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婚約

 一月前、帰宅した親父はベロンベロンに酔い潰れて顔も真っ赤だった。


「おい聞け! お前に令嬢との縁談を持ってきてやったぞぉ!」


 親父は開口一番、そうオレに告げた。


 驚くオレに、彼は飲み屋での出来事をまくしたてた。飲み屋で親父はレーバー家の当主(ブブン・イ・レーバー氏、百八歳)と同席したらしい。


 はじめ、当主はカウンター席の端でチビチビとグラスを舐めていたそうだ。そんな彼に親父は声をかけた。


「もしかしてあんた、レーバー家のご主人じゃないですかい? どうしました? お供も連れずお一人で、こんな庶民の飲み屋に」


「ワシもたまには一人になりたいんじゃ。連れの者は撒いてきた」


「というと、何か悩みでも?」


「あぁ……しかしワシは五百年続くレーバー家の当主、身内の恥を簡単に晒すわけにはいかんのじゃ……」


「なんかよくわからんが、飲んで忘れましょうよ。さ、さ、まぁ一杯!」


「ありがたく頂くよ」




 一時間後。


「そんでェェ、フルコースのオードブルが来た瞬間、うちの娘が放屁してェェ、八十三回目の見合いも台無しになっちゃってェェ~」


「うんうん、わかるわかるゥ」


「もう、爆発みたいな屁だったのよォ。シャンデリアは落下するし、花瓶は割れるしで、一瞬みんな、『テロか?!』みたいになっちゃってェ~。ワシ、どんな顔すれば良かったんだろ」


「リアルへっぴり嫁ごみたいな話ですなぁ。さ、さ、飲みましょ、飲みましょ」




 二時間後。


「グスン、グスン……もうワシは……オーエェヒック……ご先祖様に顔向けができないよォォォ~~グスン、グスン……」


「まぁまぁ、そう早まらないで……実はうちにも不良債権みたいな息子が一人おりましてな。ふつつか者ではありますが、差し上げますよ」


「ホ、ホント……?! ヒック、ヒック……」


「男に二言はないのです!」


「ヤッタ~!」


「「ウェーーーーーイ!!!!」」

 ハイタッチする二人。




「……と、いうわけなのさ!!」と、話し終えた親父はドヤ顔でのたもうた。


 オレは呆れた。いくら酔っていたとはいえ、息子を生贄に差し出すとは……。


「レーバー家って聞いたことあるぞ! 娘はかなりの年なんじゃないか? 今さら結婚しても、跡取りを産めないじゃないか!」


「もう養子が決まってるんだ。お前がよく行ってた隣町の駅前の床屋の親父だよ。実はレーバー家の遠縁らしい。今年四十五とか言ってたな」


「それ、養子というより養父じゃね?」


「まぁ聞け。実はな、レーバー家はオレたちにゆかりのある家柄なんだぞ。レーバーの館の使用人の一人の姉の旦那の妹の元彼の別れた妻の従兄弟の家で飼ってるポチを譲ってくれた人が毎月通ってる整形外科に薬を卸している問屋の社宅の清掃員として働いているのがお前の母さんだ!」


「一言でいうと他人だな!!!」


「まぁまぁ、結婚も離婚も人生経験の一つだ。若いからいくらでもやり直しがきくだろ」


「離婚を前提にするなよ! まったく、猫の子を貰うんじゃないんだからさぁ……」


 親父は言い出したら聞かないのを知っているオレは、力なく言った。


「ハァ?! お前、猫に失礼だぞ! 謝れ! 今すぐ猫に謝れ!」


 猫派の親父がキレ始めたのをキッカケに、この会話はいったん終了した。


 クソッ、絶対に破談にしてやる……!

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