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91話~アクション!!~

桜城の騎士達が息を吹き返した。

その立役者は、今も桜城のベンチで元気に指揮を執る。


『左翼と中央は少しずつでも上げて下さい!右翼はゆっくり後退して!そう!遠距離役はそのまま弾幕を張り続けて!突出した相手を優先して狙い撃って下さい!佐々木先輩と秋山先輩は、そのままで!相手03番と04番が出てこないように牽制して下さい!』


鶴海さんの命令通りに騎士達が動き、桜城前線は見事な一文字を描くことが出来た。

こうなれば、相手も迂闊に攻め込んで来られない。


相手の作戦を、見事に挫くことに成功したのだ。


そう思ったのは、蔵人だけではなかったようだ。

相手のAランクが構えを変えてきた。

それと同時に、執拗に撃ち込んできていた範囲攻撃がピタリと止む。


彼女の手のひらに、膨大な量の水が集まり出し、それが圧縮されていく。

…こいつは、本気の一撃か?

桜城に傾きだした流れを取り戻すため、渾身の一撃を繰り出そうとしているのだろうか。

ならば、


「近藤先輩。ちょっと試したいことがあるのですが…」

「うん?そうか。では、もしもの時は任せろ」


蔵人が目の前で構える近藤先輩に相談すると、先輩は深くは問いかけず、静かに頷く。

そして、彼女はより深く構え、より分厚い土の盾を作り出す。


蔵人の”試したい事”が上手くいかなかった時の保険だな。

問答を省いてくれるのは凄く助かる。今は時間がない。

そういう所を察してくれる近藤先輩。マジでイケメンです。


蔵人は近藤先輩に惚れながら、盾を集める。

集めた盾は、水晶盾。

それに、アクリル板に成る前の膜。


膜を、何層にも重ねて、その表面を水晶盾で覆い、また膜を、水晶盾を重ねる。

いつかの戦友の声が、頭の中で響く。


『ああーっ!このチョコクッキー溶けちゃってる。中のチョコがブヨブヨだよ~』


小学2年生の頃、みんなで訓練している時の一幕だ。

懐かしい、小学生の頃の思い出。


「慶太。お前からもらったアイディア。使わせて、もらうぞ!」


蔵人が構えると同時、相手Aランクの手から大量の水が勢いよく放たれた。

その豪流はまるで龍のように唸り、蔵人の作り上げた盾へと牙を突き立てた。


『おおっと!これは凄い攻撃が繰り出された!桜坂左翼に突き刺さったのは、筑波中2番、藤田選手が放ったアクアキネシスだ!まるで水龍の様な一撃に、桜城前線は堪らずに後退し…て…』


実況の言葉が止まる。

彼女の視線の先には、未だにその水流を受け続ける何かが見えたから。

それは、


(シールド)城塞(ランパート)!!」


それは、蔵人だった。

蔵人が作り上げた盾は、いや、城塞は、Aランクの攻撃を尽く受け切っていた。


『なっ、なんという、何という事だ!Aランクの攻撃を、受け切っているぞ!?Aランクか、96番の彼女はAランクなのか!?いや、違う。手元の資料では、桜坂の96番はCランク…って、男だとぉ!?』

「「「えぇえええ!?!」」」

「おとこぉ!?」

「男の子が、Aランクに攻撃されてるの!?」

「てか、Cランクでどうやってぇ!??」


実況の絶叫に、しかし、会場の一般客からは黄色い悲鳴が幾つも湧き上がる。


ああ、懐かしい光景だな…。

蔵人が現実逃避していると、目の前の近藤先輩が困惑気味な顔で振り返る。


「蔵人。これは一体…?」

「あっ、ええっとですね。この盾の原理は…」


シールド・ランパートは、盾と膜を複合したコンポジットシールドである。

盾と盾の間に挟んだ膜が緩衝材の役割を担っており、それのお陰で、通常の盾よりも強度が上昇している。

盾にかかる衝撃を、膜が分散してくれているのだ。

それにより、本来だったら一瞬で消し飛ぶ筈のAランクの攻撃を、水晶盾でも防ぐことが出来ているのだ。


龍鱗にも用いている技の応用だが、今までAランク相手に試したことが無かったので、なかなか披露出来ないでいた。

でも、今なら近藤先輩が居てくれたので、試すことが出来た。


大事な試合中に申し訳なくもあるが、成功すれば大幅な戦力アップとなるので許してもらいたい。

そして、今。蔵人の構想は現実となったのだ。


お前さんの食い意地のお陰だぜ、慶太。

蔵人は、戦友の顔を思い浮かべながら感謝を述べると、余った魔力で水晶盾を作り、それをAランクへ飛ばす。


そう、ランパートの凄いところは、この省エネな所もだ、

使っているのはCとEの盾だけなので、仮令(たとえ)2人を覆い隠す程の大盾を作り上げたとしても、攻撃用の盾を作る余裕が十分に有るのだ。

作り上げるまでに、通常の盾より時間が掛かるが、それは訓練あるのみだ。


「シールドカッター(無回転)!」


未だ水を出し続ける相手Aランクの頭上から、複数の盾が飛来する。

相手は気付いていない。こちらを攻撃するので精いっぱいのご様子。

Cランクに攻撃を防がれて、焦っているようにも見える。


そんな彼女の顔が、次の瞬間にはガクンッと下を向く。

そのまま、地面に叩きつけられて。


『べ、ベイルアウト!筑波中02番!藤田選手!なんと、筑波中までAランクがベイルアウトしてしまった!』


実況の絶叫に、観客達も驚きの声を上げている。

実況にも、蔵人が攻撃したとは判断できなかったみたいだ。

水晶盾も、乱戦時であれば見えにくいからね。


そこで、前半戦終了の合図が鳴る。


『前半戦終了!両校ともAランクを失うという、波乱に満ちた戦況となっております!それぞれの領域は、桜坂が61%!筑波が39%です!領域差だけで見れば桜坂がリード。しかし!桜坂のAランクは1人だけで、後半戦からはAランク抜きとなってしまいます!逆に、筑波にはもう1人Aランク選手が控えており、まだまだ余力を残しているぞ!果たして、この勝負の行方は!?』


実況の解説を聞きながら、桜城選手はベンチで休憩しながら、ミーティングを行う。

だが、いつもとは違うベンチの様子に、選手達は若干戸惑い気味だ。

というのも、


「皆さん、お疲れ様でした。前半は途中、かなり押され気味になりましたけど、皆さんがしっかりと役割をこなしてくれたので持ち直しました。今では完全に桜城のペースなので、このまま後半戦も流れに乗っていきましょう」


静かに前半戦の総評をしているのは、我が軍師の鶴海さんだ。

後輩からの誉め言葉をどう受け取っていいか分からない先輩達は、「うん」だの「そ、そうかな?」と言って、若干照れている。


部長はどうしたのかと言うと、美原先輩の様子を見に行っているそうだ。

こんな時に何故?とも思ったが、それだけ鶴海さんを信頼して託したのだそうだ。

…本当だろうか?


まぁ、良い。

蔵人は思考を切り替えて、鶴海さんの作戦を聞くのだった。




ハーフタイムの3分は直ぐに過ぎ去り、後半戦が始まった。


「「「おーじょうっ!パンパンパン!おーじょうっ!パンパンパン!」」」


観客席からの声援を受けて、桜城前線は筑波前線に圧を掛ける。

前半戦のいい流れを、そのまま受け継ぐことが出来ている。

と言うのも、相手にAランクが居ないからだ。


蔵人が倒したAランク。彼女がベイルアウトしたのは前半終了30秒前であった。

その場合、新たな選手を入れるまでの時間は持ち越されるので、1分30秒程の間、相手はAランクなしで戦わなければならない。

つまり、桜城のチャンスタイムという事。


何せ、今の桜城は、Bランクが5人いるからだ。

Aランクが居ない桜城は、その分Bランクを多く入れられる。

この1分30秒の間に、相手の戦力を極力削ることが、我々の目的であった。


具体的に言うと…。


「出て来たぞ!みんな!筑波の03番と04番だ!」

「集中砲火開始!先ずは04番を壊すよ!」


遠距離役の先輩達が、相手のグレイト2に向かって無数の弾丸を撃ち込む。

これが、桜城の狙い。

先ずはあのグレイト2を破壊することが第一目標。


溜まらず、相手の04番は自軍領域内に逃げるが、そうであれば今度は、Bランクのいない筑波前線を削る先輩達。

Bランク5人の砲撃に、筑波前線は直ぐに千切れてしまい、大穴を開ける。

その穴に、


『今よ!タッチを狙って!』


鶴海さんの号令に従い、桜城の選手達が相手領域に突撃する。

その数、5人。

Bランク2人に、Cランク3人だ。

その中には、しっかりと蔵人も含まれる。


すかさず、相手の03番と04番が追撃に来た。

ただのBランクであれば、返り討ちに会う戦力。

だが、このスーツの力により、彼女達は美原先輩をも倒す力を得ている。


なんと強力な装備だろうか。

アメリカやドイツが躍起になって、開発に金と労力をつぎ込む訳だ。


蔵人がスーツの考察をしていると、相手の会話が降りかかってくる。


『桐島!Bランク2人は私が相手する!そっちのCランク3人を片づけたら合流しろ!』

『はいよ~。とっとと終わらせるわ~』


蔵人達の方に、04番が迫って来る。


『は~い。いっちょ上がりぃ!』


04番が大木の様に太い腕を上げて、こちらに空気砲を放ってきた。

人間くらいなら吹き飛ばす強力な一撃。

だが、蔵人は瞬時に魔銀盾を展開し、それを防ぐ。


『ありゃ?Bランクの盾が居るの?』


相手が驚いて動きを止めている内に、蔵人は別の盾を作り、それを放つ。

だが、相手は蔵人を見たままだ。放った盾には全く気付いていない。

それもその筈、蔵人が作った盾は、いや、板は、アクリル板だからだ。

アクリル板は透明で、隠密性が非常に高い。


そのアクリル板を、相手の足元に忍ばせる。

太い幹のような足に張り付かせて、それを、

思いっきり持ち上げた。


相手の足が1m程持ち上がり、そこまで持ち上がった時点で、アクリル板が割れて消えてしまった。

アクリル板は隠密性が高く、生成コストが安いのだが、とても割れやすいのだ。


だが、それで十分だった。

それだけで、相手はバランスを崩し、足を止める。

その一時の間に、蔵人は水晶盾を放つ。


「シールド・カッター!」


しっかりと高速回転をした、凶悪な刃物と化した盾達が、04番のパワードスーツに迫る。

そして、


ギィィイイイン!


金属が削れる音が響き、次の瞬間には、04番のパワードスーツの両足が切り落とされた。

腕や足の先は太いけど、根本は細いからね。切断しやすかった。

足を切られたグレイト2は、胴体を地面に転がし、腕だけを振り回してもたついている。


『ヤバい!やられる!』

『逃げろ!桐島!緊急脱出だ!』

『えっ!?どれ?どのボタンだっけ?』


相手04番が慌てふためいている間に、そのスーツに迫る桜城の木元先輩。

彼女はスーツを脱ごうと藻掻いている04番の上に立つと、そのままサイコキネシスの腕で04番を殴りつけようとした。

が、その前に04番は消えた。

搭乗者が消えたグレイト2が代わりに殴りつけられ、金属の悲鳴を上げる。


『ベイルアウト!筑波中4番!』

『きりしまぁああ!!』


03番の絶叫が、スーツのマイクから響く。

だが、蔵人は止まらない。

そのまま03番に接近し、シールドカッターを放つ準備をする。


『くそっ!こんな所で負けるかぁ!あとちょっとで、所長が来てくれる。それまではぁ!』


03番が蔵人から距離を取ろうと、足から風を噴射して、後方へ下がり始めた。

だが、


「させないよ!」

「動いちゃだめだよ~!」


03番の両脇から、佐々木先輩と秋山先輩の遠距離攻撃が襲い掛かる。

2人の弾幕で、退路を断たれた03番が一瞬宙を浮いて、蔵人の方に突進してきた。


『くっそぉお!こんな所でぇ!』


迫り来る赤黒い巨大パワードスーツ。

必死になって襲い来る金属の塊は、確かに脅威である。

だが、逃げ場を失った今の彼女の動きは、目を瞑っても想像できる。


「機械に頼りすぎたな」


蔵人のシールドカッターが、迫り来るスーツの両脇から、その両手両足を切り落とす。

スーツの胴体だけとなった部分に、追撃のファイアランスが迫り、


『ベイルアウト!筑波中3番!』


04番機に続き、03番機も落とした。

相手の主力を、何とか排除することに成功した蔵人達。

後は、Aランクが出てくる前にタッチを決めてしまうだけだ。


「早く行こ行こ!このままコールド決めちゃお!」


ジャイアントキルを達成した木元先輩が、飛び跳ねながら相手円柱へと走り出す。

蔵人達も、それに続く。

そうして、蔵人達5人が筑波円柱にタッチをしたことで、桜城の領域は75%を超え、コールド勝ちとなる。


『そんな甘い夢を見たんじゃぁ、ないかぁい?』


声。電子音。

何処からともなく響いた、その不吉な音に、筑波円柱へと走っていた蔵人達は足を止める。


そして、次に響いたのは、妙な振動。

ズゥン!ズゥン!と、何か重い物が地面を叩くような音。


何処から来る?

蔵人が周囲に警戒していると、


スタジアムの壁が、爆発した。

否。

相手円柱の後ろに設置された機器搬入用の入場ゲートの天井から”腕”が出てきて、天井を掴み、破壊したのだ。


天井が落ち、もうもうと土煙が立つゲートから現れたのは、巨人だった。

全身真っ黒の巨人が、大口を開けされられたゲートを超えて、フィールドに入ってきた。

そのまま筑波中の円柱前に立ち、その太い腕を組んで蔵人達の行く手を阻む。


挿絵(By みてみん)


ゲートは大型トラックも通れるように設計されている。そのゲートの天井を壊す程の大きさ。

3m以上あるのは確実だろう。


その巨人が、蔵人達を見下ろす。


『はっはっはっは!どうだい?凄いだろう!研究に研究を重ねて、試作に試作を繰り返したバージョン10!私達の英知を注ぎ込み!私達の努力を費やした!最新パワードスーツの更に先を行く最強のパワードスーツだよぉ!』


いや、もう、これはスーツではない。完全なロボットだよ。

蔵人は呆れ、先輩達は臆して足を止めている中、ロボットの中の所長が吠える。


『さぁ行くよぉ!東京から来た騎士さんたちぃ!私達が作り上げたこの夢のスーツが、君達を倒して、日本中に見せつけるんだ!この、筑波の技術力をねぇ!』


ロボットの目が、光る。

動き出す、巨大ロボット。

否。


『グレイト・1(ワン)0(オー)!アクション!!』


色々と危ないロボット、グレイト10が、蔵人達に襲い掛かる。

「おい!なにか出て来たぞ!?ガンダ〇か?ガンダ〇なのか!?」


違いますよ。これはガンダ〇ではなくて、ビッグ…


「いいや、あれはガ〇ダムだ。我が決めた」


それ言いたいだけじゃないですか…。



イノセスメモ:

・ランパート…対Aランク用防御技。盾の間に膜の層を挟むことにより、防御性能を格段に上げている。水晶盾を使用した場合、防御力は魔銀盾よりも強固に、そして、魔力消費は魔銀の1/5以下である。はっきり言って、チート技である。欠点は、準備するのに数秒掛かる事←それでも十分チート。

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― 新着の感想 ―
 大鉄人ワソセブソ17とかは……
えぇぇ……レイド戦みたいな事してるじゃんw
[気になる点] あれ? なんかどこかの記憶を失った街のネゴシエイターが繰り出す陸戦型なロボ出てますね。 [一言]  
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