ぼくらの小学校が閉校します
「という訳で、来年にこの小学校は閉校になります」
桜の花が散る頃、担任の北里大吾先生にそう告げられた。
立野宮小学校は、ぼくたちが住む地域の過疎化が進み、今では通う生徒も7人となってしまい、教育の遅れを心配した保護者の提案により、来年閉校になることが決定した。
一時は校舎のすべての教室が使われるほどの小学校ではあったが、時代の流れには逆らえず、若い家族は競って都会へと移り住み、こうして無事に過疎化が進んだ次第である。
田舎の良くある話だとは思うが、実際に「閉校」という言葉が出ると、暗い気持ちになるのは確かだった。
――自己紹介が遅れたけど、ぼくの名前は新庄孝則。
この立野宮小学校に通う小学4年生で、体育が得意な健康優良児だ。
しばらく皆が沈黙している中、ぼくは手を挙げて先生に質問する。
「先生、質問があります」
「なんだ新庄?」
「ここが閉校したら、ぼくたちは何処の小学校へ通うんですか?」
「おそらく、市内にある玉之原小学校へ通うことになるだろう。新庄の家から通うのは少し遠くなるかもしれないが、こことの距離にそう違いはないぞ。ただし、30分ほど早起きしなきゃ遅刻するかもな」
「うげ~、それは困るなぁ」
「まあそう言うな。玉之原小学校は施設も充実しているし、教育方針もしっかりしている。おまえたちの将来を考えれば、プラスになるのは間違いないんだ」
「ここにいる皆も玉之原小学校に行くの? じゃあまた一緒に遊べるのかな?」
「6年生の平井は来年中学生になるから、他の6人とは顔を合わせられると思うぞ。ただ、学年違いだと別の教室になるし、同学年の友達と遊ぶことが多くなるだろうな。こうして別の学年同士が一緒の教室で学ぶのは普通じゃないんだよ」
……先にも述べた通り、この小学校に通う生徒は全部で7人。
そのため、別々の教室で学ぶのは非効率であると考え、立野宮小学校では一緒の教室で学ぶのが通例となっていた。
この環境に慣れてしまったのか、一般的な小学校のように学年別に振り分けられてしまうのは、新庄でも若干の不安を覚えてしまう。
「おいおい、そう暗い顔になるな。さっきも言ったが、おまえたちの将来を見据えての決定なんだ。俺だって悲しいよ……でもな、ここの環境はやっぱりおまえたちにとって相応しくない。納得するのに時間は掛かると思うが、どうか理解してくれ」
そう言うと、北里先生はパタンと出席簿を閉じ、チョークを手に取って授業を始めた。
――その日の帰り道。
新庄と一緒に通う小学5年生の古橋誠は、道端に落ちている小石をつまらなそうに蹴ると、空を見つめながら大きく溜息を吐いた。
「あ~あ、やっぱりそうなっちゃうのかぁ」
「……ショックだよな」
「だよねぇ。俺なんか来年小6だぜ。玉之原に通うのも1年だけだし、すぐに中学生じゃん。閉校になった後も立野宮に通ったろうかな」
「誰もいない校舎に通う謎の生徒……もう怪談話だね」
「地縛霊になってやるわ。立野宮で有名な『トイレのミナ子さん』みたいに」
「ああ、あれって本当に見た人いるのかな? ぼくも知りたいんだけど」
……そんな他愛のない会話をしながら、新庄と古橋の二人は帰り道を歩いていると、ふと新庄が文房具屋の前で立ち止まった。
「どした?」
「なんかさぁ、残りの1年でぼくたちがやれることってないかな?」
「やれること? なにをするんだよ?」
「ちょっとノートを一冊買って来る!」
新庄は急にダッシュして文房具屋に入ると、一冊の茶色い手帳を手にして戻って来た。
「……ノートじゃないじゃん」
「うん、綺麗な手帳を見つけたから買ったんだ。お小遣いで買えたしね」
「それで? なにをするつもりなの?」
新庄は筆入れからマジックを取り出すと、手帳の最初のページに「みんなの願いをかなえる!」と大きな文字で書いた。
「はあ? なんじゃそりゃ。また大袈裟なタイトルだな~」
「大袈裟でもいいじゃん。残りの1年間で、みんなの願いをかなえてあげるんだ。明日から早速やってみよう!」
――新庄は得意そうに手帳を頭上に掲げたが、隣にいた古橋は訳が分からず、呆れたようにフルフルと首を横に振っていた。