92話~必殺技ってやつかぁい!?~
筑波中学が繰り出してきた秘密兵器、グレイト10が動き出す。
グレイト2と同様に、異様に太い手足。
その円柱よりも太い足が地面を踏み締める度に、小さな振動が蔵人達の所まで伝わってくる。
こんな巨大ロボットまで有りなのか?
蔵人の疑問に答えるかのように、観客席は大盛り上がりだ。
「「うぉおおお!!」」
「凄いの出して来たね!あんなのまで筑波では開発しているのか」
「まるでアメリカの最新型二足歩行ロボットね。MF1A2よりも一回り小さいけど」
「いやぁ…でも、これってルール違反なんじゃないの?」
「ルールには抵触してないよ。でも、こんなに大きいんじゃ、機動力ないんじゃない?普通の軍用ロボットと一緒で、ハチの巣にされて終わりな気がするんだけど…」
「いいじゃん!異能力の前では歯が立たなくても、ロマンがあってさ!」
「そうだね。一度はああいうのに乗ってみたいなぁ」
『さぁ!突如として現れた巨大ロボットは、筑波中が努力と夢と資金をつぎ込んで改良したパワードスーツだぁ!手元の資料によると、製作期間は凡そ1年。製作費用はなんと約10億円!先ほど破壊されたパワードスーツ、グレイト2の10倍の費用が掛かっています!それだけの熱意、それだけの期待が込められた機体!まさに筑波中の切り札だぁ!』
盛り上がる会場の中を、グレイト10は得意げに進み続ける。
このまま進まれては、桜城前線も危ない。
そう思ったのは、蔵人だけではなかった。
「前線に近づけさせるな!ロボットに一斉射!」
佐々木先輩だ。
彼女の号令で、円柱に向かっていた桜城の騎士達から攻撃が放たれる。
「ロックブラスト!」
「ファイアランス!」
「エアロシュート!」
無数の礫が、グレイト10に殺到する。
だが、グレイト10はその攻撃を、足よりも太い両腕を薙ぎ払うように振ることで、全て打ち消してしまった。
その真っ黒な装甲には、傷どころか曇すら見えない。
ただの金属にしては、頑丈過ぎる。
何かあるのか?
蔵人がマジマジと黒い巨人を睨みつけていると、グレイト10が吠えた。
『無駄だよ、むだむだぁ!Bランクレベルの攻撃じゃあ、グレイト10の装甲は傷一つ付かないぞぉ!この防御力を得るために、随分と試作を重ねたからねぇ!』
そう言いながら、その太い腕をこちらに向けるグレイト10。
何かする気だな。
蔵人は盾を構築しながら、声を上げる。
「皆さん!俺の後ろに!シールド・ランパート!」
『テン・サンダー!!』
蔵人がランパートを構えると同時、グレイト10は伸ばした両手から、目もくらむような閃光を放ってきた。
余りの光量に、蔵人は目を瞑りながら盾を構える。
衝撃。それと焦げた匂い。
目を開けると、蔵人の周囲が真っ黒に焦げていた。
盾で防げなかった周囲一帯が、まるで炎で焼かれたように真っ黒だ。
雷撃。
威力はAランク以上。
蔵人のランパートも、上半分が溶解してしまった。
『ベイルアウト!桜坂5番、14番、26番。連続ベイルアウト!』
「「「うぉおおおお!!!」」」
「なんて攻撃力と範囲なの?!Aランクの上位並みよ」
「それに加えて防御力も凄い。あれなら、前線に出ても戦えるね」
「所長ぉおお!行けますよ!行けてますよ!完璧な仕上がりですぅ!」
「我々のスーツが、とうとう日の目を見ています!科学が異能力に追いつくんですよ!」
「このまま桜城の全員、焼き切っちゃってください!丹治所長ぉ!」
筑波中の応援席とベンチからは歓声と黄色い声が響き渡る。
気付けば、蔵人の周囲にいる仲間は佐々木先輩だけとなっていた。
他のみんなは、雷撃が放たれる直前でベイルアウトさせられていた。
何という威力。
こいつは他の先輩方では荷が重すぎる。
蔵人が苦々し気に思っていると、桜城ベンチからも声が掛かった。
『佐々木先輩は後退!前線の維持に入って下さい!』
鶴海さんだ。やはり彼女も感じ取ったか。
蔵人は、目線を迷わせている佐々木先輩に振り向いて、頷く。
「佐々木先輩。こいつの相手は私がやります。どうぞ、先輩は前線に」
「…分かった。後輩に頼るのは情けないけど、あの山城を崩した貴方なら出来る。信じているわ」
佐々木先輩はそう言って、蔵人達に背を見せて走り出す。
先輩の先、前線の方に視線をずらすと、かなり苦戦している桜城選手の様子が見て取れる。
流石に、Bランク2人を抜いたのは不味かったか?
だが、相手の方が数が少ないのだぞ?やはり美原先輩の影響か。
蔵人は顔を戻し、グレイト10を見上げる。
それと同時に、水晶盾を生成して、それをグレイト10の頭部へと放つ。
「シールドカッター!」
グレイト2のフレームくらいなら直ぐに切り落とした回転盾。
しかし、グレイト10の顔に群がったその盾達は、高音を響かせるだけで傷一つ付けられない。
硬い。Bランク並みの硬度だ。一体何で出来ているんだ?
『プラズマ・バリア!』
グレイト10の体中から、無数の稲妻が迸る。
その電撃に触れた盾達は、一瞬にして消滅してしまった。
全体防御。そんな技まで備えているのか。
蔵人が驚いていると、グレイト10の小さな頭部がこちらを見下ろす。
『ふむふむ。きみぃ、なかなか面白いね。テン・サンダーを防ぎきる防御力があるだけじゃなく、こんな攻撃も出来るなんてねぇ。君さえよければ、我が校の研究チームに移籍しないかぁい?』
なんと、試合中だというのに勧誘を受けてしまった。
地元の中学だから、そちらの方が通学は楽そうだ。
そんな悠長な考えが一瞬頭の中を通り過ぎたので、首を振る蔵人。
魅力的なお誘いだが、答えは決まっている。
蔵人は顔の前に手を出して、謝るポーズを取る。
「すみません!既に桜城が我が母校ですので!」
『ふむふむ。そうかぁ。そいつは仕方がない』
そう言うと、再び動き出すグレイト10。
両腕を引いて、こちらに歩き出す。
『ならばせめて、このグレイト10の試運転相手にさせてもらうよぉ!』
そういうが早いか、グレイト10の巨大な拳が、こちらに突っ込んできた。
『サンダー・インパクト!』
超質量の高速パンチ。
ランパートで受け切れるか分からない。
蔵人は瞬時に判断し、纏った盾を総動員して、その場から飛び退る。
ズゥンッ!
地面が揺れる。
拳が突き刺さった部分は、大きく芝生が捲れ、土が盛り上がる。
『おおっ!これを避けたか!素晴らしい!いいぞぉ、いいぞぉ!とても良いデータが取れるぞぉ!』
興奮した声と共に、巨大なパンチが頭上から降り続く。
蔵人は再度、盾による高速移動でそれを避けるが、なかなかに分が悪い。
相手は、ただ拳を奮っているだけだ。対して、蔵人は急激な動きのせいで、体中が悲鳴を上げている。
反撃せねば。
そう思っても、なかなか相手の隙を作ることが出来ない。
相手は見かけとは裏腹に、なかなか攻撃が素早い。
いっそのこと、相手が背負っている円柱まで駆け寄って、タッチを決めてしまおうか。
もしも今、蔵人がタッチを成功させた場合、そのままコールド勝ちが決定する(800+400=1200点。現在の桜城得点6400点+1200点=7600点)
だが、そんなことは相手も分かっているだろう。
蔵人が相手の横をすり抜けようとでもしたら、さっきの全体防御か何かで阻止してくるのは目に見えていた。
では、だがどうする。
相手はBランクでの攻撃力では傷も付かないほどに頑丈で、素早い。攻撃力はAランクの上位並にあるので、先輩達の援護も期待できない。
下手に近づかれると、いたずらにベイルアウトを重ねるだけだからね。
蔵人1人で、このロボットを攻略する必要がある。
蔵人が思考を巡らせる途中、グレイト10の目が輝く。
…輝く?
なにかヤバそう。
「ランパート!」
『アーク・バスター!』
蔵人がランパートを出したと同時に、眩い閃光が迫ってきた。
眼からビームかよ!?
蔵人は目を閉じながら愚痴を思い、光が弱くなったので目を開ける。
ランパートは、健在だった。
どうやら、眼からビームは雷撃よりも低出力らしい。
それでも、ランパートの表面は焦げているので、Bランク上位相当の威力だ。
恐ろしい。
『素晴らしい!流石はテン・サンダーを受け切るだけの盾。アークでは出力不足なのかぁ。じゃあ、今度はサンダー・インパクトで行ってみようぅ!』
言いながら、振り下ろされるグレイト10の拳。
グシャッという嫌な音と共に、ランパートにぶち当たる。
ランパートは、こちら側に大きく歪んでしまい、緩衝材の役割を果たしていた膜が漏れ出てしまっていた。
2発は受けきれない。
やはり、この拳は雷撃並みの攻撃力だ。
それに、超質量に加えて、拳の周りに電気を纏っているみたいだ。
まるで、白羽選手の拳と同じ。
もしや、こうして魔力電気を纏う事で、防御力自体も上げているのではないだろうか?
蔵人が思考している中、所長の狂気じみた声が降り注ぐ。
『くぅううう!いいねぇ!いいねぇ!良いデータが取れてるよぉお!アークでは焦がすことしか出来なかった防御壁を、サンダー・インパクトでは半壊させられて、テン・サンダーだと溶解させられるのかぁ。威力を魔力数値で表すならば、アークがBランクの盾を破壊できる事から魔力値1万として、君の盾がAランク上位の防御力、つまりは魔力値5万程。そうするとサンダー・インパクトが3万~4万くらい。で、テン・サンダーが4万5千~6万くらいかぁ…』
急にブツブツと計算を始めた丹治所長。
流石は研究者だ。没頭すると周りが見えなくなる。
ならば、そのまま見ないでいてくれよ。
蔵人は構え、自身の前方に盾を集め始める。
集まった盾は連なり、白銀の大盾となっていく。
「シールド・クラ」
『アーク・バスター!』
もう少しで盾が構築できる。そう思った瞬間、グレイト10の目が再び輝いた。
蔵人は、瞬時に盾を前に展開し、相手の攻撃を防ぐ。
折角集めた魔銀盾は、ボロボロになってしまった。
初動が早い。これが目からビームの強みか。
『だめだめぇ。勝手な事しちゃぁ。モルモットはモルモットらしく、大人しくしてなきゃだめだよぉ』
グレイト10が再び動き出し、凶悪なパンチを繰り出してくる。
蔵人は何とか避けながら、再び相手を観察する。
上手くいくかもと思ってしまったが、やはり世間は甘くない。
先ずは、あの目を潰すのが先か?だが、チャフは届かない。
シールドカッターで目くらましをしても、また全体防御で剥がされる。
『さぁさぁ!君のベイルアウトまで、後2分くらいかな?急いで残りの実験しちゃおうねぇ!』
そう言いながら、大きく拳を振りかぶるグレイト10。
蔵人がその拳を避けると、再び土が盛り上がる。
後2分というのは、出まかせでも何でもない。
蔵人が相手エリアに侵入して、既に3分近く経っている。
本来ならとっくにベイルアウトとなっている時間。
だが、今蔵人のいるエリアは相手円柱の10m範囲。
ここなら、侵入カウントが半分になるので、相手が言うように残り2分くらいは活動できる。
出来るのだが、ふむ。そうか。
蔵人は相手の攻撃跡地を見て、頬を吊り上げ、周囲に小さな盾を作り出す。
盾は互いに連なり、円錐状になって、
「シールド・ホーネット!」
小さく鋭利な女王蜂達。それを一気に解き放つ。
その数、凡そ100匹。
その一部が、グレイト10へと群がる。
硬い装甲に、女王蜂の鋭いドリルが突き刺さり、小さく、それでも確実に穴を掘り始める。
おっ、水晶盾でも結構いけるものだな。
蔵人がそう、感心していると、
『プラズマ・バリア!』
グレイト10の全身に電気が流れ、体に張り付いていた女王蜂が全て、焦げ落ちてしまった。
やはりだめか。
蔵人は落胆しながら、その場を跳び退る。
そこに、再びグレイト10の拳が降って来る。
『いいねぇ!今のも面白い攻撃だよぉ!小っちゃいけど、ドリルとはロマンがあるよねぇ!』
「おおぉ!分かりますか!良いですよねぇ!ドリル!」
ドリルを褒められて、つい歓喜の声を上げてしまう蔵人。
そんな彼に、所長も嬉しそうに返す。
『分かる。分かるよぉその気持ち!やはり君は、こちら側に来るべきだよ、96番君。君の作り出すその数々の技を、是非とも科学の力で再現させてほしい。そうすれば、誰だって君と同じように戦えるようになるんだ』
「なるほど。それも面白そうな道ですね」
蔵人は相槌を打つ。
本当に、もしかしたら選んでいたかもしれない道だ。
科学の力で異能力の優劣を無くす。それも、魔力絶対主義の壁を穿つに至れる道ではある。
でも、
「ですが、俺は俺の道を行かせてもらいます」
最低と呼ばれる力でも、Cランクであっても、強くなれると示す道を。
その道こそが、天を穿つ一番の近道であると信じているから。
「俺の異能力で、貴女を穿つ!」
『残念だよ。実に残念だ。若く優秀な芽を潰してしまう瞬間っていうのはさぁ!』
そう言い放ち、グレイト10が蔵人に襲い掛かる。
このまま押しつぶされるかもしれない。
そうであるのに、蔵人は逃げない。
その場にしっかりと根を下ろし、構える。
コックピットから見たら、諦めたようにも見えただろう。
だから、グレイト10は拳を大きく振り上げた。
一瞬で、終わらせてあげるために。
だが、次の瞬間。
グレイト10が、落ちた。
否。
地面に埋まった。
体の半分。腰の高さまで、芝生のフィールドにすっぽりと埋まってしまった。
『なっ、なんだこれは!設計ミスか?この会場、欠陥設備なのかぁああ!?』
『違います!欠陥なんてありません!会場の皆さん!落ち着いてください!当施設は設計基準強度を十二分に満たしている最優良建築設備です!』
丹治所長の慌てた叫び声に、実況さんも慌ててフォローに回っている。
みんなが慌てふためくのを見て、蔵人は内心で謝罪する。
グレイト10が嵌った穴を開けたのは、他ならぬ蔵人だからだ。
先ほど放ったホーネット。女王蜂の一部はグレイト10に向かわせたが、残りが向かったのは地面の中であった。
蔵人達が立っている場所。そこに無数の小さな穴を開けてもらっていた。
グレイト10は超が付くほどの防御力を誇る。だがそれは、それだけの装甲を有しているからであって、それだけの重さもあるのだ。
その重さが、仇となった。
『ぐぉおおお!抜けない!抜け出せないぃい!』
藻掻くグレイト10。手を着いた場所から崩落が始まり、その姿はまるでアリジゴクに捉えられたダンゴムシだ。
そんな彼女達を傍目に、蔵人は、
「盾・一極集中!!」
構える。
必殺の構えを。
集まる盾。白銀の盾が圧縮され、先端が光を乱反射させる。
Aランクを屠る為に生んだ兵器。
それが今、回転を始める。
キィィイイイイイイイイイインンン!!!
それを見たグレイト10が、止まる。
蔵人をじっと、見据える。
『おお!いいねぇ!必殺技ってやつかぁい!?ならばこっちも、見せてやるとしよう!グレイト10!最終モード!』
蔵人へ突き出されたグレイト10の右腕が、大きく変形する。
手のひらがあった部分が空洞となり、まるで大きなキャノン砲の様に変形する。
凶悪な兵器。最終兵器。
それでも、蔵人の盾は回転を止めない。
高速で回る盾が、蔵人を撃ち落とさんと待ち構える巨大なロボットに向かって飛び出し、一直線に突き進む。
グレイト10の砲台が、輝き出す。
『さぁ!最後の実験だよぉ!こいつは威力が高すぎて、試験場ではまともに撃てなかったからねぇ!でも、今日は最大電力を出させて貰うよぉ!私の全魔力を込めるからねぇえ!』
グレイト10の巨大な砲台に、その巨大な左手も添えて、目が眩む輝きの一撃が、
今!
『ファイナル・アクトォオ!!』
「巨星・砕き!!!」
突き進む高速回転のバケモノに、極大の雷砲撃がぶち当たる。
強烈な閃光。焼き切れる水晶盾。
だが、ドリルは回転を止めず、残った魔銀盾と金剛盾で雷撃を掻き分け、削り通し、とうとう貫通してしまった。
雷撃の中を貫通したドリルは、そのまま、
「砕けろ!巨星!!」
黒い装甲に突き刺さる。
装甲には、無数の電気が走り回る。
全ての魔力を砲撃に使った訳ではないのか?
だが、仮令Bランクの攻撃に耐えうる装甲でも、高速で回るダイヤモンドの刃の前には歯が立たない。
ガリッ、ガリガリッと削れて行く黒い金属。
所長の声が、巨人の中から響く。
『くはっ!良いねぇ。良いドリルだ!まさかアクトまで貫くなんてねぇ。じゃあ、今度は、そのドリルとプラズマ・バリアの強度実験と行こ…うん?なんだ?このアラームは。強制脱出?はぁ?何を言っている?私はこんなもの付けていないぞ!?誰だ!誰がこんな無粋な物付けやがっ』
そこで声が途切れ、グレイト10の背中から、白い何かが飛び出した。
それと同時に、グレイト10の装甲が割れた。
蔵人のドリルが、グレイト10の胴体を貫く。
そのまま、穿った勢いのままに芝生を滑る蔵人。
滑った先にあった柱に手を着いて立ち上がり、後ろを振り向く。
そこには、胴体に大穴を開けて佇む、黒色のロボットが力なく項垂れていた。
そのロボットの頭上には、ふわふわと、白い落下傘が浮かんでいる。
「うわぁあああ!私の、私の可愛いグレイト10がぁあ!」
その落下傘に吊るされていたのは、白衣の少女。
恐らく、彼女が所長なのだろう。
丹治所長はくすんだ黄土色の髪をくしゃくしゃと掻き乱しながら、大声で叫んでいた。
そして、一頻り嘆いた後、「ガクッ」と項垂れて、そのまま気絶してしまった。
悪いことをしたな。
蔵人は1人、彼女に謝る。
すると、
『決まったぁあ!筑波中01番!丹治選手のエース機を倒したのは、桜坂96番!Cランクです!』
「「「うぉおおおお!!!」」」
「黒騎士さまぁ!」
声援が空から降ってきた。
『更に、今、96番が円柱にタッチしたことで、桜坂の領域支配率が75%を超えました!この時点で、桜坂のコールド勝利!桜坂の勝利です!』
「「「うわぁああああ!!!」」」
「「おうじょー!パンパンパン!おうじょー!パンパンパン!」」
「「くっろきし!くっろきし!」」
桜城側の応援席からは、妙なコールまで響いているが、本当にそれが俺の二つ名になってしまったのか?
蔵人は戦々恐々とした思いで、その声援の方に顔を向ける。
すると、
『凄まじい声援です!桜坂側からの声援が、桜坂の選手達を、そして、黒騎士選手を称えます!』
ぎぃやぁああ!
実況まで言い始めてしまった!
蔵人も、丹治所長の様に頭を抱えて、嘆きだした。
波乱の関東大会1回戦は、桜城の勝利で幕を閉じようとしていた。
しかし、勝ったはずの桜城選手達の大半は、喜ぶことすら出来ないでいた。
彼女達は、前線の維持だけで精いっぱいで、とても喜ぶ気力が残っていなかった。
相手前線にはBランクが1人だけ。それでも、今の桜城選手には手一杯だった。
桜城のエース、美原海麗が途中退場した今の桜城では。
「こいつは、何とかしないとな」
グレイト10の亡骸を撫でながら、蔵人は独りごちる。
関東大会1回戦、何とか勝ちました。が、
「前途多難だな。あの空手少女を立ち直らせんと、この先は厳しいぞ?」
一体、彼女に何があったのでしょう?
イノセスメモ:
桜城VS筑波。 桜城領域:76%、筑波領域24%。
試合時間13分58秒で、コールドゲームにより桜城勝利。
・巨星砕き…対Aランク用攻撃技の一つ。リゲル・ダウンバーストが空中から地上の敵を狙う技なのに対し、ミラ・ブレイクは地上から地上の敵を討つ際に用いる。威力は変わらないが、黒戸の私情では、こちらをなるべく使いたい様子。
・グレイト10……グレイト2を更に戦闘用へと改造した高ランク異能力者専用スーツ。アーキタイプ達の欠点であった防御力を上げる為、装甲をぶ厚くし、更に魔力の電気で覆うようにした。その為、機動力が若干落ち、膨大な魔力量が必要となってしまった。現状では、Aランクエレキネシスのみが使えるスーツである。制作費用は10億円。最新鋭戦車と同等のお値段である。