちも力になってやりたいけど、かなり難しいよな」

北里先生が再びロッカーに鍵を掛けた。

「……もう遅くなるから帰りなさい。俺も時間があったらこの辺りを探しておくから」

「じゃあ保健室! 最後に保健室に入って探したいです!」

「ええ……それだと狩谷先生に許可を取らなきゃ。ちょっと待ってろ」

北里先生は狩谷由美先生を呼びに職員室へ戻った。

5分ほどして職員室から出て来た狩谷先生は、三人と顔を合わせた後に保健室の鍵を開けた。

「あんまり備品とか触っちゃダメよ。それから、戸棚にある薬品には絶対に触れないで」

「ちょっと探すだけです。すぐに終わりますから」

そう言うと、三人は部屋の隅や机の下などを探し出す。

「あ……あった!」

最初に声を上げたのは古橋だった。

どうやらベッドに下に誰かの運動靴が落ちていたらしい。

「やったぜふるちん! ほっちゃん、大切にしてた運動靴が見つかったよ」

だが、古橋から渡された運動靴を見て、堀田は残念そうな表情を浮かべる。

「どした?」

「これじゃないみたい……名前も書いてあるし」

「えっ!?」


――見ると、運動靴の踵に『下沢』とマジックで書かれていた。

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