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思い出のブリキ缶

会社を辞めてから一週間後。

新庄は家族を連れて実家に帰っていた。


「これで終わりっと。お母ちゃん、風呂場の床を補修したからね。後で確認しといて」

新庄は風呂場の戸を開けて母親を呼んだ。

「まあ悪いわね~。お父ちゃん不器用だから、そういう大工仕事は苦手なの。あんたが来てくれると助かるわ」

「たまには手を動かさんとね。人に指示することが最近は多くなったから、こういう力仕事は楽しいよ」

「あんたも若い頃は仕事の愚痴ばかり言っとったもんね。やれ日本のゲームファンは要求が多いだの、作品の感想に悪口しか書かんだの、ストレス溜めとって死ぬんじゃないかと思ったわ」

「それはないない。もう我慢できるようになったし、落ち込んでもしょうがないし」

新庄はパンパンと手に付いた埃を払うと、洗面所の水で自分の顔を洗う。

「勇太は何処で遊んでるの?」

「はて? さっきまで庭でボールを蹴っとったけど」

「ちょっと探して来るよ。田舎だと色々な場所へ行きたがるから、なるべく大人が近くにいないとね」

そう言うと、新庄はガラガラと玄関の戸を開けて、勇太を探しに表へと出た。

外を歩いている途中、ふと立ち止まって大きく深呼吸すると、田舎の新鮮な空気で肺が満たされるのが分かる。

(……空気が美味いな~)

幼い頃は田舎が嫌で嫌で、早く都会に行きたいと思っていたが、こうして久しぶりに帰郷すると、田舎の良さを改めて実感する。

夏の日差しがジリジリと顔を照らすが、その感触もまた心地良い。

(おっと忘れてた。俺は勇太を探すつもりで外へ出たんだよな)

新庄は我に返り、辺りを見回して勇太を探したが、それらしい姿は見つからない。

少しだけ心配になり、「勇ちゃん! 何処で遊んでるの?」と大きな声で呼び掛けた。


……その時、尻の辺りでドン! と何かがぶつかる音がする。


「イタッ!」

「あははははは!」

「コラッ勇太! 尻に頭突きをするんじゃない!」

「だってパパがボ~ッとしてるんだもん」

「まったく……何処で遊んでたの?」

「あそこ、なんかデッカイお家みたいなところ」

「デッカイお家……? ああ、土蔵のことか。ダメだよ、あんなところへ一人で入っちゃ。パパにちゃんと伝えてから入りなさい」

「たくさん面白そうなものがあるんだもん。パパも一緒に入ろうよ!」

「ええ~、仕方ないなぁ」

新庄は勇太と手を繋ぐと、土蔵のある裏庭に向かって一緒に歩き出した。

実家は土蔵があるような旧家だが、由緒正しさのようなものは曽祖父の代で失われ、両親は至って普通の一般市民である。

また、土蔵の中は銅像や壺のような物が置かれているが、査定に出したこともなく、それが高価であるかさえ分からないし、新庄もまったく興味はなかった。


そして土蔵の扉を開けると、埃の匂いがフッと鼻を突いた。

「ちょっと(かび)臭いかもな。ちゃちゃっと中を見て、すぐに出ようよ勇ちゃん」

「うん、分かった!」

勇太は素直に(うなず)くと、新庄の手を放して土蔵の中を飛び回った。

(やっぱり珍しいんだろうな、こういうの。俺が子供だったら、間違いなく勇ちゃんと同じ行動をする。これって、ダンジョンの中でお宝を見つけたようなワクワク感があるし)

そんなことを考えながら、しばらく新庄は土蔵の中を見回していると、棚の上に置いてあった金属製の箱に気が付く。

(ありゃなんだ? 最近置かれたようなブリキ缶みたいだけど)

新庄は棚に置かれた箱型のブリキ缶を手に取り、(ふた)を取って中を調べてみた。

不思議なことに、中身は大量の写真や、鉛筆で書かれた地図のようなものが入っている。

(これって……俺の私物だよな?)

そして写真の一枚を選び、日の光の下で何が写っているのか確かめてみる。


――それは校舎の門で、門の柱には『市立立野宮(たてのみや)小学校』という文字が刻まれていた。

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