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コンニャクの甘辛煮

「ところで、さっき婚約破棄するって言ったのかい? 理由を聞かせてもらおうじゃないか」


 ゲップを放ってソーイが言う。


 そういうとこ全部だよ!! と言いたい気持ちをグッとこらえ、オレは、


「まず年齢だ」 


 と答えた。


 そして椅子を引き、ソーイの向かいに腰を掛けた。これは長丁場になりそうだ。


「年齢……? どういうことだい?」


「どういうこともこういうことも、六十歳差ってのはないだろ! 干支が五周もしちゃってるんだよ!!」


 ところがソーイは、平然とこう言ったのだ。


「ウルトラの母とウルトラの父の歳の差は二万歳なんだよ。それから考えると、むしろ同い年だと言っても過言はないだろう?」


「過言だろうが!!」


 ちょいちょいウルトラマンの話題出してくるの、やめてくれないだろうか。


「ちょっと小腹が空いてきたね」と、ソーイがパチンと指を鳴らすと、使用人がやってきた。


 手に盆を持っている。ん? 皿に盛ってある黒褐色の物体は何だ?


「コンニャクの甘辛煮でございます」


 使用人までオレにケンカ売ってんの?!


「これよ、これこれ」


 ソーイはよだれを垂らさんばかり。……いや、比喩でなく実際に垂らしちゃってるよ!!


 使用人はオレの前にも取り皿と茶を置き、「どうぞ、お召し上がりください」とすすめてくれた。


「あ、ありがとうございます……」


 さっきソーイのパンティーがあった場所に置かれた料理なんて食べたくない。それどころか、コンニャクを食べ始めたソーイを見ていると、ますます食欲がなくなった。


 何しろソーイはまず箸を両手で挟んで「いただきます」と言い(拝み箸)、大皿を箸で引き寄せ(寄せ箸)、皿の中に箸を突っ込み(直箸)コンニャクをかき回し(探り箸)、コンニャクに箸をブッ刺し(刺し箸)、音を立てて咀嚼した。


「次はどのコンニャクにしようかね」と箸を宙でさまよわせ(迷い箸)、「こっちかな……いや、やっぱりこっちにしよう」と一度箸をつけたコンニャクから別のコンニャクへと箸を移し(空箸)、「唐辛子は嫌いだよ」と輪切り唐辛子を脇によけ(撥ね箸)、「ほら、アンタも食いなさいよ」と箸をオレの方へ向け(指し箸)、その箸の先端からは汁がポタポタと垂れている(涙箸)。


 それから「コンニャク、お代わりちょーだい!」と箸で器を叩いて(叩き箸)、使用人を呼んだ。


 お箸のマナー違反、ほとんど全てやっちゃったよ!!


「二つ目の理由!! お前がとにかく下品だからだ!!!」


 オレの絶叫は薔薇咲き乱れる庭園に虚しく響き渡って消えた。


「どこがだい、ワタシャ幼少期から特別なマナーを仕込まれて育ったんだからね」


 と言ったそばから、


「カーーーー! ペッ!!!」


 足元に痰を吐いた。


 逆の意味でパーフェクトなんだよ!!!!



 使用人が新しい大皿を持ってきた。先ほどと同じく、山と盛られたコンニャクだ。よくもまぁコンニャクをこれだけ煮詰めたもんだ。


 オレの視線に気づいた使用人は「レーバー家は約四万ヘクタールのコンニャク畑を所有しているのですよ」と教えてくれた。


 どんだけコンニャク好きなんだよ!!


「ほら、アンタも食べなさいな。コンニャク、残したら捨てられるよ。あ! これがホントのコンニャク破棄、なんつってな!!!」


 ソーイは総入れ歯を見せびらかすように大口開けて笑っている。


「大層ウィットに富んだ素晴らしきダジャレでございますねーーーー!!!」


 オレはやけになって叫んだ。

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