友情のカタチ
その後、一行は休憩所で昼食を食べることになり、それぞれ持参の弁当を披露していた。
「うわ、お母ちゃん……おかずが梅干しとウィンナーだけかよ」
「フリカケが余ってるからあげようか?」
「おっ、サンキュ! それにしてもオニギリが10個って……食べれるのふるちん?」
「よゆ~よゆ~」
古橋が嬉しそうにオニギリを頬張る。
「宿題しないで遊んでばっかだから、おかずをケチられたのかな?」
「なんだ新庄、まだ宿題をやってないのか? 先生としては聞き捨てならないな」
「い、いえ……これから頑張ります」
新庄はバツの悪そうな顔をしながら、箸の先でウィンナーを突き刺して口へ運んだ。
「ふるちんとしもっちは宿題やってる?」
「ううん、やってないよ」
「僕も」
「おいおい、自信満々に言うな。まだ夏休みは残っているが、あっという間に過ぎてしまうぞ」
矢島先生はため息交じりで「まったく……」と呟く。
そして新庄と下沢は弁当を食べ終わり、一緒に道の端にある草むらへ昆虫を探しに行った。
「なんかいるかな~?」
「バッタくらいはいるんじゃない」
「あっ、カマキリがいた! 網貸して網!」
新庄はブンブンと網を振り回すも、カマキリはヒラリと飛んで逃げてしまう。
「くっそ~」
「もっと静かに近付こうよ。あれじゃあ逃げちゃうから」
そんなやり取りが続き、しばらく二人は昆虫探しに没頭する。
一方で、矢島親子と古橋の二人はまだ休憩所で弁当を食べており、新庄と下沢が奮闘している様子を遠くで見守っていた。
「なあ古橋。前から聞きたかったんだが、新庄が言ってるアダ名のことだけど……」
「アダ名……? ふるちんのことですか?」
「あれって君は怒らないのか?」
「ううん、別に。しんちゃんはいいヤツだし」
「いや……いいヤツだとか関係なしに、けっこう下品なアダ名だと思うぞ」
「しんちゃんは俺のことバカにしてないから、言われても全然腹は立たないですよ。バカにしたら怒るけどね」
「ふ~ん」
こんな友達の関係もあるのかと、矢島先生は心の中で感心した。
……そしてしばらくすると、隣にいた裕翔は新庄と下沢のところへ行き、一緒に遊ぼうとする。
「裕翔君、こっちだこっち! 草むらに隠れるんだ!」
新庄が手招きして裕翔を近くまで呼ぶと、言われるまま草むらへ隠れる。
「見ろっ! あそこにモンスターがいる」
裕翔は新庄が指差した方向を見ると、そこにはカサカサと不自然に草が揺れている場所があった。
「僕が合図したらこの網で捕まえるんだ、そ~っと近付こうぜ」
二人は身を屈めながら、草が揺れている辺りに近付く。
「今だっ、捕まえて!」
裕翔は持っていた網を慌てて振り下ろすと、網の先端が下沢の頭を捕らえ、捕らえられた下沢は動物のように暴れ回った。
「グオーグオー」
裕翔はキャーキャー叫びながらも、暴れている下沢を網で大人しくさせようとする。
「やったぞ裕翔君、モンスターを倒したぜ!」
新庄の言葉で下沢はその場にバタリと倒れ、裕翔にやられたフリをした。
その様子を見て、裕翔はキャハハと嬉しそうに声を上げて笑う。
そんな感じで30分ほどが過ぎた頃。
「お~い、そろそろ昆虫採集ができるスポットへ行くぞ」
矢島先生の声掛けにより、新庄と下沢の二人は裕翔と手を繋いで休憩所まで戻った。