表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/18

会社辞めます

新庄孝則はオフィスの荷物を整理していた。

半年前に彼は辞表を提出し、今日の午後にこの会社から去ることになる。

私物をコンテナボックスに入れていると、コンコンとドアをノックする音が聞こえたため、「どうぞ」と声を掛け、ノックした人物を部屋の中へ招き入れた。


「新庄さん、30分後にスタッフへの挨拶をお願いしていいですか?」

「ああいいよ。もうそんな時間か」

「……しかし寂しくなりますね。『エターナル・ジェイド・アース』の今年の仕上がり、気にならないんですか?」

「その点は君たちに任せるよ。一年前に完成した作品だし、アップデートも順調そうだからね。ここのスタッフは本当に優秀だった」

「そう言っていただけると、俺たちも頑張った甲斐(かい)がありました」


新庄の部下と思われるスタッフの一人は、少しだけ寂しそうな顔をしながら頭を下げ、静かに部屋のドアを閉めた。

新庄は手元にあった置時計をボックスの中へ入れると、パチンと蓋を閉めて荷物整理を終える。

そしてしばらく椅子に座って部屋の中を見渡すと、ドアに貼り付けてあった「Director's Room」の文字が目に留まり、その下には「新庄」と名前の刻まれたプレートが()め込まれていたため、それを手で()がして内ポケットの中へと入れた。


「この会社で働いて、早いもので15年の月日が流れました。一旦の区切りとして、本日でこの会社を去りたいと思います。やり残したことはないと言ったら嘘になりますが、自分の志を継いでくれる若手が育っている実感もあり、私のような古株のベテランがしゃしゃり出るのもどうかなと」

新庄はスタッフが集まる前で、笑いを誘うような苦笑いを浮かべた。

「……それはさて置き、ここで働く皆さんには心からありがとうと言いたい。お陰で素晴らしい作品を何本も手掛けることができました。来年に発売するタイトルも、大いに期待しているよ!」

そう言うと、新庄はスタッフ全員に向かって深々と頭を下げ、皆が見送る中、コンテナボックスを抱えてオフィスを後にした。


――新庄はゲーム・ディレクターとして、数々の有名タイトルを手掛け、その名は界隈(かいわい)でも知れ渡っている存在である。

その彼が、大手メーカーを辞めるというニュースが出たのは三ケ月前の話で、当然ながら今後の動向に注目が集まっており、新しいデベロッパーを立ち上げるといった噂など、業界内でも様々な憶測が飛び交っていた。

しかし、当の本人は何処吹く風といった様子で、しばらく休んだ後に色々と決めればいいと呑気(のんき)に考えていた。


(まあ、ちょっと疲れたんだよね。少しくらい休んだっていいじゃん)


……それが彼の正直な気持ちであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ