表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/4

婚約破棄

「ソーイ・レーバー! お前とは婚約破棄だ!

 !」


 初夏の風が吹き抜ける中庭のド真ん中でオレは叫んだ。


 広い庭園には、ありとあらゆる品種の薔薇の花が咲き誇っている。


 そんな優雅な雰囲気の中、テーブルでお茶を飲んでいるソーイ・レーバーは顔を上げた。


「あんだってーーー?!」


 大音量でソーイは言う。見開いた小さな目の周りには無数のシワが寄り、ぶよぶよとした大きな鼻の脇にもほうれい線が何本も刻まれた、醜い顔だ。


 思わずオレは顔を背けた。


 怒らせても構わない。今日は断固として婚約破棄を成立させてやるのだ。


「もう一度言う、お前とは婚約破棄だ!!」


「あんだってぇええぇぇ?! もちっと近くで言ってくださいな!!」


 ただ聞こえてなかっただけかよ! 仕方なくオレは繰り返す。


「だから婚約破棄なんだって!!!」


「コンニャクぅ?! コンニャクなら焼くのより甘辛煮にしてくださいな!!!」


「コンニャクじゃなくて婚約破棄なんだよ!!」


 てか甘辛煮て。どんな世界観なんだよ。


 ソーイは続けて、


「ダーーーーークシャーーーーー!!」


 と絶叫した。


 そうそう、「ダークシャー」と言うのがオレの名前で……というわけではない。


 ソーイがデカいくしゃみをしただけである。


「ギャアアア!!」


 くしゃみをした拍子に彼女の総入れ歯がぶっ飛び、オレの額にぶち当たった!


「フォッフォッフォッフォッ!」


 ソーイはオレを指さして笑っている。


「笑うなよ! とにかく婚約破棄だ婚約破棄!!」


 オレは入れ歯を額から外し、ソーイの口に押し込んだ。


「さっきのアンタ、バルタン星人みたいだったよ!!」


 そうそう、総入れ歯が額にブイの字に刺さってまるでバルタン星人……だから世界観おかしいんだって! 


「フォッフォッフォッフォッ!」


 ソーイはなおも笑い続ける。どっちかというとお前の笑い方の方がバルタン星人なんですけど……。


「補聴器、補聴器……」


 ソーイは補聴器を探している。


「首に掛かってるのがそうじゃないのか?」


「あった、あった」


 ソーイは補聴器を耳に装着した。


「メガネ、メガネ……」


「頭の上にあるのがそうじゃないのか?」


「あった、あった」


 ソーイはメガネを装着した。


「パンテー、パンテー……」


「テーブルに置いてあるハンカチっぽいのが実はパンティーなんじゃないのか?」


「あった、あった」


 ソーイはパンティーを装着した。


 なんなの? この昔の芸人みたいなやりとり。


 ……つーかノーパンだったのかよ!!


「つまり、私にとって大事な人ほどすぐそばにいるってことね!」


 ソーイはモンパチみたいなことを呟いてニヤリと笑った。醜い顔面がさらに醜く歪む。


 いや、オレを補聴器とかメガネとかパンティーに例えられても……。


 目の前の、(不本意ながらも)オレの婚約者である老女は、何食わぬ顔でズズッと茶をすすった。


 上品さのカケラもない女だ。どうりで、良い家柄にもかかわらずこの歳まで結婚できなかったわけだ。


 こうなったのは全部親父のせいだ。オレはソーイとの結婚の話が持ちかけられた、一月前のことを思い出して歯ぎしりした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ