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校舎二階の魔界

――そして次の日。


新庄と古橋は、放課後に校舎二階の奥にある噂のトイレへ向かった。

トイレは使われていない教室の近くにあり、人通りがほとんどないためか、辺りはシンとして静まっている。

教室は年に2、3回ほど生徒が入って掃除はするものの、噂のトイレが近いためかササッと掃除するだけで逃げるように終わってしまい、新庄たちが普段使用している教室と比べて、明らかに埃が積もっているのが分かる。

その粗雑な扱いが、この辺りの不気味さを際立たせており、教室、廊下、トイレを含めて生徒の間では「魔界」と呼ばれていた。

そんな大袈裟なと二人は思ったが、実際に来てみると、周囲が明るくても異様な怖さがある。

これが夜だとシャレにならない怖さになるだろう。


「こええ……」

「本当に入るの? あのトイレ」

「うん……ちゃんと調べないと意味ないし」


ミナ子さんの噂の出所は主にこの辺りで、他の場所では一切出ないと言われている。

詳しい話では、夜の校庭からこの教室を見た時に、女の子らしき姿が窓のそばで立っていたという目撃情報もある。

また、帰りの遅かった先生の話では、校舎の二階から女の子のすすり泣く声が聞こえて来たという体験談もあり、あまりに不気味だったためか、調べずにすぐ帰ったらしい。


「つまりは、ここでおかしなことばかり起こるんだね。なんでだろ?」

「聞いた話だとね~、この教室で首吊り自殺した生徒がいたらしいよ。ホントかどうか怪しいけど」

「うえマジか。余計に怖いじゃん」

新庄は父親から借りたカメラを構え、パシャパシャと辺りを撮影する。

「……しんちゃん、心霊写真でも撮るつもり?」

「いやなんとなく撮影してるの。後で役に立つかなと思って」

「わっ!」


――突然、二人は背中を叩かれたため、ビックリしてその場で跳び上がる。

振り返ると、そこには戸波がニコニコの笑顔で立っていた、


「と、戸波さん? 驚かさないでよ!」

「なっさけないな~、これくらいでビクビクしてたら謎が解けないでしょ」

「なんか平気そう……戸波さんは怖くないの?」

「私ね、幽霊の話とかまったく信じないの。ただのトイレじゃん」

戸波は新庄からカメラを奪い取ると、残りのフィルムの枚数を確認する。

「ちょっと! カメラを返してよ」

「なんとなく撮影するとか、フィルムがもったいないでしょ。私に任せてよ。お父さんが野鳥とか撮ってるのを手伝ったりしてるし、新庄よりかは上手く撮影できる自信があるよ」

そう言うと、戸波は教室の戸をガラガラと開けて中に入り、何枚か写真を撮影して戻って来た。

「さあ次はトイレだね。こんなところでボーッと立ってたら日が暮れちゃう」

「お先にどうぞ」

「も~、女の子を先に行かせるとか最低なんだけど」


尻込みしている新庄と古橋を他所に、戸波はカメラを構えながら、噂のトイレに足を踏み入れた。

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