1-1 異世界転移
まぶしい光が瞬く都会の街。放課後の喧騒の中、一人の少年が歩いていた。
「はぁ...明日も試験かよ。マジでめんどくせぇ」
橘宗助、17歳。ごく普通の高校2年生...のはずだった。
彼は溜め息をつきながら、いつものようにコンビニに立ち寄った。好物のメロンパンを手に取り、レジに向かう。
「お会計220円になります」
可愛らしい店員の声に、宗助は財布を取り出そうとした、その時だった。
ビカッ!
突如、まばゆい光が宗助を包み込む。
「なっ...何だよこれ!?」
驚きの声を上げる間もなく、宗助の体は宙に浮かび、光の中へと吸い込まれていった。
「うわあああああっ!」
気が遠くなるような感覚。そして、意識が闇に沈んでいく。
...
...
...
「んん...」
ゆっくりと目を開けると、そこは見知らぬ草原だった。
「ここ...どこだよ?」
宗助はぼんやりとした頭で周囲を見回す。
どこまでも続く緑の絨毯。遠くには壮大な山々。そして、エメラルドグリーンの空。
「まさか...異世界転移!?」
突然の状況に、宗助は思わず叫んだ。
「いや、冗談だろ...こんなの、ラノベとかゲームの中だけの話だろ?」
しかし、目の前に広がる光景は紛れもない現実だった。
「っていうか、さっきまでコンビニにいたはずなんだけど...」
宗助は懐に手を入れた。するとそこには、さっき手に取ったメロンパンが。
「あれ?これ買ってねぇよな...」
困惑する宗助だったが、とりあえずメロンパンを口に運んだ。
「うまっ!いつもの味だ...ってそんなことよりどうすりゃいいんだよ!」
パニックになりかけた時、遠くから人の気配を感じた。
「お、誰かいるぞ。とりあえず話を聞いてみるか」
宗助が歩み寄ると、そこにいたのは...驚くべき美しさを持つエルフの少女だった。
「あの...すみません」
宗助が声をかけると、少女は驚いた表情で振り返った。
「きゃっ!」
少女は思わず後ずさり、つまずいて倒れそうになる。
「危ない!」
宗助は咄嗟に少女を抱きかかえた。
「大丈夫ですか?」
「は、はい...ありがとうございます」
顔を真っ赤にした少女。その姿に、宗助の心臓も高鳴る。
(うわ、めっちゃ可愛い...ってそんなことよりも!)
「あの、ここはどこですか?」
宗助の質問に、少女は不思議そうな顔をした。
「ここは...アストラリア大陸のソラリス王国ですが...」
「アストラリア!?ソラリス!?」
聞いたこともない地名に、宗助は愕然とした。
「もしかして...本当に異世界!?」
「異世界...?あなたは、転移者なのですか?」
少女の言葉に、宗助は頷いた。
「ど、どうやらそうみたいで...」
「まぁ!それは大変!すぐに町へご案内しますね」
少女は宗助の手を取り、歩き出した。
(おお...柔らかい手だな...ってそんなことを考えてる場合か!)
宗助は複雑な心境で少女について行った。
歩きながら、少女は自己紹介をした。
「私はリアン。この近くの村に住んでいるんです」
「俺は橘宗助。よろしく」
「宗助さん...素敵なお名前ですね」
リアンの言葉に、宗助は少し照れた。
「そ、そう?あんまりかっこよくないと思うけど...」
「いいえ、とても素敵です!」
リアンの笑顔に、宗助はますます顔が熱くなるのを感じた。
(くそ...なんでこんな可愛い子が...いや、落ち着け俺)
宗助は心を落ち着かせようと深呼吸をした。
「それで、宗助さんは魔法は使えますか?」
「え?魔法?」
「はい。この世界では魔法が日常的に使われているんです」
リアンは手をかざすと、小さな光の玉を作り出した。
「うわっ!すげぇ!」
宗助は目を丸くして光の玉を見つめた。
「宗助さんも試してみてください」
「え?俺にもできるの?」
「転移者の方は大抵、強い魔力を持っているそうですよ」
促されるまま、宗助は手をかざしてみた。
「えーと...出ろ!魔法!」
するとー
ゴォォォォン!!!
突如、宗助の手から巨大な光の柱が天まで伸びた。
「うわあああっ!」
驚いた宗助は慌てて手を下ろす。光の柱は消えたが、遠くの山の頂が吹き飛んでいた。
「す、すごい...」リアンは目を見開いて呟いた。
「これが...魔法!?」
宗助は自分の手を見つめ、その力に戸惑いを隠せなかった。
「宗助さん、あなた...とんでもない力をお持ちですね」
リアンの言葉に、宗助は複雑な表情を浮かべた。
(なんだよこれ...俺、最強チートキャラってやつか?)
混乱する宗助だったが、ふと思った。
(でも...これで楽に生きられるんじゃね?)
そう考えた瞬間、宗助の顔にニヤリとした笑みが浮かんだ。
「よーし、この力で楽園生活送ってやるぜ!」
「え?」
リアンは首をかしげたが、宗助は既に楽園生活の夢を見ていた。
「あの...宗助さん?」
リアンの声で我に返った宗助は、慌てて咳払いをした。
「あ、ああ。それで、町はどっちだ?」
「はい、こちらです」
リアンは宗助を導き、二人は歩き始めた。道中、リアンはこの世界のことを宗助に説明してくれた。
「この世界では、魔法が社会の基盤なんです。『魔法科学』が発達していて...」
宗助は半分上の空で聞いていた。彼の頭の中は、まだ「楽園生活」でいっぱいだった。
(よっしゃ、この力があれば何でもできるぞ。豪華な屋敷に住んで、美味しいもの食べて、可愛い子たちに囲まれて...)
妄想に浸る宗助だったが、ふと疑問が湧いた。
「あのさ、リアン」
「はい?」
「俺みたいな転移者って、よくいるの?」
リアンは少し考えてから答えた。
「そうですね...稀にいると聞きます。でも、宗助さんほどの力を持つ方は聞いたことがありません」
「へぇ...」
宗助は複雑な気分になった。確かに力は欲しかったが、目立つのは少し面倒くさい。
「あ、町が見えてきましたよ!」
リアンの声に、宗助は顔を上げた。
目の前に広がる景色に、宗助は息を呑んだ。
石畳の街路、中世ヨーロッパを思わせる建築物、そして行き交う人々の色とりどりの服装。まるでファンタジー映画のワンシーンのようだ。
「すげぇ...」
思わず感嘆の声が漏れる。
「宗助さん、まずは冒険者ギルドに行きましょう」
「ん?なんでだよ」
「この世界で生きていくには必要なんです。身分証明にもなりますし、お仕事も紹介してもらえます」
「はぁ...」
宗助は大きなため息をついた。
(面倒くせぇな...でも、仕方ねぇか)
こうして、宗助の異世界での冒険...いや、楽園生活が幕を開けたのだった。